~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『ベルリン市街』

 

 

 アーモリー・ワン事変、通称〝セカンドステージ・シリーズ〟MS強奪事件により──

 

 

 C.E.73年10月2日、ユニウス戦役(仮称)勃発。

 

 

 この二年前における〝ヤキン・ドゥーエ第二次攻防戦〟の折、両軍勢の指導者の戦死直後、クライン派の元ザフト最高評議会議員アイリーン・カナーバの申告により、ザラ派は一掃され、連合軍に停戦勧告を申し出ることによって、戦争は終結に終わった。

 終戦後。パトリック・ザラは戦禍を広げ、多くの犠牲を生んだ戦犯として、民衆からの強い批判を受け皿となり、対極的に、その息子であるアスラン・ザラは、父の凶行を命を以て阻止した英雄とされた。

 ──〝フリーダム〟

 ──〝ジャスティス〟

 ──〝アークエンジェル〟

 それらの名前は伝説として語られたが、そこに所属していたパイロットやクルー達の名前までは、公になることはなかった。唯一、戦犯として裁かれたパトリック・ザラの息子である英雄、アスラン・ザラだけが──〝ジャスティス〟のパイロットとして、世間に公表されたようであるが。

 

 アスラン・ザラが戦死して二年────

 

 それでも世界は────再び過酷な『戦争』の渦中にあった。

 融和による平和と、常に中立を訴え、平和の最後の〝砦〟として存続して来たオーブ連合首長国は、しかし、大西洋連邦をリーダーとする地球連合軍との【世界安全保障条約】を締結し、宇宙に浮かぶ〝プラント〟を敵性国家とし、戦乱に加担する道を選ぶ。

 地球と〝プラント〟の対立は、強く根深く、とどまることを知らない。

 

 

 地球軍によってGFAS-X1〝デストロイ〟が────ベルリン市街に投入されるほどに。

 

 

 ザフトが開発した最新鋭MS──

 ZGMF-X56S〝インパルス〟を駆るザフトレッドは、シン・アスカという名の少年だった。

 当の戦場と化しているベルリンの市街は、反連合感情の強いザフト駐留下の地区とされ、地球連合はそこに、民族浄化を意図した大量破壊兵器である超巨大MS〝デストロイ〟を投入したのだ。

 

 幾重にも炎と黒煙の立ち上がる、狂気の戦場────

 〝アークエンジェル〟より発進した伝説のMS〝フリーダム〟もまた、戦闘の仲裁のために参戦するが、〝デストロイ〟から放出される大出力ビームや陽電子リフレクターの全方位展開によって、制圧は難攻を極めていた。無数の火線が飛び交う中、シン・アスカは〝ウィンダム〟を駆る敵軍士官、ネオ・ロアノークより、〝デストロイ〟のパイロットが、かつて出逢った少女「ステラ・ルーシェ」であるという真実を知らされる。

 

「なんで……なんで!」

 

 困惑に陥るシン。

 ネオが操る紫紺色の〝ウィンダム〟に向けて吼えた。

 

「──『戦争のない、暖かい世界に返す』って! 約束したじゃないかぁ!」

 

 どうして。

 なぜ。

 なんで?

 ──なんでステラが〝あんなモノ(・・・・・)〟に乗っている!?

 ネオ・ロアノークからの返答を待つよりも前に、シンの視界に〝デストロイ〟へと急降下していく〝フリーダム〟の機影が映り込む。瞬間、シンの中に、激しい怒りが湧き上がる。

 

「──やめろォォッ!!!」

 

 シンは焦りと怒りに駆られた。

 〝インパルス〟は途端にビームサーベルを引き抜き、最大速で〝フリーダム〟の進路を妨害する。〝フリーダム〟を駆るパイロットは、コクピットに響いた警告音に身を翻し、その斬撃を回避する。

 シンは憤り、名も知らぬ〝フリーダム〟のパイロットに向けて吠えた。

 

「何にも知らないくせに! あれは……〝アレ〟はァ──!!」

「くッ、何を!」

 

 次々と〝インパルス〟から生み出される光の弧に、やがて〝フリーダム〟が、焦れたように反撃を行った。振り下ろされた斬撃を紙一重で回避し、〝フリーダム〟が、腰部のクスィフィアスレールガンを、サーベルを握る〝インパルス〟の右腕に向けて撃ち放った。

 被弾した〝インパルス〟の右腕は、意図もたやすく肩口から吹き飛ばされ──逃れるように〝フリーダム〟は、一応の距離を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 〝デストロイ〟のコックピット内で、ステラ・ルーシェは、狂気に駆られていた。

 

 敬慕を越した感情で想うネオの〝ウィンダム〟が、白い悪魔〝フリーダム〟に撃墜された。

 間を置かずして、もう一機の僚機〝カオス〟も撃墜されて行った。

 そして今──〝フリーダム〟によって、右腕を撃ち落とされたモビルスーツもいた。おそらくザフトの…………敵機だろう。

 おぞましい爆発が彼女の視界に入るたび、彼女は次第に、理性をなくして行った。

 

 ──誰かが『死』んでいく……

 

 死んでいく……?

 〝デストロイ〟には────わたしが乗っている。

 ──ステラは、殺す側?

 だからわたしも、殺される?

 

 ──だから、ステラも『死』ぬ……?

 

 いやだ。

 いやだいやだ。

 死にたくない。

 こわい──!

 

『ステラも、これに乗って戦わなきゃ──でないと〝こわいモノ〟が来て、わたし達を殺す』

 

 〝怖いモノ〟──?

 

 

 

 

 ネオを殺した……〝フリーダム(・・・・・)〟────!!

 

 

 

 

「おまえ、は…………ッ!!」

 

 黒を基調としたボディに、白の彩色、残酷な青い翼。────忘れない!

 何度も戦場に舞い降りた、悪魔のモビルスーツ!

 

「うああああああッ!」

 

 喚きと共に〝デストロイ〟は、指先からドライチェーンビーム砲を放った。

 〝フリーダム〟は下空へ飛躍し、これを容易く回避する。機体を翻すと同時に全砲門を開き、最大火力のハイマット・フルバーストを〝デストロイ〟に撃ち放った。

 正面から迫る眩いまでの光渦に、ステラは思わず目を瞑った。

 だが──〝デストロイ〟に搭載された、全方位陽電子リフレクターが、彼女の命と、機体の装甲自体を堅牢に防御した。

 

「────!?」

 

 しかし、〝フリーダム〟続けざまに、信じられぬ速度で追撃を仕掛けて来た。

 それは、ステラがメインカメラを覗いた瞬間だった。

 青い翼が彼女の眼前に顕現し、〝デストロイ〟のメインカメラ──頭部は、ラケルタ・ビームサーベルの斬撃を受け、削り取られるように破損した。

 陽電子リフレクターの展開すら間に合わない、ほんの一瞬の手際で成された業だった。

 

「くぅッ!」

 

 小さく毒づき、ステラはすぐさま、サブカメラにモニターを移す。

 ──なんで! なんで〝オマエ〟はァァッ―――!!!

 腕部を分離させ、〝デストロイ〟は自律させた両手を〝フリーダム〟へと向かわせる。

 

 ──墜ちろ、墜ちろォォッ!!

 

 強い。

 堕ちない。

 怖い。

 ステラは泣き、喚き、怖い怖いと何度も叫んだ。

 しかしそんな時、聞き覚えのあるような声が────〝デストロイ〟のコックピット内に響いた。

 

〈──ステラァァァァッ!!〉

 

 その声に注意を引かれ──戦闘中のステラが、わずかな反応を示す。

 通信先は、腕を切り裂かれた〝インパルス〟だった。

 

〈ステラ、ステラ! ────俺だよ、シンだよ!!〉

「シ、ン……?」

 

 ──シン?

 どこかで、聞いた名だろうか? いや、聞いたことなど、ないはずだ。

 だが、なにか引っかかる。

 ううん、やっぱり……聞いたことはある。

 

 被弾した状態で──〝インパルス〟はゆっくりと〝デストロイ〟へと接近し始めた。

 ステラは恐怖に怯え、敵機(インパルス)に向かって、イーゲルシュテルンを連射する。

 しかし、弾幕はそれを横切るだけで、なぜだが、トリガーを引く手に力が入らない。

 照準が定まらない、否、手が定めようとしなかったのだ。

 〝インパルス〟は避けることもせず、〝デストロイ〟のコックピット前で停止した。

 そして、シンと名乗る少年は、こちらに向けて呼びかけてきた。

 

〈君は死なない! オレが────〉

 

 〝インパルス〟は失った状態の隻手で、〝デストロイ〟に語りかけるようにコックピットの部位を手につけた。

 

〈─────オレが守るからぁッ!!〉

 

 そう言われた瞬間、ゆりかごで失ったはずの記憶が蘇った。

 シン────。

 護る、って…………。

 

「シン……シン!」

 

 ステラの安堵の呟きが、たしかに──「シン」と言った。

 彼の名を、呼んだのだ。

 シンはモニター越しに笑顔を見せ、ステラもシンに、それを返した。

 

 

 

 暖かな時間が────二機の間に、たしかに流れた。

 それ、なのに────……。

 

 

 

 次の瞬間〝蒼翼の悪魔〟が────ステラの視界に映り込んだ。

 ピシっ、と音を立て、暖かな時間は崩れ去った。

 ステラから映り、〝インパルス〟の機体の影に滞空している「敵」の名は…………!

 

「フリー……ダム……ッ!」

  

 〝インパルス〟の後ろには────青い翼の、白い悪魔が映り込む。

 ──そいつは、ネオを殺した!

 じゃあ、やがては〝インパルス〟も……シンだって……!

 

 ──させないッ!!

 

 無防備な〝インパルス〟の背後に浮遊する〝フリーダム〟に向け、ステラは大きく反応した。

 

 

 

 

 

 

 

 いったい、何が起きている――?

 キラ・ヤマトは──その場で、何が起きているのかが把握出来なかった。

 

 ザフトの〝インパルス〟は、何かがきっかけで、途端に反応速度が低下し、錯乱したか、突如〝フリーダム〟へと攻撃を仕掛けて来た。

 やむを得ず、キラが反撃に出ようとすれば、今度は〝巨大モビルアーマー〟の目前まで無防備な状態で迫って行った。

 

 ──驚いたのは、次の瞬間だ。

 

 〝インパルス〟が接近したことで──それまでは、ただの大量破壊兵器でしかなかった〝ソレ〟の挙動が、見違えるまでに落ち着いたのだ。

 ──それはまるで〝インパルス〟と呼応するかのように。

 執拗なプラズマ複合砲による攻撃も止まり、何が起きているのかがわからず、キラは一旦、サーベルやビームの武装を構えから降ろした。

 キラは〝フリーダム〟の武装を握る腕を降ろしたまま、〝インパルス〟の後ろに位置取る。

 ──和解が出来るような相手ならば、文句はない。

 〝インパルス〟のパイロットが何をしているのかは分からないが、それに、しばし委ねて見ることにした。

 

 ──しかし結局、ダメだった。

 

 静止していた〝ソレ〟が突如、我に返ったように動き出す。

 〝インパルス〟は狼狽した様子だが、たったそれだけで、何かをしようとはしなかった。

 ──〝アレ〟が再び、〝キミ〟に砲門を開こうとしているのに!!

 咄嗟にキラは〝フリーダム〟を加速させていた。

 スーパースキュラを収束させている〝デストロイ〟に向けて急降下を開始する。

 

「クソッ! もうやめろォォォッ!!!!」

 

 〝インパルス〟が巻き込まれる!

 そうなる前に、〝フリーダム〟はバーニアの全推進で〝デストロイ〟へ向かった。

 

 二刀のサーベルを構え、光の剣が────禍々しい巨悪の機体を貫く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンの目には、その時何が起きたのかは分からなかった。

 今、この瞬間、ただ見えるのは。

 サーベルが一閃され、ステラの乗ったそれが崩壊していく姿だけ──

 

「ス、ステ────ッ」

 

 爆発の余波で、吹き飛ばされる〝インパルス〟──

 

 

「ステラァァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!!!!!?」

 

 

 鮮烈な爆光と閃光が、荒れ果てた大地を覆う。

 まるで周囲全てが浄化されたように、最期を迎えたステラの視界は、まるで天国のように純白に澄み渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「シン……ステラ、まもる、って……」

 

 その言葉を聞いた時、嬉しかった。

 助けてくれた……救ってくれたのは、シンだった。

 ──だからシンに……守って欲しかった。

 「死」ぬことが、怖かったから……。

 

 

 ―――ステラは、どうして「死」ぬことがこんなにも怖いの?

 

 

 どうして皆は、「死」っていう言葉を聞いて、平気でいられるの?

 みんな、それぞれ「死」は怖いの?

 でも、それを聞いても、顔をしかめたりするだけ……その、言葉自体には怯えない。

 それを間近に、身近に、実際に感じ取らないと、誰も怖がったりはしないの。

 

 ──どうして?

 

 「死ぬ」はいやだけど、「まもる」って言葉を聞くと本当に落ち着くの。

 ステラ、もう怖くないんだって。

 もう何も、ステラを脅かさないんだって。

 

 

 

 

 

 だから────「まもる」って言葉、すき。

 

 

 

 

 

 ――『なにがあっても、ぼくがまもってやる』

 

 その瞬間、ステラの脳裏に何かが浮かんだ。

 まだ小さい男の子が見える。

 年齢は…………六歳、前後だろうか。

 ステラには、幼少の頃の記憶はあまり残されていなかった。

 

 ──「施設」で育てられたらしい(、、、)けれど、そこで具体的に、何をやったのかも知らないし、思い出せない。

 

 その記憶が、ないからだ。

 ただ判っているのは────実は私はコーディネイター(・・・・・・・・)で、「ステラ・ルーシェ」と云う名前を持っている、ということだけ。

 ただ、それだけの記憶・情報しか持っていない。

 

 誰だろう……この男の子は……?

 黒い髪に、緑色の瞳──きっと、初めて見る男の子だろう。

 でも、見たこともないはずなのに、すごく懐かしい──

 ステラは不意に、そう感じた。

 でもこの男の子……「守る」って、ステラに言った。

 

 ―――『おにい、ちゃん…?』

 

 無意識に、ステラの口から言葉がこぼれた。

 何かきっかけがあったわけでもない、口が勝手にそう呟いているのだ。

 そうだ。

 ゆりかごで、彼女は記憶の多くを操作され、そのほとんどを失っていた。

 

 ステラ・ルーシェは、コーディネイターである。

 

 ステラには、パパとママがいた。

 おにいちゃんがいた。

 一緒に暮らしていた。

 

 

 兄の名は確か、アスラン・ザラだ────。

 

 

 ステラはその時、何もかもを思い出した。

 経緯はどうであれ、自分はかつて、地球連合の中の軍事結社【ブルーコスモス】に誘拐されたことがある。

 

 そこから────〝わたし(ステラ)〟の人生は狂った。

 

 自分自身はコーディネイターでありながら、コーディネイターは敵だとして、洗脳に近い教育と訓練を受けさせられたこと。

 そして、良いように「使われていた」と言うこと。

 アスラン・ザラと云えば、そう、その名前くらいは聞き覚えがある。

 前大戦で、何か大きなことを大成した人……英雄だっってことくらいは、知っている。

 だが、そもそもステラは、前大戦の話などには興味はなかったし、それでも名前を憶えているということは、その人物は、それなりに大きな何かを大成させたということだ。

 

 

 そして、その人が既に亡くなっている(・・・・・・・・・)ということも……知っている。

 

 

 ねえ。

 ねえ……。

 そうだよ……。

 おにいちゃん…………どうして──「ここ」にいないの?

 

 シンもそうだった。

 でも、おにいちゃんだって、昔、ステラを「まもる」って言ったくれたよね……?

 

 忘れていたお兄ちゃん。

 思い出せなかったお兄ちゃん。

 

 どうしていなくなっちゃったの?

 どうして死んだの?

 どうしてステラを置いていっちゃったの?

 

 助けて……!

 ステラは、死にたくない!

 ステラを守って! シン、おにいちゃん──アスラン!!

 

 

 ここにいない兄に向かって、ステラは叫んだ。

 私が「まもる」って言葉が好きな意味がわかった。

 

 

 

 

 ──それは、あなた(・・・)がかつて、私に言ってくれた言葉だったから…………!

 

 

 

 

 ──守って、わたしを。

 ──もう一度でも、会いたい。

 

 

 私があなたを思い出した頃に、あなたはもう、死んでいた。

 そんなの、いやだ……!!

 

 

 

「やり直したい」

 

 

 

 ──守られたい。

 兄が約束してくれた言葉を、思い出したから。

 兄がきっと、いつか、私を守ってくれると信じていたから。

 

 ──守りたい。

 手遅れだったなら、アスランがもう死んでしまったのなら、わたしが助けてあげればいいから。

 その瞬間から、救い出してあげればいいから。

 

 

 そう思った時、ステラの周りが、急に輝き始めた。

 

 眩い光はステラの体を包み込む。

 

 そしてステラは────光の中に消えて行った。

 

 

 

 




全然公式の読者を意識してないほどのご都合主義……無茶苦茶な設定(汗)

サービスとエゴでいったら1:9ぐらいのこんな文章を掲載していいのか……。



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