~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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 新章スタートを前に、御報告。
 改めてプロットを構想する中で、今後のストーリー展開をこれまで考えていたものと全く違う方向に舵切ることにしました。抽象的ですが、当初の予定で三部ぐらいになってしまうと予期してたプロットを割愛・凝縮し、一部にまとめて昇華させてしまおうと思っています。
 これを受けて、ステラ達と全く関わりのない所で展開されるであろう国家間の政治や国内の政争の問題を、特に大きく端折り、最悪地の文でまとめるぐらいの急ピッチで話で進めることにします。
 そうでもしなければ、場外乱闘で本筋が一向に進まないのと、やはり政治や情勢の問題はこの作品において作者が書きたい話ではないからです。広げた風呂敷は可能な限り畳むつもりでやっていきますが、あしからず。


『少女を取り巻く世界』

 〝ユニウスセブン〟落下による、地球の被害はひどいものだった。

 いや、当初想定されていたより、その被害は大きく軽減された──理由は勿論、ザフトが行った決死の破砕作業のおかげ──と云って良いのだろうが、実際に被災した者にとっては関係のないことであるし、結果的に自分達は救われなかったという事実と認識こそが全てだった。たとえ八つ当たりめいていたとしても、彼らが宇宙に隔意を向けるには充分で、ロゴスはそこに付け入った。

 ──なんだかんだ云って、あの仮面の男は云われた仕事は的確にこなしてくれる。

 ジブリールの命じた通りに、ネオ・ロアノークは〝ユニウスセブン〟の現場証拠を記録した。彼の手許に今も送り付けられてくるデータの中には〝ユニウスセブン〟に群がる〝ジン〟や〝ザク〟──つまりはザフト所有の機体が映り、これらの公開と同時に多少の情報操作を行えば、民衆が今回の顛末をどのような──誰が悪いのかと──決めつけるのかは易々と想像がつく。

 

「さあ、始めましょう」

 

 男は動き出す。またも開戦の火蓋を切るために。

 

「蒼き清浄なる世界のために、ね」

 

 これまで世界を牛耳ってきた老人達が一堂に会するその場所で、ジブリールは声高に宣言してみせた。

 

 

 

 

 大気圏を突入した〝ミネルバ〟だが、降下した先はイベリア半島近傍のバスアレス海だ。

 地球への突入コースを計算し、イベリア付近にあるザフトのジブラルタル基地を目指して降下したからこその結果であり、ここからであれば、そう時間もかからずにジブタルタルに入港することができるだろう。

 

「はぁ。なんかもう、やれやれって感じね」

 

 艦橋から見える鉛色の空は、このときのタリアの心模様を的確に表しているように思えた。

 ユニウスセブンの破片が落下した影響は、ここから見ても様々だった。

 まず、太陽光線が断たれたことによる気象変動。ずっと〝プラント〟で生きてきたタリア達のようなコーディネイターにとって、信じられないほどの寒冷化だ。原生への影響もさることながら、やはり危惧すべきは地上で暮らす人間への影響だろう。

 ──いったい、どれだけの街が被災し、どれだけの人々がその余波を受けたのか。

 だが、やはり考えても仕方がないので、タリアはかぶりを振った。

 

「ジブラルタルへのコンタクト、取れて?」

「ダメです。粉塵濃度が濃すぎて、今はレーザー通信も何も……」

「まったく……。こんな電波状況じゃ、本国から先方に話を通してもらう、ってわけにもいかなさそうね」

 

 思わずため息をつく。

 

「無体を承知で行ってみるしかない、か。どのみち〝ミネルバ〟も限界が来てるし、一時的にでも、身を寄せる拠点が必要だわ」

 

 今後の身の振り方を考える。

 つまりタリアは、前もってのアポイントなしで、ジブラルタルへ向かうというのだ。

 

「そのジブラルタル基地が、残っていればの話だけどね」

 

 「艦長!」とアーサーが震えながら指摘したが、可能性は視野に入れておくべきだった。やはり落下した破片が直撃していれば、件の基地は地図の上から消えている。

 

「──それでですね、ええっと」

「何?」

 

 アーサーが口籠っているので、それを好かないタリアは先を促した。

 彼の目から見ても、今のタリアがやや苛立っているのが目に見えているのだろう。こちらを伺うような恐々とした雰囲気だが、事実タリアは苛立っていて、この状況で苛立つなという方が無理だった。

 

「〝アリアドネ〟の『捜索』の件は、どうしましょう……?」

 

 突入コースを勝手に外れ、結果として消息不明になった〝アリアドネ〟の件だ。失念していたわけではないが、たしかに、考えないようにしていたのは事実だった。

 ──嗚呼、タリアにも分かっている。

 ──大気圏突入に際して、アレには〝ミネルバ〟へと戻ってくる機会が確実に(・・・)一度はあった。

 あるいは完全には戻れずとも、近寄ることは易かった筈で、その気配も少なからずあったように思える。

 しかし、パイロットの少女はそうしなかった。そしてそれを目撃してしまったことこそが、彼女がこのとき怒り心頭になっている小さくない理由の一つだった。

 

「とりあえず、帰ってくるよう信号だけでも出しておきましょうか……?」

「アーサー……。どこに落ちてったかも分からない家出娘に、それが届くと思ってるの?」

「え、ええ? まあ、それは……っ」

「私は試す気にもならないけど。でも貴方が試したいというなら、止める権限は私にはないわ」

「は、はい! ──い、いえ! 大丈夫です!」

「──これは私の勘だけど。あまり過保護にしなくとも、生きているなら自力でなんとかするでしょう」

 

 彼女が身に着ける色は、ザフトにおいてそれほどに軽くない。

 

「まあ、万一再会できた暁には、あの娘みっちりと問い質してやるけどね」

 

 それ以降、アーサーは〝アリアドネ〟とパイロットの話題を自分から話に上げることを禁忌とした。

 タリアの煮えるような怒り具合から、触らぬ神に祟りなし、と思ったらしい。

 

「たしかに〝アリアドネ〟は我が軍の重要機密で、捨て置くには惜しい存在だけれど──これはもう感覚の麻痺としか云いようがないわね──今さらセカンドステージシリーズを一機失ったのが何だって思えてしまうもの」

 

 結局のところ、一連の騒動で〝ミネルバ〟に残ったのは〝インパルス〟一機ではないか。まったくもって冗談ではない。

 そのとき、ブリッジに火器管制のチェンが戻ってくる。

 休憩がてら、タリアが艦内の視察を頼んでいた者だ。

 

「クルー達の様子、どうだった?」

「は。慣れない地球に降り立ったこともあって、やや浮足立っている者が多い印象ですね。これから〝ミネルバ〟はどうするのかと、憂慮している者も少なくないようです」

「でしょうね……。パイロット達は?」

「やはり仲間の内に『未帰還者(MIA)』が出ているので、同じような様子でした。──あ、レイはいつも通りでしたが」

 

 それもでしょうね、とタリアは云った。

 

「アトラの方は、どこか荒んだ様子でしたけど──」

「──まあ、色々あるわね。この状況下じゃあ」

 

 ──これから〝ミネルバ〟がどうなるのか……?

 そんなもの、タリアも誰かに教えて欲しいくらいだ。

 

 

 

 

 

 その一方、当のマユ・アスカは、海上の小さな孤島に降り立っていた。

 やはり、鉛色の空が重たく、電波状況が悪いのはこちらも同様である。だが彼女の場合は、選りにもよって無人島らしい場所に降り立ってしまった、という問題に直面していた。

 

「……はぁ」

 

 マユと〝アリアドネ〟は例の選択を行った後、ステラの乗る〝レムレース〟を庇いながら、なんとか地球へ降下することに成功していたのだ。

 幸いにも降下地点は海の上、叩きつけられることもなく、彼女達は一命を取り留めた。

 その後、直近に確認された陸地を見つけ、彼女は〝レムレース〟を引っ張り上げて上陸したのだが、その上陸先が、打ち棄てられた無人島だったというオチである。

 

「電波状況は……やっぱりダメだ。ニュートロンジャマーか、やっぱり〝ユニウスセブン〟の影響かな」

 

 このとき、マユはコクピッドで通信機をいじっているが、どこからも応答はない。

 片膝を折った姿勢で停められている〝アリアドネ〟から、やや離れた地点──白い鳴き砂で作られた浜辺の方に、上陸時の姿のままの〝レムレース〟が転がっている。徒歩で向かうには絶妙に遠い距離だが、これはマユが意図的に空けたものであり……まあ、仮にも陣営の異なるモビルスーツ同士を仲良く横並びにさせる気にならないのは、パイロットとして自然な感覚かも知れなかった。

 しかし、パイロットに対しての措置は、少し話が別だった。

 上陸後、マユは糸の切れている〝レムレース〟の機体を駆け上がると、コクピッドを開放してステラの救助を試みた。彼女はやはり気を失っていたが、マユはそうして、久々に再会するみずからの姉貴分の存在に大いに見惚れ、感動したものだ。

 三年の歳月は少女を大人びさせるには充分で、金の髪は伸ばされていたが、それは間違いなく、マユがよく知るステラその人だったから。

 病人のようにぐったりとしたステラを拾い出したマユは、現在〝アリアドネ〟のすぐ近くで眠らせている。いまだに目を醒ます気配はないようだ。

 

 ──さて。

 

 現在位置は、無人島と云っても、おおかたユーラシアの領内ではあるのだろう──

 問題は正確な位置であるが、電波通信を試みても、返ってくるのはノイズばかりだ。それを割り出すまでに、彼女は大いに時間を使う破目になった。

 

「カスピ海?」

 

 ユーラシア南部に位置する、世界最大の湖──そう、湖だ。カスピ海は海として定義されてはいるが、四方を陸地で囲われている点などから、湖に当たるとの議論がいまだに紛糾している場所でもある。

 

「一番近い支援基地はマハムールか。……〝ミネルバ〟はどこに降下したんだろ?」

 

 マユにとって、当面の問題だ。

 ──(はぐ)れたあの艦が、今はどこに降りたのかも見当がつかない。

 まあ戻ったところで、件の判断を問い質されるのは目に見えており、この先を考えるだけで非常に疲れるロクでもない状況だ。勿論こちらにも事情があったのだが、軍法はそれを斟酌してくれないだろう。

 

「もう、どうなってもいいや」

 

 なるようになれの精神で、マユはラダーを使って機体から降りた。

 そのまま砂浜を歩き、荷を下ろした地点へ向かう。

 

「──あ、お姉ちゃん」

 

 そのとき丁度、眠りから目を醒まし、身を起こすステラの姿が見えた。

 

 

 

 

 

 まどろみの中から目を醒ます。

 ──長く、妙な夢を見ていたような気がする……。

 体にかけてあるらしい柔らかな毛布は、しかし〝レムレース〟のバックシートに保管していたものの手触りとは違う。夢の中で感じていた灼熱とは程遠い、ひどく寒冷化した気温が顔を撫でている。音がするほどきめ細かい鳴き砂の感触に、吹き抜ける風が木々をざぁざぁと荒らす音──その全てを知覚しながら、ステラはゆっくりと身を起こした。

 

「…………?」

 

 視線の先に、黒髪の少女が立っている。例の少女だった。

 ザフトの、赤いパイロットスーツ。

 結った髪、戦争とは無縁の世界に暮らしていそうな──普通の少女だ。

 

「オマエは……っ」

 

 その第一声で、マユはステラの記憶が〝戻っていない〟ことを理解した。

 わずかな失望、だが、諦念はない。ステラはそうして周囲の状況を見回すのと同時、何かを探るような動きを見せた。先んじてマユが云う。

 

「武器は預かってます。私は貴方を知っているけど、貴方は私を知らない(・・・・・・・・・)様だったから、どう対応するのが正解か分からなくって」

 

 目の前の人間が、非合法な実験により記憶を違えられていると判っているなら、当然の用心だ。応対に当たって敬語を使い出したのも、すべては適切な距離を探るためだった。

 

「──そんな理由で、私を助けたのか」

 

 状況証拠から、ステラの方は即座に真相に辿り着く。いま彼女の膝にかけてある毛布は、〝アリアドネ〟のバックシートにあったものだ。ステラには見慣れないものだった。

 

「なぜ拘束しない? 私が目を醒ました瞬間、オマエを殺すとは考えなかったのか?」

 

 勿論、ステラも真剣に云っているのではない。かくも丁寧に質問している時点で、実行に移す気はないのだと相手に宣言しているようなもので、相手がこちらを試すように、ステラも相手を試したのだ。

 真剣にやるのであれば、ステラは問答無用で飛びかかっている。そして体格で有利なのもステラの方だ。彼女も大概華奢で軽量な女性だが、この場合は単純に、マユの身体が小柄すぎる。

 武器を取り上げられていることも、然して問題とはならない。銃や刃、モビルスーツは所詮手段でしかない。少なくとも、ステラにとっては。

 

「なんていうか、上手くいえないけど──ああ、そうだ」

 

 問われたマユの方は、返す言葉を探した。

 緊張感もなく空を見上げ、強いて言えば──と、今度はステラのすみれ色の眸を見て云った。

 

「私の命は、貴方に貰ったものだから」

 

 その言葉への応答がなかったのは、相手が言葉を詰まらせたからに違いなかった。

 

「だから貴方が私を殺そうとするなら、私には抵抗なんて出来ない──かな?」

 

 まとまってすらいない返答だったが、このときのステラを唖然とさせるには充分で、ステラのそんな顔を見られた時点で、マユは勝利者のように得意になれた。適切な答えだったかは兎も角、口火を切るには十分な威力を持っていたということだ。

 

(命に期限があるのなら、あの日に私は終わっていた)

 

 モビルスーツの砲火を受けて、吹っ飛ばされて死んでいた。

 そこから救ってくれたのは、守ってくれたのはステラだ。そんな彼女が生かした命なら、それを殺すも彼女の勝手だ。何も思わないわけではないが、少なからず理由を求められた、それがマユの答えだった。

 

「……馬鹿みたい」

 

 短い苦言が、ステラの口からこぼれ落ちた。

 呆れがあったが、そこに敵意は感じなかった。

 

「心当たりのないことを、さも事実みたいに話されるのは落ち付かない」

「それは心当たりがないだけで、本当に事実だったんだからしょうがないんだよ」

「…………はぁ」

 

 ステラは疲れ果てたようなため息を漏らした。だが、態度とは裏腹にその全身からは緊張が抜け落ちている。一貫して作られていた警戒心は剥がれ落ち、その反動か、今は自然体に近いものになったようにさえ感じられる。

 ステラはゆっくりと立ち上がった。念押しのように、マユに断りを入れる。

 

「さっき自分で云ってた通り、私は貴方なんて知らない」

「それは、思い出せないだけだよ」

「……名前は?」

「マユ──マユ・アスカだよ、ステラお姉ちゃん(・・・・・)

「…………」

 

 前途多難としか云いようがなかった。

 しかし一連の応酬は、少女達に話し合う姿勢を作らせることには結び付いたようだった。

 

 

 

 

 

 〝ガーティ・ルー〟の指揮官室のデスクにて、ネオは雇い主から依頼されていた映像・写真データをあらかた送り付けた後だった。ひと仕事終えてから、今度はいささか個人的な要件でデータをゆっくり見直していると、そこにはやはり、彼の目に留まる映像があった。

 

「ほう」

 

 それは〝ズゴック〟という、奇矯なモビルスーツの戦闘データだ。しかし、ネオがとりわけ気になったのは、ソレがステラとの迫撃戦をこなしている時ではない。それより、もっと後のことである。

 ──降下中の〝ミネルバ〟が主砲を撃った直後。

 その射線上に居合わせしまった〝ズゴック〟は、半ば誤爆される形で砲火の余波と衝撃に巻き込まれたわけだが、直後には何事もなかったように宙域を離脱していった。まるで逃げるように。そんなことが普通のモビルスーツに可能なのか? ──通常のモビルスーツであれば、装甲ごと岩塊に押し潰されているのが関の山だ──そのときの映像が、手許のメディアには記録されていたのだ。ネオはそれをまじまじと眺め、確信する。

 

「──やはり、アスラン・ザラか」

 

 かつてのクルーゼ隊、みずからの指揮下にあった少年の名を口にする。その戦闘や機動は当時よりも鋭気を増し──

 ──現状、あの男(・・・)にもっとも匹敵し得る可能性を秘めているか?

 少なくとも、ネオの狭い交友関係で見れば間違いなく、死んだパトリック・ザラは一体アレにどんな将来を期待していたというのか。いや知らないが、アレの異常さは最早一種の天然記念物だろう。

 

「私のひとつ目的のため、彼にも働いてもらうのも吝かではない、か」

 

 ネオはラウとして、またも策謀の糸を巡らせる。

 アスランが戦後の世界で暗躍しているのは掴んでいた。ロドニアの一件などは顕著であり、先の大戦では『正義』というものを履き違えていた彼であるが、此度は明確に〝善〟──決して『正義』ではない──の側に就こうとしているのが目に見えて伝わってくる。

 深謀遠慮の思考に浸っていたネオだったが、次の瞬間には現実に引き戻されていた。ノックもなく、いきなり指揮官室のドアが開き、一人の少年が殴り込んできたからだ。喧嘩腰でネオに喰ってかかってきたのは、隊員のアウル・ニーダである。

 

「どういうことだよネオ! ステラを回収しねえって!」

「おい、アウル!」

 

 一拍遅れて、スティングも彼を諫めるように入ってきた。

 ──やれやれ。

 ネオはこれ以前に、彼らの兄貴分たるスティングに今の旨を順を追って丁寧に説明したつもりでいた。あの三人組の中では、スティングこそが彼らのまとめ役たり得ると考えたからだ。だから他の二人にも、彼の口から連絡するよう頼んでいたわけであるが。この調子では、彼の伝え方が悪──いや今回は単純に、アウルの性格を読み違った自分が悪いだけか。ステラを放置され、彼女を気にかけているこの少年が黙っている筈もない。

 

「回収しないとは云っていない。ただ、こちらから迎えにいくことはないと云ったのだよ、アウル」

 

 スティングに後ろから羽交い絞めにされているアウルに向け、ネオは事務的に続ける。

 

「既に彼女の機体は地上に落ち、連絡も付かん状態だ。宇宙(こちら)からでは手が出せん」

「だけどっ!」

「まったく褒められたものではないが、彼女は機体を勝手に出撃させ、あまつさえ帰還命令にも背いた訳だからな。その身の上では、母艦の方に見捨てられるのも自業自得だ」

 

 少なくとも、そういう見方はできる。

 

「しかしまあ──」

 

 ネオは、そこで言葉を終わらせなかった。

 

「地上には、別件で特命を受けて動いているホアキン隊なども展開している。我々がここから動くより、ステラには彼らの方に合流してもらった方が手っ取り早いのかも知れんな?」

 

 それはネオなりの慰めのようにも聞こえたが、どこか上滑りな口調で発されたからか、アウルは半信半疑と云った顔を隠さない。

 

「じゃあ副長不在で、オレ達はこれからどうすんだよ」

 

 アウルにスティング達は、艦橋窓から地球が壊される光景を見ていた。悪しきコーディネイター達が落とした隕石が、地球を滅茶苦茶にし──悔しさと怒りに、彼らはついさっき『敵』への憎悪を新たにしたところだ。

 ──『敵』を、もっと倒さなければ……!

 ネオは、飄然として云った。

 

「我々も地球へ降りる。ステラの回収は、機会があればの話になるとは思うが」

「……!」

「我らが崇高な雇い主から、また別の依頼が来ているのでね──」

 

 薄く笑いながら云ったネオは、しかし、スティングから見て何ひとつ面白そうではなかったという。

 

 

 

 

 

 海辺の方から歩いてきたステラに、マユは駆け寄って訊ねた。

 

「どうだった? 基地とか、母艦への通信?」

「……ダメ。どこにも繋がらなかった」

「だよね……」

 

 マユはがっくりと項垂れる。ステラに擱座した〝レムレース〟に戻って、どこかと通信が取れないか、試してもらっていたのだ。ステラ自身も苦い顔を浮かべている。

 

「それに、〝レムレース〟も調子が悪いみたい──」

 

 いま、ステラが機体に戻って新たに判明したのだが、どうにも〝レムレース〟の反応が悪い。通信機器や計器類に異常は無さそうだが、肝心の駆動系が云うことを聞かず、機体は横になったまま立ち上がることすらできなくなっていた。

 

「──えっ? 私のせいじゃないよ?」

 

 じっとりと一瞬だけ睨まれたので、マユは慌てて釈明した。

 まあ、ステラにも分かっている。このマユという少女が、ステラが眠っている間に〝レムレース〟にトドメ(・・・)の一撃をお見舞いした可能性を考えたのだが、そこまで器用──というか、狡猾な人間にも見えないからだ。

 ──姿勢制御も不完全なまま、大気圏を無理に突破したツケか。

 もともと〝レムレース〟は、一機のモビルスーツにしては過剰なコストとスペックを注ぎ込まれている。その分、どうしたって信頼性や整備性に難が出易い機体なのだ。専用の工廠でなければ修繕できるものでもないし、こうなってしまえば、対照的に何の不具合も出ていないという〝アリアドネ〟の方が羨ましく思えてしまうステラであった。

 

「改めて考えたんだけど、今は世界のどこも大変な状況でしょ? 仮にお互いの基地や母艦と連絡が取れたところで、こっちまで手が回るかな?」

 

 マユの危惧はそれだった。仮に被災した地域であれば、今頃は近隣災害の一次対応、二次対応に追われている頃だ。畢竟、カスピ海の孤島から発信されている救難信号などは後回しにされる公算が高い。

 

「国際救難信号を出せば、気付いた国のどこか──少なくとも、被災していない近隣のどこかが力になってくれるかも知れないけど」

「──それは」

 

 提案を受け、ステラは明確に云い淀む。

 正式にザフトに籍を置いているマユは兎も角、あくまで大西洋連邦の非正規部隊隊員であるステラには、他の国の厄介になるという選択肢は余りに望ましくない。ここがユーラシア領内である以上、それは母体の暗部や機密を異邦に明け渡すのとほぼ同義だからだ。

 ステラにとって最も望ましい展望は、彼女と同じファントムペイン──たとえば地上で別働しているホアキン隊──と合流すること。次善で大西洋連邦のいずれかの基地に合流することであるが、まあ無理であり、実現性も皆無だ。そして〝レムレース〟があの調子では、自力で飛んで大西洋領内に戻ることすらままならない。

 ──そもそも、ひとりで地球に堕ちてしまった時点で詰んでいる。

 不本意ながら、ステラはそう結論づけてしまった。

 

「ひとりじゃないよ」

 

 マユは反論する。独り言として言葉に出ていたらしい。

 

「こういう時こそ助け合い! ──ねっ?」

「……っ。わかったよ……」

 

 ステラは怯む。やる方ないと云った表情だ。

 

「じゃあ、駄目元でも信号を出してくるから! お姉ちゃんはここで待ってて!」

 

 云うが早いか、マユは踵を返して、ふたたび〝アリアドネ〟のコクピッドに向かっていく。

 残されたステラはその背を見ながら、奇妙な感覚に囚われたという。

 ──まったくもって奇妙な少女。

 初めて会話する気がしないというか──悪しざまに云えば、馴れ馴れしいとでもいうのか。

 気が付けば、ついついペースに乗せられている自分がいた。

 

 

 

 

 雨が降ってきた。曇天の空から降る雨だが、異変に気付いたのはすぐである。肌に触れさせてはいけない類の、悪質な雨──

 ──酸性雨。

 これもまた、墜落した〝ユニウスセブン〟が発生させる異常気象の一つだろう。

 二人はそれによって、浜辺から小さな洞窟の方に避難した。だが寒冷化の影響もあり、日が傾き始めた今のそこは、少女達の細い体に対しては凍えるほどに寒かった。

 それぞれの毛布に体を包み、流木をかき集めて焚き火を作った。後は──まあ、できることはない。通信が回復するまで島で何日も待たされるようであれば、飲み水を確保するための蒸留装置くらいは手製する必要があるだろうが、この天候では無理をする意味もない。とりあえずは、ただ無線が回復するのを祈って待つだけになった。パチパチと踊る焚き火を囲み、少女たちは座り込む。

 

(前にも、こんなことがあったような……?)

 

 揺らめく炎を眺めながら、ぼうっとして、ステラはそんなことを思った。一度だけ、いや、本当に一度だったか……?

 よほど心が落ち着くのか、らしくもなく、茫っとしてしまう。まるで違う自分が顔を出したみたいに、このときのステラは幼子のように茫然と火の灯りに魅入っていて、声をかけようが何しようが、外から見て驚くほどに無反応だった。くすくすと笑うような声が、焚き火の向こうから漸く聞こえてきて、やっとステラははっと頭を起こしたくらいだ。

 

「──何?」

 

 慌てて、取り繕ったように問いかける。からかうように笑っていたのはマユだった。

 

「ふふふ。だって、自分で気づいてないみたいだったから」

 

 よほどおかしいのか、お腹を抱えて笑っているマユはさっきからステラの名を呼んでいたらしいが、やはりステラは焚き火に夢中で気付かなかった。いや違う、そこでステラが浮かべていた子どものような表情にこそ、マユは言及したい部分があったのだ。

 ──我に返った今はもう、その面影はどこかへ消えてしてしまったが……。

 しかし、やはりステラにとっては落ち着かない物言いをするものだ。まるで今の自分が正しくないのだと、作り物であるのだと疑わないような言い草。決まりが悪そうに目を逸らしたステラを見て、マユはやっぱり笑っていた。

 

「嬉しいな。記憶は失ってるかも知れないけど、こうしてお姉ちゃんとまた一緒にいられるんだから」

「……勝手にすれば」

「わかってる。今まで通り、勝手にするよ」

 

 傍若無人に云ってのけ、マユはおもむろに立ち上がった。彼女達はそれまで炎を挟んで向かい合っていたというのに、少女は焚き火を避けて回り込むと、今度はステラの隣で無遠慮に腰を下ろしたのだ。

 ──嗚呼、本当に勝手な少女だ。

 よほど暖が取りたいのか? まあ、それはステラにも分かるような気もしたが。

 

(勝手、か)

 

 マユも踊る火を眺めながら、不意にその意味を考える。

 ──ザフトでの生活は、まだ正式な着任前だったっていうのに、命令違反を数えればきりがない。

 前途多難。その身の上では勝手と云われるのも心外ではあるが、どこか妥当かも知れないと自分でさえ思ってしまう。

 …………そう云えば、アカデミー訓練生時代に教官にハッキリ〝向いていない〟と野次られたこともあったか。いま思えば、アレは軍隊式の扱きというものだったのだろう。軍隊ではしばしば訓練兵を試すとき、まずはその存在を全否定することから始める場合があるという。つまり、あの恫喝は私を立派な軍人にまで鍛える為の儀式、謂わば教官の愛の鞭であって──決して本心からの苦言などでは…………なかったはずだ。いや、そんなことはやっぱりどうでもいい。

 

「あの蟹みたいなモビルスーツに乗ってたの、ステラお姉ちゃんのお兄ちゃんじゃないかな」

 

 話題転換として持ち出すにはあまりに重量級だったが、マユにとって都合が良かったのは事実だった。

 

「……私に兄がいるの?」

 

 もはや驚きもせず、マユの中に確固として存在するらしい御伽話でも聞いてやろうというノリ。ステラの中では明らかに退屈凌ぎ、真剣に聞いている感じはなかったが、それでマユも気を悪くしたりはしない。なんせ此方の切り出し方も酷かったのだ、そのくらいの対応の軽さが、今はちょうど良いのかも知れなかった。

 

 そうして、マユは語り出すことにした。彼女の中の伝説を。

 

 彼女は出来る限りに、多くを語った。名を、家族構成を、エピソードを。オーブでマユの命を救い、先の戦争を止めるために狂奔していた、一人の少女の英雄譚を。

 ──たとえ家族と対立してでも、平和な世界を夢見た少女の話を。

 それらの話を一頻り聞かされた後に、ステラもまた自叙伝を語り返した。マユの夢見る尊き少女などこの世界には実在してなくて、これまで自分が渡り歩いてきた〝孤児としての血塗られた人生〟──マユからすれば正真正銘の『御伽噺』──そこには一方的に話を聞かされたステラなりの意趣返しが含まれていたのは間違いないが、結局のところ、マユにとって内容の真偽などはどうでも良かったのだ。憧れの人と語らい、話を聞いてもらえる──この時間こそが、彼女にとっては何よりも貴重だったのだから。

 

「私にも、お兄ちゃんがいるんだよ」

「貴方みたいな、不良生徒?」

「あ、ひどい」

 

 たしかに自分が、命令違反の常習者であることは認めるが。

 

「でもどうだろう。反骨精神というか、学生ながらに喧嘩っ早い所はあったかも」

 

 特に、自分が絡んだときの兄の直情っぷりは如何なものかとマユも思ったほどだ。先の大戦で生き別れた──捜索届は現在も勿論出している(・・・・・・・・・・・・・・)──マユの兄であるが、オーブで共に暮らしていた頃の彼は、仮にも妹をいじめるような輩には真っ先に殴りかかっていく性分だった。

 それでいて、別に喧嘩に強いわけでもないのである。たしかに彼もコーディネイターだが、オーブでは珍しいものではないし、寧ろ、彼らの中では平均か──兎角、特別暴力に長けた悪餓鬼共を一人で蹴散らせるほどに器用ではなかったのは確かだ。自分を大切にしてくれるその思いは勿論嬉しくあったが、あの過保護っぷりには家族ながらに気恥ずかしさすら憶えたのを記憶している。

 

「名前はね、シンっていうんだよ。シン──シン・アスカ」

「──シン(・・)……?」

 

 瞬間、ステラの表情が変わった。

 

『大丈夫だよ。俺がちゃんとここにいて、君をまもるから──』

 

 そのときステラの脳裏に蘇る、一人の少年の声──

 ──何だ……!?

 心当たりのない不思議な情景が、連鎖して脳裏に浮かび上がってくる。

 組まれた焚き火、揺らめく炎、切り立つ崖の下、互いに服を乾かし合って、ほとんど裸で寄り添った記憶──それは今、ステラの目の前にある光景と似ているようで、まるで違う。

 ──知っている。その光景を。

 その彼の体温と情操を、私は、憶えている……?

 

「……お姉ちゃん?」

 

 呼び戻され、呆然とした表情から、また我に返る。

 幻影を振り切るように、ステラはかぶりを振った。

 ──何だったんだ、今のは?

 脳裏に蘇った少年の顔は、はっきりとは思い出せなかった。

 でも、おかしな話だ。一頻り聞いたマユの話の中に、自分と『彼』との接点などなかった。

 なのに、既に出会ったことがあるかのように感じるなど──心を通じ合わせたことがあるように(・・・・・・・・・・・・・・・・)感覚するなど──まったくもって奇妙でしかない。

 それでもどこか、確かめたくなってしまった。

 

「貴方の知ってる『私』と、その人って、会ったことってある……?」

「あー、お姉ちゃんはどこかで〝会ったことがある〟って云ってたような。でも、お兄ちゃんは知らない様子だったし──」

 

 ──結局、よく分からないということか。

 

「……そう……」

 

 漏らしたステラの声には、かすかな痛みに堪えたような響きがあった。

 ステラの中で色を持っていた過去が、急激に色褪せる。その代わりに現れた先の鮮やかな既視感こそが、それまで信じていた己の人生を無色で曖昧なものに貶めてゆく。

 ──もし……もし、だ。

 この少女の『御伽話』が本当で、自分の記憶こそが、虚構で塗り固められた紛い物であるなら。

 ──それなら……。

 ステラは愕然と自問した。今までの『私』は、一体どこへ行ってしまうのだろう──と。

 

 

 

 

 

 夜は、そうして更けていった。

 ──本来なら、見えるはずなのに。

 地球の環境汚染が、異常気象が、不運にもソレを許さない。

 ──厚い雲に覆われた宵闇の空。

 その夜は、星が見えなかった。

 

 

 

 

 

 朝を迎える。昨夜に比べて大人しくなった風が、椰子の木を軽く揺らす音でマユは目を醒ました。

 

「ん…………っ」

 

 枕元──というか、マユは殆ど乗っかるような形で、ステラの柔らかな体の上で眠っていた。すっかり雑魚寝の形であり、何故そんな悲惨な状況で揃って寝ているのかまでは覚えていない。昨晩、ステラの肩にマユが頭を乗せたあと、無防備にも身を預けて眠ったからか? そして当のステラも、マユの身体を預かったまま眠りに落ち、二人揃ってその場に崩れ落ちたということか?

 分からないが、彼女が身を起こしたことで、同時にステラも目を醒ました。身を起こし、頭を振って寝乱れた長い髪を振り分ける。その金の色と毛先の美しさに見惚れたマユに構わず、ステラの方も状況を理解したのだろう……どこか気恥ずかしそうに唇を隠すと、立ち上がって洞窟の入り口の方へ歩いていってしまった。

 

「っ──!」

 

 と、その気配が途端に険しくなったのを感じ、マユも異変を感じ取ったという。

 

「どうし──」

「しっ」

 

 問いかけた先を封じられる。促されるまま洞窟の入り口から外の入江の方角を見てみると、そこには一隻の哨戒艦が停泊していた。その中からゾロゾロと見慣れない制服を着た男達が降りてきて、背には機銃が掲げられている。

 

「え……っ!?」

 

 当惑するマユの傍ら、ステラの目はこのとき既に別の方向に向けられている。岸辺──擱座した〝レムレース〟の周りを、既に複数の男達が取り囲んでいる。通信機でどこかと連絡を取り合っているようだ。

 この調子では、〝アリアドネ〟の方も既に駄目(・・)だろう。

 ──まったく、何をやっていたんだ!

 ステラは思わず自分を呪った。あまつさえ無防備に眠りこけ、その隙に自分の機体を接収されるなんて──!

 

「あれは……!」

「分からない。でも、あれは普通の部隊じゃない(・・・・・・・・・・・・)

 

 直感が、ステラにそう云わせていた。

 ──コーディネイターの集団。でも、ザフトじゃない。

 ザフトの兵士は、各個の能力や判断力の高さ故に銘々の動きに自惚れがある。彼等は良くも悪くも個人主義的で、たとえ軍隊の体を成していたとしても、個人で見れば銘々のエゴのために規律や規範を最終的に軽視する習性がある。

 ──彼等に統一された集団行動は不可能で。

 ──だが観察する限り、目下の部隊にはソレがない。

 全体として完璧に統一された動き。規律や規範に基づく上意下達により、ひたすらオートマチックに機能すること(・・・・・・)を誇りとする無機的な使命感すら感じられる。あれだけ完成され、しかしエゴを抑えきった状態で精巧に連携するのは、やはり生身のザフト兵には不可能だ。

 ──何らかの選別によって、研ぎ澄まされた上級兵団……。

 珍しくステラが心からの警戒を行うほどに、アレは油断してはいけない軍隊だと分かった。

 そのとき──

 

「動くな!」

 

 ──ソレらの魔の手が、既に背後へと延びていた。

 機銃を構えた武装兵が、既に二人を取り巻いていたのだ。銃口は無遠慮に頭に向けられ、やはり話し合いが通じる様子ではない。男のひとりが恫喝的な声音で云った。

 

「武器を持っていないか確認する。両手を頭の後ろにつけ、腹這いになれ!」

 

 指示されたマユは云われるままに行動を取り、そしてそれは賢明だった。この者達は間違いなく一流(プロ)で、生半可な(・・・・)抵抗が通じる相手ではないからだ。

 そして、だからこそ。ステラは従う振りを見せ、次の瞬間には腕を伸ばしてきた男を蹴倒し、包囲から脱するつもりであったのだが──

 

「──あなた達、お客人に失礼でしょう!」

 

 ──凛とした女性のひとつ声が、その場を制した。

 やはり洞窟の入り口から、ひとりの女性が現れて、こちらに駆け寄ってくる。それによって、ステラはこのとき既に構えていた膝──という名の凶器──を男の急所にぶち込まずに済んだ。

 しかし警戒は緩めなかったステラの視線の先で、女性は命じ、武装兵達に銃を下ろさせた。青い髪、麗らかな物腰に見合わないが、この女性が、この者達の指揮官ということなのだろうか。

 マユは唖然として、状況の顛末を見送っている。ステラの下肢に力が入っているように見えたが、アレは絶対に殺る気だったと想像するに難くなく、しかし結果として、事態は思っているほど悪い方に転がったわけではないらしい。少なくとも、この青い髪の女性のおかげで。

 

「あ、あなたは?」

 

 マユの問いかけに、女性はまず先に「失礼いたしました」と、部下達の非礼を詫びた。

 その上で、立場をはっきりと明らかにする。

 

「私共は、ここより発信されていた救難信号を受け取った者です。あなたがたの救助──モビルスーツも含めた、あなたがた二名の回収にやってきました」

 

 その言い回しがステラの勘に触れたが、しかし、それは明らかに礼節を弁えた者の言葉だった。

 ──モビルスーツも含めた?

 しかし女性は、斟酌せずに先を続ける。

 

「先の大災害で、今は地球上のどこでも、助けを求めている人々が多いものですから」

「それで救助に? ああ、ありがとうございます。助かりますっ!」

 

 マユは歓喜して深々と頭を下げる。昨日の彼女が希望を託した通り、ユーラシア領内の小国が、人々の悲鳴に応えて彼女達に救いの手を差し伸べてくれたのだ。

 女性は改めて少女二人に向き直り、見惚れるほど堂々とした立ち振る舞いで告げた。

 

「──申し遅れました。私は、イングリット・トラドールと申します」

 

 黒き異邦の装束に身を包んだ女性は、そうして、ルビーのような紅の眸を二人に向けた。

 すらりとした華奢な体つき、深い海を思わせる青い髪に、どこか底知れない幽遠な雰囲気。顔立ちや系統はまるで違うはずのに、マユの目にはなぜか一瞬、隣に立つステラとよく似ているように感じられた。

 

「我が領主、アウラ・マハ・ハイバルの命により、これより貴方がた二人をご案内致します。

 ────我が王国、ファウンデーションへ」

 




 前書きで、政治と政争を描くことによる場外乱闘をできるだけ端折ります、と述べておいて、登場人物がこう一気に増えると場内乱闘の方がカオスになる予感しかしない……(笑)

 当初予定していた運命篇ですが、これは『SEED DESTINY』と『SEED FREEDOM』の同時並行、デスティニープランという世界革命を題材とした〝運命・自由・混合篇〟として今後展開する形になります。最後まで走り切れるかどうかは、作者の技量とモチベーション次第ということで。
 感想・ご意見等も励みになりますので、お待ちしています。
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