~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『〝アルテミス〟陥落』A

「────ステラ」

 

 確認の意図を込めて、アスランは目の前のモビルスーツ──〝ディフェンド〟のパイロットへと呼びかけた。

 アスランが搭乗する〝イージス〟の中には、もとより〝ディフェンド〟へ通信するためのコードが保管されていたのだ。元は戦略的に連携されるモビルスーツだったのだから、然程不自然な話でもない。

 

「ステラ……! 本当に、君なのか……!?」

 

 震えた声で呟くアスランの目に、モニター越しの金の髪の少女が映し出された。パイロットスーツも着用していない無垢なる少女は、最後にコロニーの中で見たときのままの姿だ。

 ──本当に、あれが俺の妹なのか……?

 アスランのエメラルドグリーンの瞳に映る彼女は、どこか浮世離れしていた。

 決して美しいというわけでもないが、あどけなさを残し過ぎていない。けれども、決して贔屓目とは云わせない──それほどまでに傑出している、可憐なる美少女だ。体つきは大人び始めているが、その表情はまだ少女と云うに相応しく、金色の花弁のような柔らかな面持ちをしていた。

 

〈アスラン〉

 

 死んだと思っていた妹の声が、スピーカーから流れている。

 再会の涙すら出ず、アスランは思わず、次のように発言していた。

 

「……! パイロットスーツも着ないで! 危ないじゃないか!」

〈──あ。ごめん〉

 

 決して──そう決して、彼はこのような叱責を最初にしたかったわけではないと思うが。

 あまりの心配から、懸念は声となって発された。モビルスーツで銃を突きつけ、しかしながら妹の身を心配する彼の言動は明らかにおかしなものであったが、この場で言及しても無駄である。

 

「それに、なんだ! その、ひらひらとした──いろいろと見えてしまいそうな──恰好は!?」

 

 ステラは幼子のように首を傾げるが、アスランが云いたいのは、今もモニターに映り込んでいる、ステラの奇抜なドレスワンピースのことか。ヴェールがついたデザインは上質さと上品さを演出してはいるが、それにしたって胸元が開き過ぎてやしないか?

 ──というか下着は? 流石につけている──いや、つけていて欲しいが!?

 シートベルトで圧迫され、女性らしい豊かな部分が押し潰されて逆に強調されているその姿に、アスランは不覚にも目の置き場に困ったという。

 

「そんな格好で、変な男が寄ってきたらどうするんだ!?」

 

 咄嗟のことで、兄馬鹿を発揮するアスラン。

 ──言いたいことが多すぎる。

 ──聞きたいことがありすぎる。

 困惑するアスランは、質問を絞れずにいた。

 

「生きていたのは嬉しい! でも、なぜきみがそんなモノに乗っている!? ──母上も、きみのように無事なのか……?」

 

 母の安否を訊ねる。が、その問いに対してステラはかぶりを横に振って答えた。

 その返答を確かめて、アスランの表情が泣きそうなまでに強張ったが、それは一瞬のことだ。

 と、努めて事務的に、質すような口調で云う。

 

「──どうして〝ジン〟を撃墜した? きみはコーディネーターだ! なぜ地球軍の味方をするんだ!」

 

 キラも、ステラも──どうして地球軍の味方をしている?

 かたや友人でありながら。かたや、血を分けた兄妹でありながら──

 どうして、自分達が戦場で対峙しなければならない?

 

〈ステラが、まもるから〉

「なに……?」

〈あの艦には、キラの友達が乗ってる。ステラは、キラと友達……だからキラの友達は、ステラの友達なの〉

「ステラ……!」 

〈アスランも、キラの友達。そうでしょ……?〉

 

 ──なのに、どうして戦うの?

 アスランはそれを聞き、ふと思った。ステラはむしろ、アスランがなぜザフトにいるのか理解できていないのではないか。口振りからするに、アスランこそが地球軍に就けば、それですべてが解決するのだと思っている。

 

「地球軍と、共になどいられるか!」

 

 アスランの父の世代のコーディネイター達は、ナチュラルによってその異能を危険視されるあまり、安住の地を求めて宇宙──〝プラント〟へとその拠点を移したのだ。

 そこで暮らすためならば、ナチュラルから突き付けられる重税にも耐え忍び──しかしながら、我慢の限界というものはある。コーディネイターを生み出しておきながら、先に忌み嫌ったのはナチュラルの方だ! 

 

「きみはそんなところに居るべき人間じゃない! 俺と一緒に来るんだ、父上にも──」

〈でもアスランは、これから、ステラの友達を奪っていく。殺していく。……ザフトだから!〉

「違う! 俺がザフトにいるのは──」

 

 母と妹が殺されたと聞いて──力のない自分を、あの時、それだけ思い知ったからだ。

 愕然とした──〝ユニウスセブン〟が崩壊したと聞いた瞬間は。

 あの頃の自分は、何も知らなかった。

 ──いや、知ろうともしていなかった。

 戦争なんて起きるはずがない、と高を括っていた。

 何も知ろうとしなかったあの頃の自分に、怒りが沸いた。

 父のように権力を持っているわけでもなく、アスランには何かを変えることは出来なかったが、それでも父の下で剣となることで、何かを護れると信じたから──!

 

 でも、そんな動機はたしかに──ステラの友達を殺すこととは、関係がなくて。

 そんな苦悩があったからって、〝アークエンジェル〟に乗る、ステラが「友達」だという者達を殺していい理由には、ならなくて。

 

 自分はそういえば、何のために戦っている?

 守るなんて大層なことを言いながら、進んで地球軍を殺そうとしている自分は、やはり可笑しいのだろうか。

 アスランは、返す言葉を失った。

 

 その時〝ディフェンド〟が──〝イージス〟へとライフルを突き付け返した。

 アスランの表情が愕然とし、驚きに目が見開かれる。

 

〈ステラは友達をまもる……! ザフトは友達を奪う、悪者で……だからアスランも意地悪。ステラの前にあるもの、どんな小さな命でも、守れるのなら、ステラは戦う〉

 

 そのために────このモビルスーツに乗ったのだ。

 まもることを司る────このモビルスーツに呼ばれた気がしたのだから。

 

 ステラは既に、構えられた〝イージス〟のライフルには、戦意や殺意が無いことを見抜いていたのだろう。

 〝ディフェンド〟はビームライフルを握る腕を下ろすと、すぐに〝イージス〟から転進して、〝アークエンジェル〟へと離脱した。矛先を見失った〝イージス〟はそのまま、しばらく茫然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフトは〝ヴェサリウス〟が航行不能になったことで、全機として撤退していった。

 〝ゼロ〟

 〝ストライク〟

 〝ディフェンド〟

 この順番で〝アークエンジェル〟に帰投し、ステラは、今回も無事に戦闘が終了したことに、やはり安堵していた。

 

 死ななかったことに、安心したのだ。

 

 いくら戦場を経験して来ているからといって、この安心感を忘れるようになってしまっては、戦場で生き残ることもできないのだろう。この瞬間は、何よりも幸福なものだ。

 〝アークエンジェル〟艦内は依然として事後処理等に慌ただしかったが、ステラが〝ディフェンド〟のハッチから出ると、〝ストライク〟のハッチの辺りで、何やら数人の声が上がっていた。

 ステラより早く帰投したはずの〝ストライク〟のハッチは、まだ、閉まったままだった。

 その前で、ムウとマードックが何やら話している。ステラも懐疑しながら、そちらへと向かった。

 

「あの坊主が、なかなか中から出てこねえんですよ」

「おやおや」

 

 新兵の教育係さえ仰せつかったこともあるムウは、大体の事情を察していた。

 外部ロックから〝ストライク〟を開けると、中ではキラが、まるで呼吸することも忘れているかのように、縮こまって硬直していた。

 ──新兵にはよくある、実戦後のことだ。

 恐怖で身体が委縮している。レバーを握るキラの指が、なかなか外れない。

 戦慄に飲み込まれているキラは、ムウの気遣わしげな言葉を受けて、やっと我に返った。

 

「もう終わったんだ。俺も、お前も──みんな無事だ。いいな?」

「あ……。はい……」

 

 それでもキラは、胸の辺りを両手でぎゅうと力強く握りしめている。まだ先程の戦闘の恐怖が、心から抜けきっていないのだ。

 その時、〝ストライク〟の前へ、ステラがやって来た。

 それを認めたマードックはびっくりしたように跳ね上がり、素っ頓狂な声を上げながら彼女から距離を取った。両手を開き、ストライクにぺったりと背中を張り付けている。まるで鬼でも目の当たりにしているように。

 対して、ムウはそれに気づくと、おや、と声を漏らし、「こちらの新兵さん」は、いたって精神が正常なことに、一抹の驚きを覚えているようだった。

 ステラは〝ストライク〟の中に入ると、小刻みに震えているキラの胸に、そっと手を当てた。

 

「ステ、ラ…………?」

「痛いところには手を当てるといいの。──ネオが教えてくれた」

 

 語尾の人物は誰のことだか分からないキラであったが、胸を握りしめるキラは、その言葉でゆっくりと手を開き、自分の胸を温めるように撫で下ろした。

 そこで、キラが弱弱しい笑顔を作る。いまだ緊張は抜けきっていない様子ではあるが、さっきと比べれば、随分とリラックスできたようだ。

 それを見たムウが、ひゅう、と口笛を鳴らした。その表情には軽薄な笑みが浮かんでいる。

 

「やるねぇ~、お嬢ちゃん。そのネオっていう人もいいこと云うじゃねーの」

「うん。ネオ、やさしい人だから」

 

 誰のことかはムウも分からなかったが、この子(ステラ)の先生かな、と考えた。

 ふむ、と声を鳴らしたムウは腕を組み、笑い飛ばすように微笑んだ。

 

「しっかしお嬢ちゃん、無断で出撃して〝ジン〟を二機も墜としたんだってなあ。見かけより大胆っていうか、見なおしたよ」

「でも、勝手なことしたから……きっと怒られる」

「はは、俺の方から言っといてやるよ。なんたってこの艦が助かったのは、きみのおかげでもあるんだからな」

 

 云いながら、ムウはステラの頭に手を乗せ、ぽんぽん、と頭を優しく叩いた。

 するとすぐに飛び去って、更衣室の方へと向かって行く。

 

「…………」

 

 ステラはムウに触られた箇所を、もう一度確かめるように、手を頭に乗せた。

 

「────ネオ?」

 

 飛び去っていく、見覚えのあるような、精悍な後姿を目で追った。

 ステラとて、他人に不用意に接触されるのは嫌いだが、その感触は不思議と、嫌じゃなかった。

 一方で。

 マードックは相変わらず、おっとりとしたステラに怯えていた。──ハッチを開けなければ整備士(マードック)ごと吹き飛ばす! 凶暴と化した少女のその言葉が、頭の中でリフレインするマードックであった。

 

(この嬢ちゃん──マジでよくわかんねえ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 無断で〝ディフェンド〟を出撃させたステラの行動は、結論から云えば、ムウの取り成しによって「お咎めなし」となった。

 というより、状況的に云えば、誰もが彼女のその行動によって救われており、その程度を判断する頭は持っていたというべきか。

 

 この艦を守り抜けたのは、キラと、ステラの奮闘のおかげなのだから。

 

 しかし──

 だからといって、許せないこともあった。

 ナタルは今、乗務員からの報告を受け、ステラに与えられた部屋へと赴いていた。

 部屋の中にはワンピース姿のステラがいて、ナタルが怒鳴った。

 

「──ステラ・ルーシェ! 制服を改造するな!!」

 

 全身が布できっちりと覆われた、窮屈なデザインが生理的に気に入らなかったのだろう。ステラはミリアリア同様に与えられた地球軍の赤色の制服を、部屋の中で加工していた。

 手に持つ布切りバサミは〝アークエンジェル〟に乗り合わせている民間人の誰かにでも借りたのだろうが、ナタルが怒鳴る傍らで、ステラはぼーっとしながら、チョキチョキと制服の肩の部分をカッティングしていた。

 まるでナタルの言葉を聞き取っていない様子だ。

 偶然ナタルの声を耳に入れたのか、制服に着替えたムウが、その部屋の前へとやって来た。

 

「なんだなんだ? どうした?」

 

 ドアに手をかけ、ナタルが振り返り、その姿を確認した。

 

「フラガ大尉! ……いえ、この少女が、勝手に我が軍の制服を加工していると、報告が上がったので」

「へえ~、そいつはまた大胆というか、型破りというか」

 

 そんな軍規破りなバカ、ほんとにいたんだ。

 ムウは一種の感心さえ覚えた。

 

「感心している場合ではありません。このような公私混同を許していると、軍全体の風紀が乱れます」

「まあ良いんじゃねーの? あくまで機能性の部分で加工する分には個人の自由にしてやっても。……ほら、この子の立場だと、いざって時に走りやすい服の方がいいだろ?」

 

 短いスカートとかは特に目の療養にもなりそうだ、なんて馬鹿なことを抜かすムウのことを、キッと鋭い目で睥睨するナタルであった。

 冗談だよ、冗談、とムウは気圧されたように軽薄に答えると、中にいるステラに声をかけた。

 

「お嬢ちゃん、ちょっといいか」

「?」

 

 ナタルの声は耳にも入らなかったステラであったが、ムウの言葉はすんなりと聞き止め、彼を見上げる。

 ナタルは一瞬驚いた表情を見せたが、同時にムウに不信感を抱いた。──どうやって、この少女を手なづけた……。

 

 ムウによって呼び出されたのは、キラとステラのふたりであった。

 格納庫へと呼ばれ、ふたりは、何事かと目を見合わせるようにして懐疑していた。

 〝ストライク〟と〝ディフェンド〟を目の前にして、ムウはその足を止め、振り返った。

 

「もう少しで〝アルテミス〟に入港にする。──けど、その前に」

 

 含みを持たせて、ムウは云った。

 

「ふたりには、やっておいて欲しいことがある」

 

 こうしてふたりは、〝ストライク〟と〝ディフェンド〟それぞれの起動プログラムをロックをかけた。

 どういう意図があって、ムウが自分たちにこんなことをさせるのか分からなかった。

 だが、ふたりはすぐに、その意味を知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 GAT-X401〝ディフェンド〟──パイロットはステラ・ルーシェ。

 両肩に巨大な対ビームコーディングシールドを装備した、防衛戦に特化した機体。武装には光波技術が用いられており、堅牢な全方位防御帯を展開するほか、大盾をパージすることで高機動用の強襲機としても活用可能な攻防一体の性能を持つ。

 

 ────かのGATシリーズは、戦場でのモビルスーツの重要性を痛感した大西洋連邦が、オーブの技術援助を得て開発に着手したものである。

 しかし、本機に使われている光波技術というものは、大西洋連邦とはまた異なる、ユーラシア連邦という勢力が管理し、統括している専売技術だった。

 たとえば、現在の〝アークエンジェル〟が航路を取っている軍事衛星〝アルテミス〟──それを覆う絶対的防壁『アルテミスの傘』は、正にこの光波技術が用いられている。

 光波技術で作られたシールドは、どんな実体弾もビームも通さない。現時点では一方的透過(モノフェーズ)性がないため、シールドを展開したまま攻撃を行うような反則的運用は不可能だが、現在の〝アルテミス〟を難攻不落の要塞と呼称させる程度には、それは充分な強度を発揮する盾なのだ。

 とどのつまり〝ディフェンド〟は、その〝アルテミス〟の『傘』で使われている技術を、単一のモビルスーツに搭載させることに成功した機体だと云える。

 

 ──地球連合軍と云っても、決して一枚岩ではない。

 

 連合と聞けば仰々しいが、それは彼等にとって相互共通の(コーディネーターという)敵がいるから存続しているだけである。

 彼等は当然に思惑や利権を巡って争う関係であり、信条や思想を違えたこのような組織を、一枚岩と云えるわけがない。

 事実、大西洋連邦とユーラシア連邦は連合内の二大巨頭であり、絶大な国力を持ったライバル関係にある。その関係はそれ〝らしい〟険悪で、冷え切ったものになっている。対立している、とはおおっぴらには言われないだろうが、互いに快く思っていない間柄なのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 〝アークエンジェル〟は〝アルテミス〟へ入港したが、入港した途端、艦は武装兵やモビルアーマーに包囲され、艦内には銃を持った兵士がなだれ込み、完全に制圧されてしまった。

 たしかに、この〝アークエンジェル〟は極秘裏に開発された強襲艦であり、その存在は未だ公式に明るみにされていない。これを警戒した「一応の措置」だと、禿頭の〝アルテミス〟司令官、ジェラード・ガルシアに説明された。艦は軟禁状態に置かれ、銃を持った兵士たちが点在し、艦内を警備している。

 

「こうなっちまうのを想像するのは簡単だったが、やっぱ現実になっちまうと、相当まずいよなあ」

 

 キラは隣に立ち、そう呟いたムウの顔を覗くようにして見上げた。ムウの表情は、柄にもなく焦っているように見えた。

 ──想像するのは簡単だった?

 〝アルテミス〟が〝アークエンジェル〟を軟禁状態におくことが、ムウにはあらかじめ、予期できていた、とでもいうのだろうか?

 いや、考えても見れば、そうかもしれない。なにせムウは、キラとステラに、二機の〝G〟の起動プログラムをロックさせることを指示していたのだから。

 

「あの、何がまずいんですか……?」

 

 思わずキラは訊ねていた。

 ムウは罰が悪そうに答える。

 

「艦は細かいとこまで舐めるように調べ回されて、人質に取られるかもしれねえ……ってことかな」

 

 その言葉が深く意味するところまでは分からなかった。

 だが、なんとなくまずい事態になってしまった、というのは理解できた。

 

 

 

 

 

 

 ユーラシア連邦──今回はその将校であるジェラード・ガルシアを筆頭に、男達は即座に接収した〝ストライク〟と〝ディフェンド〟のデータを解析しようと試みた。

 けれども、二機のモビルスーツは起動プログラムがロックされており、そのパイロットにしか分からない暗号で鍵がされていた。部外者には手の出しようがない状態で、だからこそ彼らは、痺れを切らしたように一同を食堂に集めて声を荒げた。

 

「〝ストライク〟と〝ディフェンド〟のパイロットはどこだね?」

 

 その尋問に対し、キラが思わず、素直に手を上げかける。が、これは目を瞑ったまま──どこか作為的で不自然な様子だったが──憮然とした表情のマードック軍曹の、その野太い腕に押し込まれて強引に止められた。

 訳が分からず唖然としたキラであったが、その措置はステラにしても同様だった。彼女もまた手を上げようとしたらしいが、ノイマンに制されてきょとんとした反応を返していた。

 そうして、場に流れた重い沈黙に業を煮やしたように、次の瞬間、ジェラードが近くにいたミリアリアの腕を引っ張り上げた。その顔には下卑た笑みを浮かべられている。

 

「──!」

 

 ミリアリアの短い悲鳴。それを聞いた瞬間、ステラの顔色も変わった。

 立ち上がろうとするが、やはりノイマンが強引に制する。少女の怒りも理解できたが、彼はやはり、何がなんでもステラの突発的な行動を諫めることに専念し続けた。

 

「まさか女性がパイロットだとは思えないが。この艦は、艦長も女性ということだしな……?」

 

 ──あんまりだ!

 だが、堪忍できなかったのはキラの方だ。彼が咄嗟に名乗りを上げた。

 ジェラードは検分の目を向ける。

 

「随分と若いが……成程、きみは〝ストライク〟のパイロットか。──もうひとりは?」

 

 ジェラードが知りたがっているのは、むしろ光波技術を満載した〝ディフェンド〟の方なのだ。

 ジェラードは再びミリアリアの腕を掴み、強引に立ち上がらせた。

 

「連れていけ」

 

 そう指示を出すと、ミリアリアの身体を兵士らが掴んだ。

 ──どこへ連れていく!

 その瞬間、ステラが、名乗り上げるように立ち上がった。マードック達がその瞬間、キラが名乗った時よりも痛恨の表情を浮かべ、ジェラードは慇懃な笑みを浮かべた。

 

「きみか。いいだろう、来たまえ」

「ステラ、キラ!」

 

 ミリアリアが叫んだが、キラとステラが、共に格納庫へと連行されてしまった。

 その場に取り残された全員は唖然としていたが、サイ・アーガイルが、その沈黙を破るように、技術者であるマードックに訊ねた。

 

「あの」

「なんだ」

「どうしてここの人達は、こんな強引なことをしてまで、あの二機のデータを採取したがるんです?」

 

 おおよそジェラード・ガルシアは……いや、ユーラシア連邦は、連合内における自身の発言力を高めるために、大西洋連邦と同じように、画期的にして革新的なモビルスーツを作りたい。

 しかし、あまりにデータが足りない。

 そんな状況で〝ストライク〟と〝ディフェンド〟が己が領域(テリトリー)に転がり込んで来れば、無関心では居られないだろう。

 

「でも、ステラが連れてかれた時、どうしてマードックさん達は」

 

 賢知なサイは、マードックやノイマンの表情が変わったその瞬間を、見逃していなかったのだろう。

 ──それは、ステラが「女の子」だからか……?

 軍という組織は、遥かに女性の人口の方が少ない。

 こんな軍事拠点(アルテミス)などは、とりわけ連合内でも難攻不落の鉄壁を誇るだけに、外部からの接触も少なく、まさに孤立している現状。──こんな拠点で働く兵士達はそれこそ、そういうもの(・・・・・・)に触れる機会も少ないだろう。

 あるいは戦争など、その程度のものなのかもしれない。女性の尊厳などは簡単に踏み躙られ、死んだ方がマシと思える環境に身を貶められることも平気であるのだとしたら。

 ──だから……?

 訊ねるサイもまた、痛恨の表情を浮かべていた。

 

「…………それもある(・・・・・)。けどな──」

 

 マードックが、重苦しげに答えた。

 整備士であるマードックには、わかるのだ。

 〝ディフェンド〟が解析されることで、どんなことが起こるのか。

 

「〝ディフェンド〟は、やっこさんしか持ち合わせてねえはずの光波技術が、完全に応用された機体なんだ」

「え……?」

「つまり、共同体が誇ってた最高の技術が、余所の勢力に渡ってたってことなんだぜ? そんなもん解析されてみろ、連中は黙ってねえよ。……そんな報復が、そのパイロットである、あのお嬢ちゃんに向かねえとも限らねえけどな」

 

 縁起でもない話。──それを聴いて、一同が唖然とした。

 そこへ、ノイマンが補足するように続ける。

 

「大西洋連邦かモルゲンレーテのどちらかが、ユーラシア連邦自慢の光波技術を盗用したんだろう。急を経て入手した技術を搭載したのが〝ディフェンド〟で──だから〝ディフェンド〟は、Xナンバーの中でも最後に造られた」

 

 当初のXナンバーの開発プランに──〝ディフェンド〟なんて機体の存在は含まれていなかった。

 おおよそ、五機の〝G〟の開発途中に、大西洋連邦か〝モルゲンレーテ〟のどちらかが、ユーラシア連邦から、光波技術の詳細データを手に入れたのだろう。

 既に五機の〝G〟は、開発のコンセプトも決定して、着工にも取り掛かっていたために、光波技術を機体に用いるには、新たな一機を増設する他なかった。

 

 そうして開発されたのが、最後の〝G〟である───〝ディフェンド〟なのだ。

 

 その場所に残された、一同が青ざめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムウの指示も虚しく、人質を取られかけたキラ達は、大人しく機体のデータを開示する他なかった。

 データを開示した後、クルー達のいる場所へと廊下を渡っていた。

 その道中──突然ステラの腕を、ジェラードが掴み止めた。

 

「いたッ……」

「えっ……!」

 

 瞬間、キラが表情に露骨な敵意を現し、ジェラードを睨むように見た。

 それに反応した兵士達が、一気にキラを取り囲む。

 

「──おっと、勘違いしないでくれたまえ。解析を終えた結果〝ディフェンド〟には少々、うちの技術者でも納得のいかない部分(・・・・・・・・・)があってね? その部分について、パイロットであるこの少女に、別室で詳しく話を聞きたい(・・・・・・・・・・・・)だけだよ」

「嘘だ!」

 

 キラが叫ぶが、ジェラードの微笑みはこの上なく下卑ていて、とてもそれ(、、)だけが目的だとは思えなかった。

 しかし、周囲には多くの武装兵。キラは抵抗することもままならず、ステラは強引に、その腕を引かれた。

 ステラの悲鳴にも似た短い声が響く。

 

「いや! キラ!」

「ステラ! ステラァッ!!」

 

 キラの懸命な呼びかけも虚しく────そのままステラだけが、地球軍によって連行されてしまった。

 

 

 




エロおやじあらわる……


 ステラの地球軍制服の改造は、ステラ本人が趣味でやっていたことだとは思えません。
 多分、ネオあたりが既に改造されていた制服をプレゼントして、ステラは従順に、それを着ているだけだった、と思うのですが、ナタルのいる〝アークエンジェル〟で、そんなものをプレゼントするバカはいないと思えたので、自分で加工してしまう設定にしてしまいました。

次回。
このまんまでは終わらないステラですよ。
一応言っておきますが(あくまでタイトル通りに)


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