IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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夏休みまでに、三章のメインが終わると言ったな。あれは嘘だ。

……すまぬ、時間なんてなかったんや。後、単位も。


第三十二夜「本当に、よかったよ」

 大浴場が解禁となったそうだ。

 

 今日はもともと使うことのできない日だったのだが、ボイラーの点検が早く終わったとかなんとかで山田先生が風呂を使えるように取り計らってくれたらしい。

 決して泉質の違いが判ったりするわけでもないが、俺だってそれなりに風呂は好きだ。ついでに言えば、露天風呂から見る夜空は最高だ。むしろ、星空が好きと言っても過言ではない。……今更か。

 

「ふ〜ふふふふん、ふふふん〜。ふ〜ふふふふん、ふふふん〜」

 

 鼻歌を歌いながら、廊下をわずかに高揚した足取りで進んでいく。今日のことがことだったせいで生徒は全くと言っていいほどにおらず、俺は人目をはばかることなくスキップしながら大浴場に向かうことができたのだった。

 

 

 

 そして、大浴場の前にも、やはり人はいなかった。

 

「おお。ここが、例の……」

 

 この前を通るたびに、でかい風呂に入りたいな……なんて思ったりしたのだ。期待が膨らむ。

 寮にだって風呂はあるのだが、あれは少し狭い。ビジネスホテルほどではないにしろ、そこそこ広い分譲マンションの風呂になれた俺にとっては幾分か狭い風呂だ。

 

 入口はホテルの大浴場に似ており、木枠に磨りガラスのはまった引き戸と赤い暖簾がかかっている。本音嬢に聞いた限りだと、中身もホテルのような設備らしいが。

 

 初めての大浴場に興奮しつつ、俺は引き戸に手をかけた。

 

「んじゃ、お邪魔しまーっす」

 

 ガラガラと、いかにもな音を立てながらドアが開く。きょろきょろと周囲を見渡してから、すぐそこにあった下駄箱の戸を開けて靴を入れた。あの、木製のカードみたいな鍵はついてないらしい。ちょっと残念。

 

「おおっ、すげぇ」

 

 下駄箱から更衣室に入ると、そこは確かにホテルとそっくりな光景が広がっていた。国際色豊かなIS学園にしては珍しく和風だった。優しい木目を基調とした脱衣所の中には、奥にある浴槽から湯気が入っており僅かに温かくなっている。きっと、湯船の方もそれっぽい豪華なものなのだろう。

 石と木でできた露天付きの風呂を想像し、口元が緩む。ああ、そんなのだったらいいな……。

 

「ん、ふふん、ふ~ん……」

 

 焦って入るのももったいないので、少し見学するように脱衣所の中を歩き回ってみる。

 すると、入ってすぐの場所に、中に着替えの入った籠が目に入った。考えるまでもなく一夏のものだ。確か、デュノア嬢は入らないと言っていたし、一夏のようなラッキースケベに遭うこともないだろう。彼女が入らないことは、「風呂に入れって! 星矢はもう聞いたか!?」と、興奮気味に電話してきた一夏から聞いた。

 

「ってか、まだ風呂入ってんのかよ……」

 

 電話をしたのが確か、一時間は前だったと思う。その時「今、風呂に向かってる」なんて言ってたから、長々一時間も風呂に入っていることになる。長風呂すぎるだろ、あいつ。

 

 まあ、初めての大浴場だし、俺みたいにあっちこっち回ってて、入ったのはもっと遅い時間だったかもしれないしな。

 特に気にするほどでもないだろうと結論付けて、俺も風呂に入ることにする。ああ、本当に楽しみだ。風呂からの星空。

 

 一夏の着替えがあった場所から少し離れた位置に着替えようと思って移動する。すると、その先に一つの籠が目に入った。中に服が入っている。

 

「ん? 誰だ?」

 

 用務員をしている轡木さんや守衛さん達だろうか?

 あの人達は教職員で数少ない男性職員だし。……ということは、今回はそっちの男性陣にも開放しているのだろうか?

 

 何気ない好奇心に従ってその籠に近づいていく。

 すると、そこには見覚えのあるIS学園の男子制服。そして、見覚えのあるオレンジのネックレスがある。

 

「…………」

 

 …………。

 

「…………よし」

 

 もう一度、見た。

 

 そこにあるのは、見覚えのある、オレンジのネックレス。

 

「…………」

 

 …………オレンジのネックレス……待機状態のラファールだ。

 

「…………」

 

 黙って回れ右。

 

「ま、マジかぁ……」

 

 大きく息を吐きだしながら天を仰いだ。

 

 これはやばい。

 

「い、いや、まあ、男女が一緒に生活してたらね、そういうのもね、あるよね。あっちゃうよね」

 

 必死に手で顔を仰ぐ。顔が熱いのは、絶対に風呂場にいるせいではないだろう。

 

 脳内で沸き起こるR18な妄想を必死にかき消しながら、俺は思考を落ち着かせる。

 

「あ、あいつら、そういう、関係だったのか……」

 

 いくら女子高同然の場所にいようとも、俺だっていっぱしの男子高校生だ。裸になる風呂場で男女が一緒にいたらどうなってしまうのくらいは、知っている。

 幼馴染でそういうの関係ないですとか、お互い同性愛者ですとか。そういう状況ならまだともかくとして、この先にいる二人は美男美女、異性愛者、お互いにそれなりの好意がある二人。

 

 ならば……と、俺の脳裏に一つの公式が現れる。

 

 男女+好意+裸+密室(仮)=行為

 

「こ、好意があるから行為する………………なんちって」

 

 …………。

 

「…………」

 

 やばい、恐ろしく笑えない。

 

「や、やっぱり下ネタは笑えないな、ははは、ははははは」

 

 口を開くたびに言葉が片言になっていくのが分かるが、そんなの気にしていては逃げられない。

 

「お、落ち着け、落ち着くんだ、溝口星矢」

 

 一歩踏み出し、すぐに後ずさる。

 この先の光景は、報告した方がいいのだろうか? いや、それは同時にデュノア嬢の秘密をしゃべることとなってしまう。いやいや、それこそ言うべきなんじゃないか?

 

 世界で二人の男性IS操縦者の一人に、そんな爛れた性の事情があるだなんて、世界中のゴシップ記者が黙っちゃいないだろう。いや、そもそも、そんなのデュノア社の思う壺じゃないか、マジで。

 

「ああ、クソ、言わんこっちゃない」

 

 結局、俺が言ったことが起きているじゃないか。それに至る経緯と心理状況がどうなっているのかまでは知らないが。

 

 そもそも、これから俺があの二人とどう関わるべきか分からなくなる。

 あれか? もしかして「昨夜はお楽しみでしたね」とか、やんわりと注意喚起とかした方がいいのか? いや、ここは密かに見守るべきなのかもしれない。

 

「と、とにかく」

 

 今は帰ろう。

 そうだ、今、俺はいるべきじゃない。

 

 下駄箱の方に向かう。俺は結局、面倒になって大浴場には行かなかったんだ。だから、俺は誰も何も見ていないし、気づくことなんてなかった。

 どうでもいいことには興味を示さないなんて言ったが、これは流石に何事もなく入れるわけない。そこまで豪胆になった覚えはないのだ。

 

「奴らが上がる前に……!」

 

 俺が急いで逃げようとしたその時。

 

 ペタペタと、奥から足音がした。

 

「ふぅ~、いい湯だった~…………って、星矢?」

「ひっ!?」

 

 跳ねる身体を抑えつけて振り返ると、そこにいたのは一夏だった。

 

「ど、どうした星矢!?」

 

 ど、どうしてこのタイミングで現れるんだ、この阿呆は!

 

「お、おお、っき、ききき奇遇だな、いいいいいいいい一夏」

 

 俺は、努めて何気ない様子を装う。自慢になるかもしれないが、完璧な演技だと思う。

 

「お、おう……どうかしたのか、星矢」

「な、なんあななななんんでもない、ぜ?」

「そうか? なんか口調が酷いことになってるし。それに、今来たんだろ? なんで帰ろうとしてるんだ?」

 

 聞くなよバァカ! と、心の中でなじる。

 

「ちょ、ちょっと、わ、忘れ物が、な」

「何忘れたんだ?」

「ちょ、ちょっとシャンプーを……」

「シャンプーとかなら、備え付けがあるぞ?」

「へ、へええええ、そう、なのか?」

 

 そりゃ、最悪な知らせだ。

 

「ああ。タオルと着替えがあれば問題なさそうだぞ?」

「そ、そそそそそそそうか、そりゃ、た、助かる」

 

 親切なこいつが憎い。つうか、この先に、デュノア嬢がいるってことを忘れてるのか、こいつ。

 

 ……いや、もしかすると、デュノア嬢がこっそり忍び込んでいるだけなのかもしれない。

 

「な、なあ、一夏」

「どうした?」

「今日ってさ、用務員さんとかも入ってたりするのか?」

「用務員さんとか? 轡木さんとか、村島さんとか、野村さんとか?」

「あ、ああ。女性教職員もこの風呂に入れるんだろ? なら、今日は男性の職員も入ってるのかなー、と」

「いや、見なかったぜ?」

「そ、そうか」

 

 努めて自然な演技を心がける。俺は今、何も知らない溝口星矢を完璧に演じ切っている!!

 

「どうしたんだ、星矢? もしかして、まだ昼間の影響が……」

「な、ない! それはない! 大丈夫だ、それだけは絶対にない!!」

 

 真紀子さんや山田先生に迷惑をかけたんだ、これ以上このことで人に心配させるわけにはいかない。

 

「お、俺は全然大丈夫。何、なんてことはないさ」

「本当か? なら、いいんだけどさ……」

 

 俺が心配するなと念押しすると、遠くからペタペタと足音が聞こえてきた。

 

「ねえ、一夏、どうかしたの~…………あ」

「…………あ」

「…………あ」

 

 そして、デュノア嬢が首だけを脱衣所に出した。

 

「「「……………………」」」

 

 俺は、気づいていなかったふりをしていたものを見てしまったせいで。

 一夏は、今まで忘れていたことに気が付いてしまったせいで。

 デュノア嬢は、気を付けなければいけなかったことを失念していたせいで。

 

 三人とも、空気が凍っている。

 

 こ、こうなったら、何か喋るしかない。

 

「「「……………………あ、あの」」」

 

 そして、沈黙。

 

 俺達三人の視線が互いに向き合い、そして、一夏とデュノア嬢が俺を見た。勘弁してくれ。

 

「え、えっと、そ、その……」

 

 視線をさまよわせる。一歩後ずさり、自分の下駄箱の位置を確認する。

 

 二人が視線で早くしろと催促しているのが分かる。だが、俺には厳しい話だ。

 

「さ、さ、さ……」

「「さ?」」

 

 二人が尋ね返す。

 

 準備は整った。

 俺は脱兎の如く下駄箱に飛びついて靴を取り出した。

 

「先ほどは、お楽しみでしたね!!」

 

 そして、逃走。

 

 速攻でドアをあけ放ち、裸足のまま駆け出した。

 

「ま、待ってくれ!」

「星矢、誤解だよ!!」

「安心しろ、誰にも言わないからぁぁぁ!!」

 

 二人に逃げながら言い残すことは言い残して、裸足のまま通路をダッシュし、俺はそのまま寮の部屋へと逃げ帰っていった。

 

 

 

 

 

 翌日。

 教室はどこか騒然としていた。

 

 理由は二つある。

 一つは、デュノア嬢が教室にいないこと。二つは、山田先生が妙に困り顔でいることだ。

 

 後者に関しては、ままあることなので、実のところは一つだけといえるかもしれない。

 

「じ、実は、今日は皆さんに、転入生の紹介をしたいと思います……」

 

 疲れた表情のまま山田先生がそう告げた。……転入生、多すぎじゃね?

 

「え、また転入生?」

「今度はどこの代表候補生?」

「実はまた男の子とか?」

「それはないって~」

「みなさん静かに! ……入ってきてください」

 

 近くの席の連中と転入生についての話し合いをしているクラスメイト諸君は、いろいろな想像を語り合う。そして、山田先生はいつになく疲れた表情のまま話し合いを止めて転入生を呼んだ。

 

 教室のドアが開き、奥から一人の女子生徒が入ってくる。

 真っ白な制服と肌が見え、綺麗な金髪(ブロンド)が輝く。そして、胸元には見覚えのあるオレンジのネックレス。

 

 そう、彼女は……

 

「でゅ、デュノア君!?」

 

 空気が震えた。しかし、それは仕方のないことだ。

 なぜなら、彼女はうちのクラスメイトであり、空席に座っているはずの男子生徒だったのだから。

 

「改めまして、シャルロット・デュノアです。みなさん、よろしくお願いします」

「お、女の……子?」

 

 その、このクラスの誰もが見知っている彼……女を、みんなが困惑した表情で見つめている。

 

「実は、デュノア君は、デュノアさんでした……ということですね」

 

 「ううっ、また部屋割りのやり直しです……」と、山田先生が疲れた表情で教卓に崩れ落ちた。お、お疲れ様です……。

 

「う、嘘でしょ!?」

「なんかおかしいとは思ってたけど、まさかそんなことってありなの〜?」

「夏の同人はどうしたらいいのよ〜!」

 

 クラス中から驚愕や嘆きの声が聞こえてくる。俺や一夏の近くにいる女子達は、「二人は知ってたの!?」などと詰め寄るってくる。

 

「ま、まあ、俺は二人から聞かされたし……」

「い、いつ!?」

「ラウラ嬢と組むって言った前夜」

「そんな前から!?」

「俺は部屋も違うし、知ってたところで大した変化はなかったが……」

 

 俺は正直に話しつつ、一夏を売る方向で話を進めることにした。これが一番の保身の方法である。

 俺が話すに連れてみんなの意識は一夏に向いて行く。

 

 そして、とうとう誰かが決定的な事実に気がついてしまった。

 

「それじゃあ、昨日の大浴場はどうなってたの……?」

 

 と、その声が聞こえた途端、クラス中の空気が凍った。

 

 一緒に入ったってことはないだろう、と誰もが思っているだろう。だが同時に、もしかして、とも思っているらしい。

 

「まさか、一緒に入ったりは……」

 

 ジロリと近くの女子の視線が俺に向く。

 俺は慌てて手と首を振った。

 

「お、俺は一緒に入ってないから! 知らんから!」

 

 慌てて言った言葉に、誰かが首をかしげた。

 

「……()()?」

「……あ」

 

 このとき、特に深い意味はないと弁解していればよかったのだろう。だが、ことが事実だっただけに、俺はうまく言い返すことができなかった。

 あからさまに何かありましたと言いたげな表情の俺のせいで、周囲は一夏とデュノア嬢の昨夜について気が付いてしまった。

 

「あ、あははははははは……」

 

 ガヤガヤと騒がしくなる教室。ビシビシと突き刺さる視線。女尊男卑とか関係なく普通に居心地の悪い状況に、意味もなく愛想笑いを浮かべることしかできない。

 

 最悪な状況に早くどうにかなってくれと願う次の瞬間、

 

 

 唐突に教室のドアが吹き飛んだ。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 いきなり響いた破壊音。クラス中の視線が音の方へと向かった。

 

「い~ち~かああああああっ!!」

 

 破壊されたのは、一組の教室前方のドア。そして、そこにいるのは、ISをまとった鈴音嬢。衝撃砲でぶち抜いたせいかドアの破片は木端微塵に吹き飛び、彼女の頭の中は怒りに支配されきっていた。

 なんでここにいるんだとか、ツッコミを入れる余裕すらない。

 

「あんた、いったい、なにしてんのよおおおおっ!!」

 

 地の底から這い寄ってくるような声と共に、彼女の双肩が輝く。

 沸き起こる衝動に身を任せ、彼女は衝撃砲を使おうとしていた。双肩の輝きが、リアルな死のイメージを思い起こさせる。

 

「いちかああああああっ!!」

「し、死ぬうぅぅぅぅぅぅ!」

 

 時間がスローになり、衝撃砲の輝きがゆっくりと増していくのを感じる。周囲の悲鳴が徐々に引き伸ばされていき、やがて無音の世界に突入した。

 世界は目の前に輝く光だけで、それ以外はすべてが停止し切ったモノクロのせか…………

 

 ……誰かが、教室を駆けた。

 

「っ」

 

 息をのむだけの瞬間。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 

 一夏が絶叫する。

 鼓膜を引き裂くほどの空気の振動が襲い掛かり、俺達の聴覚を一瞬だけ奪い去った。

 

「……………………」

 

 やがて、無音の世界が訪れた。

 加速していた思考が唐突に通常速度にまで低下し、茫然としていた意識が覚醒した。

 

「……あ、あれ?」

 

 小さく呟かれた声が聞こえる。

 眩んでいた眼が落ち着き、教室の前方が見える。

 

 するとそこには、黒い影が一つだけ増えていた。

 

「ら、ラウラ!」

 

 一夏と鈴音嬢の間には、停止結界を張っているラウラ嬢がいた。衝撃砲の威力を完全に殺しきって見せた彼女は、無言で一夏の方を振り返った。

 

「いやぁ、本当に助かったぜ、ありがんぐっ!?」

 

 そして、鳥が飛び去って行く音が聞こえた。

 

「ん、んんっ……」

 

 目の前に、不思議な光景が映っていた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 一瞬だった。先ほどの破壊音のやり取りから、一秒も経過していないような気すらする。

 

 しゃべっていた一夏の方を振り返ったラウラ嬢は、誰かが口を出す暇もなく一夏の唇を奪い去った。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 あえてもう一度言おう。

 

 一瞬だった。

 

「んんっ………………な、何を……」

 

 離れた唇を名残惜しむように、二人の間に銀色の糸が結ばれる。

 一夏の言葉に振動した糸は、さざめくように震えて、切れた。

 

 そして、ラウラ嬢が、顔を赤らめながら唇を震わせた。

 

「お、お前は、私の嫁にする! 決定事項だ、異論は認めん!」

「は、はあ!?」

 

 どうやら、ラウラ嬢はおかしくなってしまったらしい。

 一夏が何言ってんだと顔をしかめ、クラス中が悲鳴を上げた。

 

「そ、それから星矢!」

「お、俺!?」

 

 クラスの叫びの合間を縫って、ラウラ嬢が俺を名指しする。

 

「貴様は私の女房だ!」

「な、何を言って……」

 

 またまた意味の分からないことを言い出したラウラ嬢。

 

「いいか、一夏、星矢。私はある話を聞いたのだ」

「話?」

「まず、日本では好きな相手のことを“嫁”というらしいな」

 

 ……それは、画面の向こう限定だ。

 

「そして、補佐官のことを女房というらしいな」

 

 ……今の社会においては逆だろうが。

 

「一夏は私と将来結ばれる予定なので、嫁。そして、星矢は私とドイツ軍で背中を預け合いながら戦う副官となるので、女房だ」

 

 なるほどなるほど。つまり、人生の恋人(パートナー)として一夏を、仕事の相棒(パートナー)として俺を選んだというわけか。

 

 ……って。

 

「ちょっと待て!!」

 

 ラウラ嬢の人生計画おかしいだろ!

 

「俺は北極星に行くって言ったよな!? ドイツ軍で戦う予定とかないぞ!?」

「ああ、そう言っていたな。だが、それはあくまでお前の夢だ」

 

 ラウラ嬢はISを解除して、俺の前まで歩いてきた。

 

 その姿は、これまでの強気な姿に似ているようで、どこか違っていた。

 

「私は一夏を娶り、星矢を優秀な部下として迎える。これが、現状で考えた私の夢だ!」

 

 相手の都合がどうかではなく、自分の気持ちに正直になった結果、ということだろう。

 

「だから、北極星への夢が破れたとしても、私は必ず星矢をドイツ軍に迎え入れる。安心しろ、就職には困らんからな」

「い、いや、でも俺って日本人だし……」

「大丈夫だ。ドイツからすれば、星矢にドイツ国籍を取得させることは歓迎することだからな。後は、国際問題をどうにかしてしまえばこちらのものだ。だが、安心しろ。私は部下の面倒はきっちり見るタイプだ」

 

 満足げに将来設計を語るラウラ嬢。

 今まで信じてきたものが壊れてしまったのにどう反応するのか不安だったが、これならあまり心配することはないのかもしれない。少なくとも、今の彼女からはラウラ・ボーデヴィッヒらしさが溢れていた。

 

「……よかったな」

 

 思わず、そんな言葉が口をついて出てきた。

 周囲には聞こえないかもしれないくらいの呟きだったが、彼女はそれを聞きつけたかのように笑った。

 

「ああ。私は今、私でいるからな」

 

 なりたかった自分にはなれなかったのかもしれない。夢は破れ、信じていたものは間違っていたのだと突きつけられてしまったのかもしれない。

 

 だが、それでも、

 

「本当に、よかったよ」

 

 ありのままの自分には、なれたのかもしれない。




雑談
更新遅れてすみません。今試験期間なのですが、今週試験がもうないので更新しました。来週や再来週にあるんだけどね! ついでに、追試確定してるだろうけどね!

星のネタが今までの使い回しになりそうで、それならいっそと使いませんでした。知識不足だね、うん。今度天文部の活動するんだ。精進します。

今回は、章のエピローグ的な話です。
混浴なお風呂回(ポロリはないよ!)と、嫁宣言の二本立て。
個人的には、顔を赤らめながら嫁にするって言うラウラさん好きです。そして、一夏がシャルルさんを襲わないのに恐怖しました。自分なら確実に人生終わらせてます。

次回は天体観測です。作中時間では六月の下旬でしょうか。
内容についてはずっと悩んでます。夏の星座を話すのはちょっと作者の都合的に嫌ですし、かと言って他に話すことも思いつかなかないですしおすし。七夕も早いし、流星群もこれからする予定あるし、月は秋に回したいし……惑星の観測? あ、惑星いいかもですね。打ちながら思いつきました。
次回は惑星の観測にしようかと思います。でも、もっといい案が思いついた方がいれば、こっそりとメッセージでも送ってください。作者の都合とかと付き合わせて考えたりします。
もちろん、他のことでも構いません。それも、大人の事情とつきあわせながら前向きに検討します(政治家並感)。

それでは、上までの文字数がファイズだったので(分かるかな?)、この辺にしときます。
それでは。



追伸
エグゼイドはいいぞ(小声)。
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