それがこれです(笑)
自己満足でこんなものを書いていたんだなぁと思い、なんとなく恥ずかしくもなりますが、息抜き程度に掲載していこうかと思います。
『ザラ』
C.E.71年9月27日、プラント最終防衛ライン〝ヤキン・ドゥーエ〟宙域で行われた、地球軍とザフトによる大規模な艦隊戦──
地球連合軍の指導者は、ブルーコスモスの盟主にして、事実上の地球連合軍の主導権を握っていたムルタ・アズラエル氏。対するザフトは〝プラント〟最高評議会議長パトリック・ザラが、全作戦の指揮を執っていた。
地球軍が導入した核ミサイルと、ザフト軍が誇る巨大ガンマ線レーザー砲──〝ジェネシス〟の使用によって、混沌と混乱へと陥る戦場。アスハの後継者である三隻──〝アークエンジェル〟〝クサナギ〟〝エターナル〟──同盟を組んだ者達は、第三勢力として当戦闘に介入。後世において伝説とも呼び習わされるモビルスーツ〝フリーダム〟と〝ジャスティス〟──それを駆るパイロット、キラ・ヤマトとアスラン・ザラが出撃した。
人々が灰になって散る光輝、モビルスーツの爆発が鮮やかに彩る星屑の戦場。〝ヤキン・ドゥーエ〟と〝ジェネシス〟という巨大な二つの軍事要塞を目の前に、多くの砲火が飛び交い、戦士の誰一人として緊張を解けぬ最終決戦は、かつての戦闘のどれよりも異様で邪悪な空気を醸し出していた。
その戦闘に、この長かった戦争の歴史に終局が近づいていた。これまでに数多くの犠牲を払った戦争だった。幼馴染み、初恋相手、戦友、将来を誓い合った者──喪った者のそれは、あまりにも様々だ。
──その中には、実の父親を失った者もいる。
〝プラント〟最高評議会議長、パトリック・ザラの武断思想は、彼が側近に置いていたザフトの将校レイ・ユウキの反感を買った。その結果、パトリックの命は憎んでいたナチュラルの手ではなく、同じ人種であるコーディネイターの手によって奪われたのだ。
宇宙を飛ぶ鮮血色の機体とベージュの機体。金髪の少女、カガリ・ユラ・アスハが、アスランに訊ねた。
〈──どうするつもりだ、おまえ!〉
威勢のいい声が回線から聞こえる。
アスランは、思い詰めた表情で答えた。
「内部で〝ジャスティス〟を──核爆発させる」
その返答に、カガリは、思ってもみない声を上げた。
ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した〝ジャスティス〟は、エンジンに核動力炉を採用し、その操作次第によっては核弾頭の爆発に匹敵する自爆性能を有しているのだ。
──外部からは難攻不落の要塞とて、内部からの衝撃には弱いはずだ!
それだけが最後の手段だと確信したアスランは、艦艇用の外部ハッチを爆破して〝ジェネシス〟内部へ侵入を試みた。
〈──アスラン、カガリ!〉
〝ジェネシス〟外部宙域、蒼い翼を広げた〝フリーダム〟と、黒銀色の太陽を背負ったかのようなザフトの機体が死闘を繰り広げている。
アスランの耳に、その声は届かなかった。
自爆行為で自分がどうなるのか……その時、それを彼自身、考えたのかどうかは定かではない。父に似たのか、アスランも、もともと頑固な性格だ。目的のためなら、自分がどうなったって構わない──そう考えていたのかもしれない。
〈そんなことをしたら、おまえは!〉
カガリ・ユラ・アスハのいつもは強気で無鉄砲なその声も、この時ばかりは焦りに溢れていた。
「やらせてくれ、お願いだ」
頼まれて、はいそうですかとでも言うと思っているのか!
カガリは怒りにも呆れにも似た感情を交えながら言い返す。
しかし、アスランは揺らがなかった。
「これは、俺の父が犯した、大きな過ちなんだ! だから、オレがやらなきゃ、いけないんだ!」
父が「勝つために必要なのだ!」と創り出した兵器〝ジェネシス〟──「新たな時代を築く」と云う意味を持った、その大量殺戮兵器の存在。
これは、その息子であるアスラン・ザラにとって、戦争が産んだ最大の皮肉ではないだろうか?
アスラン! と大きく叫ぶカガリの声が通信越しに聞こえる。
『パトリック・ザラは戦犯だ────』
そんな言葉を、地球に降りて、何度として耳にしただろう。
今の父は、死してなお、こうして〝ジェネシス〟を撃とうとしている。
「創造」の名の下に「破壊」と「殺戮」を行わんしている。
──それは果たして矛盾なのか。そこに矛盾は存在するのか?
戦争に勝つために?
ナチュラルを滅ぼすために?
古い時代を壊すことでしか、あるいは、古い人類を滅ぼすことでしか──新たな時代は迎えられない、とでも云いたいのか!?
「そんなことをしたら、また世界は戦争の絶えない、どうしようもない世界になってしまう! だからオレが────
「ザラ」の名は、これから長く歴史に受け継がれていくだろう────それは戦禍の、代名詞として。
では、アスラン・ザラの存在もまた────平和な世界では「火種」になるだけだ。
「ザラ」の名を受け継ぐ者の存在こそが、将来への禍根なのだと言われるのには、耐えられない!
──戦犯だと言われても、たった一人の父親だった。
何も周りと変わらない、プラントを愛していた。
父が変わったのは、家族が死んで、激しい悲しみと憎しみに駆られたからであって……。
悔しさが溢れ出る。
──父上だって、人間だった。
母さんを、俺を、家族を愛してくれていた。
それだけのことなのに、道を違えた結果、存在そのものを否定されなければならないのか?
たしかに、多くの犠牲を伴った道かもしれない。
だからといって、自分がその家族の一員であるという証──「ザラ」という名を否定されなければならないのか?
「だったら俺が、父上の過ちを正す。二度と戦争が起きない世界は、父上だって望んでいたはずだ。だから!」
ザラの名前がある限り、それが火種になるくらいならば。
父親の失敗は、息子である──オレが止める。
〈アスラン!〉
覚悟を決め、アスランは後ろめたい気持ちを捨てた。
「キラ達をよろしく頼む。カガリ」
次の瞬間────〝ジャスティス〟が、背面に装備された〝
後行していた〝ルージュ〟はソレと激突し、行き場を塞がれる。
──ズドォォォォン……ッ
〝ジャスティス〟は咄嗟に、両刀型のビームブレイドを振り回し、狭い通路の外壁を、手当たり次第に破壊してゆく。
途端、突き崩される外壁が、瓦礫の山となって積み上げられ、狭い通路が────完全に封鎖された。
「アスラン―――!!」
行かせたくない! 行かないで!
懇願にも似た叫びで彼の名を呼ぶ。しかし、通信は切られたまま。
半強引にカガリは〝リフター〟を破壊し、さらなる進入を試みたが、その先の瓦礫によって、完全に進路を絶たれていた。
二段構え、ということなのか。
―――『君は俺が守る』
そう言った約束はどうなる? 私を置いて行くのか?
──まさか、この私に嘘をついたのか、このバカッ!
カガリは焦り、だけど、もう一度、もう一度だけでいい……アスランの声が聞きたいと、〝ルージュ〟のコックピット内で真っ黒のモニターに縋りついた。
何の音も聞こえない通信が、カガリに非常にも現実を突き付ける。
―――嘘つき………!
途端に涙が溢れ、カガリは一人、コックピット内で慟哭の声を響かせた。
アスラン・ザラは、父親であるパトリックと母親であるレノアの他に、もう一人の家族がいた。
続柄として、それは妹だった。
名を、ステラ。
C.E.70年、2月14日【血のバレンタイン】――
核ミサイルを搭載した地球連合軍のMA〝メビウス〟の一機が放った核ミサイルは、当時の農業プラントであった〝ユニウスセブン〟に直撃し、それによってアスランは母と妹を喪った。
当時、プラント国防委員長だったパトリックはその事実に憤り、反地球連合、反ナチュラルの思想を最高潮に至らせた。
核ミサイルにより〝ユニウスセブン〟自体が修復不能なまでに崩壊した為、プラントは、犠牲になった死者の遺体を確認することもままならず、アスランはふたりの遺体を確認することも出来ないままに、何もないところに慰霊碑を建てる他なかった。
以後、同年4月1日【エイプリル・フール・クライシス】と呼ばれた日に、ザフトは【オペレーション・ウロボロス】を始動。
核分裂反応を防ぐ〝ニュートロンジャマー〟を地球全土へ散布し、地球軍の核兵器開発を完全に封殺した。だが、これはあらゆる電子機器等に影響を及ぼし、地球において一億人以上の餓死者を出した。
これにより地球とプラント、ナチュラルとコーディネーターは完全対立。これが本格的な武力衝突の発端となり、戦う日々が始まった。
戦うためではなかった────
でも────アスラン・ザラはプラントを守るため、ザフト兵へ志願した。
アスランはひとり〝ジェネシス〟の最奥部へと辿り着いた。
胸を撫で下ろし、広く広がった〝ジェネシス〟内部の様子を見渡す。
──ああ、遂にここまでやって来たのか……。
息を呑み、覚悟を決めると──〝ジャスティス〟の自爆暗号を一つ一つ入力し始めた。
──大丈夫。間違っていない。
これで世界は、平和になるはずだ。
パネルの数字を一つ一つ入力していく刹那、本当に記憶が蘇って来た。
大好きだった母、レノア・ザラの記憶。
優秀なのに甘ったれだった、親友の記憶。
有無も言わさず発砲して来た、トンチンカンな奴の記憶。
大好きだった、父上の記憶──。
「…………」
最後のパネルを打つその瞬間、記憶の中で本当に幸せそうな笑顔を周りに振り蒔く少女が映った。
くるくると舞いながら、蜂蜜に金粉を塗ったように、美しく輝く金髪を揺らしている。
『────おにいちゃん!』
懐かしい記憶に、アスランはしばらく何も言えなかった。
何も考えられなかった。
やがて〝ジャスティス〟の自爆タイマーは、いつの間にか十秒を切っていた。
どれだけ長い時間を硬直していたのだろう。
──カガリは、キラは、〝ジェネシス〟から遠ざかってくれただろうか?
それすら深慮する時間は残されていなかった。
「もう一度でも、逢いたかったな」
その瞬間────
核の光が────真紅の機体を包み込んだ。
アスラン・ザラ
C.E.55年10月29日 生まれ
C.E.71年9月27日──没。