~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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第一篇
『ウェルカムバック』A


 

 

《ハロ、ハロ!》

 

 微睡みの景色、ステラはそこで目を覚ました。

 つい先ほどの自分は────〝フリーダム〟に〝デストロイ〟の身ごと貫かれ、今際にあったはずだ。

 そんな記憶と矛盾するかのように、ステラは今、別の全く新しい景色の中にいた。

 

 中立のコロニー、ヘリオポリス。

 

 広がる建造物と、途切れ途切れに実る新緑。

 ステラは朦朧から意識を取り戻し、ぴょんぴょんと跳ねながら、せわしなく話しかけて来るそれに目を向けた。

 

「ハ、ロ……?」

 

 丸い体に、絵に描いたような単純な顔。

 どこかのマスコットキャラクターのような電子工作された精密な機械。

 静穏を連想させる海色に彩られたそのハロは、目覚めて間もないステラの周りをぐるぐる廻っていた。

 

 ステラが目を覚ましたのは、ヘリオポリス内の公園だった。

 周りには誰もいず、地に横になる形でステラはそこにいた。

 

《認めたくないッ!》

 

 球体のハロが跳躍する度に、その効果音がビョンビョンと鳴る。

 ステラはキョロキョロと周りを見渡す。一般ならパニックに陥るのだろうが、ステラはまだ夢現が区別出来ていないのか、いまだに「ぽわわ~ん」としている。

 

《オマエ、元気か? ハロ、元気!》

「ステラ……」

 

 ふと自分の名前を呟き、自分の両手を見つめてみた。

 しかし、特に負傷もなく、ふと自分の名前を呟き、自分の両手を見つめてみた。

 何が起きているのかが、まったく理解出来ていない。

 

《ステラ、願った! 想い、応えた! 届いた!》

「?」

 

 この時、ステラは失っていた記憶を取り戻していた。

 エクステンデットであった記憶ではない、違えられていた記憶──。

 そう、それは自分自身がザラ家の一員であり、自分には、兄も両親もいたのだという、偽りなき真実の記憶。

 考えても見れば、この〝海色のハロ〟は────アスランがステラのために作ってくれたものだった。

 無くしたのは、血のバレンタインで地球軍に捕らえられてからだ。

 海が好きだと言うステラに対し、当初アスランは「海の象徴」であるジュゴンを模した電子工作を考えていたらしいが、結果的に設計のコンセプトに無理があったためにハロ。それも「海色」で我慢したアスランの電子工作作品。

 アスラン自身、電子工作は昔からの特技であり趣味である為、ジュゴンが作れないと理解した時はかなり悔しがっていた。

 

 そんなハロは片言で、チカチカと言葉の先を続けた。

 

《アスラン助ける、今から!》

 

 その言葉にやっとハッとするステラ。

 〝フリーダム〟に身を貫かれ、際に立ったステラがその時、思ったコト。

 

『もう一度やり直したい』

 

 ピュアだった。

 際に立って初めて全てを思い出すなんてと後悔し、今までの全てに謝りたかった。

 ――記憶を失ったまま生きてきてしまったから。

 ――兄がもう、この世にいないから。

 ――シンともう一度、ちゃんとお話がしたかったから。

 だからそう思った。

 ハロは、その想い願いは「応えられた」と言うのだろうか?

 

《ステラ、死んでない、生きてる! だから、アスラン助ける! やり直す!》

「……ステラが?」

 

 アスラン・ザラは──第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で戦死したと言われている。

 だとしたら、ヤキン・ドゥーエ戦というのは、今から、どのくらい後のことになるのだろう?

 

 ステラには記憶がなかったため、ヤキン・ドゥーエ戦役の話はまったく覚えていない。そのため、兄が生前に、どんなことをして来たのかも全く知らないのだ。

 もっとも、かつての彼女は、目の前の敵を倒すだけの機械人形にも似ていたので、携わったユニウス戦役についても、情勢などについて詳しくは何も知らないのだが。

 

 ―――おにいちゃんを助けることが出来れば、未来は変わるの? ステラも、死なない? みんな、護れる?

 

 兄がいれば、ステラを守ってくれるのだろうか?

 シンともう一度、今度はきっと、平和な時に会いたい。

 そう思えば、ステラの覚悟は決まる。

 

《ステラ、アスラン救う。守る!》

「まも、る」

 

 その言葉を聞くと、ステラの中からゾクゾクと実感が沸いてきた。

 私は今、何かを「守るため」にここにいるのだと。

 

「うん、まもる……!」

 

 ステラがそう言うと、コトバが通じたからか、ハロは嬉しそうにピョンピョン跳ね回り始めた。

 ステラは動き回るハロを両手で捕まえると、今について訪ねた。

 

「ここ、どこ? ステラ、何すればいい?」

 

 記憶は戻っても、ステラは長い間、誰かに何かを与えて貰わなければ何も出来なかった。

 例えば、ネオに命令を貰わなければ戦えなかったように…。

 いきなり自立しろと言われても、それは今の彼女にとっては無理な話である。

 

《ここ、ヘリオポリス! 今、さっきの二年前!》

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役が始まったのはC.E.70年2月11日。

 血のバレンタインは、その3日後の出来事だ。

 それから時を経て、新星攻防戦がC.E.71年7月に起きた。

 これは資源衛星〝ボアズ〟を巡る、ザフトと連合軍の戦いだ。

 

「なんもわかんない…」

《てやんでいッ!》

 

 怒られた。

 何もわかんないのは、本当なのに。

 

 こんな事になるのなら、予めヤキン・ドゥーエ戦役で、兄がどんなことをしたのかを知っておくべきだったと今更ながらステラは思った。

 イージスを強奪、ストライクを討ち、ジャスティスのパイロットになる。

 そんな情報を知っているだけで、この先随分楽になっただろう。

 しかし、過去に来てからではもう遅い。

 

「……ステラ、着替えてる」

 

 服装は、パイロットスーツではなく私服になっている。

 アーモリーワンに潜入した時に着用していた、ヒラヒラ舞うスカートが印象的なその服なので、どこへでも動き回る事は出来るだろう。

 

「……おにいちゃんを探す」

 

 言うと、ちょこんと座り込んでいた体を立ち上がらせる。

 

 何の因果でヘリオポリスなるコロニーにいるのかは知らない。

 

 しかし――きっとこの場所は、なにかしら兄と関係があるはずだと信じて、ステラは人のいる街の方へと駆けていった。

 

 

 


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