IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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第五夜「今度の試合、全力で来いよ?」

「失礼します」

 

 ノックとあいさつ、一礼をして職員室に入る。職員室の教員の机には、小中で培われたイメージ通りに大量の書類や教科書類が積まれていた。

 俺は周囲の先生からくる視線を無視しつつ、山田先生を探して辺りを見渡す。すると、別の先生に話とともに何かを渡される山田先生を発見。話が終わるのを見計らって山田先生に近づいた。

 

「山田先生」

「あ、溝口君。ちょうどよかったです。伝えることがあったんです」

「そうなんですか?」

 

 山田先生は俺を見て笑顔になる。なんというか、普通に美人なので見惚れそうになってしまう。……そういう展開はありなのだろうか?

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、山田先生は俺に何かの鍵を渡してきた。書かれている数字は1049。

 

「えっと、まずは寮についてなのですが。今日から入寮してもらうことになりました」

「え、今日からですか?」

 

 そこで、鍵が寮のものであり、数字が俺の住む部屋番号だと気付いた。しかし、気づいたところで荷物がまとまっていない。

 

「あ、荷物は政府の方の……二階堂さん? が、運んできてくださいましたよ。後、その二階堂さんからの伝言ですけど、『励めよ、星矢。情熱を忘れず、夢を抱き、未来を掴め』だそうです」

「そうですか……。ありがとうございます」

 

 卓也さんからの伝言に少し涙が出そうになる。一月と少しの間柄だったけど、あの人が俺の見付きでよかったと思う。ただ、最後に一言でいいから、直接お礼を言いたかった。

 

「……すみません。先に進めてください」

「はい。後は、寮にある大浴場ですが、使用できないので気を付けてください」

 

 大浴場に入れない? 一瞬分からなかったが、すぐに女子と会い風呂になるではないかということに気づく。なるほど、だから入れないのか。

 

「分かりました。留意しておきます。他には何か?」

「いえ、それだけですよ。それで、溝口君の用事はなんですか?」

「あ、俺は入部の件で先生の印をもらおうと思って」

「なるほど、いいですよ」

 

 俺は先生に届を渡した。先生はそれを見て固まる。

 

「……み、溝口君」

「何ですか?」

「本当に、いいんですか?」

「自己紹介でもいいましたけど、俺は星好きです。問題ありません」

「確かに、そう言ってましたけど。……よかった、これで天文部が存続できます」

 

 先生はそう言って、届けに印を押してくれた。そして、俺の方を向いて手を握ってきた。……というか、廃部危機とは穏やかではない。

 

「ありがとうございます、溝口君。これからよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。それで、廃部になるところだったんですか?」

「そうなんです。二年前を最後に部員がいなくなっていたので。猶予期間だった去年に誰も入らなかったので、今年の新入部員がいなかったら廃部だったんです」

 

 今の天文部がいろいろとピンチだったことと、いきなり部長になったことに気づく。それに、去年、誰もいなかったのなら道具類は無事なんだろうか?

 

「道具類とかはどこにあるんですか? 一年も使われないで大丈夫だったんですかね?」

「どうでしょうか……。掃除は一応していたんですけど、望遠鏡などは扱いを知らなかったので……」

「そうですか……なら、明日か明後日にでも、部室に行って備品の確認をしたいのですが」

「大丈夫ですよ。明日、行きましょうか」

「ありがとうございます。では、また明日」

「はい、また明日」

 

 先生との約束を取り付けると、俺は職員室を出て食堂に向かった。

 

 

 

 

 

「ほっしー! こっちだよ~!」

 

 ぶんぶんと袖を振って俺に場所をアピールする布仏嬢改め、本音嬢。俺は、周囲からの視線を振り切ろうと少し早足に彼女の下に向かった。

 

「すまん、遅くなって」

「全然、気にしてないよ」

「それは助かる。……で? 何を食べるのか決まったか?」

「うーん……とりあえずね、イチゴのショートケーキは決まってるんだけど、残りをカスタードシューにするかフルーツタルトにするか迷ってるんだ~」

 

 本音嬢の話を聞いて、俺はメニューを見てみる。昼休みは購買だったので、学食には初めて来た。話には聞いてはいたが、学食とは到底思えないメニューの量に驚く。国際色豊かだし、女の子が多いからかスイーツもたくさんある。甘いものは好きだし、俺もなんか食べようかな。

 メニューを見ていると、先ほど名前の挙がったスイーツも出てきた。ショートケーキが230円。そして、シュークリームとフルーツタルトが170円。計400円だ。本当、きっちりしてる。

 

「それで? 結局、どっちにするんだ?」

「うーん……じゃあ、タルトにする」

「そうか。俺、買ってくるからここで待ってろよ」

「はーい!」

 

 俺は席を立つ。そして、まずは購買に行って紙パックのジュースを買った。やっぱり、飲み物はいると思う。

 ジュースの入った袋を下げて券売機に向かう。野口のオッチャンを飲み込ませると、目的のお菓子のボタンをすべて押していく。そして、女の子が並んでいる列の最後尾に立つ。……やっぱり、こういう甘味を買いに行くのは、抵抗がある。ボーっとしながら待っていると、すぐに俺の順番が来た。

 

「君が例のIS動かした子かい?」

「あ、はい。溝口星矢と言います。よろしくお願いします、お姉さん」

 

 食堂のお姉さん(強調)に声をかけられた。そりゃあ、珍しいだろう。できる限り愛想よくするが、どんな愛想もマジックワード「お姉さん」には敵わない。推定、七の二乗くらいのお姉さんは、気分よくお菓子を提供してくれた。

 

「ありがとうございます」

「はい、またおいで」

 

 挨拶をして本音嬢の下に戻る。本音嬢は、少し驚いたように俺を見ていた。

 

「どうかしたか?」

「それ、どうしたの?」

「これか? 俺の分だ」

 

 俺が買ったスイーツは四つ。本音嬢から頼まれたショートケーキとタルト。そして、チーズケーキと、先ほど本音嬢が諦めたシュークリームだ。

 俺はスイーツとジュースを渡すと、チーズケーキにフォークを入れた。ストン、といい音がしてチーズケーキの先っぽが切れると、それを口に入れた。

 

「うん、うまいな」

「美味しいね~」

 

 ショートケーキを口にした途端、頬を押さえて笑顔になる本音嬢。その姿に、女の子とこういうことするのもなかなか得なことなんじゃないかと思った。なんというか、役得というやつだろうか。

 今度は、とシュークリームを手でちぎる。ちぎり口からカスタードがあふれそうになるので、急いで口を上に向けてクリームを落とさないようにする。そして、シュークリームを食べる。

 

「これもいけるな」

 

 「あー、うまいなー」なんて言いながらチラリと本音嬢を見ると、口を開けて物欲しげにこちらを見ている。だから、それに応えてやろうと思って俺はシュークリームを本音嬢の口に運んだ。

 

「ほら、ほしいんだろ?」

「……いいの?」

「追加報酬だ」

「ありがとう、ほっしー! 愛してる~!」

 

 「愛してる」は言い過ぎだろう。なんて、ツッコミを入れようとした瞬間に、何か嫌な予感がした。すぐに周囲に視線を走らせると、そこにはスマホをいじりながらこちらを見てくる女子達がいた。……なんか、すごくまずい気がするのだけれど、何がまずいのかが分からなかった。

 仕方ないので視線を戻した。すると、そこにあったはずのシュークリームとチーズケーキがない。本音嬢を見ると、口の周りにはチーズケーキの欠片とカスタード。というか、頬にもクリームが付いているのだけど、どんな食べ方をしたのだろうか。

 

「……本音嬢」

「何、ほっしー」

「俺の分のお菓子はどこに行った?」

「……よ、妖精さんが食べちゃったんだ~」

 

 視線を周囲に逸らしながらそういう本音嬢。……嘘をつくのは許せる話ではない。

 

「そうか。妖精かー」

「そ、そうだよ~」

「じゃあ、その妖精さんにはお仕置きしないといけないな」

「お、お仕置きは必要ないんじゃないかな~」

「いいや、必要だろう。だって、妖精と言えども人のものを食べたらだめだろう?」

「……そ、そうだね」

 

 俺は自滅覚悟で、机に身を乗り出して本音嬢の頬に手を当てて近づける。俺と本音嬢の顔の距離が息がかかるほどの距離に縮んだ。

 

「ほ、ほっしー?」

「おいおい本音嬢。食べ残しが付いてるぞ?」

「そ、そうなの?」

「ああ、俺が取ってやろう」

 

 そう言って、ナプキンで口元だけを拭う。本音嬢の顔は、案の定真っ赤に染まっている。……まあ、俺もすごく恥ずかしいのだけれど。

 

「と、取れた?」

「ああ、取れたと思う……っと、まだあった」

 

 まだあるのは、なぜか付いている頬のクリームだ。俺は、頬にキスする要領でクリームを舐めた。

 

「ほ、ほっしー!?」

「うん、やっぱり美味いな。……どうした?」

 

 「どうした?」ではないだろうと、セルフツッコミを入れる。正直、今にも恥ずかしさで死にそうだ。しかし、美少女である本音嬢にこんなことする機会なんて、こういうお仕置き以外にはないだろう。せっかくだからと、楽しんでみる。

 

「こ、こういうのはやっちゃダメなんだよ!」

「知ってる。本音嬢だからしたんだ」

「${*|%#'|*;']'!?」

「だ、大丈夫か!?」

 

 もはや日本語どころか地球上に言語ではない、ただの音を出しながら本音嬢が慌てる。……流石にやりすぎたかのかもしれないと思った。

 なんというか、ここまで異性として意識されると逆に困る。漠然と本音嬢は色恋沙汰とはかけ離れた位置にいる人間だと思ったからだ。きっと、いい友人になれるだろうと。だから、これほどまでに意識されると本当に困るのだ。

 

「本音嬢、大丈夫か?」

「$<*;%}*|+\$……ハッ!」

「あ、戻った」

「ん? あれ、ほっしーだ。どうかしたの〜?」

「どうかしたってこっちが聞きたいよ。大丈夫か?」

「大丈夫って何が?」

 

 本音嬢は不思議そうに首を傾げた。何かがおかしい。

 

「何がって、さっきまで錯乱していたじゃないか」

「そうなの〜? さっき、お菓子食べ終わったあたりからほわんほわんしてるんだ〜」

「ほわんほわんって、記憶が曖昧なのか?」

「そういうこと〜」

 

 ミステリーは苦手だが、一つ推理を聞いて欲しい。すごく馬鹿げた妄想与太話である。

 今の本音嬢は、恥ずかしさのあまりに記憶を飛ばしてしまったのではないかと思う。彼女自身のキャパシティをオーバーした羞恥に、脳が耐えきれず落ちた。言うなれば、ブレーカーが落ちたような状況だ。

 もしこれを真とするならば、全て納得できると思う。というか、もうそういうことだと思いたい。

 

「ほっしー?」

「なんでもない。スイーツ美味しかったか?」

「うん、すごく美味しかったよー」

「そりゃあ、良かった。じゃあ、俺は寮に戻るけど、本音嬢はどうする?」

「私はかんちゃんのところに行くよー」

「かんちゃん? 友達か?」

「うん」

 

 本音嬢はかんちゃんなる人物のところに行くようなので、俺達はそこで別れることにする。俺は食器類を返却し、スキップしながら食堂を見送った。

 

 ……結局、どうして本音嬢の記憶が飛んだのかは謎なままだ。

 

 

 

 

 

 寮は、ISが乗れると分かった時に軟禁されていた高級ホテルを彷彿とさせるものだった。帰宅組が返ってくるよりも遅く部活組が帰ってくるよりは早かったせいで、通路には人の姿がほとんど見えなかった。

 俺は自分の部屋である1049を探して歩き回る。そして、通路の突き当りに目的の部屋を見つけた。

 

「ここか……」

 

 新しい家というのは、どこか緊張する。これからへの期待と不安が入り混じった緊張を込めて、俺は鍵穴に鍵を差し込む。

 すると、そこでコツコツと少しヒールのある靴の音がした。すぐそばにある階段からだ。足音の主は、コツコツと規則的なリズムを刻んで、その姿を現した。

 

「あ」

「あ」

 

 そこにいたのは、オルコット嬢だ。肩に花弁が付いているのを見て、俺は近くに庭園があることを思い出した。オルコット嬢は驚いたように俺を見てから、ふっと表情をまじめなものに切り替えた。

 

「あなた、何をしてるんですか?」

「自分の部屋に帰ってきただけだ」

 

 鍵穴に差し込んだ鍵を引き抜いて見せる。

 

「……あなた達もこの寮で暮らすんですか?」

「そうらしい。でも、大浴場は使えなかったり、制約があるらしいけど」

「そうですか」

 

 オルコット嬢はいきなり黙り込んで俺をじっと見る。……なんだか、代表決めの時から様子がおかしい。何があったのだろう?

 

「なあ、オルコット嬢」

「……なんですか?」

「何かあったのか? 代表決めのあたりから、様子がおかしいが」

「初対面なのにそんなことを言うのですね」

「そういうことじゃねえけど、なんとなく不安になるだろ?」

 

 確かに、オルコット嬢のような女尊男卑の思想がある奴は嫌いだが、それでもクラスメイトだ。最低限のかかわりはあるだろうし、できる限り歩み寄る努力は必要だろう。何もしないで嫌っているのは、ただのわがままだ。

 

「まあ、オルコット嬢の言うとおり、俺は初対面だし。個人的な事情とかだったら、話しづらいだろうからな」

 

 「じゃ、そういうことで」と俺は部屋に入ろうと、鍵を握り直した。

 

「ちょっと待ってください」

「……なんだ?」

「少し、話せませんか?」

 

 俺はオルコット嬢をじっと見つめる。オルコット嬢の海王星を連想させる青い瞳は、静かに俺を映していた。

 

「……やっぱり、おかしいよ」

「失礼なこと言わないでください!」

 

 ……怒られた。

 あ、話をするのは了承した。

 

 

 

 寮には談話室というものがあり、俺達はそこに移動した。ここにもやはり人はいなかった。まあ、普通は個人の部屋で会話するだろう。わざわざ談話室に来るなんて、相当な大人数でもない限りない。

 俺達は談話室の一番奥にあるテーブル付きの椅子に座っていた。

 

「それで? 話って?」

「まず、なぜ私を推薦したんですか?」

「面白そうだったからだ」

「……からかってますの?」

「いや、本気だ」

 

 冗談を言われたと思ったらしいオルコット嬢は、イラついたように俺を見る。しかし、嘘はついていない。

 

「オルコット嬢がみんなに推薦されるのを待ってたみたいだからな。だから、俺が推薦したら面白い反応が見れると思って」

「じゃあ、なんでわざわざあんな声で」

「だってぇ、皆にオルコットさんを推薦したと知られるのが恥ずかしかったんだもーん(裏声)」

「……気持ち悪いので、やめていただけますか?」

 

 本気でいやな顔をされたのでやめておく。こういうのは冗談のレベルだから許されるのだ。

 

「んで? そんなことが気になった理由は?」

「……あなた達のことが気になっているからですわ」

 

 もしこれが「あなたのことが」であれば春が来たとも思えるのだが、「あなた達のことが」と言っている以上はそうではない。ここは、男性という存在がという意味で考えるべきだろう。一体、我が春はどこだ!

 

「あなた達は、クラスの女性優位な価値観に反論しました。私には、それがあり得ないものに見えて仕方なかったのです。今までかかわってきた男にはない、強さを見た気がするから」

「とすると、あれか? オルコット嬢の周りには、ゴマ擦ってるやつらしかいなかったのか?」

「……ええ。私の知っている男は、女性に媚びを売っていたり小狡いことをするような人ばかりでしたから」

 

 敵意ではぬるいかもしれない。オルコット嬢は、下手をすれば殺意にすら切り替わりかねないほどの黒い感情を押し殺していた。

 それを見て俺は少しだけ納得する。彼女が男を嫌う理由は、そういう男ばかりを見てきた影響だろう。

 

「……言っておくけど、俺もそういう奴らの一人だと思う」

「え?」

「強いのは、一夏の方だ。あいつは、心体両方とも強いと思う」

「……なぜ」

「なんだ?」

「なぜ、自分は弱いと?」

 

 ……俺は、最初に黙ったままでいようと思っていたのだ。それは、これからのことを考えれば、俺が黙ることで人間関係が円滑に進むだろうと思ったから。

 しかし、一夏が反論した。あいつが何を思ったのかは知らない。ただ、その反論は男女の問題だった。なら、きっと俺達も巻き込まれる。だから、俺は自己保身で話をした。全部、臆病だからこそ起こったことだ。

 

「……だから、俺は強くなんかない。本当、一夏が羨ましい」

「そうですか」

 

 何の感情も感じさせない言葉に、「私の勘違いだったようですわね。それでは、ごきげんよう」なんて言われるだろうと思った。

 

「なら、一つ教えてくださる?」

 

 オルコット嬢は、俺が予想していなかった言葉を使う。俺は慌てて顔を上げた。

 

「あなたは、その内に何を考えているんですか?」

「……詳しく説明してくれ」

「あなた、いつもふざけてますわね」

「言い方失礼だと思うんだが? 一発殴ってオーケー?」

「それがふざけていると言っているんです」

 

 オルコット嬢は「黙って話を聞けないんですの?」とお怒りだったが、人の話をぶった切るオルコット嬢が言える話ではない。

 

「あなたは、ふざけているけどバカではない。どこか……そう、まるで道化を演じているような」

「あ、それ誤解」

 

 なんか、いい方向に解釈されている気がする。だが、ふざけたがりは溝口家の遺伝だ。

 

「決して、道化を演じてるわけじゃない。やる気がないだけだ!」

「……そんなに偉そうな顔されてもイラつくだけですわ」

「なん……だと!?」

 

 普通に嫌な顔をされて悲しい。

 

「と、ともかくだな、俺は馬鹿を演じているわけじゃない。ただ、スイッチのオンオフの差が激しいだけだ」

「では、その言い方に合わせましょう。あなたは普段、スイッチオフです。しかし、オンになった時、あなたはその内に秘めた何かを表に出す。私は、その秘めたものを知りたいのです」

 

 なんだか、まだ修正できてない気がする。でも、このまま否定していても仕方ないから、多少の誇張とぼやかしを使って話して納得させることにした。

 

「そうだな……俺には、行きたい場所があるんだ。すごく遠い場所だ。車も、船も、電車も、飛行機も、宇宙船すらも行くことはできない遠い場所」

「行けるんですの?」

「行けるさ。この学校にいれば、ここで学べば」

「……ISですか」

「ああ」

 

 ISが宇宙に出た例はない。ISという存在の未知の部分や宇宙に出た際の危険性などを考慮すれば、どのISの宇宙での運用計画は断念を余儀なくされている。やはりどの国も、もしもの時にISを失うのが怖いのだ。

 俺の夢は、今は不可能なものだ。しかし、この気持ちは認められている。父さんや母さん、姉さんや真紀子さん。そして……

 

宇宙の彼方を往く者(インフィニット・ストラトス)に。今は翼のない宇宙(そら)を夢見るだけの雛鳥だけど、強くなってその先に行く。ここで、何があっても折れない翼を手に入れる。強く、なるんだ」

 

 渇望。

 それが、俺の原動力。ポラリスに行きたい。翼がほしい。強くなりたい。その無力さからくる願望が俺を突き動かしているんだ。月や星が夜を照らすように、何もない俺にも光をともしてほしいのだ。

 

「弱いから動く。そう言いたいのですね」

「強かったら、ただあればいい。誰にも影響されないんだから」

 

 「そうですか」と、オルコット嬢が呟く。そして、席を立った。話は終わりということだろうか。

 

「参考になりましたわ。また今度もう一人にも話を聞くことにします」

「そうか」

「ええ。……ああ、あと一つだけ」

 

 オルコット嬢は俺に背を向けた。そして、表情が見えないようにしながらこちらを見る。耳についた青いイヤーカフスがキラリと光った。

 

「弱さを語るのも、一つの強さではなくて?」

 

 その言葉にどんな意味が、そして、どんな意図があったのかは分からない。ただ、それがオルコット嬢に出せる精一杯の言葉だったのだろう。

 俺は思わず立ち上がった。

 

「オルコット嬢!」

「……なんですか?」

「今度の試合、全力で来いよ?」

 

 言わずとも分かっているであろう内容だとは思った。しかし、言わずにはいられなかったのだ。

 オルコット嬢はこっちを見ることなく窓の外だけを見た。

 

「空を知らない雛鳥に空の高さを教えるのも、飛べる鳥の務めですわ」




星のネタ
・海王星を連想させる青い瞳は
太陽系の一番外側にある惑星。ネプチューンと言われたりもする。青は青でもどこか深みのある青で、写真などで見るととても綺麗。作者が好きな惑星一位。オルコット嬢の青い瞳は、綺麗ですね。

雑談
オルコット嬢って、男性嫌い、色恋沙汰、料理の三つをなくせば、凄い好きです。……あの三つ抜いて何が残るのかはイマイチ分かりませぬが。
ちなみに作者はセカン党です。次点でオルコッ党かな。
あ、本音嬢は殿堂入りです。彼女は比較する存在ではないですね。

後、次回で星矢の専用機が登場します。戦闘描写は、作品のテーマ上の都合で短めです。……テーマってなんだ?
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