~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『〝ディフェンド〟』

 

 

「〝ヴェサリウス〟は先行し〝網〟を張る。──足つきが現れ次第、これを迎え撃つ。あの艦は、どうあっても逃がすわけにはいかぬからな」

 

 クルーゼのその読みは的中した。

 ザフトの追撃を免れた〝アークエンジェル〟は月本部へと直行はせず、まずは〝アルテミス〟で補給を受けようとこの航路(・・・・)を取るだろう、と。

 〝ヴェサリウス〟艦長であるアデスが、クルーゼに訊ねた。 

 

「しかし、先の戦闘で、こちらのモビルスーツはほとんど撃破されています。今はもう、ハイネとミゲルが乗る〝ジン〟が二機しか」

「ああ分かっているさ。たしかに〝ジン〟では、足つきを追撃するには心許ないだろうな」

「隊長。──お言葉ですが、地球軍の艦一隻なんて、俺達だけでも追い詰めてみせますよ」

 

 ブリーフィングには、クルーゼ隊のメンバーも同伴しており、ミゲル・アイマンが、強くそう主張した。

 クルーゼは彼を見返し、強い意志を宿したその眸を見据えた。──ミゲルと、そしてハイネには、それだけの覚悟と自信があるのだろう。

 しかし、

 

「覚悟のほどは頼もしいが、それだけで勝てるなら、なぜ我々はヘリオポリスであの艦を逃がしてしまったのだろうね」

 

 思い知らせるような口調で言われ、ミゲルが悔しくも、返す言葉を無くす。

 ──そうだ。

 どうして精鋭と名高い〝クルーゼ〟隊が、ナチュラルの艦たった一隻などを、みすみすと逃してしまったのだろう? 覚悟と自信、そしてナチュラルと雲泥ほどに掛け離れた高いMSの操縦技量──それらだけでは、あの艦を落とすのには足りないというのか?

 

「だから、あの四機(・・)を使うことにしよう」

「は? 地球軍から奪ったモビルスーツを、もう実戦に投入されると?」

 

 アデスが訊ね、そのときイザークやディアッカが目を見合わせ、不敵な笑みを浮かべた。新型で戦場に出れることが、それだけ嬉しいのだろう。

 対照的に、旧式を使うハイネは不服そうだ。

 

「データの抽出さえ終わっていれば、構わんさ。──それに、アスランが既に使えることを証明してくれているしな」

 

 命令違反の皮肉を突きつけているのか、根拠を述べたいだけなのか分からぬまま、顔を向けて言われたアスランはただ、はい……と消沈したような生返事を返した。

 ブリーフィングが終了すると、イザークとディアッカが、我先にと更衣室へと駆け抜けて入った。まるで、新しいオモチャで遊ぶ機会を与えられた子供のように。

 対照的に、アスランとハイネの足取りは重たかった。

 ふたりともまったく異なる苦悩や後悔をその胸に抱えていながら、似たような鎮痛な面持ちをしている。そんなふたりは、自然とクルーゼ隊員の中で、艦橋から出ていく順番が最後の方となった。

 

「────ハイネ」

 

 その時、それまで宙域の見取り図を描いたパネルを観察していたクルーゼが、突如、ハイネのことを呼び止めた。

 ハイネはそちらに振り返るが、その時ふと、訝しんだアスランもまた振り返り、その足を止めていた。クルーゼは、自分の放った言葉がアスランまでもを止めたことに小さな驚きを覚え、おや、と漏らした。

 

「アスランは構わない。パイロットスーツに着替えて、出撃準備をしたまえ」

「あっ、すいません……」

 

 言われ、恐縮したようにアスランが再び足を動かした。

 ハイネは、クルーゼは自分に用があるのだと思い、その場で踵を返すと、クルーゼの下へと寄っていく。

 戻って来たハイネに、クルーゼは言った。

 

「後でみなにも改めて挨拶せねばならんが、どうにも今は忙しくてね」

「はあ」

「ラスティのことは、私としても、非常に残念だよ」

 

 ──いったい、何の話だろう?

 アスランはふと、それが気になった。

 艦橋から退室した後も、彼は閉じたドアから離れず、その会話に聞き耳を立てた。

 ラスティの話を、なぜハイネにだけ(・・)持ち掛けるのだろう……?

 

「ラスティと──それにキミは、地球軍の機体の奪取に失敗してしまった。──だが、こう(・・)考えれば、君はまだ幸いな立場にあると思わないかな」

「は?」

「君にはまだ……それ(・・)と決着をつける機会が────残されているのだからね」

 

 言葉に、ハイネの目が見開かれる。その言葉の真意をくみ取った様子だ。

 ラスティは任務に失敗し、死んだ。

 だから〝ストライク〟は地球軍の手に渡った。

 だが────ハイネはまだ生きている。

 クルーゼは小さく微笑み、ハイネへと問いかけた。

 

「この意味が────わかるかね」

「…………はっ」

 

 答えるとハイネは鯱張って敬礼をし、クルーゼに背を向けた。

 そして背を向けたまま、力強く言い放った。

 

「最後の機体〝ディフェンド〟は────この俺が必ず、パイロットもろとも、撃墜してみせますよ」

 

 責任を果たせ──

 暗にそう言われているような気がして、ハイネは、そう答えていた。 

 

「では、期待しているよ」

「はっ、失礼します」

 

 ハイネのその声が聞こえ、アスランは足早にドアから立ち退いた。

 駆けるように廊下を走り、胸の奥から湧き上がる不安を、必死で押し殺す。

 

「…………ディフェンド、か…………」

 

 あれに。

 あれに、乗っていたのは───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、数十分後のことになる。

 戦場では激しい砲火が飛び交い、閃光が、忽ちに何度も交錯している。

 

 ザフトに強奪された〝G〟は4機──〝デュエル〟〝バスター〟〝ブリッツ〟そして〝イージス〟──そのすべてが、よもやこの早急なタイミングで、実戦に投入された。

 〝アークエンジェル〟がこの宙域から離脱するためには、襲い掛かって来る敵機を迎え撃つだけでは、効率が悪い。

 艦を防衛しつつ、敵の母艦を、奇襲で叩く必要がある。

 

「出撃した〝ストライク〟が敵機を迎撃し、注意を引く。その間にフラガ大尉の〝ゼロ〟が──ザフトの母艦を叩く」

 

 艦長席で、マリューが今回の作戦を再確認するようにひとりごとを呟く。

 〝ゼロ〟の武装の殆どは先の戦闘で破壊されているため、あくまで、ナスカ級の機関部だけでも被弾させることができれば、結果は上々。

 

 それだけで、状況は変わる。

 

 ムウ・ラ・フラガは正規の地球軍の軍人で、エースパイロットしても名高い。マリューはまだ、彼のことをよく知らないが、軍人としては信頼のおける人間だと判断している。

 むしろマリューが心配が向いているのは──明らかに戦いに慣れていない民間人であるキラが、この迎撃戦の、戦局のそのすべてを握らされていることに対してだろう。

 

 

 

 

 

 

 〝アークエンジェル〟はこの時、月本部に駐屯する地球軍の技術者から、GATシリーズの性能等の情報を、レーザー通信によって入手していた。

 

 GAT-X102〝デュエル〟──

 Xナンバーの中で最初に開発された機体で、他の機体のベースとなっているため、基本に忠実なスタンダードな構造となっている。突出した性能は持たないが、それだけ汎用性が高い。

 

 GAT-X103〝バスター〟──

 数多の大火力武器を装備し、狙撃、後方支援、対艦・対要塞戦に特化した性能を持つ機体。近接戦兵器は装備してないが、その分、中遠距離からの攻撃を得意としている。

 

 GAT-X207〝ブリッツ〟──

 光学迷彩技術などを応用した特殊兵装を多く装備し、隠密・奇襲用に開発された機体。その特殊な武装性能ゆえ、偵察・近接戦闘を得意としている。

 

 GAT-X303〝イージス〟──

 他のGATシリーズとは基本フレームが異なっており、MA形態への変形が可能となっている機体。高い機動力と高い火力を有し、強襲・攪乱においてその真価を発揮する。

 

 

 そして、

 

 

 GAT-X105〝ストライク〟──

 Xナンバーの中で、最も汎用性の高く、エール、ソード、ランチャーの三種類に及ぶ武装パックを換装することで、あらゆる局面に対応できるよう機体となっている。

 

 以上の五機はすべて、地球軍に所属する大西洋連邦が、中立国オーブの国営軍需産業社〝モルゲンレーテ〟の技術協力を経て開発された機体である。

 無論、もう一機の〝ディフェンド〟もまた、開発の大元の出資者は〝モルゲンレーテ〟であることに大きな変わりはない。

 しかし〝ディフェンド〟は──他のGATシリーズの中で、最も遅くに開発された機体である。

 データベースにして試作機である〝デュエル〟が完成した後、残りの四機の開発は、ほぼ並行して執り行われている。唯一〝ディフェンド〟だけは、開発の着工そのものが、かなり遅いタイミングで行われたそうだ。

 〝ヘリオポリス〟に派遣されていた〝モルゲンレーテ〟の技術者はかつて、こんなことを云っていた。

 

『元々GATシリーズは、五機だけが開発される予定だったんだ。──〝ディフェンド〟なんて機体の開発案は、当初の計画にはなかったんだよ』

 

 〝ディフェンド〟だけは、開発に使われた技術・性能が、他のXナンバーと少しだけ異なっているそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〝ストライク〟は今、そんな四機のGATシリーズからの集中攻撃を浴びているわけではなかった。

 

 〝ブリッツ〟と〝バスター〟はそのまま〝アークエンジェル〟を狙って攻撃を仕掛けている。〝ストライク〟が戦闘しているのは、苛烈ともいうべ獰猛さで何度も距離を詰めて来る〝デュエル〟と、まるで対照的に〝ストライク〟を追いながら、迷うように攻めあぐねている〝イージス〟の二機だけだ。

 キラは、訓練も受けずに実戦へと放り込まれた民間人に過ぎない。そんな少年が、いきなりザフトのエースパイロットから標的にされている。

 精神的にも追い詰められてはいないだろうか──マリューがそれを心配するのは、当然のことであった。

 

 その時、チャンドラの声が上がった。

 

「前方ナスカ級より、新たなモビルスーツの発進を確認! 機種特定──〝ジン〟です! 数は二!」

「くっ……!」

 

 マリューが、ぐっと息を呑んだ。

 今の〝アークエンジェル〟も〝ストライク〟も、既に手一杯の状態だ。

 あの〝ストライク〟に、これ以上の奮戦を期待するのは無理だ。だからといって〝アークエンジェル〟は二機の〝G〟に狙われており、〝ジン〟などに注意を向けている余裕はない。

 ──ムウの作戦実行時間までは、まだ、時間がかかる……!

 ギリッ、と歯を食いしばりながら、マリューはその拳を強く握りしめる。

 その時、ナタルが声を上げた。

 

「艦長! 〝ディフェンド〟の出撃許可を求めます! このままでは!」

「くッ……!」

 

 いくら相手が〝ジン〟だとしても、人手不足もあって正常に機能しているかも怪しい〝アークエンジェル〟を撃墜するには、充分なほど危険な存在だ。

 決断に迷うマリュー。

 その時────チャンドラの焦りに満ちた声が艦橋に響いた。

 

「──〝右舷ハッチの解放警告〟……? なんで、そんなものが」

「どうしたの?」

 

 ふとしたようにマリューが訊ねると、チャンドラは答えた。

 

「だっ、誰かが! 艦の右舷ハッチを勝手に開けてます! ──命令も無しに、機体を出撃させるつもりか!?」

「ええっ!?」

 

 まさか────

 マリューの中に、嫌な予感が押し寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいおいおい、どこだよ! どこに行ったんだよ、あの黄色いヤツはぁッ!」 

 

 オレンジ色の〝ジン〟を駆りながら、ハイネは、胸の奥で沸々と湧き上がる苛立ちを膨らませていた。

 ──クルーゼ隊長に、失望された!

 言われずとも、態度でわかるクルーゼの真意。

 クルーゼは決して饒舌ではないが、無感情に見えて、怒りや失望、憎悪などマイナスの感情は、にじみ出すように顕す皮肉屋のような人間だ。

 部下として、それは、屈辱の限りであった。よもやその原因が、得体の知れない女の子(美少女ではあったが)の下着に動揺したことだとは、死んでも明かしたくないが、だからこそ、自分の尻は自分で拭かねばならない。

 〝ディフェンド〟を地球軍に渡しちまったのは、俺の失態だ! ──だから、あの機体は俺が撃つ! なのに!

 

「出撃してない……だと? この野郎ォ、母艦もろとも撃墜されてぇか!」

 

 〝ストライク〟が足つきから出て来たということは、あの機体も、足つきに帰投しているはずなのだ。

 ──所詮地球軍など、腰抜けの集まりか!

 よもやこの時のハイネは、ディフェンドのパイロットなる者が、あの時の女の子だとは想像もしていなかった。スロットルへ手をかけたハイネは、激昂するように叫んだ。

 

「いいぜ、だったらお望み通り、叩き落としてやるよ!」

 

 オレンジ色の〝ジン〟が、どの機体よりも気迫立って〝アークエンジェル〟へ向かう。

 これに対して〝アークエンジェル〟は、イーゲルシュテルンを弾幕として放つ。

 

「──〝ジン〟接近!」

「振り切って!」

 

 マリューは慌てて操舵士のアーノルド・ノイマン曹長へと指示を飛ばしたが、この時のマリューは別用で、格納庫へ緊急通信を飛ばしていた。

 通信先のコジロー・マードックは、柄にもなく青ざめて、汗をかきながら慌てていた。艦橋へ入って来るコジローの声のほかに、格納庫からの物音──いや、轟音までもが響いている。

 

〈──だからぁ! 言われた通り、誰も近寄らせてないっスよ! ありゃあ勝手に動き出したんだ!〉

「誰も乗ってない機体が、勝手に動くはずがないでしょう!」

 

 通信先のマードックの報告では──突如、格納庫の〝ディフェンド〟が動き出した、というのだ。

 

 

 

 

 

 

 いつもの通りマードックは、格納庫にある戦闘中の〝アークエンジェル〟の格機器の調整と、それが無事に機能しているのかをチェック作業を行っていた。

 その作業中、ふと耳を澄ませば、格納庫に妙なエンジン音が響いていることに気付いたというのだ。

 整備士であるマードックはすぐに、その駆動音の正体を訝しみ、その発生源を突き止めた。

 

 ──おかしい。

 〝ディフェンド〟の目に────灯が入っている。

 

「な、なんだ!?」

 

 マードックが素っ頓狂な声を上げたその時には、既に〝ディフェンド〟は動き出していた。機体を覆うように構えられた可動式のキャットウォークを乱暴に跳ね除け、大きな一歩を踏み出した。

 

「オイなんだってえんだ! 止まれェ!」

 

 さいわい上には誰も乗っていなかったが、乱暴に飛ばされたキャットウォークは、そのまま壁に激突し、崩れ落ちた。

 金属が絡み合う轟音が、〝ディフェンド〟に静止を訴えるマードックの声を遮った。後でそれの修理に追われるであろう整備士としてマードックは一気にその表情を青ざめさせたが、事態は、それだけでは終わらなかった。

 〝ディフェンド〟から、拡張された声が響いたのだ。

 

〈ハッチを開けろ! 開けないと、この場所ごと吹き飛ばす!〉

 

 〝ディフェンド〟から音声が流れる。〝ストライク〟のスペアに用意された〝ビームライフル〟を拾い上げると、その銃口を閉鎖されている〝アークエンジェル〟のハッチへと突き付けた。それは、マードックにとって、聞き慣れない声であった。

 いったい、どこのどいつが乗っているのだ?

 そう訝しんだが────よく考えると、それは確かに、どこかで聞いた(・・・・・・・)ことのあるような声(・・・・・・・・・)ではあったのだ。

 

 ──まさか、あの金髪の嬢ちゃんか?

 

 いや──その辛辣な口調と、強引極まりない行動、そして放たれた言葉は、まるで、前に見た「おっとりとした少女」から出て来るとは、思えないほど凶暴ではないか。

 舌足らずで、ぼんやりと幼子のように喋るあの少女が────モビルスーツに乗った途端、凶暴な人格に豹変したとでもいうのか? しかし〝ディフェンド〟を動かせる人間といえば、出撃しているキラを除けば、あの少女でしかあり得ない。

 

 ──こういうのが、コーディネイターってやつなのか!?

 

 ビームライフルをハッチに突き付けている〝ディフェンド〟のその姿勢が訴えているものは、明らかに脅しの気配などではなかった。今にもライフルのトリガーを引き、整備士ごと吹っ飛ばして発進口(ハッチ)を作り出しかねないような──放たれた少女の剣呑な声には、それだけの覚悟と、気迫が含まれていた。

 ──コーディネイターってのは、ホントによくわかんねえ!

 心の中で嘆きながら、マードックはすぐに、言われるまま、ハッチの開閉を操作する緊急ボタンまで走った。

 ──よもや、造反なんて気はねーんだろう!?

 初めから裏切るつもりであれば、この船を中から破壊しているはずだ。あの少女はこの船の為に戦うと決めた上で、発進してくれようとしているのだ。

 

(オレたちゃやっぱり、このお嬢ちゃんに頼るしかねぇのかよ!)

 

 マードックがハッチが開くと──〝ディフェンド〟はスラスターを噴射して、カタパルトを無視するように、自力で宇宙へと飛び立って行ってしまった。

 

「ステラ──!?」

 

 〝アークエンジェル〟から飛び立った〝ディフェンド〟を見て──ミリアリアは不意に、その名をこぼしていた。

 間違いない──今出て行った〝ディフェンド〟には、あの子が乗っている。

 だが、命令もなしに──?

 あのステラが、こんなにも大胆なことをするなんて!

 モビルスーツおよびモビルアーマーの戦闘管制(CIC)を担当しているミリアリアはすぐに──離れた場所で〝デュエル〟と交戦する〝ストライク〟へと呼びかけた。

 

「キラ! 〝ディフェンド〟が出た! ────援護してあげて!」

 

 無茶な頼みだとは思ったが、ミリアリアはキラに、そう呼びかける。

 通信を受け取ったキラは、その事実に一瞬だけ唖然としたが、ビームサーベルを抜き打ちに繰り出して来る〝デュエル〟に迫られ、すぐに我に返った。

 振り下ろされたビームサーベルを回避し、逃れるようにスタスタ―を噴射する。キラは〝デュエル〟からの離脱を図り、いつの間にか引き離されていた〝アークエンジェル〟へと戻って行く。

 

「どうして……? どうしてあの子を乗せたんだ!」

「止めたのに、自分から乗っちゃったの!」

 

 約束と違うじゃないか──。

 〝ディフェンド〟が出撃している時点で、そのパイロットは、ひとりに絞られる。キラはパイロットを改めて確認する必要性も感じず、ただ、怒りだけを露わにした。

 キラと管制官のその通信を──〝イージス〟に乗るアスランは、通信越しに聞いていた。

 先程からアスランは、キラと通信を試み、キラに投降を呼びかけていたため、〝ストライク〟との通信回線が開いたままになっていたのだ。

 

「ステラ………が………?」

 

 ──やはり、ステラなのか? 妹なのか?

 あの機体────〝ディフェンド〟に乗っているのは?

 信じられない、といった気持ちが、アスランの頭を支配した。

 ステラが、あのステラが、生きている? いや、生きていたとしても、モビルスーツなんて動かせるはずがないのに!

 

「──ハッ! やっと出て来たか!」

 

 大天使から出撃した〝黄色いガンダム〟────これを見つけたハイネのジンが、バズーカランチャーを構え、そのマズルを、標的へと固定した。

 口元に不敵な笑みを浮かべ、獲物を見つけた猛禽のように、そいつへと迫っていく。

 

「アイツを追い込むぜ! ──ミゲル、手伝え!」

〈はいよ!〉

 

 悔しくも〝ジン〟と〝ガンダム〟の間には、埋められない機体性能の差が明然と存在している。武装のほとんどが実体弾の〝ジン〟が挑む白兵戦では、PS(フェイズシフト)装甲の搭載された向こうに利があることは疑いようがない。

 だから連携で突き崩してやる。だが──最終的に〝オマエ〟を討ち取るのは、この俺だ!

 ハイネが意気込み、通信越しでも交わされるオレンジ達の見事な連携が、〝ディフェンド〟へ向かった。

 

「──ステラ!」

 

 アスランが叫ぶと同時に〝イージス〟の機体は、自然と〝ストライク〟を離れ──〝ディフェンド〟の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「ザフト…………! ザフトは、敵! 倒す──!!」

 

 〝ディフェンド〟のレバーとスロットルに手をかけながら、唸るように、ステラがこれを復唱した。まるで、自分自身に命令を与えるように。

 ストライク用のビームライフルを構え、これを〝アークエンジェル〟を襲う〝ブリッツ〟と〝バスター〟へと撃ち放つ。

 照準先の二機は、すばやくこれに反応し、散開した。

 

「あれは?」

「へえ、最後の一機ってヤツかよ!」

 

 これによりニコルとディアッカが、発進した〝ディフェンド〟の存在に気付いた。

 散開した両者は、互いに声での指示を仰ぐこともなく〝ディフェンド〟を挟み込むように回り込み、暗黙の内に、この機体を挟撃した。〝ブリッツ〟からランサーダートが撃ち放たれ、〝バスター〟が6連装ミサイルポットを射出する。

 〝ディフェンド〟の背後には〝アークエンジェル〟──退くことは許されない。

 

「あまい!」

 

 ステラが、コックピット内で叫んだ。

 咄嗟に機体を制御し、後退した〝ディフェンド〟は──〝アークエンジェル〟を庇うようにその前に立ちはだかり、巨大な「盾」を展開した。

 〝ディフェンド〟が同シリーズ二機による集中砲火を受け、鮮烈な爆光と閃光が、宇宙の景色を真っ白に染めた。

 すべての攻撃を受け止めた〝ディフェンド〟は──なおも無傷の様相で、その場所に健在した。

 

「なるほど、防御に特化しているのでしょうか」

「あれを防ぐとはねぇ」

 

 だが、だからどうしたと言わんばかりに、ディアッカは、〝バスター〟の持つ二丁の大型ライフルを連結させた。

 超長砲身となったガンランチャーを構え、大火力を誇る砲口を、〝ディフェンド〟目掛けて振り翳す!

 ロックされた〝ディフェンド〟はスラスターを全開に推進させ、〝バスター〟へと真っ直ぐに突っ込んでゆく。

 

 GATシリーズ最強の槍? これを迎えるのは、GATシリーズ最強の盾か。

 

 ディアッカがトリガーを引く──その瞬間、〝バスター〟のコックピット内に警報音が響いた。

 背後から〝イージス〟と〝デュエル〟に攪乱されていたはずの〝ストライク〟が──急速にこちらへと迫って来ているのだ。

 ディアッカが舌を打つ。

 

「ええい、イザークとアスランは何やってんの!」

 

 やむを得ず〝バスター〟はその場で振り返り、ビームサーベルを構えながら迫る〝ストライク〟に向けて砲撃を放った。

 咄嗟に〝ストライク〟は転進し、この砲撃を回避する。

 だが、その間に〝バスター〟の背後へ、〝ディフェンド〟が迫る。

 

「ディアッカ、さがって!」

 

 ニコルの指示が飛び、〝バスター〟の背後へと進み出た〝ブリッツ〟が、レーザーライフルを連射した。

 〝ディフェンド〟の盾は、これにビクともすることなく、レーザーを打ち消しながら、〝ブリッツ〟へと突進している。

 ──あまつさえ加工されて出来ている〝ジン〟の機体を粉砕したという、悪魔のような突進が来る!

 だが、

 

「──いくら重量があろうとも!」

 

 その重量の分だけ、推進には必要なエネルギーが必要となり、そして、出せるスピードには限界がある!

 突進中は、曲折という行為が不可能となる。単一方向への加速を決め込んでしまっては、もう、その進路の変更を取ることは容易ではない。

 〝ブリッツ〟は〝ディフェンド〟から離れ、難なくその突進を回避した。

 

「なんだが、随分と反撃力に乏しい機体のようですね」

 

 ニコルは不意に、不審に思った。

 鎧のような装甲に、巨大にして堅牢な盾──〝ディフェンド〟が防御力に重きを置いた機体であることは、その体躯を見るだけでも明瞭に理解出来る。あの機体を落とすのは、骨が折れそうだ。

 だが、だからといって、攻撃手段が少なすぎる。

 クルーゼの乗る〝シグー〟を退けたのは、〝ディフェンド〟の突進。〝ジン〟を粉砕したのも突進。そして、今も突進。

 突進が唯一の攻撃方法だというなら、なんと滑稽だ。

 

「攻撃力がなければ、負けはなくても、勝ちもないんですよ!」

 

 〝ブリッツ〟がアンカーを伸ばし、その重量ゆえ機動力がわずかに劣る〝ディフェンド〟の盾を捕まえた。アンカーを縮めれば、本来は相手が〝ブリッツ〟に引き寄せられるものだが、今回はむしろ〝ブリッツ〟の方が〝ディフェンド〟へと引き寄せられた。

 だが、どちらでもいい。──〝ブリッツ〟が得意としているのは、近接戦だ。ノロマな機体を前にして、〝ブリッツ〟は負けはしない!

 

「はあああっ!」

 

 トリケロスから放出するビームサーベルが、〝ディフェンド〟の大盾と接触した。アンカーで引き寄せられた勢いを乗せたその斬撃に、わずかに〝ディフェンド〟が揺れる。

 

「くっ…………!」

 

 ステラが小さく舌を鳴らした。

 だが、機体は揺れはしたが──なおも堅牢な盾は、敵の斬撃の侵入を許さない。

 

「舐めるなぁーっ!」

 

 その瞬間──〝ディフェンド〟が、両手の甲に装備した武装から、大型のビームクロウを発生させた。鉤爪のような鋭利なビームクロウが、〝ブリッツ〟へと襲い掛かる。

 初めて見る武装に虚を突かれたニコルは、咄嗟に後退してこれを回避した。

 

「──〝ディフェンド〟を援護して! あの子を守るのよ!」

 

 マリューの指示が飛び、距離を取った〝ブリッツ〟に──すかさず〝アークエンジェル〟からの援護射撃が飛来する。これに牽制され、またも〝バスター〟と〝ブリッツ〟は〝アークエンジェル〟から距離を引き剥がされてゆく。

 

「くそっ!」

「〝ディフェンド(アイツ)〟を落とさねぇと、足つきまでは辿り着けねぇってことかよ!」

 

 機体そのものが、鉄壁の盾だとでもいうのか?

 その時、ハイネ達からの通信が入った。

 

〈アイツは俺達で抑える。おまえ達は、引き続き足つきを狙え!〉

「ハイネか!?」

〈ナチュラルが動かしてるにしては上出来だが、俺達〝オレンジショルダー〟の敵じゃねぇな!〉

 

 二機のジンの機影が、真っ直ぐに〝ディフェンド〟に向かうのが見えた。

 ──〝ジン〟なんかで、あの機体を討とうというのか?

 

「は、やれるもんなら、やってみなってんだよ」

 

 ディアッカは独り言のように、〝ディフェンド〟へ向かったハイネとミゲルを、完全に侮っていた。

 ──だが、ディフェンド(ナチュラル)の目くらましには丁度いい。

 〝ジン〟が〝ディフェンド〟を惹き付けている間に、自分とニコルで、足つきを落とせば良いのだから。

 

「ステラ────!」

 

 二機の〝ジン〟に猛追され、段々と〝アークエンジェル〟から距離を開かれてゆく〝ディフェンド〟に、キラが呼び掛けた。キラは〝ストライク〟を駆って、彼女の援護に回ろうとしたが、

 

「逃がすかぁぁ!」

 

 接近する〝デュエル〟の苛烈さが、これを許さない。

 キラは完全に、〝デュエル〟によって足を止められていた。

 

 

 

 

 

 

「なんだ、おまえは────!」

 

 人格が一変したように、コックピット内のステラは叫んだ。

 パイロットスーツに着替えている余裕もなかったため、なおもワンピースの生身であったが、大盾に守られた機体は無事だ。

 執拗に攻撃を仕掛けてくる相手──オレンジ色の〝ジン〟!

 あれはたくさん壊した! ヘリオポリスを、崩壊させた!

 

「そぉら墜ちろぉ!」

 

 〝ディフェンド〟らGATシリーズの持つフェイズシフト装甲は、実体弾兵器による損傷を受け付けず〝ジン〟の唯一の近接兵器である重斬刀を無効化する。

 ならば、ビーム兵器で撃破するしかない。

 ハイネが咄嗟に大型ビームライフルを発射するが、これはまたも防がれた。

 

「ノロマなんだよ! ナチュラルのモビルスーツが!」

 

 その機体を強奪しようとしていた割に、敵に回れば、ハイネのこれは随分な言い様である。

 

「回り込め、ミゲル!」

〈言われなくても!〉

 

 ──しつこい!

 守らなきゃいけないのに、アークエンジェルを!

 挟撃する〝ジン〟が──その瞬間、〝ディフェンド〟の両方向から大型ビームライフルを撃ち放った。ビームに挟まれた機体は、両脇から押し潰すかのように着弾した光線を受け止めたが、

 

 その瞬間──〝ディフェンド〟のいた地点が、大爆発を起こした。

 

 マリューが唖然と目を見開き、ミリアリアが悲鳴にも似た声をあげる。

 挟まれていた──戦艦さえ貫く〝ジン〟の強襲型ビーム兵器を同時に浴びたのだ。単一方向からの防御にはいくら堅牢な〝ディフェンド〟だろうと──

 

「ステ、ラ…………………!?」

 

 まるで帰るべき母艦を失ったかのようにMA形態のまま、〝イージス〟は茫然自失として、宙域を流れるような物体と化していた。

 

「やったぜ!」

 

 着弾した手応えは得た! ──ハイネの確かな勘がそう告げており、その予想は確かに当たっていた。

 ビーム兵器は、たしかに着弾していた。

 ただし(・・・)──。

 それは〝ディフェンド〟の装甲に、ではなく……

 

 

 その機体を覆う、球状に展開されている────〝光波シールド〟に。

 

 

 〝ディフェンド〟の双腕、双脚、そして背部に取り付けられた二基のウイングバイザー、大型ビームシールドに、無数の「光波発生器」が装着されている。

 そこから発生したエネルギーが球状に覆うように結び付き、全方位光波バリアを発生させているのだ。

 

「なに!?」

 

 ──全方位に対応した、エネルギーシールド……!?

 それが実現不可能な技術ではないことは、ミゲルも知っていたが、それをよもや、単一のMSに搭載させるとは!

 ミゲルは焦って発砲していた。しかし大型のビームランチャーは、光波シールドに弾き飛ばされ、〝ディフェンド〟は真っ直ぐに、ミゲルの〝ジン〟へと急速に突進していく。

 

「おおおおおおおっ!?」

 

 予定外の反応が、ミゲルの冷静さを完全に欠いていた。

 何度、ビームを連射しても、無駄だ。

 冷静に考えればその思いに至るはずなのに、ビームを〝ディフェンド〟に撃ち放つだけで────ミゲルはろくに、回避行動も取らなかったのだ。

 

「はあああっ!」

 

 光波シールドを加えた〝ディフェンド〟の突進が────ミゲルの乗る〝ジン〟を物理的に弾き飛ばした。

 その衝撃で〝ジン〟の機体はバラバラに砕かれ、爆散した。

 唖然としていたハイネが、ハッと我に帰る。

 

「生意気なァ!」

 

 ──よくも、オレの仲間を!

 どこまでも因縁の機体となるのか──〝ディフェンド〟!

 ハイネがビームランチャーを装填し、大火力で撃ち放つ。光波シールドと接触すると、シールドはかき消され、〝ディフェンド〟の実体が露になった。

 ──やはり、電力の限界は早い!

 全方位バリアなんてのは──寿命が短いと相場が決まっているものだ。

 いくら鉄壁の守りを誇っていても、砲撃を打ち消す度に〝ディフェンド〟のエネルギーは確実に削られている。あるいは、既にエネルギーは底を尽き始めているのではないだろうか?

 ハイネは好機を見た。すかさずビームランチャーを乱射し、エネルギーの限界が近いと思われる〝ディフェンド〟に、無造作に放たれたこれを、あえて防御させた。

 

「フェイズシフトが落ちたら、重斬刀で切り刻んでやる!」

 

 乱射された多くのビームランチャーを、〝ディフェンド〟が防いだ。

 その瞬間、通常は〝ディフェンド〟のシールドに打ち消されるはずのビームが、着弾と同時に爆発を起こした。おそらく〝ディフェンド〟の大盾が、エネルギー不足が影響して、ビームを無効化できなくなったのかもしれない。

 

 ──しめた!

 

 抜き打ちに重斬刀を構え、煙の上がった空間へと踊りかかるハイネ。

 

〈──ハイネ、やめろ!〉

「はあ!?」

 

 突然、アスランが通信に割り込んで来た。

 見れば、呆然と自分の立ち位置を見失ったかのように佇む〝イージス〟が、微妙な距離でこちらを見ている。

 咄嗟の事に、ハイネは獲物を横取りされるのではないかと思え、野心に溢れる、露骨に嫌な顔を作った。

 

「何言ってんだアスラン! この機体は、オレが必ず討ち取るんだよ!」

〈ハイネ! その機体(それ)には────!!〉

 

 その機体には。

 その機体の、パイロットは────!

 

 だが次の瞬間、アスランは見た。

 〝ディフェンド〟のいた空間に発生した大爆発──その煙幕の中から、ビームを浴びたであろう〝ディフェンド〟が────見たこともない速度で飛び出して来る光景を。

 

「!?」

 

 〝イージス〟に目を遣っていたハイネも、すぐにそれに気づいた。

 〝ディフェンド〟が──その両肩に装備した自身最大の特徴である大型ビーム装甲を離脱(パージ)し、鎧と盾を乱暴に投げ捨てた。

 刹那、スラスターを全噴射し、一気に〝ジン〟へと踊りかかる!

 

「のわ!?」

〈ハイネッ!〉

 

 ──〝ディフェンド〟のフェイズシフトは、まだ落ちてなどいなかった!

 これでは重斬刀は通用しない!

 だが──それはいい。

 

 ──なんだ、この機動性(スピード)は!? 

 

 盾を捨てた途端──〝ディフェンド〟は、見違えるようなスピードを発揮した。

 ハイネの〝ジン〟は慌てて重斬刀から武装を持ち替えようとしたが、行動した時には既に、最高速に達した〝ディフェンド〟の接近を許していた。

 〝ディフェンド〟の光波発生器から放たれるエネルギーが、一点に収束され、〝ディフェンド〟の体躯に、無数のビームクロウが発生する。

 

「これで終わりね、黄色いの!!」

 

 ステラが叫び──

 〝ディフェンド〟は────全身が光波刃(ビームナイフ)のような高機動力の機体となって────高速のすれ違いざま、ハイネの〝ジン〟を、バラバラに切り刻んだ。

 

「うおおおおおおーーーっ!?」

〈ハイネ────ッ!?〉

 

 アスランの声が聞こえ、ハイネはその時、自分の体が爆発、激しい熱に飲み込まれていくのがわかった。

 オレンジ色の〝ジン〟が────爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

「あ…………っ」

 

 〝アークエンジェル〟のクルー達は、まるで信じられない幽霊でも見るかのように、オレンジ色の〝ジン〟が続けざまに撃墜された光景を目にしていた。

 

 ──あの少女(ステラ)が、二機もの〝ジン〟を、一瞬で?

 

 毎度、あの少女には驚かされることばかりだ。

 慣れたように唖然としている一同であったが、だからといって戦況が好転したわけではなく、ミリアリアから叫び声が上がった。

 

「ストライク、パワー限界です! フェイズシフトが落ちました!」

 

 その報告に、つい忘れそうになっていたが、あの少年と少女が、元はただの民間人であることを思い出す。

 そうだ。

 誰もが初陣から、あの少女のように、上手くいくはずがない。

 ましてキラが乗る〝ストライク〟は、それと同等の性能を誇る〝デュエル〟達と交戦しているのだから。

 

「フラガ大尉より入電! 『作戦成功、ただちに帰投する!』──」

 

 それを聴いて、一同が一瞬、安堵の表情を浮かべた。

 それも束の間、すぐに緊迫した面持ちを作ったマリューが、即座に指示を飛ばす。

 

「〝ストライク〟へランチャーストライカーを射出! ──エネルギーを補給させるのよ! それと〝ディフェンド〟を戻して、キラ君の援護をさせて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〝ディフェンド〟のコックピット内にレーザー通信でメッセージが届き、そこには『直ちに〝アークエンジェル〟に駆け付け、〝ストライク〟を援護せよ』との文面が記載されていた。

 ──キラがまだ、戦っている。

 〝ディフェンド〟の残量エネルギーは、まだ、かろうじて残っている。

 全方位光波シールドの展開は──もちろんのこと、エネルギーを大量に消費する。そのため連続使用は不可能な他、継続使用にも五分間も使えるか、そうでないか程度の仕様となっている。

 誰もいなくなった真空の暗闇で、ステラは機体を翻し、すぐさま〝アークエンジェル〟へと帰還しようとした。

 しかし、

 その瞬間、コックピット内に警報音が響いた。

 

 ──照準(ロック)された…………?

 

 いったい、誰に?

 ステラは周囲を見回し、その音を突き付ける彼女の〝敵〟を見つけた。

 

「!」

 

 ビームライフルを、こちらへと突き付けている。

 刺々しく、その鮮烈な色合いも含め攻撃的な印象を受けるフレーム。

 真鍮色の〝ディフェンド〟を────脅すような姿勢を取った紅蓮色の〝ガンダム〟──

 ステラはそいつに、見覚えがあった。

 

「アスラン────!」

「……………ッ」

 

 〝イージス〟が────〝ディフェンド〟と対峙した。

 

 

 

 




 と、いうわけで作者の描いた機体の概要解説です↓
 はっきり言って作者はガンダムに詳しくないし詳しいという自信すらないので多少の無茶は勘弁して頂きたいというか……いいわけですが。

 ディフェンドの主力となる兵装は──『光波発生器』
 ビームライフル程度の武装は持たせるつもりですが、主にこちらが主力となります。
 これは──鉄壁を誇るディフェンド最大の特徴である「両肩の大型ビームシールド」に重点的に数多く搭載された装置であり、また、盾以外の箇所にも両腕、両足、背部ランドセルなど体躯の至る所に備えられている構造です。

 使い方は二種類。
 ひとつめは、全基を使用してシールドを展開すること。
 ふたつめは、各基でビームクロウを発生させること。

 大盾を装備した状態では、機動力と反撃能力が著しく低下する代わりに、十数基ある光波発生器からエネルギーを展開して、全方位に対応したエネルギーシールドを展開可能としています。(核動力でも使わない限り長期継続使用は困難)

 反対に、

 大盾を離脱した状態では、一気に軽装となり、機動力を他のXナンバーと同等か、それ以上のレベルまで引き上げることができます。それでも、シールドを展開するために必要な光波発生器数が盾の喪失によって不足している状態のため、光波発生器は、エネルギーを一点に収束させ、ビームクロウとして活用する他ない仕様になります。
(イージス以上に全身が刃物のようになる)

 イメージとして、
 守る時は「黒い山」
 攻める時は「黄色い雷」
「守る時は徹底的に守るけれど、攻める時は徹底的に攻める」
 ステラ・ルーシェの機体は、比較的素早くて、攻撃的なイメージがあるので、それをディフェンドで実現するためには、装備のパージしかないのかなぁと。

 参考にしたのは、この後の時代でユーラシア連邦が開発する〝ハイペリオン〟
 光波技術というのは、無印時代のアルテミスの「傘」他、運命時代ではMAの陽電子リフレクターや、ストフリやデスティニーのシールドにも応用される大本となった技術ですから、〝ディフェンド〟は、その技術を得たモルゲンレーテが作った光波技術応用の黎明機、っていう設定……です。


 ……無茶かな、どうかな。
 今回ばかりは厳しめの感想が頂けると嬉しいですが!


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