IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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 お久しぶりです。

 シャルロット&ラウラ編の三章が終わったので、三章の天体観測です。
 今回は、三話くらいになりそうな気がします。

 そして、今回はゲストもいたりして……?


第三十三夜「だから俺、好きですよ」(惑星、準惑星)

 空が青や赤に変色するのは、太陽光が大気の層で屈折現象を起こすからだと科学的に証明されている。

 

 太陽の光は、赤橙黄緑青藍紫に代表される、虹の七色が混ざって白く見えている。

 これらはそれぞれの波長が違っており、空気の層で屈折する割合もまた違う。そのせいで、混ざっていた色は大気の屈折でバラバラにされ、赤や青といったそれぞれの色で見えるようになるというわけだ。

 

 つまり、俺達が普段から空の色だと思っているそれは、太陽光の色に過ぎないということになる。

 

 それなら、本当の空の色は何色なのだろうか。

 

 一見難しく思えるその問いの答えは、とても単純(シンプル)だ。

 

 青や赤が空の色ではなく太陽光の色だというのならば、本来の空の色は太陽光がない時間に現れるに決まっている。

 

 

 そう、俺達の生きる空は、

 

 

 

 ――――夜の色をしている。

 

 

 

 

 

「山田先生!」

 

 学年別トーナメントが終わり、金曜日を迎えた。

 

 終礼が終わるとすぐに、俺は教室を出ようとしていた山田先生に声をかけることに成功した。

 俺の想像以上に忙しい立場らしく、何度か失敗してしまった末にこんなギリギリなタイミングになってしまった。

 

「ちょっといいですか?」

「はい、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」

「実は、今日の天体観測なんですけど」

 

 俺がそう言うと、先生が一瞬で顔を曇らせた。

 

「……もしかして、中止ですか?」

「あ、いえ、そういうわけでは」

「本当ですか? はぁ、よかった……」

 

 山田先生がほっと胸をなでおろした。それが、天体観測を楽しみにしてくれている証拠のようで、ちょっと嬉しくなる。

 

「実は、今日の天体観測は夕方から始めたいんです」

「夕方から、ですか?」

「はい。いつもやってる夜のに加えて、今日の日没頃に一度、そして九時頃にもう一度って感じで」

 

 個人的には七時から夜明けまで張り付いていたいのだが、さすがにそれを山田先生に強いるのも酷だろう。そして、先生はそれを俺にも許さないと思う。

 

「え、そんな時間に星を見るんですか?」

 

 確かに、夕方というのは星を見るのに適した時間でないだろう。だが、今回の目的を見る場合となると、その限りではない。

 

「今日見たいものの一つが、日の出か日没にしか見えないんです」

「へぇ…………あ、もしかして、宵の明星っていうのですか?」

 

 ふと思い出したらしい先生の口から、そんな言葉が飛び出した。ちなみに、俺が見たかった物の一つは確かに宵の明星である。

 

「はい、その通りです。ご存知だったんですか?」

「あ、いえ、実は言葉しか知らなくて……」

 

 慌てて首を振られるが、ちゃんとその言葉が出てきたあたり、ある程度の理解はあるのだろう。

 その解説は後ほどにするとして、とりあえずやることに関しての許可を取ることにする。

 

「なら、あとで解説しますね。それで、やるのは大丈夫ですか?」

「放課後の活動なら私の許可はいりませんから、気にしないで大丈夫ですよ?」

 

 いつも深夜だったから許可が必要というだけで、普通の放課後の時間帯に活動する限りでは申請がいらないらしい。って、普通そんなもんか。

 

「分かりました。じゃあ、いつもの場所でやりたいと思いますので、先生も来てくださいますか?」

「ええ、仕事は日没までには終わると思いますけど」

 

 いいんですか? と、目が尋ねているので、問題ないと頷いておいた。

 

「ありがとうございます。ただでさえ、夜の方だって教えてもらってばかりなのに。本当に申し訳ないですね」

「そんなの、気にする必要なんてないですよ」

「でも、溝口君が好きな天体を見られないでしょう?」

 

 申し訳なさそうに苦笑する先生。

 別に、そんな気にする必要なんてなくて。俺はただ、先生と見たくて一緒にやっているのだから。

 

「一人で見たところで普通に楽しいだけなんですよ」

 

 同じ天体を見るとしても、その日の条件によってその姿は大きく変わる。いつ見たって、新鮮で楽しいだろう。

 

「でも、誰かと見るとすごく楽しくなります」

 

 特に、あまり詳しくない人と一緒な時は楽しい。

 

 いくら環境が違って新鮮と言っても、結局は見たことがあるものばかりだ。感動が薄れる。

 しかし、詳しくない人が一緒にいれば、その初めての興奮を一緒に感じることができるのだ。こんな素敵なこと、そうはあるまい。

 

「だから俺、好きですよ」

 

 そうだ、先生との天体観測はIS学園に来てから一番楽しい時間だ。

 それにまあ、自分が見たい天体は、山田先生の時とは別にちゃんと見ている。

 

「ほ、ほんとですか? 嘘じゃないですよね!?」

「本当ですよ。わざわざそんな噓つきませんって」

 

 頬を紅潮させながら、前のめり気味に確認してくる山田先生に苦笑する。そんなに気にしなくたって、嫌ってなどいないのだから。

 

「大丈夫ですから、先生も来れるなら来てくださいよ」

 

 強引に話を終了させる。こうでもしないと、ずっと気にしていそうな気がしてきた。

 

「今日の日没は七時ですから、その時間にいつもの場所です。準備の方は俺が済ませておきますから、時間通りに来ていただければオッケーです」

 

 途中で飯や風呂を済ませる時間も取っておくつもりだが、基本的にはぶっ通しで天体観測と星空教室だ。

 

「今日は長くなりますから、仕事は終わらせておいてくださいね」

 

 

 

 

 

 弾む心で荷物を準備して部屋を出ると、急ぎ足で一階に降りる。

 廊下を軽い足取りで駆け抜けてエントランスに飛び出すと、正面から本音嬢と知らない女子生徒が入ってきた。一組の生徒ではないようだが、本音嬢の友人だろうか。

 

「あ、ほっしー!」

「おう、こんばんは。本音嬢、と……えっと……」

「……更識簪」

「自己紹介ありがとう。そしてこんばんは、更識嬢」

 

 二人に挨拶すると、本音嬢が首を傾げた。

 

「あれ、二人って知り合いじゃなかったっけ?」

「ん? 違うぞ?」

「そうだったっけ? なんか知り合いな気がしてたんだけどな~」

「よくある、友達の友達は友達同士だと思っちゃう現象、だな」

「あ~、それかも。よくやっちゃうんだよね~」

 

 あはは~、と笑う本音嬢。確かに、よくやってそうな雰囲気は出ている。

 

 …………簪?

 

「あ、もしかして、かんちゃんって更識嬢のこと?」

「本音はそう呼んでる。……それと、名字で呼ばれるのは好きじゃない」

「ん、なるほど。簪嬢も名字で呼ばれるの嫌なタイプか」

「他にそんな人いたっけ~?」

「ああ、箒嬢。名字で呼ばれたくないって言ってたぞ」

「あ、しののんか~」

「箒嬢にも、いろいろ思うところがあるんだろ。……あ、箒嬢っていうのは、うちのクラスの篠ノ之箒のことな」

「篠ノ之……? ああ、あの……」

 

 補足を入れておくと、簪嬢はなるほどとうなずいた。まあ、確かに、開発者の妹という立場は有名だ。

 周囲にいろいろなことを言われたり思われたりするのだろう。名字も珍しいものだし、身内であることを推測するには十分だ。

 

 会話の流れが切れて、僅かに沈黙の時間が流れる。

 と、本音嬢が「そうそう」と話題を切り出した。

 

「そういえば、ほっしーはどこか行くの?」

「ああ、天体観測だよ。天文部の活動でな」

「え、そうなの!? おもしろそ~!」

 

 興奮気味に本音嬢が飛び跳ねた。

 なんとなく、続きのセリフが読めた気がする。

 

「私も行っていい?」

「うーん、どうなんだろうな……」

 

 この時間ならまだ外に出るのは自由だから、勝手に参加することもできるかもしれないが……。

 

「うーん……俺は大丈夫だけど、山田先生が了承してくれるかだよな」

「顧問ってまやまやなんだ~。頼んでみてもいい?」

「ああ、それは全然オッケーだけど」

 

 本人が交渉して了承を勝ち取れるのなら、俺に文句を言う筋合いはあるまい。それに、一緒に星を見る人が増えること自体は歓迎すべきことである。

 

「じゃあ、一緒に行くね~! あ、かんちゃんも行かない?」

「え、私は別にいいよ」

「来ないの~?」

「うん、まだやりたい作業も残ってるから」

「……そっか。じゃあ、後でいっぱいお話しするよ!」

「あはは、ありがと」

 

 楽しみなのか頬がアルデバランのように染まっていた。こうして、星が好きなんだなという場面を見せられると、俺の方もうれしくなってくるのが不思議だ。

 

 行かないことにした簪嬢が寮の自室に戻っていくのを見送り、本音嬢が振り返る。

 

「それじゃあ、レッツゴー!」

「そうだな、行こうか!」

 

 そして、俺達は意気揚々と文化部棟へと出発した。

 

 

 

 

 

 文化部棟に到着した俺達は、部室から望遠鏡やビニールシートを回収して屋上に運んでいく。初めて日中に活動することもあってか、よその部活の人達が珍しそうに俺達を眺めていた。

 

 荷物をすべて運びきると、すぐに設置の準備に移る。

 ビニールシートは本音嬢にお任せして、俺は天体望遠鏡の準備に取り掛かる。いつも山田先生としている作業と何も変わりない。

 

「ほっしー、終わったよ~」

「ありがとう、本音嬢。こっちもできたよ」

 

 準備が完了して、本音嬢がパタパタと駆け寄ってくる。俺はそれを受け止めると、軽く頭を撫でた。

 

「これで準備完了だ。後は、山田先生が来るのを待つだけだな」

「うんうん!」

 

 時刻は六時五十分。そう遠くないうちに山田先生も来るだろう。

 時計で時刻を確認すると、チラリと本音嬢を見る。日がかなり落ちているので気温が下がっている。本音嬢も少し寒そうに体を震わせていた。

 

 ……あ、本音嬢に上着取ってこさせるの忘れた。

 

「本音嬢」

「どうしたの?」

「これからもっと冷えるから、これ着ててくれないか?」

 

 本音嬢に持っていた上着を渡す。サイズはかなりあっていないだろうが、もともと手が隠れるほどの袖を使う本音嬢にはちょうどいいだろう。

 

「でも、ほっしーのは?」

「俺は大丈夫だ。服の下にカイロを忍ばせているのでな」

 

 まあ、もちろん嘘だ。

 上着とカイロを同時に用意するほど寒いのが苦手なわけではない。長年の天体観測の経験もあって、ある程度の寒さは気にならない程度には強くなっている。むしろ、暑い方が苦手だ。

 

「本当に?」

「ああ、本当だ」

「…………分かった。ありがとね、ほっしー」

 

 本当にいいのかと疑っていたようだが、上着を羽織った。案の定、袖が余っている。

 ただ、なんとなくばれているような気がするのだが、勘違いだと信じたい。こういうのがばれるというのは、かっこ悪いと思う。

 

「もう七時だね~」

「ああ、先生も来る頃のはずなんだが…………あ、来た」

 

 ドアの方を見つめていると、ちょうどよくドアが開いて山田先生が顔を出した。

 もう準備が終わっていることに気づいたようで焦ってこちらに駆け寄ってくる。

 

「すみません、溝口君! 遅くなってしまって!」

「いえ、そんな。むしろ、俺の方こそ急だったのに来ていただいて嬉しいです」

 

 慌てて頭を下げて、山田先生の顔を窺った。先生はようやく本音嬢の存在に気が付いたらしく、驚いたような反応を見せていた。

 

「どうして、布仏さんが……?」

「実は、一緒に星を見たいと言ってて。夜の方はダメでしょうけど、この時間ならどうかってことで、先生と交渉も兼ねてきたんですよ」

「なるほど……」

「一緒に見たいです~」

 

 形こそかしこまっているが、全身からあふれるゆるオーラが全くそれを感じさせない。恐るべし、布仏オーラ。

 

「そう、ですね……どんな施設も申請を出してる団体の邪魔にならなければ、基本的には使用は自由ですからね……」

「邪魔にならないようにします!」

「そうですか? ……溝口君は?」

「俺は全然。むしろ、星に興味を持ってくれて嬉しいくらいではありますね。もちろん、先生の判断には従うつもりですけど」

 

 俺が自由に夜中に天体観測ができるのも、山田先生が部活を維持してくれていたからに他ならない。

 聞いた話であれば、部員のいない部活は顧問が早々に部員の勧誘等を諦めてしまうそうだ。おかげで、この学校には誰にも知られないまま書類上だけは存在している部活というのが多々ある。

 だから、俺はこの場で山田先生が言う判断に従うべきだろうと、思っている。

 

 山田先生は目を閉じて悩むそぶりを見せたが、やがて息を吐きながら目を開けた。

 

「……分かりました。許可しましょう。ただし、自由時間が認められている間だけですからね」

「本当!? やったぁ~!」

 

 山田先生が柔らかい笑みを浮かべると、そんなに嬉しかったのか本音嬢が飛び上がった。俺や山田先生の手をぶんぶんと振りながらお礼を言っている。

 

「ほっしー、やったねぇ!」

「だな。よかったじゃないか、本音嬢」

「うんうん! ほんとだよ~!」

 

 ひとしきり喜びを表現し終えた本音嬢。

 俺は改めて山田先生の方を窺った。

 

「本当にいいんですか?」

「ええ、校則でも禁止はされていませんし。それに、溝口君がいろんな人と見たいっていうのを、できる限り叶えてあげたいなと思って」

「……ありがとうございます」

「気にしないでください。日が沈むまでは、私は溝口君の先生ですからね」

 

 茶目っ気を見せながらそういう先生。……なるほど、昼間は確かに俺が生徒で、山田先生が教師だ。

 昼間は、な。

 

「……では、もう日も沈んでいますので、今度は俺が先生の番ですね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 空を仰ぐ。深く深く、この体全てを夕闇で満たすように息を吸い込んだ。

 

 気持ちを切り替える。

 

「それでは」

 

 ここからは、星空の時間だ。

 

「天体観測を、始めましょう」

 

 これから俺達は、本当の空の色を知るのだから。

 

 

 

 

 

 空から赤みが消え、世界を照らすのは眩い文明の結晶だけとなった。

 しかし、いくら文明が力を得ようとも、星々の輝きをかき消すことなどできはしない。

 

「それでは、今日は惑星についてやっていきたいと思います」

「惑星って……火星とか、土星とか、そういうのですか?」

「はい、そうです」

「確か、水金地火木土天海冥(すいきんちかもくどってんかいめい)、だよね~?」

「ああ、本音嬢、惜しい」

 

 それはもう、正しいものではないのだ。

 

「現在の惑星は、水金地火木土天海(すいきんちかもくどってんかい)。つまり、最後の冥王星(めい)は惑星じゃないんだよ」

 

 冥王星が惑星から準惑星になって久しいが、そのことを知らなかったり失念している人はたまにいる。

 まあ、惑星や準惑星の定義といったものが、世間に浸透していないのもあるかもしれない。

 

「最後の、その、冥王星、というのは惑星じゃなくなってしまったんですか?」

「ええ、そうです。2006年8月24日、チェコのプラハで、国際天文学連合総会という会議が行われました」

 

 そこで、世界中の高名な天文学者達が、太陽系の中だけではあるが、惑星の定義をきっちりと決めた。そして、それをきっかけとして冥王星が準惑星になってしまったのだ。

 

「え、じゃあ、それまでは定義とか決まってなかったってこと~?」

「そうそう。曖昧だったんだよ、ずっと」

 

 意外に思えるかもしれないが、そうである。惑星というものは、ずっと昔から惑星と呼ばれてきたもの、そしてそれに近そうな感じの天体を選んで呼んでいただけのことなのだ。

 

「よく考えると、いろいろよく分かりませんよね。そもそも、どうして惑う星、なんて名前になっているんでしょうか?」

「それは簡単ですよ。動きが惑ってるようにしか見えないからです」

 

 恒星は規則的に地軸を中心とした円を描くように回っている。しかし、惑星はそうではないのだ。

 

「惑星は逆行といって、時折Uターンのような動きをすることがあるんです」

「え、反対に動いちゃうってこと?」

「その通り」

 

 そして、指でその動きをおおざっぱになぞる。イメージ的には、輪っかのある矢印、といったところだろうか。

 

 そういえば、前に姉さんがメールで「逆行する惑星」というメッセージと共に、3:2のリサージュ曲線とやらの写真を送ってきたのを覚えている。ちょうどその写真が、逆行する惑星の起動にそっくりだったのだ。

 俺的には最高にツボだったのだが、友達にはあまり通じなかった。なぜだ。

 

 と、あの時のことを思い出してまた笑いそうになるのを必死にこらえ、意識を戻す。

 

「つまり、惑星はその不規則的な動きから惑う星(asteres planetai)と呼ばれるようになったわけだ」

 

 そして、このPlanetaiという単語が、現在の惑星(planet)の語源となっている。

 

「惑星っていうのは、有史以前からその存在が知られていたらしく、火星や金星みたいな肉眼で見えるものは古代ギリシャの時点ですでに知られていることが分かっている」

「古代ギリシャって確か、この前の世界史で出たとこだよね?」

「そうそう、その時代だよ。このギリシャって時代は、天文学の発展に大きく貢献している時代の一つだからな」

 

 俺の尊敬する著名な天文学者が大勢いる時代だ。もしも過去に行けるというのなら、行ってみたい時代の一つである。

 

「と、話を少し戻そう。お二人は、惑星の定義って何だと思います? 想像の付く範囲でいいので」

「知ってる範囲で?」

「えっと……太陽の周りをまわってる~!」

「そうだな。それは大事な要素だ」

 

 太陽、つまり恒星の周りをまわっていることは第一条件みたいなものだ。必須事項である。

 

「他には?」

 

 さらに質問を重ねると、山田先生が「分かりませんけど……」と、前置きをした。

 

「そうですね……大きいことでしょうか?」

「その理由は?」

「小惑星、というものもあるんですよね? なら、私達が普段呼んでる惑星っていうのは、いわゆる大惑星っていうことなのかな、と」

「いい着眼点ですね!」

 

 思わず笑顔になる。

 そうだ、それはとても大事な要素だ。

 

「そう、大きさというのはとっても大事な要素になります。これが、冥王星を準惑星にさせた理由みたいなものですから」

 

 惑星の定義は以下のようになっている(以下、国立天文台のサイトより引用)。

 

 太陽系の惑星(注1)とは、(a)太陽の周りを回り、(b)十分大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し、(c)自分の軌道の周囲から他の天体をきれいになくしてしまった天体である。

(注1)惑星とは、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8つである。

 

「……お、覚えてるんだ」

「こんなの、ただの一般教養だよ」

 

 少なくとも、我が家においては。

 

「ともかく、さっき二人から聞いた定義。太陽の周りをまわっていること。そして大きい、十分な質量を有していること。この二つが、簡潔に言った惑星の定義になる」

 

 大きな質量、つまり重力を有していれば、軌道周囲の天体を消してしまえるので、(c)の定義は大きいという説明に含んでいるつもりだ。

 

「そして、この定義を微妙に満たせない天体を準惑星、正式名称dwarf planetと呼んでいます」

 

 正式な定義は以下となっている(こちらも、同サイトより引用)。

 

 太陽系のdwarf planetとは、(a)太陽の周りを回り、(b)十分大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し(注2)、(c)自分の軌道の周囲から他の天体をきれいになくしておらず、(d)衛星でない天体である。

(注2)基準ぎりぎりの所にある天体をdwarf planetとするか他の種別にするかを決めるIAUの手続きが、今後、制定されることになる。

 

 ちなみに、IAUというのは国際天文学連合の略称である。

 

「準惑星に相当する天体というのはいくつも発見されていて、今後も増えていくこととが予想されているんです」

 

 この惑星の定義を決めるきっけとなった準惑星は、不和の女神の名前をとってエリスと名付けられている。今回の騒動と神話の内容を喩えたジョークみたいなものだ。

 

「じゃあ、惑星はもうこれで決定なの?」

「まあ、減らないだろうし、増える可能性は低いって言われてるよ」

 

 そういった存在を提唱している人がいるのは否定できない。

 例えば、今話した惑星の定義を決めるきっかけを作った天文学者、冥王星キラー(プルートキラー)ことマイケル・ブラウン氏とかは、そういったことを研究しているんではなかっただろうか。

 

「もし見つかったら、大発見になることは間違いないだろうな」

 

 惑星は古くから知られている天体ではあるが、何でも分かっているかといえばそうではない。

 

「そもそも、太陽系の天体自体がまだ知られていないことでいっぱいだから」

 

 灯台下暗しではないが、遠くの星だけじゃなくて、近くの天体にだってまだまだ知られていないロマンが眠っている。

 ついつい人は、何万、何億光年という果てを思ってしまうけれど、ほんの数天文単位の先であったとしても、そこは謎に満ちた世界が広がっているのだ。

 

「ほっしーは、惑星も好きなの?」

「そりゃ、もちろん」

 

 俺は星好きだ。

 この“星”というのは、広義での星だ。

 

「恒星、惑星、衛星、小天体、準惑星、星雲……そんな、ありとあらゆる“星”を、俺は好きなんだからさ」

 

 俺達の生きる空に輝きを届けている、ありとあらゆる存在を好きでいる。

 この夜闇の空を心の在処にしているのだから、それくらいはなんていうことはない。

 

 ただ、俺達が当たり前に水を好むように、俺は当たり前に星空を好むのだ。

 

「二人は、星が好きですか?」

「う~ん…………綺麗だなーって、思うかな~」

「溝口君のおかげで、少しだけ詳しくなりましたし、見ているのが楽しいです」

 

 ただ、と二人が言葉を継いだ。

 

 完璧なシンクロ具合で俺だけじゃなくて当人達も顔を見合わせているが、すぐに互いの気持ちが分かったのか笑いあった。

 

 分からないのが俺だけとなってしまったので、ちょっとちょっとと二人に声をかける。

 

「あの、ただ、なんですか? 気になるんですけど」

「そんなの、決まってるよ~」

「そうです。決まってます」

 

 そして、二人は息を合わせるように笑った。

 

「「溝口君ほどじゃないってことです(ほっしーほどじゃないってことだよ~)」」




 この作品の時間が2015年という設定なので星矢は知りませんが、2016年の1月に九番目の惑星Planet Nineについての研究が発表されました。
 実物こそ確認していないものの、他の天体の軌道からその存在が示唆されているのだそうです。大きさ的にも十分なものがあり、もし発見されることがあれば新たな惑星に加わるだろうとのこと。
 星矢が知ったら原文の論文を読み漁ってから、狂喜乱舞の騒ぎだと思います。

 それと、惑星等の定義については、国立天文台が和訳したものを載せているとのことだったので、それを引用させていただきました。仔細はともかく、日本語になった定義としては適切なものだろうと判断してので使用した次第です。参考文献的にアドレスを載せると、無駄に堅苦しくなりそうだったので省略させていただきます。多分、それっぽい単語を入れてググれば出ます。

 また、これまでもそうですが、マイケル・ブラウン氏や国際天文学連合等、実在の人物や団体についての記述が存在しておりますが、本作においてのそれはあくまでも並行世界の存在くらいに認識しておいていただけると助かります。
 容姿や功績等は一緒であるとしても、あくまで別人です。形式文を用いるなら、「この作品は、実在の人物・団体とは関係ありません」です。よろしくお願いします。
 それと、余談ですが、冥王星キラーさんの某SNSのアカウントは、@plutokillerだったりするとかしないとか。

 今回は惑星についての話題です。本当は宵の明星とかの説明までしたかったのですが、尺が長くなりそうだったのでこの辺で切っておきます。
 惑星についての説明、というよりは惑星と準惑星の定義についての話になってしまいましたね。○○型惑星だとか、そういった説明は次回以降の個々の惑星について語りながら説明してくれると思います、星矢が。

 本音嬢が登場したのは、作者にとっても誤算です。本音嬢にちょうど良く鉢合わせてしまったのが悪かったんですよ、まったく。
 キャラ自立型の作者である自分にとっては、こんなの日常茶飯事なので諦めております……(´・ω・`)。

 ちなみに、これ書くにあたって自分の惑星、というか太陽系の知識のなさが改めてよく分かりました。
 超基礎知識すら持ってなくて、絶望しました。太陽とオールトの海の距離が分からないし、ヘリオポーズのなんたるかもきちんと説明できんかったんや。
 これを機会に、分かりやすく話せるくらい勉強します……。

 ってなわけで無知な部分が多いのですから、ちゃいまっせー、というものは教えてください。誤字報告とかメッセージでも、送ってもらえると嬉しいです。
 星素人の自分には、星に詳しい読者の皆さんだけが頼りです。

 それでは、今回から、とりあえず、8惑星+αくらいの説明はできればと思いますので。
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