~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『タイタンフォール』

 

「ええ。ですから、もうあなた方にもデータは送ったでありましょう?〉

 

 マルチモニターの向こう側、ジブリールは〝ロゴス〟幹部達の顔を見ながら続ける。

 

〈どうです、圧倒的じゃないですか、〝アプサラス〟は?〉

 

 GFAS-ZO4〝アプサラス〟──

 それが、ジブリールが虎の子の兵器として持ち出したMSの名だった。前大戦中に運用された大型系統機──〝エクソリア〟や〝デストロイ〟の戦闘データの全面的なフィードバックに加え、ジブリールの独創的な(・・・・)アイデアを付け加えたことで、それらとはまた違ったアプローチを計った機体。

 全身には〝ザムザザー〟同様の陽電子リフレクターを配備し、機体中枢部のメガ粒子砲は山をも穿つ威力とされている。そのようなデータを届けられた、初老の幹部がしみじみとして云った。

 

〈たしかにのう……。コレが事実なら、すべて焦土と化して何も残らんわ〉

〈だが、実証実験はまだなのだろう? だったら……〉

「実験? ハッ! 何をおっしゃいますやら。そんなもの、これより現地で試せば良いのですよ」

 

 ジブリールは躊躇も遠慮もなく、さも当然のように云う。

 

「まず手始めにベルリンを焼き払い、あなた方にも、その驚異的な性能をご覧に入れますよ」

 

 ジブリールは謳う。如何に美麗な日本刀も、ただ倉に飾っておくだけでは価値が半減してしまう。人を斬るために造られたものならば、ソレは人を斬ることで初めて本来的価値を発揮するものなのだ。

 であるなら、〝アプサラス〟だって設計目的に見合った用途に使わなければならない。荒れ果てた庭の、腐った部分の一切合切を焼き払い、ジブリールが理想とする蒼き清浄なる世界を作らなければ、やはりソレには価値が無い。

 

「ええ、兵器はコレクションではない、だったら使わねばね!」

 

 声高に謳うジブリールとは対照的に、老人たちの反応は胡乱げだった。

 話を進めるように、老人のひとりが口を開いた。

 

〈アレを使って、どこまで燃やし尽くす気なのかね? きみは?〉

「そこにザフトがいる限り、どこまでも──ですよ」

 

 ユーラシア西側の鎮圧──

 ジブリールが理想とする世界統治の意にそぐわず、連合からの脱退を表明した都市部に対しての侵攻計画だ。それらの現地住民達はコーディネイターと友誼を結ぼうとし、あまつさえ〝プラント〟やザフトにまで救いの手を求めているというではないか。

 憎悪を露わに、ジブリールは続けた。

 

「変に慣れ合う連中には、もう一度はっきり教えてやりませんとね。我々とコーディネイターは違うのだということを。それを裏切るようなマネをすれば、地獄に堕ちるのだということを!」

 

 声高に叫んだ、次の瞬間だった。

 突如モニターのひとつが切り替わり、ひとりの地球軍士官の顔が大写しになる。その顔は焦りで蒼くなっていた。

 

〈──至急報告! 〝ボナパルト〟、アズガルド山中にて襲撃を受けています!〉

 

 それは現地に送った管制官からの連絡である。ロシア平原を抜けて大陸へ渡っている間に、〝ボナパルト〟を含む艦隊が何者かの襲撃を受けたというのだ。

 ジブリールは立ち上がる。

 

「なんだと!? いったい、どこの馬鹿が!?」

 

 ──海賊による襲撃か?

 ジブリールは訝るが、派兵したのはコンプトン級を含む地上艦が数隻で構成された艦隊だ。規模にして中々のものであり、そこに挑みかかるなど、どこの恐れ知らずだというのだ? 

 問い質すジブリールに、士官は〈それが──!〉と、正体を明かした。

 

 

 

 

 

 

 〝ボナパルト〟を含む鎮圧部隊の統括を仰せつかり、ロロは狼狽えていた。連合司令部よりユーラシア西部鎮圧の任を受けたまでは良かったが、まさか、大雪に見舞われたアズガルド山中で襲撃に遭うとは思ってもいなかったのだ。

 

「クソッ!」

 

 既にモビルスーツ隊を迎撃に出して対応。それも間もないと云うのに、戦略パネルに表示される友軍機は次々に消えていった。

 ロロは憎々しげに映像を見る。自分達の後方から突如として現れた、その白亜の強襲艦を睨み上げた。

 

「〝アークエンジェル〟め! どういうつもりだ!?」

 

 そう、このとき連合艦隊に強襲をかけたのは〝アークエンジェル〟だった。

 ──オーブ沖以降、神出鬼没となっているあの艦が、なぜ?

 が、考えても仕方がないこともあるのだろう。

 その〝アークエンジェル〟が、もともと大西洋連邦(彼の属する軍)が開発した強襲艦だという事実が憎らしい。敵はその設計目的に似合った本来的価値を発揮して、このとき〝ボナパルト〟を凌駕し、確実に追い込んでいた。そしてそれは、モビルスーツパイロット達の実力においても。

 

「ええい、何をしておるか! 数ではこちらが圧倒しているのだ、囲い込め!」

「しかし──!」

「時代遅れのドダイに乗ってる連中もいるのだ! あれは〝グゥル〟だ! 叩き落せ!」

 

 ──陸戦用の〝ガイア〟と、もう一機の見慣れないモビルスーツ! 背にフィンを装備した、クチバシのついた顔部の〝ディジェ〟だ。

 その二機が乗っている〝グゥル〟は、飛行能力を持たないモビルスーツが空中戦の際に使用する飛翔支援体だ。だが所詮は旧兵装であり、本来フライトユニットを持つ〝ウィンダム〟が遅れを取るなど有り得ない。にも拘わらず──

 

「イーストン隊〝ウィンダム〟全機被弾、帰投します!」

「〝コレヒドール〟被弾、失速していきます! このままでは戦列が持ちません、艦長!」

 

 殿を務めていた戦艦のひとつが機関部をやられ、停止していく。モビルスーツ隊は次々に無力化され、態勢を立て直すことすらも困難だ。

 ──純粋な頭数に反して。

 絶望的な報せばかりが、ロロの耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 ステラの〝ディジェ〟は〝グゥル〟を駆る。

 メーテルの〝ガイア〟も同様に、飛翔支援体の上に乗っていた。スティングの〝カオス〟はもともと航空能力を持っているし、マユの〝アリアドネ〟にしたって同様だ。

 

〈走行能力を奪えばいい! 〝ボナパルト〟以外は機関部を狙うんだ!〉

 

 ムウの〝メタス〟からの通信である。彼の機体は、モビルアーマー形態でなら重力下でも飛行が可能だ。

 

『渓谷で追われた艦隊は、まともに身動きが取れない』

 

 作戦は、ネオの立案だった。

 現在、敵艦隊は渓谷の悪路を抜けるために一列の車列を作って進軍している。この車列に対し、〝アークエンジェル〟はその最後尾に噛み付くような強襲を仕掛けている。相手は雪隠詰めにされるリスクを考え、立ち止まって攻勢に打って出ることは出来ないのだ。

 

 ──その隙を付け狙う。

 

 つまり、最後尾の艦から順に機能停止に追い込み、順々に戦力を減らしていこうという内容なのだ。

 総力戦で挑んでしまえば明らかに〝アークエンジェル〟の不利であるため、敵の陣形を崩すことを念頭に、マユ達がモビルスーツ隊を相手取る。

 

〈頼むから誰も墜ちるなよ! 落ちても拾ってやれないぜ!〉

 

 遭難すれば、そこからの生存も絶望的な寒冷地帯。

 辺りは吹雪による雪化粧に見舞われ、真っ白な山峰の山肌ぎりぎりを、全員が各個に飛び回っている状況だ。

 メーテルが〝グゥル〟をぱっと操りながら、独語のように言葉を発する。

 

「〝ヘファイストス〟で補給が受けられて良かった……! この〝グゥル〟がなきゃ、私の機体(ガイア)じゃ戦闘に参加することもできなかったもん」

 

 そもそも〝グゥル〟とは、モビルスーツの性能自体が低かった前大戦の折、飛行能力を持たない〝ジン〟等を飛ばすために運用された。今回は〝ヘファイストス〟に在庫していたものを補給してきた形であるが、陸戦用の〝ガイア〟を空に上げるには、やはり打って付けの装備である。

 

「でも気を付けて! それ撃ち抜かれたらおしまいなんだから!」

 

 マユが危惧の声を上げる。

 ──『足』を落とされた瞬間、その機体は落下していくだけになる!

 ハンディキャップと表現して良いだろう。些細でもなければ微妙でもない〝それ〟を、メーテルとステラだけが背負わされている事実に変わりはない。そのことを危ぶんでマユは〝ディジェ〟を見たが──

 

「落ちろっ!」

 

 ステラの〝ディジェ〟は〝グゥル〟を巧みに操りながら、一撃で〝ウィンダム〟を叩き落とす。

 〝グゥル〟の取り扱いに関しては、彼女はもともと慣れたものだ。空を飛べるみずからの専用機(レムレース)を放棄してなお、彼女の活躍は余り有るという風だった。

 

「──次!」

 

 次いで撃ったステラのバズーカが、またも最後尾の輸送艦を捉えた。

 エンジンが停止し、走行不能となった艦。機動力を失った艦には目もくれず、引き続き〝アークエンジェル〟は逃亡を続ける〝ボナパルト〟の追撃を続ける。

 そうしてマユは、改めて目標の艦影を捉えた。

 切り立った山系の向こう、接近して初めて分かる、灰色の巨大艦影──

 

「大きい。これが〝ボナパルト〟……っ!」

 

 ハンニバル級〝ボナパルト〟──

 その威容は、まさしく鋼鉄の移動要塞といった風だった。仮に〝アークエンジェル〟が横に並んだとしても、それよりも悠に巨大な規格を誇るのだろう。

 

「この中に、アウルが」

 

 ステラは歯噛みする。だが──

 

「────!」

 

 そんなとき、ステラの許にまた別の〝ウィンダム〟が急迫した。サーベルを引き抜いた機影が横合いから迫り、ステラは〝グゥル〟に制動を掛けさせ、パッと上昇して回避する。

 対応しようとしたそのとき、また別の角度から放たれた砲撃が空域を凪いでいる。

 ステラの鼻先で〝ウィンダム〟がまとめて撃沈され、それは〝カオス〟による一斉掃射だった。モスグリーンのモビルアーマーが、凄まじい機動で空を駆ける。

 

「スティング?」

「そらァァ! 見せてやるよ、力を!」

 

 いきり立つスティングの声が聞こえる。

 ここ数日の模擬戦の成果か? いや、何より先達(ネオ)の訓示を素直に聞き入れるようになったことで、スティングの戦闘力もここ数日で飛躍的に向上していた。

 それは、今までの彼がなんだったのかと訝ってしまうほど急速な成長ぶりだ。そんな彼の存在をステラは勇ましく思い、スティングはそんな自分を誇らしく思う。

 

 ──そうだ。俺は、俺達(・・)はまだまだ強くなる!

 ──だから……!

 

 アウルと袂を分かった時のことを、スティングは今も憶えている。

 自分達とは『同じ道になど行かない』と言い張って、我が道を往こうとしたアウル。

 連合に戻った彼が、あの後どんな冷遇に処されたのか──彼はその選択の責任を取る形で強化人間に堕とされ、尊厳まで踏み躙られるに至ったのだ。たしかに強化人間になったことで、彼の戦闘力は桁違いに向上したのだろう。それはおおよそ、今の自分では絶対に敵わないほどに──でも。

 

(そりゃあ本当に、お前が欲しかった強さかよ……?)

 

 スティング自身、連中の一人と戦ったから分かる。

 ──強化人間。

 戦闘力も、思考力も、その心身の健康に至るまで犯された哀れな道化連中だ。何もかも薬物に支配された人形に堕することが、よりにもよってアイツの望みだったのか?

 ──いや、違う!

 アウルは認められたがっていた。短気で皮肉屋、子供っぽいヤツだが、とにかく愚直に〝上〟を目指していた。少しでも『高み』へ迫ろうと足掻き、その全ては、きっと上位者(ステラ)に認めてもらうためだったのだ。

 

(そんな強さで、満足かよ、得意かよ……!?)

 

 機首を目まぐるしく捻らせながら、スティングは目下の〝ボナパルト〟をねめつけて叫ぶ。

 

「出てこいアウル! そんなとこ(・・・・・)に閉じこもってないで、俺を──俺達を見ろ!」

 

 ──邪道(ドーピング)に手を出すこと無く、俺達は真っ当に、自分達の力だけで強くなった!

 ──そんな俺達の戦い様を、力を、強さを、今からお前に見せてやる!

 

「戻ってきなよ、アウル!」

 

 メーテルも続けざまに声を上げる。

 ──ロドニアのラボ。

 疑い無き『地獄』を共に切り抜けた仲間として、二人は、懸命にアウルへの呼びかけを続けた。

 

 

 

 

 

 

 ──誰だ……?

 予感ともつかない不思議な感覚に呼び起こされて、アウルはひとり独房の中で目を覚ます。

 

(誰かに、呼ばれテる気がする)

 

 朦朧とした意識で考えたアウルだったが、それが〝錯覚ではない〟と察するまでに、そう長い時間は必要ではない。

 腕にちくりと小さな痛みが走った後、それまで厚い雲が張られてたようだった意識が途端に回復する。それが注射を打ち込まれた後だと気づいたときには、目の前に醒めた顔色の士官が立っている。

 

「出ろ、貴様は出撃だ」 

 

 ──ああ。

 アウルは茫洋としながら云った。

 ──おまえか。

 

(……おまえが、僕を呼んだノか)

 

 召集を受けてデッキに連れてこられたアウルの前には、巨大な──巨大すぎて、その全体像を掴むことも難しい機動兵器が横たわっていた。

 不吉に黒光りする装甲、クモのような節足の降着脚と、半球状の胴体を持つ異形。ぱっくりと空いた胸郭の上──頭部に該当するらしい部位には格納スペースが有り、その内部に〝ダイモス・レムレース〟の機体がまるまる収まっている。

 しかしながら、決められたスペースに収められた〝レムレース〟は窮屈そうで、可哀想なヤツ──とアウルは思ってしまった。磔にされ、縛り付けられていた自分と同じようだ。

 

(まあ別に……もウ、どうだっていいことだけど)

 

 無骨なデザインの専用のパイロット・スーツに身を改め、コクピットに入ったアウルは機体を立ち上げる。各機器に灯が点き、ハッチが開くと、氷雪に覆われた大地と曇天が視界に飛び込んできた。

 ──そしてその空白の色は、今の自分の心象風景とよく似ていた。

 今のアウルは精神操作を受け、これまでの記憶の全てを取り上げられていた。彼には既に〝ファントムペイン〟で過ごした頃の記憶は無く、それどころか、オーブで戦闘を共にした強化人間達の記憶すらも無い。

 不自然に大きく削り取られた記憶と、大量に用いられた薬物のために、その人格は破壊されたも同然だった。その空白を埋め合わせるために、彼の中にあるものは「コーディネイターを滅ぼさなければならない」という使命感──精神操作によって植え付けられた偽りの強迫観念──だけだった。

 

(……それだけの、はズなんだ)

 

 不思議なことに、それでも尚、自分を呼ぶ声がどこかで続いているように思えた。おかしなことだ──この世に自分を必要とする者など、既に連合の士官達(イカれたヤツら)しかいないというのに……?

 脳裏がざわつく、気分はまさに、目の前の天気のようにどんよりとして気持ちが悪い。けれども、そういうときには対処法があるものだ。アウルにとって、そういうときこそ──

 

「じゃあさァ、スッキリさせようぜ」

 

 アウルは上空を睨み上げた。蚊トンボのように、ぶんぶん五月蝿く飛び回るミニチュア(モビルスーツ)共に、敵意と害意を固定する。

 ──アイツらを落とせば、少しはスッキリするんだろう!?

 叫びながら、アウルは機体のスロットルを強く踏み込んだ。〝アプサラス〟──水の精の名を冠する悪魔のような機体が、そうして〝ボナパルト〟から発進した。

 

 

 

 

 

 

「あれが……!」

 

 天面部の巨大ドームが開き、浮上してくる巨大モビルアーマーを認めマユ達は愕然とした。データでは見ていたはずが、実際に規格の大きさを目の当たりにすると圧倒されてしまう。

 

「またこんなものを……よくも!」

 

 唯一、ステラの反応のみが違っていた。きゅっと唇を噛み締め、この場において彼女だけは既知の怪物でも見る眼差しで〝アプサラス〟を見下ろしていた。

 〝レムレース〟をコアに用いた設計、その規格の巨大さと、徹底的な破壊を目的とした重武装。そこから判ずるに、アレは戦役終盤でステラが決闘した〝デストロイ〟──その改修型の後継品に違いない。

 ブルーコスモス。彼らはまた、愚かな過ちを繰り返そうとしているのだ!

 

「……。アウルは救い出す、ぜったいに」

 

 ──同じ過ちを、彼に繰り返させはしない!

 決意を新たにするように、ステラはあえて言葉にする。あの巨大なコクピットの中、たったひとり取り残される恐怖を、彼女は知っていたから。

 

「行こう、ステラお姉ちゃん!」

 

 マユは叫ぶ。どんな事情があるにせよ、あんな兵器を野放しにして良いはずがないのだ。

 ステラは頷き、そうして、仕掛けたのは彼女達が先だった。

 先制のビームを〝アリアドネ〟が撃ち掛け、〝ディジェ〟のビームバズーカが後続する。放たれたビームは真っ直ぐに巨大すぎる的に伸び、そして着弾前に弾き返された。

 

「リフレクターか……!」

「やっぱり!」

 

 虹色の障壁が一切の射撃を防ぎ、これに傷一つとして付けることを許さない。

 ────反撃はすぐさま繰り出された。

 敵機は大型スラスターを噴かせ、凄まじい速度で高度を上げ、一直線にマユ達に突撃してきたのだ。

 

「うわ」

 

 ──体当たり?

 あの巨体のどこに、そんな浮力と速力を生み出す機関があるというのか。流石に全機がぱっと散開し、ビームで応撃すが、やはりリフレクターに阻まれた。

 

「あんな巨体を浮かせられるのか?」

 

 ステラが感嘆するが、それは明確に〝デストロイ〟と異なる点だった。

 ──いきなり浮遊したことから懸念していたが、あの怪物(デカブツ)はどうにも制空能力に長けているらしい。

 つまり、防空圏外である高々度へ上昇してから、単独での降下作戦に及ぶ事が可能なのだ。

 そのような奇襲作戦が実際に発動されていたら、人々は突如として雲の上から(・・・・・・・・・・)降りてきた悪魔に全てを奪われる(・・・・・・・・・・・・・・・)構図になったことだろう、対応する暇も与えられないまま。

 メーテルが声を上げる。

 

「なんとかして、あのリフレクターを突破しないと!」

「分かってる……! けど──」

 

 言葉を続けようとしたマユの脇から、またも〝ウィンダム〟の軍勢が横槍を入れてきた。

 さっきからムウの〝メタス〟がそちらの撹乱と〝アークエンジェル〟の直掩を担ってくれているが、それにしたって敵の数は底無しといった雰囲気だ。

 

「こいつら、数が多すぎる! さっきより増えてねぇか!?」

 

 スティングが云った矢先、通信機にマリューの顔が映り込む。

 

〈足を止めた輸送艦からも、モビルスーツが出てきているのよ! 連合は、何があってもあのバケモノを守るつもりだわ!〉

 

 ──誤算だった。

 輸送艦から先に切り崩してしまえば、積載分の戦力は順当に減らしていけると踏んでいた。だが敵は走行不能となった母艦を捨ててまでも、モビルスーツ隊を〝アプサラス〟の援護に向かわせたようなのだ。

 別のモニタが点灯する、今度はネオからだ。

 

〈こちらから割ける戦力には限りがある、君達だけで対応するしかない〉

「ケッ、簡単に云ってくれるぜ……!」

 

 乱暴に応じるスティングだが、たしかに〝アークエンジェル〟にも直掩機は必要だ。戦力の全てを〝アプサラス〟の討伐に当てることは出来ないため、ネオは間髪入れず続けた。

 

〈ラミアス艦長、ネモ隊を支援に回せ〉

〈ええっ……!?〉

 

 〝ネモ〟とは、先に立ち寄った〝ヘファイストス〟で量産が進められていた〝ターミナル〟の暫定的採用モビルスーツの名だった。パイロットは〝ヘファイストス〟から乗り込んだ者や元連合出身者など粒揃いだが、彼はこれを出撃させると云っている。

 

〈この戦力差では已むを得ん、私も出る。──〝メタス〟を用意させろ〉

 

 はっ、と驚愕の声が聞こえたが、それはムウの声だった。

 

〈おいおい、〝メタス〟は!〉

〈使ってみせるさ。貴様に出来て、私に出来ないはずは無い〉

〈だがお前! そんな体で!〉

 

 口論も終えないまま、〝アークエンジェル〟左舷ハッチが開き、そこからホワイトグレーの〝メタス〟が飛び出した。ムウのゴールドイエローとカラーリングが違っているのは、単純に塗装が終わっていないからだ。

 

「ネオが出たの!?」

 

 訝るステラだったが、そんな心配を杞憂にするように、ホワイトグレーの〝メタス〟はモビルアーマーを形態を駆使して〝ウィンダム〟部隊を相手取る。ムウとラウ──あの調子ならば、母艦の直掩は二人に任せて大丈夫か?

 

「モビルスーツ、なおも多数接近!」

「──! 指示通り、ネモ隊を使いましょう! 甲板に立たせてでも迎撃させて!」

 

 飛行能力は持たない〝ネモ〟であるが、無いよりはマシである。少なくとも甲板に立たせれば、可動域の広い砲台として〝アークエンジェル〟に敵機が取り付くのを最低限阻止してくれる。

 右舷ハッチが押し開き、ダークグリーンに彩られたモビルスーツ隊が出撃する。

 それこそがゴーグルアイをした〝ネモ〟であり、甲板上に飛び乗った隊はビームカービンを射撃し、接近をかけようとした〝ウィンダム〟を牽制した。そうして攻めあぐねる敵部隊の脇から、ムウとラウの〝メタス〟がこれらを片端から撃ち落とす。マリューは確信づいて告げた。

 

「あなた達は〝アプサラス〟を!」

「……! わかりました!」

 

 指令を受け、マユは改めて〝アリアドネ〟を前面に向ける。

 そんな彼女達の頭上には、彼女達よりもはるかに巨大な戦略要塞が待ち受けていた。

 

 

 

 

 

 

 コンピュータが叩き出したデータ通りに照準し、アウルは目下のモビルスーツ達に射撃を掛ける。

 

「ええいッ、ゴチャゴチャと!」

 

 〝アプサラス〟の全身に備えられたビーム・スプリットガン。〝デストロイ〟の手指砲を改良した砲塔が、矢継ぎ早に光を吐き出す。

 灼熱を宿す光条が、降雪を蒸発させながら空間を貫く。

 だが、敵のモビルスーツ達は素晴らしいリアクションを見せ、変形機構等を駆使しながら、散開してすべての火線を回避し続けた──〝グゥル〟に乗ってるヤツだっているのに! それはおおよそ、アウルの想像を超える力だ。

 

 ──想像?

 

 アウルは一瞬、ハッとする。

 ──何を、馬鹿な。

 それでは、まるで以前から、自分が彼らの事を知っているようではないか。

 

「墜ちろよコラァァッ!」

 

 しゃにむに砲火を撃ちまくる〝アプサラス〟だが、どれひとつとして敵機を捉えるには至らない。強化人間の力に頼っているというのに、それは明確な違和感だった。

 

「一撃で消し飛ばしてやる!」

 

 目の色を変えたアウルは、ひとつの武装スイッチに手を伸ばす。

 〝アプサラス〟機体中枢部、大穴らしき砲口に光が充填され、暴力的な光が収斂していく。

 

「サッパリさせようぜェ!」

 

 アウルは照準先を変更し、白亜の巨艦を睨みつけた。

 ──僕としたことが、いつまでも小さな標的(モビルスーツ)にムキになるなんて、カッコワルい!

 自分はもっとクールにやるのだ。そのためには、照準はちゃち(・・・)なモビルスーツなんかじゃない。さっきから後方に構え、山肌を沿うように出たり隠れたりしている大型の戦艦だ。

 ──大物の一本釣りだ!

 この照準を気取ったのか、〝アークエンジェル〟は艦体を大きく傾けて回避運動に入っている。だが構うことはない、きっとこちらのチャージが終わるのが先だ!

 

「吹き飛べェエッ!」

 

 エネルギーが収斂しきった次の瞬間、眩いまでの爆光が〝アプサラス〟の中枢から放たれた。

 

 

 

 

 

 

 ノイマンが唐突に艦を傾けた直後、遠方の〝アプサラス〟から強烈な収束砲が放たれた。

 その威力たるや、臨界の瞬間、空が白く染まるほどだ。

 ──まるで小型の〝ジェネシス〟なのではないかと。

 そう勘繰ってしまうほどの熱量。熱線が山を地盤ごと貫き、着弾地点であろう彼方では、黒いきのこ雲が不気味に噴き上がった。その光景を見て、マリュー達は愕然とする。

 

「こんな……! これは……!?」

 

 有り得ない威力の粒子砲。

 ──こんなものを、連合は市街地で使うつもりだったのか!?

 山岳に穴が空いている。比喩ではなく、本当に爛れ落ちたような風穴が空いているのだ。

 

「アウル……!」

 

 ステラが毒づく。

 今の一撃の威力に感化されたのか、周囲の〝ウィンダム〟部隊は勢いづいたように包囲網を敷いてくる。

 

「こんのおぉっ!!」

 

 だが、黙っていられなかったのはマユだって同じだった。

 〝アリアドネ〟も怒りに燃えたように、フルスロットルで〝アプサラス〟まで突っ込んでいく。

 

「──!」

 

 その突撃をカバーするように、メーテルの〝ガイア〟が例の援護射撃を行った。呼吸を合わせたビーム突撃銃が、〝アリアドネ〟進路上の〝ウィンダム〟の悉くを叩き落とす。

 ──標的は目の前!

 開けた進路上、ビームジャベリンを引き抜いた〝アリアドネ〟の斬撃が、ついにリフレクターを引き裂いて〝アプサラス〟の腹部砲門(スプリッドガン)をもぎ取った。続けざま、タイミングを合わせて突っ込んでいた〝ディジェ〟のビーム・ナギナタが、反対側の同箇所を切り裂いて爆散させる。

 

「──お姉ちゃん!」

「話が通じないなら、ここで無力化する!」

 

 斬撃のため飛翔体から飛び降りた〝ディジェ〟であったが、乗り捨てたというわけではない。先行移動(リモコン)させた〝グゥル〟に着地を決め、鮮やかにUターンすると、再度飛翔して〝アプサラス〟への迫撃を試みる。

 

「こんなの、大きいだけだ!」

 

 ──何も学んでいない!

 ステラにとって、目の前の巨体はかつて命を削って戦った巨敵達(リジェネレイトやデストロイ)とは違う。強化されたアウルの実力は彼ら(アッシュやフレイ)にも引けを取らないのだろうが、要するに、これは『容器(うつわ)』の話だ。

 ──ただ『空が飛べる』ってだけの、単純な巨大兵器。

 たしかに〝アプサラス〟は、火力・防御力ともに抜きん出た、画期的な発明品だ。

 だが一旦間合いに飛び入ってしまえば、結局は俊敏性が物を云う。ブルーコスモスが兵器として火力や破壊力、単純明快な『判り易さ』を重視したのは結構だが、そのような素人考えに憑りつかれ、モビルスーツと呼ばれるものが他の兵器を凌駕した理由を見失ったのはいただけない。

 

「皮肉だよな、アウル」

 

 ──これはもしかしなくとも、モビルスーツ同士で戦った方がマトモな戦いだったんじゃないか?

 スティングが、憐れむような声でこぼす。

 オーブ沖での戦闘がそうであったように、仮にアウルが〝アプサラス〟ではなく、最初からコア・ユニットである〝レムレース〟で出撃していたら? その上で〝ウィンダム〟大隊と連携しながら迎撃に出ていれば? 結果として、戦闘はここまで一方的な内容にはならなかったかも知れない。

 こうしたスティングの推察は、実際に正しい。

 たらればの話を広げても益体が無いが、仮にその場合、スティングやメーテル、マユの現在の実力では、強化ステージを最大(・・)まで引き上げられた現在のアウルを止めることは困難だった。機動兵器としての完成度なら〝レムレース〟の方がはるかに上で、実際にオーブ沖で交戦したマユからすれば、そのときの彼の方が、はるかに強かったのだから。

 

 

 

 

 

 

 戦いが続いていく。

 直掩機の数も減り、次第に孤立を深めていく〝アプサラス〟──

 そうなってしまえば最後、明らかに〝アプサラス〟は懐に飛び込まれる機会が増えていた──いや、乗り手の意思に拘わらず、その機会を多く与えてしまっていた、というべきか。

 

「な、なンだよ! 遊んでんじゃないの!?」

 

 今いちど、モスグリーンの〝カオス〟に迫撃されて降着脚を切り落とされる。続けざま〝アリアドネ〟による斬撃に、残された砲門を破壊される。

 連中は一向に、アウルの居るコクピッドを狙おうとしなかった。この巨体の爆散を恐れているのか? 

 ──いや、どうだっていいが、なぶられている気分で、非常に心地が悪い。

 だが、だからと云って逆転のカードも残されてはいないのだ。

 ──最大の切り札は、先に撃った〝アプサラス〟中枢部メガ粒子砲……。

 超絶的な威力を誇る〝アプサラス〟の破城砲だが、この砲は予備動作や隙も大きく、対モビルスーツ戦に用いるには不向きだ。これを大人しく喰らってくれる阿呆はいないだろうと、アウルですら思う。

 思考しているとき、ついに機関部を〝ディジェ〟がナギナタで貫いた。姿勢制御が不可能になり、浮遊機能を失って失速していく機体の中、アウルは恥辱にまみれてカッと激昂した。

 

「ボクを、舐めんなよぉぉっ!」

 

 撃沈していく〝アプサラス〟だが、アウルは喚き続けた。──このままやられてたまるか!

 

「一矢……! アア、一矢報いてやるさ……ッ!」

 

 アウルは咄嗟に、手許のひとつのボタンに手を伸ばした。テンキーにすばやく暗証番号を打ち込み、モニターにパッとカウントダウンの数字が表示される──〝アプサラス〟の自爆タイマーだ。

 淀みない動作で、彼はすぐさま〝アプサラス〟と〝レムレース〟の接続(ジョイント)を解除する。格納スペースが開き、コア・ユニットがバーニアを蒸かして離脱する。それと同時──爆光と閃光が世界を照らした。

 

 

 

 

 

 

 目の前で〝アプサラス〟の巨体が大爆発し、ステラ達はぎょっとした。

 

「えっ──!?」

 

 そんな、なぜ!?

 自分達は決して、動力系には損傷を与えていない。アウルが乗っていると分かっている以上、絶対に爆散させないよう最大限注意を払っていたのだ。

 そんな配慮は、しかし、この爆発で無に帰した──?

 

「おい、アウル──ッ!?」

 

 まさか、彼は死────?

 

「──いやっ!」

 

 巨大すぎる爆発の中から、噴煙を突き抜けて一陣の機影が飛び出してくる。フェイズシフト装甲がオンになり、黒鉄の暗澹色に彩られた〝レムレース〟だ。

 

「パージしたってのか!?」

 

 そう、アウルは使い物にならないと判断したハル・ユニットを放棄し、爆散させるのと同時に〝レムレース〟で飛び出したのだ。

 けれども、今の〝レムレース〟はほとんど丸腰だ。

 元より〝ストライク〟の流れを汲んでいる〝レムレース〟は、換装プラットフォームに武装を依存している。〝アプサラス〟という装備を失った以上、今は機動力も攻撃力も、殆ど皆無の状態のはずなのだ。だが──

 

「──まずい! メーテル!」

 

 スティングの注意の声が飛ぶ。メーテルだけは周囲の敵部隊の露払いに専念していて、完全に〝アプサラス〟から視線を外していた。

 そんな〝ガイア〟の背に向けて、〝レムレース〟はなけなしのスラスターを振り絞って突っ込んでいく。一連の偽装工作に虚を突かれた一同は、完全に対応が遅れた。狩りの寸前、獲物の最後の抵抗を許したのだ。

 

「えっ──?」

 

 メーテルが反応したときにはもう遅かった。〝グゥル〟ごと振り返った瞬間、視界いっぱいに悪魔のような機体が大写しになる。

 はっと慌てて対応しようとしたとき、彼女の〝ガイア〟は強烈な膝蹴りの餌食になっている。

 蹴り飛ばされ、勢いのまま〝グゥル〟から弾き落されるメーテル。

 為す術なく山岳に墜落していく彼女の機体を見、スティングが急ぎ変形して救援に向かった。雪面に叩きつけられる寸前で咄嗟に受け止める。彼女は無事だ、だが。

 

「っ──!? サーベルを()られた!」

「ああ!?」

 

 メーテルが恐慌したように叫ぶ。腰部バインダーにマウントしていたそれが、片方無いことに気付いたのだ。

 ──〝グゥル〟もだ!

 今の一瞬の合間に、アウルはメーテルから、そのどちらも奪い取ったのだ。

 危惧どおり、スティングがハッとして顔を上げた先、アウルの〝レムレース〟は奪い取った〝グゥル〟を操り、一点突破で〝アークエンジェル〟まで特攻していた。当然追う〝アリアドネ〟と〝ディジェ〟であるが、対応が遅れた分、追いつくのは困難である。

 

「追いつけない! 〝アークエンジェル〟!」

 

 焦燥を露わにマユが叫ぶ。

 ──文字どおり、これが敵の最後の抵抗だ。

 全霊を賭して〝アークエンジェル〟に向かう〝レムレース〟の背は、このときえらく、遠くに感じられた。

 

 

 

 

 

 

 突撃してくる黒い機影を、当然〝アークエンジェル〟も認識していた。

 さっきのメガ粒子砲の一撃といい、どうにも母艦を沈めないことには気が済まないらしい!

 

「やらせるかァ!」

 

 ムウの〝メタス〟だ。

 横合いからビームピストルを乱射し、すこしでも〝レムレース〟の進路を妨害しようと横槍を入れる。しゃにむに撃ちかけたビームのひとつが足元の〝グゥル〟を捉え、爆散させる。だが──

 

「なにっ!?」

 

 勢いよく蹴立った〝レムレース〟は、ついには〝グゥル〟まで乗り捨てて飛翔していた。

 既に距離は詰められている。回復したスラスターを噴かせ、その亡霊の機体は身ひとつ、サーベル一本を出力しながら〝アークエンジェル〟の艦橋部に急迫する! マリューは青ざめて叫んだ。

 

「回避ーっ!」

「駄目です! 間に合いません──!」

 

 ノイマンが絶望の声を上げたその瞬間、白い機体が庇うように前面に現れる。形態変化を解き、モビルスーツ形態となったネオの〝メタス〟だ。

 

「アウル、やめろ!」

 

 彼にしては珍しい叫びが飛ぶ。ネオ機もまた、六本ある内蔵ビームサーベルの一本を引き抜き、このとき真っ向から〝レムレース〟と対峙する!

 ──邪魔ダアァァ!

 悪魔のような機体から、そのような少年の声が放散されたような気がした。彼にはネオ達が分からないのだ。

 ネオはサーベルを振るった。すれ違うように、二機は交錯した。

 

「……ぐおっ……」

 

 ネオは苦悶の声を上げた。〝レムレース〟のサーベルが〝メタス〟腹部、コクピッドのすぐ脇を掠め、爆散した計器の破片が身体に刺さったのだ。

 だが、ネオの繰り出した一撃も相当のものだった。手心を加えたというには余裕など無い一撃──しかし、切り結んだ瞬間に、動力系にのみ損傷を与えることに成功したのだ。

 〝レムレース〟はそのまま失速し、山肌の雪面に墜落すると、すこしの間雪煙を立てながら滑降していった。それきり動きを止めたところを見るに、アウルは気を失ったのか? 反応が途絶えた敵機を見て、ムウもほっと一息吐く。

 

「ムウさん!」

「ネオ!」

 

 遅れて駆けつけたマユとステラだ。

 彼女達は周囲の〝ウィンダム〟に一射を与えると、すっかり士気を失ったらしく、敵部隊はそれきり蜘蛛の子を散らすように撤退していった。

 

「……やったのか?」

「……ああ」

 

 ──戦闘は終わったのか? 

 スティングが尋ね、ムウがはっきりと解答した。

 そのとき、

 

〈グゥッ……ゴ……ッ〉

 

 獣のような、悲鳴のような乾いた濁音。

 それが通信機から響いた直後、ネオの〝メタス〟が異変を来たしたように墜落を始めた。悲鳴を上げたステラが機体をぎりぎりでキャッチするが、いまの声は尋常(タダゴト)ではなかった……!

 アウルを止めてくれた、彼の容態も、ステラとしては非常に気に懸かるところだった。

 

 

 

 

 

 

 作戦を終えた彼らは、〝レムレース〟ごとパイロットを回収すると共に、自力で動けなくなっていたネオの〝メタス〟も回収し、ひとまず両機をデッキまで運び込んだ。

 

「アウル!」

 

 整備士達にコクピッドから運び出され、床に寝かされていたアウルの許に、同じくコクピッドから出てきたスティングが急ぎ駆け寄る。どうやら気を失っているようで、頭部からは出血も見られるが、それ以上に病的に痩せ細った肌艶と、白いを通り越して蒼くなっている顔色が気に懸かった。

 ──これが、強化人間ってやつの末路なのか……!?

 唖然とするスティングは、それでも友人として、懸命に声を掛け続ける。

 後ろから来たムウに制され、当然に反抗しようとしたところを、ステラと目が合ってしまえば、それ以上はもう何も出来なかった。そんなムウはあえて事務的な声で、隣に立つステラに問いかけた。

 

「きみはどう見てる? ステラ、彼の『状態』は……」

「……。わかってたことだけど──よくない(・・・・)よ」

 

 このような称号は本人も不本意だろうが、他ならぬ強化人間の専門家であるステラの意見だ。

 その端的な暗示の言葉に、「やっぱり、そうなんだな……」とムウはやりきれない声を漏らす。一方でステラは、茫として考えている。

 

 ──そう。

 ──きっと、最初から分かってたことなんだ……。

 

 不自然すぎる記憶の改竄に加え、明らかに心身に不調を来した容態。かつてステラ本人が辿った道のりと同じ──とは云わないものの、あまりに似通い過ぎている。

 一目瞭然。たとえどんなに知識が誤っている藪医者が見ても危機感を持つだろうという危篤状態。少しでも事情に精通している者(・・・・・・・・・・・・・・)が見たのなら(・・・・・・)、「長くはないな(・・・・・・)という一言の下(・・・・・・・)冷徹に判断を済ませてしまうレベルの(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。言葉さえ選ばないのであれば、きっと今の自分でも、そんな容態が目の前を通過すれば同じ台詞を吐くだろうと思う。

 

「きっと一定期間内に、なにか特殊な措置をしないといけないんだよ。でも……」

「…………」

「それが(クスリ)なのか、薬だとしてどんなものなのか、今のステラには、分からない……」

 

 強化人間という枠組みでは同様だろうと、彼らは決して同一の存在ではない。先の大戦において、フレイ・アルスターという新型の強化人間が現れたあのときから、時間と研究の流れは、少しずつ……だが確実に狂ったのだ。

 ステラは妙に熱を持った様子で、どこか興奮した口調で言葉を漏らし続ける。

 

「どうすればいいんだろう、ムウ……! ステラが記憶なんて無くしてたから、こんな風に、ブルーコスモス(アイツら)の後手に回らなきゃいけないんだ……っ! これじゃあアウルを助けても、救ってあげられない!」

 

 ──ステラが悪いんだ!

 自罰的な言葉の数々を、ステラは口にする。そんな痛々しい様子の彼女を見て、ムウは「ステラ!」と叱責した。

 それによって、我を取り戻したようにステラはハッとする。ムウは宥めるように云った。

 

「ぜんぶ、きみ一人の責任として抱え込もうとするな。人間の手は、ふたつしかないんだぜ?」

「えっ?」

「きみ一人が出来ること。きみの知識や力が及ぶ範囲には限りがある。……だがな、俺はきみの行動や生き方、きみの関わってきた全てのことが、まったくの無駄だったとは思わない。寧ろきみがいてくれたことで、世界が良い方に変わったことだって沢山あるんだ」

「……分からないよ、ムウ。分かるように云って」

「つまりだ、きみは一人じゃない」

 

 ムウは説き明かすように、強気な笑みを浮かべて云った。

 

「かつてきみが『強化人間だった』という事実から、影響を受けた人間が居る。ショックを受けた者(・・・・・・・・・)誤ってそれになりたいと願った者(・・・・・・・・・・・・・・・)──だから強化人間について、期せずして知識を身に着けた人間が、この世界には大勢いるんだよ」

 

 言葉に、ステラは目を見開き、元より円らな眸をさらに丸くした。

 ──それは?

 つまり、それは──?

 

「きみが記憶を失っている間も、世界はたしかに動いていた。方々から働きかけが有り、この数年じゃ、強化人間を治療できるたしかな見識を身に着けた医療班が〝ターミナル〟内に創設された」

「……えっ!」

「もっと早く云うべきだった。俺達だけじゃ答えの出ない問題でも──彼らならきっと解決してくれる。ワルモノの連合に頼らなくても、な」

 

 そうは云うものの、答えを急くステラに対し、ムウは『医療班(かれら)』の名を絶対に明かそうとしなかった。

 何らかの企みでもあるのか? 浮かべられた笑みは嫌に引っ掛かるもので、しかし、不吉というまでは行かない。その原因は、ムウが浮かべた表情が、ステラに対して悪戯を企んでいる時の男の子達(スティングやアウル)の物によく似ていたからだろう。

 

「──遭いに行こうぜ、彼らに」

「…………!」

 

 きっとそれが、アウルを救う──治療する──唯一の道だとムウは云う。

 元よりステラに、拒否する気などなかった。

 自分達が向かうべき先は、何よりも最初に『そこ』なのだと、彼女は改めて思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「──それで」

 

 話は変わり、今度のムウ達は〝レムレース〟を離れて〝メタス〟の前に駆けつけた。たったいま、ストレッチャーに乗せられて医務室に運ばれたのはネオであり、メーテルが介抱してくれているが、容態はこっちも深刻だった。

 ムウが問う。

 

「アイツの方は、どんな様子なんだ……?」

「よくないよ。寧ろ、アウルよりも悪そう」

 

 ネオとずっと一緒にいた、ステラだから分かることだ。

 今のネオの体で、モビルスーツに乗って戦えた時点で奇跡だという。これまでも何度か『無茶』を通したシーンというのは存在するが、その度にステラが錠剤を持っていってあげなければならない重篤な状態が続いていたのだから。

 ──砕けた計器の破片が刺さった。

 きっと、それがきっかけなのだろうと、ステラは思う。

 ──常人よりも早い、テロメアの摩耗。

 ぎりぎりの健康の上に成り立っていた、これまでのネオの生活であるが、何らかの怪我や不調をきっかけに、一気に体調を崩すケースというのは往々に存在する。それが著しく老化の進んだ肉体ともなれば猶更だ。

 

「テロメア、か」

 

 ムウは天を仰ぐ。

 ──強化人間とは土俵が違うが、この問題もまた、どうにかならないものなのか……?

 そもそも、こんなときに自分は何を云えばいいのだろうかと、ムウはいまだに『ネオ・ロアノーク』に対する距離感というものを掴みかねていた。

 どだい、あの男がそのような業を背負わされたのは、自分の父親が原因だ。だが、だからと云って自分には非がないと、関係がないと本当に云えるのだろうか? 一家の跡取り、つまり幼少のムウが優秀でないことに腹を立てた父が、優秀な自身の複製として彼を生み出したのであれば。

 であるなら、彼の出自にはやはり自分も責を負うべきで、そのような立場から、自分が彼に何を云えばいいというのか。そう思い悩んでいるとき、出し抜けに、ステラが云った。

 

「──あんまり気にしてないと思うよ、ネオは(・・・)

 

 指摘され、ムウは目を丸くして、ステラの顔を見た。

 表情からして、そんなステラには確信があるようだった。

 

「ネオはもう、ラウじゃない(・・・・・・)んだもん。過去(むかし)の悲しいこととか、辛いこととか……そーゆーのに目を向けるの辞めたんだよ、きっと」

 

 疲れちゃうからね、とステラは云いながら、ストレッチャーに随伴するマユの方を見た。

 それで思わず、苦笑が浮かぶ。

 そんなマユには、名前の件で一発ぶん殴られたこともあったネオであるが……それでも彼の善性、ともすれば今後の陣営(スタンス)というものは、ステラの視点からはすでに明らかになっている。

 

「ネオはもう、未来しか見てないよ。その未来が自分だけ人より短いってことも、痛いくらいに分かってる」

「…………」

「だから、スティングとメーテルをムウに託したの。だから、ああしてアウルを止めてくれたの」

 

 ──自分と違って(・・・・・・)

 ──未来ある子ども達に対し、己のできる最大限を、彼はしてくれた。

 

「だからムウも、あまり深く考えすぎずに話してあげたらいいよ。それできっとネオは喜び……は、しないだろうけど。ぎこちなくされるよりは、たぶん、そっちの方がいいと思う」

「なんだよ、そりゃ。どっちみち微妙なままじゃないの」

「……うまく云えない」

「はいはい……」

 

 ぶっきらぼうに話を切ったムウであるが、ステラがなんとか励まそうとしてくれているのは分かったので、そのまま無碍にできる内容でもないのだろう。彼女は彼女なりに、ムウとネオの間に横たわる不和を心地悪く思っているのだろうし……何より子ども達の前で、子供っぽい諍いを残したままでいるというのは、なんとなく大人気がない。

 釈然としない思いを抱えたムウであるが、その釈然としない感じはいったい何なのか。思い巡ったとき、ムウは同時に、こんなことを思ってしまった。

 

 ──というか、なんで俺の考えてる内容(こと)が分かったんだ? この()は。

 

 口に出したわけでもない。

 ムウはたまらず、ちょっと恨み節っぽくステラに云った。

 

「……きみって相当鈍い方だと思ってるけど、たまに人の心を読み当てることあるよな」

「えっ、そう?」

 

 云われたステラは、きょとんとして心外そうだった。

 

 

 

 

 

 

「──スカンジナビアへ?」

 

 デッキからムウの通信が入り、マリューは訊ね返した。

 作戦を終えた〝アークエンジェル〟の、今後の進路についての話だ。

 

〈補給の問題もあるし、今の戦闘で、病人も多く出た〉

 

 ネモ隊の中にも、被弾して負傷した者もいるそうだ。

 ──だからこそ、合流を果たすべき医療班がいる。

 ムウは含みを持ってそう告げ、それが誰のことかを判断するのに、マリューも困らなかった。

 

「分かったわ。ええ、じゃあそれで」

 

 それきり通信が切れる、マリューは一息つく。

 さっきから、彼女のいる艦橋は静かなものだった。連合による追撃は完全に止まったようで、レーダーで監視させてはいるものの、動きは止まっている。それほどに〝アプサラス〟を失ったことが痛手になったらしい。

 

「ううん?」

「どうしたの?」

 

 そんなとき、チャンドラが渋ったような声を漏らし、マリューはそっちを見た。

 

「それが艦長、妙なんです」

「──妙?」

「俺達は〝ボナパルト〟と〝アプサラス〟に狙いを絞って攻撃を掛けました。……なのに、ほら」

「……これは? 一体、どういうことなの?」

 

 チャンドラに示唆されるまま、マリューはモニター上のパネルを覗き込んだ。

 これまでレーダーで補足していた反応が消えている。そこには〝ボナパルト〟以外の艦──自分達が自走不能に追い込んだもの──が残っているはずなのだが、その全てがシグナルロストになっている。マリュー達は出来る限り生存者は残したはずで、しかしながら、レーダーはそれを示していないのだ。

 

「こんなことが有り得る?」

「分かりません。機能不全に陥ったところを、本当に賊に襲われたとか?」

 

 チャンドラは、可能性の一つとして口にした。

 なにせ足を止めたのだ。機動力が残されておらず、まして支援する機動兵器(モビルスーツ)も出払った輸送艦は丸腰であり、襲われれば一溜まりも無い。

 完全に存外の出来事であり、マリューは「そんな……」とショックを受けたような顔を浮かべた。

 

「問題は、誰が襲ったかという話ですが……」

 

 疑ってかかった次の瞬間、チャンドラの顔色が変わる。

 

「──! 待ってください、この反応は!?」

 

 突然の大声に、艦橋のクルー達もぎょっとする。

 次にアクションを起こしたのはノイマンだった。突然に舵を切り、いきなりの回避運動を取ったのだ。

 

「うわっ!?」

 

 どこからか撃ち込まれた砲撃が、あわやというところで〝アークエンジェル〟の艦体を掠める。ノイマンが反応していなければ、まともに直撃を貰っていたところだ!

 その正体を、チャンドラは口にした。

 

「──コンプトン級!? これは、ザフト軍です!」

 

 マリューはハッとして戸惑いを深めた。

 連合ではない──?

 どうして、今度はザフトが!?

 

 

 

 

 

 

「さすが、音に聞こえた〝アークエンジェル〟だな」

 

 コンプトン級の艦長、ウィラードは仏頂面でそう云った。

 彼のウィラード隊は、司令部からの特殊任務を受け、このアズガルド山岳に哨戒の網を張っていたのだ。

 

「まさか連合の地上艦隊を相手に、単艦でああも勇猛な立ち振る舞いが出来るとは」

 

 その発言内容は、明らかに〝アークエンジェル〟の動向を監視していたことを物語っている。

 そう、彼はあえて〝アークエンジェル〟の行動を泳がせていたのだ。それが地球軍の地上艦隊に襲撃を仕掛けたところから、すべて。

 随伴の、副官らしき男が疑問を口にする。

 

「連合艦隊は何を目的に、こんな山中を突っ切っていたのでありましょう? ハンニバル級まで擁して」

「さあな」

「結果的に、我々が漁夫の利を得る形には持ち込めましたが……」

「漁夫の利? 何を云うか、あの『大天使』はいまだピンピンしておるのだぞ?」

 

 ウィラードは鼻白む。

 ──連合がもう少し〝アレ〟を消耗させてくれていれば、楽だったものを……!

 それが彼の計算だった。

 事情は知らないが、連合艦隊と〝アークエンジェル〟が互いに潰し合っているのなら、ウィラードとしてはソレを黙って静観していた方が良いと判断した。どのみち後で両方を潰す予定なのだから、互いに消耗しきったところを狙う方が、クレバーというものではないか。

 

(ああ、結果的に、連合を潰すのは楽な仕事(・・・・)だった)

 

 自走不能に追い込まれ、その場に取り残された──しかもモビルスーツすら出払っている──丸腰の艦を叩き潰すだけで、連合側の討伐は済んだのだから。

 簡単すぎた内容に反し、功績にしては中々のものになると思われる。帰国した暁には、司令部より相応の叙勲も頂けるものだろうと思い、それをもって上機嫌そうにウィラードは告げた。

 

「モビルスーツ隊には熱くなるなと伝えてやれ。『大天使』はほぼ無傷だ、これでは〝ミネルバ〟が来るまで持たんぞ」

 

 既に〝バクゥ〟や〝バビ〟を出撃させ、包囲網は完成させている。さすがに敵も対応が素早く、モビルスーツ隊が出撃したようであるが、ウィラードは何も、全力でぶつかり合いたいわけではないのだ。

 ──あくまで、〝ミネルバ〟が到着するまでの時間稼ぎ。

 黒子は黒子らしく、役割に徹するだけでいい。副官の方は、この指令内容に不服そうであるが。

 

「追い込みなどという悠長なことをせずとも! 〝ミネルバ〟を待たずとも、我々が全軍でかかれば……!」

「フン。貴様は知らんのだろう、アラスカも……〝ヤキン・ドゥーエ〟も?」

「は……?」

「功を焦って逃したら、それこそ取り返しがつかんぞ。……やつらは強い」

 

 オペレータのひとりが報告する。

 

「──〝ミネルバ〟、間もなく合流します」

「そーいうことだ。ケツはきっちり〝ミネルバ〟と〝インパルス(・・・・・)〟に持ってもらえ。──命令通り、我が軍のエースにな」

 

 戦女神(ワルキューレ)──ザフト軍内部にて、すでに異名として独り歩きしているアトラの称号だ。

 ──作戦名『天使殺し(エンジェルダウン)

 〝インパルス〟を操る少女は、この無理難題をも可能にしてくれるに違いないのだから。

 

 

 

 

 

 

「──〝ミネルバ〟!?」

 

 チャンドラの報告通り。

 雪峰の向こう側から現れたスチールグレイの巨艦を認め、マリューが声を上げた。艦は艦橋前方のミサイルを放ち、砲火が降りそそぐ──明らかに敵対的で、こちらを沈める気で現れたと分かる一撃。

 

「そんな、どうしてあの艦が……!?」

 

 ますます戸惑いを深めるマリュー。

 あいにく現時点では、そこまでザフトの恨みを買った憶えが無かったのだ。いや強いて云うなら、理由は〝カオス〟に〝ガイア〟、それに──

 

〈──〝ミネルバ〟って、なんでですっ!?〉

 

 ──他ならない〝アリアドネ〟のパイロットから、デッキから通信が繋げられる。

 誰よりも心外の声を上げたのは、やはりというべきかマユだったのだ。彼女もまた、かつて自身が乗っていた艦とこんな形で再会するとは思ってもいなかったのだろう。

 衝撃が艦を揺らす。そのせいもあってか、マリューの語気も少しだけ粗くなる。

 

「分からないわ、でも、今は対応するしかないのよ!」

〈戦うんですか……!?〉

「逃げるのよ。今の本艦には、ザフトと戦う理由がないのだから!」

 

 自分達の戦闘目的は、西ユーラシアでの大虐殺を企図する連合の企みを阻むこと。

 ──それだけであって、それ以外は無い。

 目的を果たした以上、いたずらに戦火を広げるのは〝ターミナル〟の意に反する。第三者からどう見えているかは奈辺だろうと、それが欺瞞に過ぎないと判っていても、守らなければならない矜持というものはある。

 

「海岸線まで、五〇〇〇!」

「──それまで持ちこたえて! 海まで出れば離脱できる!」

〈…………!〉

 

 ムウの云う通り、今の〝アークエンジェル〟には病人も乗っている。

 ──スカンジナビアへ!

 タイムリミットは迫っている。一刻を争うこの瞬間、ザフトの目論見に付き合っている暇はないのだ。

 

〈っ……! マユ・アスカ出ます!〉

 

 決意を固めたか、一瞬の逡巡の後、言葉と共に通信は切れた。

 パイロットが、みずからのモビルスーツに向かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 戦場に到着した〝ミネルバ〟の艦橋から、タリアが冷徹な声で云う。

 

「捕捉したわ」

 

 先行するウィラード隊から送られてくる情報を元に、現場へと駆けつけたタリア。上空に展開する〝ディン〟から送られてくる状況図には、特徴的な白い艦の姿が鮮明に映し出されている。

 タリアはそれを見て、感慨深いものを感じる。

 なるほど、アレが噂に聞く『伝説の不沈艦』であり、一説には、この〝ミネルバ〟の設計思想の基となった戦艦であるらしい。絶対的な強者であることなど歴史書を見るまでもなく明らかであるが、それによって尻込むわけにもいかなかった。

 

 ──ザフトのトップエースとして。

 

 パイロット、管制官──そして願わくば、艦長みずからも含めた全てがザフトのトップエースで構成された〝ミネルバ〟ならば、敵わない存在ではない。

 タリアは軍人として命令に従い、討てと云われたものを討ちに来ただけだ。

 

「モビルスーツ隊発進! これより〝エンジェルダウン〟作戦を開始する!」

 

 号に従い、フライトユニットを装着したモビルスーツ隊が発進していく。レイの白い〝ザク〟とルナマリアの赤い〝ザク〟は新装備を携え、アグネスの〝グフ〟の後に続く。

 そうして最後、船体中央の特殊カタパルトから戦闘機がせり出す。

 キャノピーは閉じられ、そのコクピッドの中、アトラは前方の白い艦影を認めて毒を漏らした。

 

(マユ……いるの!?)

 

 ──〝アリアドネ〟はまだ出てきていない。

 だが決意は固めた。

 大切な親友。彼女の存在が、他の手に渡ってしまうくらいなら──自分が。

 

「私が、ここで」

 

 メイリンの発進を促すアナウンスが続き、アトラは声高に宣言した。

 

 

 

「アトラ・デンソン──〝インパルス〟行きます!」

 

 

 

 巨神墜とし(タイタンフォール)は完遂され──

 大天使殺し(エンジェルダウン)が、間をおかず始まったのだ。

 




 次話『エンジェルダウン』

 対戦カード予想図
 ①アトラ(インパルス) VS マユ(アリアドネ)
 ②アグネス(グフ) VS ステラ(ディジェ)
 ③レイ(ザク) VS ムウ(メタス)
 ④ルナマリア(ザク) VS スティング(カオス)

 となります。ネオは怪我! メーテルはグゥル壊されたからたぶん欠席!
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