~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『ステラ』

 

【ステラ・ルーシェ】

 

 ────C.E.57年 4月4日 生まれ。

 第一世代コーディネーターであるパトリック・ザラとレノア・ザラの間、ザラ家の長女として生誕し、幼い頃よりふたつ年上の兄、アスラン・ザラを含めた四人家族で〝プラント〟に暮らしていた。

 頭脳明晰、沈着冷静なアスランに比べ、ステラの方は純粋無垢、かつ天真爛漫に育てられた。それもこれも、柔和で寛大な母──レノア・ザラの教育方針が尊重されたためである。

 厳粛者のパトリック・ザラは、そんなステラの育ちようにどうしたものかと云った風な表情を浮かべながらも、一家の長男として英才教育を徹底させたアスランとは好対照に、ステラへの教育は穏便であったとも云われている。

 

 ある日のこと──

 自然回帰を訴えたブルーコスモスによるコーディネイター排斥運動、つまり、突発的なテロ事件に遭遇したパトリックの意向により、ステラは母と兄と共に、月面都市〝コペルニクス〟へ移住する。

 だが、そのさらなる後、地球と〝プラント〟間で情勢が悪化すると、パトリックはもう再び、ステラ達を〝プラント〟へ移住させた。

 

 ステラは母と共に〝ユニウスセブン〟に移住し、アスランは進学のため別のプラントへと移住したため、アスランとはしばらく会えない日々が続いた。

 

 それから二年。

 ────C.E.70年 2月14日のバレンタインデー。後に【血のバレンタイン】と呼ばれた悲劇が起きた日、ステラは早朝のシャトルに乗って、当の〝ユニウスセブン〟を後にしていた。

 

 理由は『その日がちょうどバレンタインデーである』ということにあった。

 当時、ステラは齢十二歳を迎え、本気で恋愛をするような年齢でもないが、それにしたって年頃を迎えた少女であることに変わりはなかった。好意を寄せたり、あるいは恋しく想える男の子くらい現れたのではないか……? レノアはふと、チョコレートは作らないのかと、この数日前に訊ねていたのだ。

 

「女の子はね、バレンタインデーに、気になる男の子にチョコレートを渡すの。ステラには、チョコを渡したい男の子はいないの?」

 

 愛娘に、意中の男の子がいると聴けば、母として、嬉しいことのはずだった。

 だからこそ、興味本位で訊いて見ただけだったのだが、

 

「ステラ、アスランに作る」

「……えっ!?」

 

 普段は温和な母が表情を崩壊させた様を、初めて見たステラであった。

 ──でも、まあ、十二歳ならまだ大丈夫よね……。

 決して、深い意味はないのであろうと考えたレノアは、それに微笑んで返した。

 だからステラは、別のプラントに留学中のアスランへチョコレートを届けるため〝ユニウスセブン〟を離れていたのだ。シャトル発進後、一発の核ミサイルが〝ユニウスセブン〟に着弾することなど、全くもって考えもせず。

 

 

 核ミサイルが弾け────発進直後のシャトルは、間一髪で難を逃れた。

 

 

 しかし、爆発の余波でシャトルは大きく損傷し、制御もままならず、宇宙を放浪することになった。

 目的地である〝プラント〟──アスランの元へ到着することはなかったのだ。

 シャトルは宇宙で難破した座礁船となり、その後、近隣に停滞していた地球軍艦に保護される。

 

 核ミサイルの衝撃で、ステラはシャトル内で気を失っていた。

 目が覚めると、乗客の中で自分ひとりだけが、異なる場所に移されていた。

 

 ──いや、そんなことは、どうでもよかった。

 

 あの衝撃は何だったのか?

 〝ユニウスセブン〟はどうなったのか?

 母は……レノアは無事なのだろうか?

 拘束状態にあったステラは、感情を剥き出しにして叫ぶように、目の前の地球軍兵士に問うた。

 やがて地球軍の兵士から突きつけられた無情の現実。──〝ユニウスセブン〟は壊滅したこと、それゆえ母が、宇宙の彼方に消えて行ったこと。

 

 

 

 つまり、みな『死』んだこと────

 

 

 

 コーディネイターを乗せていたシャトル。しかし、ステラだけは「ザラの娘」であることが発覚し、生け捕りにされた。

 ステラを除く、他の乗客は全員、殺された。

 コーディネイターだから、という──それだけの理由で。

 

 最愛の母の『死』──

 周りにいた多すぎる乗客達の『死』──

 ステラは圧倒的にも残酷な現実に、人格が崩壊したように泣き叫んだ。

 

 何時間も叫び果て、やがて現実を受け入れることしか出来なくなった彼女は、魂が抜けたように、虚脱状態に陥った。

 その後は地球軍の手によって、秘密結社──ブルーコスモスに身柄を引き渡される。

 高い身体能力、高い戦闘能力。

 兄の請け負いにも、群を凌ぐポテンシャルを秘めたステラは、ブルーコスモスの洗脳の末、みずからを地球軍の軍下に置くのだった。

 

 

 生体CPU、強化人間。

 ────『拡張された者(エクステンデット)』として。

 ブロックワードを、彼女の心に深い〝傷〟を刻み込んだ言葉──『死』とされて。

 

 

 それから三年近く。

 今までの記憶の一切を失った彼女は、上官である、ネオ・ロアノークの指示・命令を従順に受け入れる傀儡となっていた。

 

 二年前の大戦。

 戦犯パトリック・ザラ。

 英雄アスラン・ザラ。

 ふたりの「死」について、ふと耳にしたことはあったが、当時の彼女にとっては、それは何の価値もない情報でしかなかった。

 それゆえに、ゆりかごにて、適応のために記憶から抹消される。

 

 その後、戦略装脚兵装要塞GFAS-X1〝デストロイ〟のパイロットとなるも、混乱を除する為に現れた〝フリーダム〟によって撃墜、戦死した。

 

 

 


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