~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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第三篇
『深淵の孤独』


 

 昨今において、人型機動兵器と呼称されるモビルスーツ。

 しかしそれは、本来の定義で云えば「地球外探査用宇宙機器」──つまりは一種の宇宙服だった。

 時代を遡ること5年──

 コズミック・イラ史上、初めて設計されたモビルスーツ〝ザフト(・・・)〟は、パワーローダーの役割を担う船外用作業服として活用された。しかし、地球と宇宙間で戦争の機運が高まると、モビルスーツはその汎用性ゆえに軍事転用される。そしてこれが、後の戦闘用人型機動兵器〝プロトジン〟の開発経緯である。

 今でこそ戦略機動兵器──言葉を選ばずに云えば戦争の道具──として認知されるモビルスーツは、しかし、原点を辿れば宇宙への冒険──木星探査という歴史的偉業を成し遂げたジョージ・グレンの成功に肖ろうとした、その結晶だった。

 

 〝ジェネシスα〟もまた、そうした宇宙への冒険と開拓のために建造された、ザフト管轄の大型実働施設のひとつである。

 

 ソーラーセイル。そう呼ばれる科学技術は、太陽などの恒星から発せられる微粒子──たとえば光やイオン──を推力に変換するものである。

 エヴィデンス01の発見以降、ザフトはこのソーラーセイル技術を応用して、戦前から外宇宙探索、および恒星間探査計画のための宇宙船加速装置として、推進用レーザー発射場である〝ジェネシス〟の基礎開発を行った。そしてこれは、元が宇宙船を送り出すための施設であったことから、現在は軍事工廠として利用される運びになっていた。工廠の内部にはザフトの重要機密に相当する最新鋭のMS等が整備され、警備には〝プラント〟本国から派遣された特殊部隊が着任していた。

 そしてその部隊は、ザフトの中でも飛び抜けた実力を持つトップエリートで構成された、軍事作戦のプロフェッショナル集団でもあった。

 

「隊長、本国から通信です」

「ラクス・クラインが見つかったのか?」

「そのようで」

 

 声を発したのは、顔面から全身にかけて強烈なタトゥーを施した男。豹を思わせる縞模様が顔面を横断し、独特というより、奇天烈な存在感を発している人物だ。

 男の名はアッシュ・グレイ。この〝ジェネシスα〟の警備部隊の長にして、ラクス・クラインの抹殺指令を本国から仰せ付かる暗殺部隊の長でもある。そんな彼の部下であろう黒服の副官は、慇懃な口調で報告を続けた。

 

「現場に急行するよう、ザラ議長から直々に指令が出ています」

「今からか? そりゃ無理な相談だ」

 

 指定されたポイントを確認するが、そこは〝ジェネシスα〟から相当の距離がある場所だ。宇宙を跨ぐために足自慢のナスカ級を使ったとしても、最低数一〇分は掛かる計算だろう。

 ──その間に、目標に逃げられてしまうのではないか?

 そんな懸念を、しかし、彼の副官は誇らしげに否定した。

 

「問題ありませんよ。この〝ジェネシスα〟と隊長のモビルスーツがあれば、ものの数分で到着できることでしょう」

「ああ。ライトクラフトを使うか──」

「我々は後に続きます。国家反逆罪の女を、締め上げる時です」

 

 その言葉に、男はえげつない笑顔を浮かべた。

 

「また、棚のコレクションが増えちまうなァ」

 

 アッシュは変態である。彼の自室には実に多くの人形が蒐集されているのだが、そうして並べられた人形の頭数は、彼がこれまで手に掛けて来た人間と同数──つまり彼には、みずからが戦争によって殺してきた人間と同じ数だけを、そこに並べる性向があったのだ。

 そんな彼の目の前、工廠区画には戦艦と思しき巨大な機動兵器が横たわっていた。全長にして、おおよそ通常規格のモビルスーツの二、三倍近くある大型の艦艇らしきものだが、それを戦艦と云い切ってしまうには奇抜すぎるデザインをしている。機体前面に向かって折り畳まれた鋭利な四本の鉤爪は、大西洋連邦から奪取した〝イージス〟と大変酷似している機種は、ザフトが開発した最新鋭モビルスーツであり、ほんの数日前にロールアウトされたばかりのアッシュ専用機だった。

 超大型の、漆黒の機生獣──その名を〝再生〟と冠される。

 

「このオレと〝リジェネレイト(・・・・・・・)〟が、全てを殺戮してやるよ」

 

 ラクス・クラインの暗殺部隊が、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 かつて、パトリック・ザラが別邸として所有していた貴族的な屋敷は、艶やかな造りだ。パーティホールは一〇メートル近い高さの天井を構え、豪奢な銀のシャンデリア、ステージの最奥には中世絵のタペストリーが描かれている。床一面に敷かれたレッドカーペットと、ステージの下手側は採光ガラス越しにファウンテンが飾られた大きな庭園を望むことができる。 

 外界と隔絶された幻想的な雰囲気は、多くの者が映画や歴史書の中でしか目の当たりにすることがないようなものであるが、それもこれも、今となっては伽藍堂だ。この屋敷の近隣には多くの名士が居を構えていたはずだが、いったい何が起きたのか──打ち捨てられ、再興されることもなく緩やかに滅んでいったこの土地は、人っ子ひとり近寄らない閑散地帯となっていて……いや、だからこそラクスがその目立ち過ぎる身を隠すには最適だったのかも知れない。

 歩を進めるたび、じゃり、とガラスの破片が割れた音が鳴る。一瞬そちらに気を取られたが、ステラは気持ちを改め、そのまま真っ直ぐにラクスの方へ向かって歩いた。桃色のハロがラクスの許まで飛んでゆく。軽快に飛び跳ねるハロを受け止めたラクスは、にっこりと笑って云った。

 

「やはり、あなたが来てくださいましたのね」

 

 ステラが来ることを予知していたような口調で、ラクスは声を発した。このときの彼女は、たとえ悠然としたダンスホールの中央に在っても決して浮いたりすることのない、幻想的なドレスにその身を装っていた。

 滑らかな桃色の長髪は二つ結いにされ、純白とまでは云わないにせよ、白と桃色を基調としたドレスに身を包むその姿は、たとえ彼女の存在を知らない者であっても、これを歌姫と形容させてしまう程の説得力ある風貌だ。

 

「どういうこと、ラクス」

 

 ステラはゆっくりと歩を進め、ステージの壇上まで跳躍する。もの柔らかそうなその小さな掌には、しかし、セーフティを外した拳銃が握られていた。

 

「ラクスが軍の機密を地球軍に流したって、みんな云ってた! どうして……どうして〝フリーダム(あんなモノ)〟を解き放ったりしたの?」

 

 問いかけに対して、ラクスは答えなかった。彼女は優しく微笑み返しながら、ステラを見据えて動かない。

 心の中では、その言葉を否定して欲しかったのだろう、ステラは思うような回答が得られずに、これをもどかしく思った。

 

「あのモビルスーツがどんなものなのか、ラクスは知ってるの」

「知っていますわ。あれが持つ、大いなる力も──」

「……うそだ。ラクスは、何にも知らないんだ……」

「そんな風に決めつけられては、何も話せませんわ?」

「だってっ!」

 

 感情的に、ステラは云い募った。

 ──ラクスは、〝フリーダム〟がどれだけステラに怖い思いをさせたか知らないんだ……!

 それは事実にすると本当に当たり前のことで、それ以上に、ステラ個人の都合でしかなかったが、このときのステラを怒らせるには十分な理由ではあった。

 

「あんなものが出てくるから、みんな混乱するんだ……ステラも!」

「地球軍か、それともザフトか。世界が二色に塗り分けられようとしている今、ザラ議長閣下の下で戦う貴方の目に、あの〝フリーダム〟はたしかに異端であるように映るのでしょう……」

「わかってるなら、どうして……!」

「理由をお求めなら答えましょう。従うままに戦い続けるだけでは、守れないものもあるからですわ」

 

 ──守れないもの?

 ステラは、その言葉に口内で反芻した。

 

「コーディネイターが勝てばナチュラルは滅び、ナチュラルが勝てばコーディネイターが滅びる。敵を倒すまで終わらないこの戦争を、わたくしは一日でも早く終わらせたいと考えています」

「……!」

「命を守るために命を散らす矛盾。相手の明日を叩き潰すことでしか、みずからの未来を勝ち取れない現実。このようなことを続けた先に、本当に平和が訪れるでしょうか?」

 

 少女から一転した聖女のように淑やかな声音で、ラクスは淀みない言葉を紡ぐ。

 それをこのとき耳にしたステラには、そんなラクスの声音や言葉が、人を導き惹き付ける何らかの不思議な力を宿しているようにも感じられた。あるいはそれは、平和の歌姫という神秘の偶像だけが持つことを天に許された、遺伝子上の特権であるかのようにも。

 

「みずからと異なる者を傷つけ、その者の命を奪い合う。そうしなければ、守りたいものすら守れない現実──これが幸福と?」

 

 ステラは、何も答えなかった。答えられなかった、というべきか。

 ──そんなことをステラに訊いて、どうしようっていう?

 何が最善で、何が幸福なのか? そんなことは、そもそも戦場の兵士達の考えるところではない。戦時に生きる軍人は、ただ命令に従って動くだけの歯車でしかないのだから。

 とはいえ、今のステラにも分かっていることがある。ただ敵と撃ち合うだけの世界が幸福であるはずがない。しかし、すべてを一緒くたに考えているのは、誤解を孕むことだってあるはずだ。

 

 ──敵を撃っても幸福(しあわせ)にはなれない。

 ──でも、そうでもしなきゃ、守りたいものは守れない。

 

 結局、戦場の兵士達は繰り出される砲火から己を生かすために、そういう生き方を選ぶしかないのだ。

 ステラがその手に銃を取り、モビルスーツに乗って戦う動機は、ごく個人的なものだ。命を賭けて戦うのだからこそ、彼女自身が偽善とは理解していても譲ってはいけない最低限の良心は持ち合わせていたい。強化人間や大量殺戮兵器を平然と造り出す地球連合は戦争を悪しき方向に進めたがっているのだと、自己陶酔のように思い込んでいたいだけなのである。

 だからこそ、今は父を信じて〝プラント〟のために戦うより道はない。清く正しい軍勢などない、ならばなおのこと、善悪の判断に意味などない。結局、敵を倒すことでしか生き延びれない時点で、地球連合もザフトも同じ穴の貉なのだ。

 

「駄々を捏ねても、何も出来なきゃ一緒だよ」

 

 そういう意味で、ステラの目にラクスは勝手に映る。目の前に広がる現実を斜に構え、そんなものは間違っていると言い張るだけで──

 

「だから、これから発つのでしょう? 手遅れに、なる前に」

「……やめてよ……」

 

 ステラはかぶりを振る。これ以上の大切な何かが、変わっていくことを彼女は恐れた。懇願にも似た悲痛な声を上げる。

 

「いかないで……。ラクスは、ステラの傍にいて!」

 

 激したように、ステラは叫ぶ。

 戦乱に身を投じてからというもの、ステラの人間関係はことごとく断絶していった。優しかったアスランは豹変し、ニコルは行方不明になってしまった。

 ──大切な親友だった、キラだって殺されてしまった!

 非情な現実は、ステラが信頼していた者を次々に取り上げ、彼女の中に寂寞感と孤独感だけを植え付けては募らせた。

 

(だからもう、変化なんていらない! ずっとこのままでいい……!)

 

 ただでさえ心細い今、ラクスまで遠くに行ってしまうしまうこと──

 これを、ステラはひどく恐れたのだ。

 

「これ以上、何も起きなくていい。何も変わらなくていいの! ラクスだけはそのままで──ずっとステラと一緒にいてよ……」

「そういうお考え方は、人のためになりませんわ」

「どうしてそんなこと云うの! いつもみたいに、ステラに優しくしてよ……っ!」

 

 アスランも、ニコルも、キラも。

 そして、ラクスも──?

 

「どうしてみんな、ステラから離れていこうとするの……!?」

 

 現状を繋ぎ止めていたい、その一心でステラは云った。

 これまでに起こった悲劇、その全てを諦めたような思いで、ステラはラクスに訴えかける。ラクスさえ傍に残ってくれたら、ステラはもう何も望まない。友達も、家族も、ぜんぶ諦めるから──せめてラクスは。彼女だけは。

 

「ラクスが反省してくれたら、もう怒られたりしないから……! ぜんぶ許してくれる(・・・・・・)って、お父さんはそう約束してくれたから!」

 

 それが、父と交わした約束だ。ステラがラクスと接触することができれば、その働きによって彼女への嫌疑を取り払う。ラクスに掛けられた一切の疑惑を、誤解だったと認めてくれるのだと。

 ──だからステラはここに来た。その言葉を信じて、ラクスを連れ戻すために!

 だがラクスはそれを聞いて、なぜか憐れみの目をステラに向けて来るばかりだ。なぜ? ステラは本気で云っているのに!

 

「ステラにはわかるの! 秘密のモビルスーツを勝手に盗むってことが、どんなにいけないことなのか!」

 

 それは彼女自身が、過去に犯した罪だから。

 

「その手引きをしたラクスが、どれだけ悪いことをしちゃったのか! でも──」

「──わたくしは、手引きなどしておりません」

 

 ステラの言葉を遮る非礼を犯してでも、ラクスは返答する。

 まだ言い訳をするのか──! 尚も現実を受け入れないようとしないラクスへの怒り、ステラは感情のままに云い募ろうとした。

 けれども次の瞬間、ラクスは被せるように続けたのだ。

 

「キラにお渡ししただけですわ。新しい〝剣〟を」

「……。えっ……?」

「今のキラには必要で、キラが持つのに相応しい〝力〟だから」

 

 脈略のない、理解できない言葉の中身に、ステラは凍り付くしかない。

 ──キラ……?

 なぜ今、その名前が出てくる? だってキラは──ステラにとって大切な親友は、太平洋上の戦闘で、アスランに。

 

「いいえ、キラは生きていらっしゃいますわ」

 

 数歩として後ずさり、戦慄に体を震わせ始めたステラは、ラクスの背後に亡霊でも見ているかのようだったという。

 ──いったい、何を云ってる……!?

 説き明かすような口調で、ラクスは続ける。鷹揚と、ゆったりとして──

 

「アスランと戦い敗れた後、ひどく傷ついた彼はやがて、わたくしの許に運ばれて参りましたの」

 

 告げられた事実は、ステラにとっては重すぎる現実。

 つまり、キラは今もまだ生きている? しかし、そうであるなら、先の言葉は──?

 待って欲しい。それでは〝フリーダム〟は──あの〝悪魔〟を、渡されたのは……!?

 

「思いだけでも、力だけでも駄目なのです」

 

 彼女はその先を、畳みかけるように続けたのだ。

 

 

 

「だからわたくしは、キラに(・・・)フリーダム(・・・・・)を与えたのですわ(・・・・・・・・)

 

 

 

 血の気を失くしたステラの顔が、その瞬間、窓外に奔った遠雷の光で真っ白に染まった。一拍遅れて雷鳴が轟き、その凄まじい大音響は、ステラの中で大切な何かが崩れ去った音とよく似ていた。

 ──キラが……

 ──キラが〝フリーダム〟……?

 途端に沸き上がる悪寒。吐き気を催すほどの不快感が込み上げ、恐怖が少女の全身を触手のように絡め取る。悪魔の腕は触れるところから彼女の身体を凍てつかせ、か弱い心を絶望で彩った。

 

「思いだけでは何も変えられず──力だけでは変えるべきものに気付くこともできません。だからわたくしは、キラに新たな剣を──」

「う、うるさい!!」

 

 ステラは怒鳴りを上げ、彼女の言葉を遮断した。妄言──そう彼女の妄言を振り払うにして、彼女に拳銃を突き付けていた。

 

「そんなの──! そんなの、信じるもんか!」

「ステラ……?」

「〝フリーダム〟──! やっぱり……やっぱりあいつは、ラクスが生んだんだ! やっちゃいけないことだったのに!」

 

 ラクスの想定以上に、思いのほかステラが取り乱し始めたからか、このときばかりはラクスも僅かに困惑を露にしたという。語られた内容以上の衝撃を、このときのステラは受けているように見えたとも。

 

「〝フリーダム〟はキラじゃない──〝フリーダム〟は〝フリーダム〟なんだよ! そもそも、おかしいから……っ」

 

 ステラにとって〝フリーダム〟は、ある意味で絶対的な存在だ。誰彼構わず損害を与えて回り、己以外のすべてを見下すかの如く超然として振る舞う傲慢なる死の天使。繊細で、温厚で、今のキラにはとても似つかわしくない──。

 混乱、もはや論理にすらなっていない反論だが、ステラはそれでも必死になって抗い続けた。たとえ見苦しくとも、そうしなければならない理由が、彼女にはあった。

 

「無用な犠牲を少しでも減らしたい、果てなき憎しみの連鎖を終わらせたい──そうしてキラは、今は〝フリーダム〟を手にして戦っています」

「でも〝フリーダム〟は、ステラを傷つけた!」

「貴方のことを知らなかった──あるいは、そうしなければならない事情が、何かおありになったからではないのですか?」

 

 ラクスの発言は、若干の公平性を欠いてはいたが、思い返せば真実味を帯びているような感覚もあった。

 それでもやはり、ステラはそれを認められない。認めるわけにはいかない。認めてしまったら──では、ステラをあのとき(・・・・)殺したのは……?

 

「貴方は優しく、善良で、強い力もお持ちです。ですが真に大切なものは、その力を振るう、貴方自身の心の方なのです」

 

 ラクスはそう云って、ドレスの裾を持ち上げて立ち上がる。

 それを見たステラは思わず身を引いた。ほんのすこしの、たったそれだけの動作にも関わらず、ラクスの気配に圧倒されたからだ。

 

「真に正しい道を、貴方自身で見極めなければなりません。ひとりの人間として、そして、ひとりの戦士として」

「ラクスは、自分が正しいって思えるの……?」

「貴方自身が、わたくしの言葉に共感することができるなら。──きっと、そういうことなのでしょう?」

 

 逆に問いかけられ、ステラは目を伏せる。

 

「ナチュラルだから、コーディネイターだから。──そのような色分けなど、互いをよく知り合えば、はじめから無意味なことなのです」

 

 その言葉が、ステラにとっては実感に思える。

 少なくとも、ナチュラルを滅ぼせば戦争は終わると豪語する父や兄、家族達の言葉よりは。

 

「それなのに、相手を滅ぼすことしか考えられなくなっている世界。これに、わたくし達は同調することはできません」

「ラクス……!」

「戦争だから、敵だからと滅ぼし合うことは仕方がないことですか? たったそれだけの理由で人々が争うことしかできないならば、そのような理由の方が間違っているとは思えませんか」

 

 無慈悲な聖女は、無垢な少女に問いかける。

 

「貴方は何を守りたいと願うのですか? 家族であるアスランを? それとも、貴方自身を?」

 

 ラクスの目には、慰めも、叱責も、希望も見えない。

 さながら、本当に聖職者のように変わり果てた、慈悲のなさだけが垣間見えるだけだ。

 

「……むずかしいこと、云われても……!」

 

 ステラは、震える手を強く握りしめた。

 

「ステラには、分からないよ!」

「ですが──」

「──ちがうの! ステラにはそういうの(・・・・・)向いてないの……! 何のために戦うとか、そういうのはどうだって良かった……! 今までずっと命令で動いてたんだ! どんなに頑張っても、命令がなきゃ動けなかったんだ、働けなかったんだ!」

 

 泣き叫ぶような声には、弱々しさが消える代わりに、異常な程の感情の昂ぶりがあった。

 

「ステラはね、地球軍の強化人間なんだよ──」

「……ああ……っ」

「悪い人達に捕まって、体や頭、好き勝手に弄られた! だから、もうすっかり頭わるいの! 人間じゃないみたい!」

 

 ステラは、自分が何を云っているのか分からなかった。パンクしかけた感情が、あまりに強くて論理の先に立っていた。叫んだ先に、果たしてラクスへ何を訴えたかったのか、このとき当人ですら理解できていなかった。

 

正常(フツウ)に成長できてないんだよ! あのとき(・・・・)から、ステラの時間は止まってるの! 何が正しくて、何が悪いとか……そういうこと、もう考えるのイヤ……疲れちゃったんだ……」

 

 平和を望みながら、それでも戦争の中で敵を排除する程度にしか能力のない自分。せいぜい人殺し程度にしか役立たないという自己嫌悪。

 ──結局、与えられた命令どおりに敵をなぶる歯車でいることが、ステラにはお似合いなんだ……!

 少女は強化人間たる存在が、人間として破滅した結果であることを知っていた。それでもラクスは、そんな少女に同情はしない。ただ真実を差し出すようにして、諭すだけだ。

 

「怖いのは、閉ざされてしまうこと。こうなのだ……ここまでだと、終えてしまうことです」

「────」

「貴方はまだ、みずからを閉ざすには早すぎます。貴方は前に進んでいらっしゃいますわ? ──だって、そうまでして悩んでいらっしゃるのですから」

 

 救いの言葉に、ステラが呻いた。

 

「変わることを望むのなら、私達と共に道を捜しましょう? 貴方自身が、正しいと思える道を──」

「でもステラは、アスランから離れちゃいけない──。だから、ザフトを出ちゃいけない……気がする……」

 

 ──アスランを、守らなくては。

 最初は何となく、漠然とそう感じていただけだった。しかし、今になってその思いは彼女の中で強迫観念となりつつあり、今の彼女をザフトという組織に縛り付け、支配する呪いのようにもなっていった。

 

「ステラは、アスランを守らなきゃいけないんだ」

 

 ステラにとって「まもる」ということは、一緒にいるということだった。かつて自分にその言葉を投げかけてくれた少年が、ずっと──そして最期の瞬間にも──自分の傍に寄り添っていてくれたから。

 だからステラは、アスランの傍に居なければならないのだ。彼がザフトとしてある限り、ステラもまたザフトとして戦い続けなければならない──たとえ彼らの理想とする世界や未来に、彼女自身が全く賛同できなくとも。

 

「今のアスランは、ステラよりずっと考えることをやめてる気がするけど……! 何考えてるのか全然わかんないけど……! それでも──」

「──貴方のお兄さん、ですか?」

「そ、そう……家族、だから……」

「……それは」

 

 ステラが口にした答えは、もはや理屈でも論理でもなかったが、家族としての情愛に起因するものであることは確かだった。

 適切に言葉に表すことができず、しかしながら、言葉が不要というケースとて往々にあるのだろう。それは家庭内において兄弟や姉妹を持ったことのないラクスには残念ながら理解できない類の情操だったが、だからといって、このとき彼女の目の前で壊れてしまいそうな〝妹分〟を見捨てられる程に、ラクスという少女は無慈悲ではなかった。

 

「同調と心中は違います」

「──!」

「貴方自身、心が壊れるまで無理をして、アスランと同じ道を歩む必要があるのですか?」

 

 そこまで云われ、ステラは口を噤んだ。

 それは、かつてニコルに云われた言葉とよく似ていた。

 

他ならぬ家族である貴方が(・・・・・・・・・・・・)、今のアスランは間違っていると感じているのなら──それを正すこともまた、正しい行いとは云えませんか」

 

 はっきりと宣告され、ステラは思わず息を呑む。

 

「家族には、家族にしかできないことがあるでしょう? 現にパトリック様は、レノア様がお亡くなりになられてから、すっかり人が変わってしまいました。きっと、アスランもそんな御父上の姿につられ、戦争という非常な環境もまた、彼をそう変化させたのでしょう──」

 

 それでも──とラクスは続けた。

 暴走するパトリックを止めることのできた人物──レノアは既にこの世にいない。

 けれども、アスランは違う。暴走するアスランを止められる人物はまだ、ここにいる。今、ラクスの目の前に。 

 

「貴方までそれにつられる必要がありますか。今のアスランの志に、心中する必要が?」

「……!」

「生前のレノア様は、貴方に何をお望みになりましたか。貴方の心は本当に、ナチュラルの滅んだ世界をお望みですか?」

 

 パトリックが、アスランに望んだ理想像がある。

 ──戦場における、揺るぎなき最強の戦士であること。

 かたや、レノアがステラに望んだ理想像もある。

 ──家族を支え、聖く清らかに生きる賢女であること。

 

『夜明けの空に、太陽がひとつじゃ寂しいでしょう? だから、それを支える無数の星があればいい』

 

 ステラがかつて、レノアに教えられた言葉──兄妹の名前の由来になった一説。

 ほの暗い宵明け、夜明けの太陽はいつだって深淵なる闇と隣り合わせだ。暗夜の中に浮かんだ光明は、不確かで、そして危なっかしい孤独な光。

 だからこそアスランは闇に呑まれた。深くて昏い時代の闇から彼を守ってくれる存在が、あのときは彼の近くにいなかった。

 

「アスランの闇を討ち祓ってでも、光り輝く貴方であってくださいな」

 

 祈るような声を掛けられ、ステラはハッとする。

 ──誰もが宇宙の星のように、等しく輝ける時代がくることを願っていた。

 ステラという名は母親の、レノアの祈りの結晶だった。

 

「わたし、は」

 

 ラクスの言葉を受けて、ステラの身体は震えていた。

 ──本当はステラだって、こんなことばかり続けていたくはなかった……!

 ステラの脳裏に、ひとりの少年の面輪が浮かぶ。

 その少年は、ザフトの軍人でありながら、地球軍に所属していたステラのことを必死になって助けようとしてくれた。たとえ友人に睨まれようと、上官に罵られようと、彼は本気で自分を守ろうとしてくれた。

 ──軍属なんて関係ない、人種だって関係ない……!

 真っすぐで優しい──そういう温かな思いやりをステラは「彼」から教わったから、決めつけるみたいに『敵』を作り続ける、今のアスランの考え方が嫌いだった。──そう、大嫌い(・・・)だったんだ……!

 

「ステラは……そっちに行っても、いいのかな」

 

 今になって、ようやく思い知らされる。

 互いに分かり合おうともせず、一方的に蓋をしてしまう彼らのやり方は間違っている。自分にとって都合の悪いものをこうと決めた生贄に被せ、消し去ってしまおうとするやり方に、ステラは賛同できない。どんなに家族が大事でも、その家族が無暗矢鱈と『敵』を作り続ける現実の方が、ステラには耐えられない! だから──

 

「ラクス達と一緒に行っても、いいのかな……!?」

 

 所在なげに。

 儚げに訊ねくる少女に、そのときラクスは、笑顔を以て答えようとした。

 

 

 

 

 

 そのときだった。ダンスホールの扉が蹴破られ、そこから不躾な足音がホール中に響き渡ったのは。

 ラクスはさっと音の目を向け、ステラは驚きに跳ね上がる。

 そこから洗練された動きで一気に駆け寄ってきたのは、武装した数名の男達だった。見慣れない黒色のノーマルスーツを着用し、暗視ゴーグルまで着用した大仰な装備。男達はステージまで一気ににじり寄ると、ステラ達を包囲するようにしてその動きを止めた。

 

「……えっ……?」

 

 頭の熱が冷めてゆく。唐突に現実に引き戻され、そのときになり、ステラはようやく反応することができたという。慌てて身構えたステラだったが、それは彼女にしては遅すぎだった。

 ──なんだ、こいつらは……?

 ラクスを庇うように前へ出る。ステージ目下の男達が構えている銃口は、ステラを通り越し、ラクスへと向けられていることが判ったからだ。

 暗殺用に仕向けられた迷彩装備、訓練が徹底されたであろう無駄のない動き──それらから判断するに、現れた者共は明確に素人ではない。だからこそ警戒を色濃くするステラに向かって、男のひとりが慇懃な口調で口を開いた。

 

「いやはや、見事でした。流石はラクス嬢の将来の義妹(いもうと)君──と云ったところですな。こちらの手間を省いてくださり、助かりましたよ……」

 

 どこか愉しげに、しかし侮るように紡がれる男の言葉を受け、ステラはやはり困惑するしかない。まったくもって状況が飲み込めてない彼女だが、それでもラクスへ釈明することはできた。彼女にだけは、誤解と不信を与えたくはなかったから。

 

「ら、ラクス、ちがうの……。ステラ、こんなやつら知らない──」

「──ええ、そうでしょうとも……」

 

 あっさりと云い切られ、ステラはやはり困惑の声を漏らすしかない。

 どういうわけか、このときのラクスはステラ以上に、ステラが置かれている状況を把握している様子だった。

 

「こいつァはまた、随分とニブいお嬢ちゃんだなァ」

 

 そのとき武装した男達の背後から、ひと際異彩を放つ面妖な男が姿を現した。

 

「────」

 

 その男と面識があるのか、ラクスはその面妖を認めた途端──彼女にしては極めて珍しく──たしかな嫌悪をその表情に滲ませていた。

 それは時間にしてほんの一瞬、瞬きする程の時間も無かった。ラクスの方もすぐに取り繕って表情を隠してしまったが、そのときステラが見たものは、極めて少女らしい人間的で生理的な拒否感に違いなかった。後にも先にも、そのような生身の感情をラクスが浮かべた瞬間を目撃したのは、ステラにとっては初めてことだ。

 アッシュグレーの短い髪、顔には宗教的にも思える動物模様のタトゥーが彫られ、野太い眉毛はコブラのような蜷局を巻いている。少年向けの漫画作品に登場する陳腐な悪役そのままと云った風な風貌は、ステラから見ても、率直に云って気味が悪いと云えた。

 

「ザフト軍特務隊〝FAITH(フェイス)〟所属、アッシュ・グレイさんですね」

「憶えてらっしゃるとは、光栄ですなぁ。国家反逆罪の凶悪犯、ラクス・クラインさんよう」

 

 ラクスは心中、この男にだけは凶悪犯と呼ばれたくないと思った。

 目の前にいる男は、そういう男だったのだ。誰何するステラに、ラクスが密かに耳を打つ。

 

「ザフト特殊部隊の長。『合法的に殺人ができる』──たったそれだけの理由からパイロットに志願した危険人物です。生粋の殺人快楽主義者……とでも云うのでしょうか」

 

 酷い云われようだが、大方事実である。

 噂にされている当の男は、嘲るように下品な笑い声を挙げた。

 

「しっかし、まさかこんな閑散地(ところ)にクラインの隠れ家があるなんてな。なかなかどうして、俺様好みの良い趣味をした屋敷だ──後で買い取って、個人的に住んでみたいくらいだぜ」

 

 審美眼があれば、それは違った見方ができるのだろうか。このときのステラをして不気味にしか見えない周辺の汚らわしい壷や絵画、人形等の高級調度品の数々をアッシュは熱心に眺めながら、大手を叩いて云ってみせていた。

 ──いや、違う……!

 ステラはやはり困惑しながら、アッシュの発言を聞き咎める。

 この屋敷は、そもそもクラインの隠れ家ではない。もともとは、パトリックが個人的に所有していた別邸なのだ。貴族という人種は客人をもてなし友好の示すのと同時に、招いた相手を往々に委縮させたがるものであり、云われてみれば薄気味の悪い黒々しい美術品の数々は、正しくそういった目的のために装飾されたものでもある。

 それもこれも、長らく放置されて今では埃を被っているが、それほどまでに等閑視されたこの屋敷を、ここで過ごしたことのあるステラ以外の人間が──どうして彼らのような部外者が突き止めることができたのか……?

 

「ははあ、まだ分からねぇかなぁ?」

 

 アッシュは嘲り、一方でラクスは目を伏せる。一拍置いて、アッシュは彼女に真実を告げる。ステラにとって、信じがたい事実を。

 

「何もかもテメェの親父の指示だよ! アンタを尾行(つけ)りゃあラクス・クラインの潜伏先まで勝手に案内してくれる(・・・・・・・・・・・)って、パトリック・ザラから指示を受けてたんだよォ!」

 

 パトリックは、間違いないくステラのことを信用していたのだろう。けれども、あくまでそれは『案内役』としてであって、そこから先の──パトリックが最も企図する──部分については、彼女は全くといっていいほどに期待されていなかったのだ。

 愕然とするステラに対し、ラクスは最初から気付いていたようだったが、こればかりは思うところがあったらしい。ひどく労るような視線をステラに向けていたという。

 

「オレたちは元々、そこのラクス・クラインの暗殺任務を請け負っていてな。だが、まあ……なかなか女狐が尻尾を出さねェもんで、とある重要施設の防衛に回されちまってね」

 

 ステラは、我に帰ったように顔を上げた。

 

「あっ、暗殺……? ふざけるな! ラクスはまだ、何にも伝えてないのに!」

「国家反逆罪の逃亡犯だぜェ!? 情状酌量の余地が、どこにあるってんだ!?」

「お父さんは、そんなこと云ってなかった!」

「それも嘘だよ! 分かれや小娘ェッ!!」

 

 云われ、ステラは鈍器で頭を殴られたような衝撃を受ける。当事者への尋問もなく、時間をかけて検証したわけでもない。それなのに男達は、こうして一方的に襲撃を仕掛け、ラクスに銃を向けている!

 父親による、明確な裏切り。絶望に囚われそうになる少女に向け、野獣のように餓えた眼をした男は拳銃を構えながら、虎のようににじり寄る。

 

「オラ、どけよ! なんならテメェも、オレのコレクションに加えてやってもいいんだぜ!?」

 

 コレクション? その意味までは掴みかねたステラであったが、にじり寄るアッシュの目には、自分達に対する明確な害意と殺意があった。

 だから、ステラはその場を退かない。

 少なくとも、ラクスはこんな場所で殺されていい人間ではないと思ったからだ。少なくとも、こんな──馬鹿みたいな男達に。

 

「いやだ!」

「ようし、死ねやァ!」

 

 決然として、ステラとアッシュが敵対した次の瞬間、ホール全体に銃声が鳴り響いた。

 だが、それを発砲したのは、このときのステラでもアッシュでもなかった。銃弾はホールの二階、優雅なテラスから放たれたものだ。撃ち出された凶弾により、ふたりの襲撃者がどうと斃れる。ステラは敵対する襲撃者達の間に、緊張と動揺が奔ったの感じた。

 けれども反対に、ラクスがまるでビクつかなかったところを考えると──成程、銃弾を放ったのはラクスの護衛であり、伏兵らしい。然し者のステラでさえ、今になるまで気付けなかったほどの。

 

「ああん!?」

 

 そこから火蓋が切って落とされ、無遠慮な銃声がパーティホールを激震させた。ザラの配下とクラインの配下、二分化された〝プラント〟の派閥が激しく対立し銃撃戦を交わす。

 ステラもまたラクスの護衛達の援護に回るが、彼女が援護するまでもなく、地理的不利を被っていたアッシュの部下達はほとんど一方的に打ち斃されていった。

 しばらくすると、ホールは静寂に包み込まれた。パトリックの配下で、その場に立っている者はいなくなっていたのだ。クライン派の兵士達は安堵し、構えた銃をおもむろに取り下げ始める。その中のひとり、赤髪の青年マーチン・ダコスタが、安堵のため息を漏らした。

 

「よし、終わったな」

 

 ダコスタは銃を下ろし、舞台袖に退避していたラクスの許まで向かい始める。

 

「……!?」

 

 けれどステラは、そのとき、やけに妙──というより、嫌な胸騒ぎを感じていた。

 ──なんだ……?

 電撃のような刺激が頭の中を駆ける。ステラ自身の立っている、あるいは見ている場所ではない〝どこか(・・・)〟──別の空間を空から俯瞰しているような、気配を通じて把握したような感覚に囚われたのだ。

 ステージの下手側、銃撃によって叩き割られた採光硝子──その向こうに拡がる広大な緑の庭園──覆い囲む外塀の更に向こう側に、物騒な気配を察知する。空間を正しく認識できるその力はまるで、遠くに目がついたような感覚であったという。

 

「アイツ、は──?」

 

 不可思議な感覚に裏付けるように、ステラはパーティホールを見回した。そして、射殺された敵兵の数があまりに少ないことを理解したとき、彼女は先の感覚が、紛いものの類ではないと確信する。

 

「ラクス!」

 

 舞台袖のラクスは、状況が終わったと信じ、安堵の表情を浮かべていた。

 そして、ステラはそれを許さなかった。

 

 ──まだ(・・)終わってない(・・・・・・)

 

 ステラはラクスの腕を掴むと、ほとんど彼女の意志を無視してその身を強引に連れ出していた。パーティホールを突っ切り、ドアを蹴破るようにして突破した二人の少女は、照明のない屋敷の薄暗闇の中へ消えていった。

 そうして広間を後にしてしまった二人を、今まさにラクスの許へ駆けつけようとしていたダコスタはしっかり目撃していた。そしてすぐに、素っ頓狂な声を上げる。

 

「はあ!? 何やってんだよ、あの娘は!?」

 

 ダコスタの任務は、ステラと会見することを望んだラクスの身辺警護である。

 彼らは当然に、この会見場所を突き止めることのできるステラの個人的な来訪を──そして彼女が期せずして連れてくる厄介な野次馬達の迎撃を──想定していた。だからこそホールの二階に身を潜め、会見が終わるまでは静観を決め込んでいたのだ。ラクスの身に危害が及ぶ寸前になって作戦を開始した彼らは、目論見通りに暗殺部隊は蹴散らしてみせた──これをもって、この件は解決したはずだった。

 

「段取りと違うぞ! 敵はもう、すべて片づけたじゃないか!」

 

 ダコスタをはじめ、護衛達の覚悟は生半可なものではなかった。ラクスに危害を加えんとする者が現れた場合、それが誰であっても構わず「対応」してみせる──それほどの気概を持って、彼らはこの会見に臨んでいた。

 けれども、会見の内容から察するステラは、ラクスを敵に回す気はなかったようだ。だからこそダコスタは彼女の動向を監視するだけに留め、だが、そうして監視した先のステラは、混乱に乗じて最後にはラクスを連れ出してしまった。自分達の隙を見て、自分達の監視の目が届かない場所へ──まさか。

 

「まさか、あの娘──!」

「クソッ、ラクス様を連れ戻すぞ! やはりザラの名を持つ娘、信用するべきじゃな──」

 

 すべてを云い切る前だった。

 次の瞬間、ダコスタは凄まじい爆風に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 パーティホールを後にしたステラは、ラクスを連れ、エントランスの雅な階段を勢いよく駆け上がっていた。

 窓外から景色を見れば、雷がごうごうと轟き鳴っている。強引に連れ出される形になったこのときのラクスは、雅なドレスの裾で転ばないよう細心に注意を払い、元から円らな瞳を、さらに丸くしているようだった。ふたりは共に走っていた──とはいうものの、このときのラクスの姿勢はまるで、常人を越えた足の速さで駆けているステラにしがみ付いている、といった風でもあった。

 

「ステラ!? いったい、どこへ……っ!?」

 

 銅細工の厳かな像の立ち並ぶ、またも不気味な廊下を突っ切っていたふたりだったが、そこでラクスが荒い息をこぼした。彼女は流石に事態が呑み込めていなかったのか、混乱のあまりステラに停止を求めていたのだが、ステラの方は決して足を止めようとはしなかった。まるで何かに焦っているかのように。

 

(──これでは、予定と違いますわ……!)

 

 予定どおり、ステラとの会見を果たすことはできた。彼女に伝えたかったことも、すべて伝えきることができた。そして、彼女を尾行する不埒な輩が存在することも想定していた。

 だから本当に、ここまでは彼女の計画どおりだったのだ。

 ラクスは後方からステラを追いかけるような位置のため、彼女の表情や感情までは読み取れなかったが、ステラのこの突飛な行動こそが、唯一の計画外だ。無理を云って護衛を頼んだダコスタあたりは、今頃その顔を真っ青に引き攣らせているかも知れない。

 

「わたくしなら大丈夫ですわ……! お屋敷には、護衛の方々が控えていてくれたのですから!」

 

 用意は周到だった、とでも云いたげなラクスがはっきりと口にした次の瞬間、彼女はみずからで発したその言葉を、身をもって後悔することになる。

 

「!?」

 

 次の瞬間、凄まじい爆発音がふたりの耳に轟き渡った。

 間近で起こった大爆発と大振動が、その先の言葉を封じた。爆撃によって発生した衝撃波が、野晒しの少女達へと肉迫する。反応が遅れたラクスに、ステラが咄嗟に覆いかぶさって爆風を背に受ける──が、少女達の軽やかな体重はあまりに強い衝撃波に持ち上げられ、空中まで吹っ飛ばされた後、一拍おいて床に叩き付けられた。

 

「な、なにが?」

 

 台無しにも乱れた髪をすきながら、ラクスが上体を起こす。

 顔を上げ、来た道を振り返ると、さっきまで彼女達が居合わせていたパーティホールの方角が地獄の業炎に包み込まれていた。外壁は破られ、亀裂から身を灼くような熱風が吹き荒ぶ。天井は崩落し、がらんごろんと瓦礫や重量物、シャンデリアまでもが落下する音が絶え間なく連続していた。

 

「っ…………!」

 

 大量の火薬が詰め込まれた噴進弾が、屋敷に撃ち込まれたのだろう。不幸中の幸いは、悪天候の雷雨が爆発の威力と爆炎の気勢を大きく削いでくれたことだろうが、いずれにせよ、そうした事実は彼女達の慰めにはならなかった。

 

「次はモビルスーツがくるよ、きっと」

 

 けろっとして、聞き捨てならない予見を呟いたステラの言葉に、ラクスは愕然とするしかない。では、彼女にはこうなることが判っていたのか? 撃ち倒したホール内の男達はあれで全員ではなく、外にも別動隊がいることを──?

 ──そう云えば、アッシュの姿を見なかった……。

 今になって、ラクスは思い知る。歯噛みしながら、悔いたような表情を浮かべる彼女に、しかし、ステラはそっと手を差し伸べた。この場にあっては何よりも頼もしいその手に気付いて、ラクスはハッと顔を上げる。

 

「だいじょうぶ。ラクスは、ステラがまもるから」

「ステラっ……!」

「ぜったい、死なせないから」

 

 ラクスの部下達は、確かに相応の覚悟をもってラクスの身辺警護に当たっていた。下手を打てば、ステラとて構わず「撃つ」──敵ではないが、まだ味方でもない──そうした明確な線引きを、彼らは実際に行っていた。

 ──その覚悟の程は、立派である。

 ──しかし、覚悟だけではどーにもならないことだってある。

 護衛のために機銃しか用意していなかった彼らが、たとえば先の無反動砲のように、形振り構わず重火器をぶちかましてくる特殊部隊に対し、どれほどに有力であるのか──いや問題はそれ以前であり、モビルスーツを前にして、生身の人間に何ができるというのか……?

 

「……!?」

 

 口惜しく考えていたステラの思考を遮らせたのは、気が付くと屋敷全体に立ち込めはじめた煙幕だった。だが火気を含んだ黒煙とは違う。視覚や嗅覚、強烈なまでに五感を刺激してくるその煙は──催涙ガスだ。

 ガスが充満するよりも先に、ステラは近場にあった書斎までラクスを引き連れた。その室内では大きな書窓が彼女達を歓迎し、それはおおよそ、女子ふたりが通り抜けるには十分すぎる程の規格があった。

 

「えっ」

 

 短く抗議の声を挙げたラクスの声を無視して、ステラは窓を開けた後、外に向かって駆け出した。ラクスを抱き上げたまま、土砂降りの外界へと飛び降りたのである。

 それは明らかに二階ほどの高さからの落下であったが、ステラは難なく中庭への着地を決めた。ラクスを芝生に降ろし、屋外に飛び出した彼女達を待ち受けるように、激しい暴風雨が少女達の身体をばちばちと叩きつける。

 

「……走ろう」

「は、はいっ」

 

 何事もなかったかのようにあっさりと云い捨てたステラに、ラクスは戸惑いながらも、手を引かれて激しい雨の中を走り出した。

 

 

 

 

 

 

 アッシュ・グレイは銃撃戦には参戦せず、思わぬ伏兵がいると判った時点で屋内の部下達を見捨て、そそくさと屋敷から退散していた。彼は賢明にして狡猾な男でもあり、あらかじめ外で待機させていた軍用ジープに乗り込んでいたのだ。

 補助席には彼の身長ほどある無反動砲が準備され、彼はにやりと笑ったのち、その大きく重い砲身を肩に抱え上げた。

 圧倒的な砲撃を、まずはダンスホールへと撃ち込んでみせる。ピュウと高い音を鳴らした後、豪快な爆発が巻き起こり、屋敷は一気に火の海と化した。ラクスが用意した伏兵達を、これにて一網打尽にすることができただろう。

 

「うっひゃー! たまんねェなァ、オイィ!」

 

 破壊衝動を満たしたことで満悦するアッシュは、ついで部下達に指示を出す。

 

「催涙弾を投げ込め! 生意気な小娘共を、屋敷の中から炙り出せ!」

 

 確実に目標を仕留めることができるなら、手段は問わない。

 催涙弾を屋敷の中に投げ込んだ後、アッシュはやがて、屋敷の裏手に待機させていた部隊からの報告を耳にする。ガスに耐えかねた二名の少女が、裏庭に脱出を図ったというのだ。

 

「裏庭の方か! 車を回せ!」

 

 ジープの運転手に命じ、アッシュは砲を担いだまま裏庭の方へ回り込んだ。

 そこには、こちらに背を向け、必死に逃走を図っている二人の少女。金の髪の少女の足は速いが、桃の髪の歌姫の方はそうではない。むしろ場違いなほど御大層なドレスに身を包んでいるため、余計に足が遅いように見て取れる。

 

「ボディーガードが小娘ひとりとは、堕ちたモンだなあ、平和の歌姫も!」

 

 えげつない歪みを口元に奔らせる。

 アッシュはふたたび無反動砲を構え、その照準先はただひとり──ラクス・クラインだ!

 

「ようしお嬢ちゃん共、腰抜かすなよぉ?」

 

 無反動砲が火を噴く寸前のことだった。得体の知れない球体がジープの背後から回り込み、飛び跳ねながらアッシュに体当たりを仕掛けてきた。

 如何なる豪傑でさえ、痛がって泣いてしまうとも云われる人体の向こう脛。ここに直球の体当たりを受け、アッシュの照準が狂った。

 

「ぬおわッ!?」

 

 狂ったままで発射した弾頭。その弾道は大きく右に逸れ、砲撃はラクスとステラではなく、既に炎上中の屋敷へと着弾した。

 またも凄絶な大爆発が巻き起こり、吹き飛ばされた無数のガラス片が、階下を駆ける少女達に容赦なく飛び掛かる──!

 

「──!? 伏せてッ!」

 

 ステラが叫び、少女達は頭を抱え、芝生に飛び込んだ。

 一方のアッシュは、ぶつけられた向こう脛を抑えながら激怒している。いったい、何が自分の邪魔をした? 苛立ちながら目を向けた先、そこにはぴょんぴょんと跳ねながら、ステラ達の方へ逃げていく海色のロボットがいた。

 

「なんだ、あの不細工なロボットは!?」

「──ハロ!?」

 

 思わぬ応援を見つけ、ステラはただ驚いた。

 ──今、ハロがいなかったら……!

 おいで! と叫ぶ必要もなく、海色のハロは真っすぐにステラの方に向かってきている。だが、

 

「チィッ!」

 

 ──アイツのせいで、砲弾を外しちまった!

 怒りに震えるアッシュの目は血走り、ギラギラとした憎悪を雨の中に光らせている。彼は即座に拳銃を引き抜き、撃鉄を起こして身構えた。その照準を過たず、自発的にバウンドを繰り返して退散してゆく海色の球体に固定する。

 二発の銃声が、連続して轟いた。そして、ステラの手にすっぽりと収まるよりも前に、海色のハロはその凶弾の直撃を受けていた。球体のボディはあろうことかステラの目の前で粉砕され、ボディごとはじけ飛んで四散してしまった。

 

「────」

 

 対するアッシュは無反動砲を路面へ打ち捨て、今度は銃の照準をステラ達に向けようとして──できなかった。

 次の瞬間、アッシュの乗るジープがスリップし、コントロールを失って暴れ出したのだ。どうやらジープの車輪──それも奇妙なことに、前輪がふたつとも破損したらしい。暴れ出す車にしがみつくようにして、アッシュは愕然とする。彼が狙っていたはず金髪の少女が、激しい怒りを表情に浮かべ、こちらに拳銃を向けていた。

 

(あの小娘、あの距離から狙いやがった──!?)

 

 そして、車輪を狙ったものとは違う、最後の銃声が鳴り響く。

 怒りを──ともすれば憎しみさえ宿したステラが放った最後の銃弾は、たった今ハロを撃ち砕いたアッシュの右頬を喰い破らんとばかりに、その頬のすれすれを通り過ぎて外れていった。

 

「な」

 

 逡巡する間も動揺する暇もなく、まともにハンドルを切ることもままならず、アッシュとその部下の乗るジープは、トップギアのまま屋敷の外壁に激突した。

 ステラは後ろ髪を惹かれる思いであったが、この場に残ったところで、できることは何もなかった。拳銃をその場に投げ、ふたたび彼女はラクスの手を取る。

 自分をここまで導いてくれた、海色のハロに別れを告げ──少女達は、みるみるとアッシュから遠ざかっていく。

 

「クッソォォォッ!」

 

 瓦礫に突っ込み、むち打ちになった体を煙の中から甦るように強引に引き立たせ、アッシュは発狂した。

 

「モビルスーツ隊を前に出せ! 外に待機中の奴らにも打電しろ!」

 

 ──もう容赦はしない! 絶対に抹殺してやる!

 

「ラクス・クラインは後回しでもいい!」

〈はっ!? しかし、我々の目標は──〉

「いいんダヨ! まずはあの忌々しい金髪の小娘からだ! 〝リジェネレイト〟でひねり潰してやる……!」 

 

 そのときのアッシュの眼は、まるで、餓えた野獣のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──いったい、これからどうすればいい?

 

 逃げ惑いながら、ラクスはそんなことばかりを考えていた。

 無理をいって護衛任務に借り出した、ダコスタ達は無事だろうか? この時点でラクスは、ステラがいるから──そして、目の前で先に散った海色のハロがいてくれたから──命を繋ぎ止めていられるようなものだった。

 けれど、それもこれも限界が近づいていることを、ラクスは嫌でも実感していた。暗殺に特化したコーディネイターの特殊部隊が、これまでに加えてモビルスーツまで持ち出してくれば、いよいよ自分達には対抗する術がない。

 

「ス、ステラ……。これから、どこへ……?」

「…………」

 

 不思議なことに、このときの少女達の様相は、じつに対照的であったという。

 不安と焦燥に震えているラクスの傍らで、ステラはこのとき一切として取り乱していなかった。先程のダンスホールの中では、全くもって立場が逆だったというのに。

 今のステラの面輪に浮かんでいたのは、困難を乗り越えようとする強かさと逞しさだった。円らだった双眸は戦士然とした鋭さを湛え、濡れそぼった金髪の合間に覗くすみれ色の瞳には、絶対に歌姫を守り通さんという、騎士の如き強い光が見える。

 豪雨の中を走り抜けながら、そうして二人は、やがてある地点まで辿り着いた。白銀のモビルスーツの隠し場所──ラクスの目の前に、片膝を折った鋼鉄の巨神が待ち構えていた。

 

「これは……!?」

 

 ラクスは目を見開き、その巨神を見上げた。鋼鉄の四肢と、背部には一対の大振な銀翼。これを飾る羽毛のように、半月状の六枚羽根が折り畳まれている。

 ザラ政権主導の許、アプリリウス市で開発されたザフトのモビルスーツのひとつ──〝フリーダム〟でも〝ジャスティス〟でもないその最新鋭機のことを、やはり、ラクスは事前に知っていた。すっかり濡れて重たくなった前髪を片側に寄せ、彼女は驚きに目を凝らす。

 

「ZGMF-X08A……!? なぜ……!?」

 

 流石のラクスも機体名までは知らなかったようだが、考えてもみれば、この機体が命名されたのは本当につい先日のことだった。ステラは改めてラクスの横に立ち、その名を明かす。ラクスはやはり、心底意外そうな驚きの表情を浮かべていた。

 

「〝クレイドル〟──これを、あなたが?」

 

 ラクスは鋼鉄の巨神を見上げ──まさか(・・・)、と思った。

 しかし、何かを考えている暇もなく、またも彼女はぐいと抱き上げられ、そのまま開放されていた〝クレイドル〟のコクピットの中に連れ込まれた。ステラに率いられ、モビルスーツの中にぎゅうと押し込まれたのはラクスにとって二度目である。その強引さに妙な懐古感を憶えてしまった彼女の傍ら、機体の操縦者であるステラは、どこか熟練者のような手つきで機体を立ち上げ始めていた。

 

「……えっ……?」

 

 さりとて〝クレイドル〟の操縦系はザフトのものであり、当然に〝クレイドル〟自体が新型であることから、ステラには扱い慣れないものであるはずだ。けれど、目の前のステラは一切気にした風ではなく、そのあまりに実践的で円滑な起動シークエンスは、ラクスをして若干の疑念を抱かせるものであった。

 不思議がっている彼女をよそに、ステラはやはり小慣れたようにシート後方の収納スペースからパイロットスーツを掴み取る。ぐいとそれとラクスに手渡し、受け取った方はきょとんとした。

 

「動くから……! 戦うことになる」

 

 それはつまり、パイロットスーツを着ろ、ということか。

 

「シートの後ろに」

「……! わかりました」

 

 円滑に機体を立ち上げていくステラとて──まさかこんな形で、初陣に出ることになるとは思ってもいなかった。しかしこのとき、不思議と後悔はなかった。

 

 ──ステラ達の初陣は、敵を斃すためのものじゃない。

 

 明確にそう思えるのは、今ステラの背後に立つ歌姫を──ラクス・クラインを『まもる』ためだという確信があるからだ。

 スペックは既に頭に入っていた。アプリリウスを出立する前に完了はしているが、再確認の意味を込め、ステラは機体を構成する全オペレーションシステムの確認作業を行ってゆく。

 滑らかにでキーを叩き、モニタを眇めていた彼女の視界に、濡れそぼった金髪が垂れ下がって邪魔になる。無意識のうちか、手で透き上げ、小さな額を出したその敢然とした少女の表情を見て取って、ラクスは時の流れというものを実感したという。

 

 ──この娘は、どんどん大人になっていく……!

 

 今は儚い少女でも、みるみる大きくなっていく存在に思える。ラクスはこのとき、ただ純粋に、そのことを微笑ましく思った。

 全チェック作業を終え、機体の電源が灯る。手許のモニタが命を吹き込まれたように明るくなり、フェイズシフトが展開。鋼鉄のモビルスーツは、そうして一斉に白銀色に彩られた。

 

 ────。

 ──────。

 「G」eneration

 「U」nsubdued

 「N」uclear

 「D」rive

 「A」assalut

 「M」odule

 ──────。

 ────。

 

 OSに浮かび上がる文字列を見て、ああ、とラクスは声を漏らした。

 

「──ガンダム……!」

 

 豪雨の中、新たな〝G〟が立ち上がる。

 薄暗い嵐の中──白銀の威容は、闇を照らす空の銀盤のように輝いて見えた。ステラは背後を振り返り、ラクスの覚悟を問うていた。それはまるで、出撃許可を求める戦場の兵士のようですらあった。

 

「──ステラが、剣になる」

「──なら、わたくしが貴方に命じます」

 

 それは、ふたりで決めた道でもあった。

 ラクスは嵐の空を決然と見上げ、凛として声を放つ。

 

「〝クレイドル〟、発進してください!」

 

 号を受けて、白銀の巨神は立ち上がり、大空へと高く飛翔した。

 眩いまでの、鮮烈な輝きを放つ白銀色は、それ自体が曇天を照らす満月のように見える。飛翔する白銀の機影を捉えた者達──ザフトのモビルスーツ部隊が一斉に銃を構え、地表から少女達を狙撃した。ザフトの新型モビルスーツ、ZGMF-600〝ゲイツ〟である。 

 ──今度こそ、まもるために戦う!

 ステラはこの瞬間から、新たな剣を何のために奮うのか、強く心に誓った。

 

 

 

「一緒に行こう、〝クレイドル〟!」

 

 

 

 仄暗い宵闇の中───

 白銀の〝クレイドル〟が、藍色の空へ駆け上がった。

 




 アッシュ・グレイはオリジナルキャラクターではなく、外伝作品に登場する人物です。

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