オーブ本島、オノゴロ。
飛来するミサイルが空を切る甲高い音、遠くから腹底を轟かすような爆撃音、鳴り止まないサイレン──民間人には避難勧告が云い渡され、多くの民が海港に横付けた国外への脱出艇へ避難を開始していた。
木々の焦げた匂いが、鼻先をつんと掠める。方々から立ち込める噴煙が、目を刺激しては瞬きを繰り返させた。
ひとりの少年が、父と母、そして妹と共に本島の林間を駆けていた。
深めに被ったニット帽。その下に覗く、切れ長の黒髪。
きかん気そうな子供っぽさを残した顔立ちに浮かぶ双眸は、血の色を透かしたような深紅色をしていた。
少年の名はシン・アスカ──
戦災に巻き込まれた、オーブ連合首長国の民間人である。
コーディネイターである彼をはじめとして、オーブ連合首長国は、地上に残された数少ない理想郷だった。かつて、ブルーコスモスによるコーディネイター排斥運動が地球圏全体を巻き込む形で盛り上がったときも、オーブはコーディネイターの国内住居と、その真っ当なる人としての生活権を保障し続けた。
──オーブは、いつだって平和だった!
──なのに、なんで戦争なんか起きるんだ!?
咄嗟に抱いたシンのそれは、あまりにも無知で子供っぽい感傷だ。しかし、だからこそ率直であり、本質的な疑念でもある。
シン・アスカは、戦争を知らない。平和の中で生まれ、平和の中で当然のように育って来た彼には、平和という環境が如何にスケールの大きな幸福であるのかを咀嚼する力は培われていなかった。目の前で起きている現実のすべてが、単なる理不尽に思えてならなかった。
「急げ、シン!」
「マユ、頑張って!」
息を切らせた父の声と、上ずった母の声。
両親からの激励を受けながら、恐怖の中でシンとマユは、懸命に走った。マユは今にも泣き出しそうな表情で、母に手を引かれる形で。
シンはそんな妹の背を見守るように、家族の中で最後尾に位置づいて走っていた。彼らは、避難のために軍港を目指していたのだ。
──花が……。花が、吹き飛ばされていく……!
穏やかに流れていた時間は、今ここに破られた。
周辺に咲き誇る色とりどりの花々を、戦いの砲火は、無残にも覆って包み込んで行く。閃光が弾ければ爆音が鳴り響き、己の声すらかき消すほどの激震に揺れれば、巨神の如きモビルスーツ同士の攻防が、その激しさを増す。
避難が遅れたゆえに、戦争の中に取り残されたアスカ一家は、完全に野晒しの状態にあった。
──なんで、こんなことになるんだよ……!?
駆け抜けながら、シンは多くの花が吹き飛ばされて行く光景を、そのとき然と目に焼き付けていた。
オーブ本島にあって、いまだ生身でありながら軍港に足を運べていなかったのは、ニコル・アマルフィも同様だった。〝アークエンジェル〟から保釈された彼は、このオーブ解放戦が始まるより前に、オノゴロの地に立っていた。
ニコルがこれから向かう先に、これという宛てはなかった。今の彼に残された選択と云えば、それこそオーブ国内の軍港に向かって、避難の混乱に乗じてオーブ国外へ退去する程度であったろう。
(〝ブリッツ〟はモルゲンレーテが持っていった、という話だったし……)
この情勢下、仮にオーブから脱出できたところで、その先にどうなるかなどの保証などない。
賢明なるオーブ連合首長国政府は、
人のいい両親のことだから、自分は生きているのだと告げてあげれば涙ながらに喜んでくれるだろうが、その先はどうする? もう一度、ザフトとして義勇兵をやり直し、与えられた『敵』──地球上に住まう人々を弾圧するための歯車になるのか?
──果たしてそんなことが、今の自分にできるのだろうか?
国営の大公園から国道の大きな路面へ繋がる長い階段に立ち尽くすニコルは、海岸線から出撃してゆく〝アークエンジェル〟の艦影を遠目に見ていた。敵艦だったはずの宇宙艦『大天使』は、今はもう、地球軍の所属艦ではない。
──なら……! もう、戦う理由なんてないじゃないか!
軍人が、軍人として戦場に駆り出されるのは責務である。大義のため、名誉のため、民のために戦うことこそ兵士の本分であり、任務であり、矜持なのだ。
しかし〝アークエンジェル〟──今の彼らは違うし、戦う理由など持ち合わせていない筈だ。地球軍から離反した彼らに帰属すべき軍はなく、従うべき命令もない。当然、あのようにオーブ連合首長国に義理立てする必要だってない。
──だったらどうして、彼らは戦う?
──いや違う、戦える?
トールやミリアリアは、オーブが故郷だと云っていた。
彼らは、故郷を守るために戦いに行ったのだ。
(祖国を守るために、戦う)
戦う動機は、ニコルのそれとよく似ていた。
「──!」
そのとき、彼の立っていた地上を暴風が突き抜けた。吹き曝しに遭ったニコルは、反射的に顔の前に腕を翳す。どうやら、地球軍のMS部隊が付近まで上陸してきているらしい。
身の危険を感じ、慌てて彼はその場から退いた。距離を置いてから空を見上げれば、そこには空戦用モビルスーツ〝ネメシスダガー〟が視認できた。これまで独房に入っていたニコルでは識別することのできない新型機だが、明らかに見慣れないゴーグルアイからは、おおよそ地球軍の正式な採用機だろうという予測くらいは付く。
「──こんな場所にまで!?」
ここは海岸から離れた内陸だ。オーブは島国であり、その島自体の規模もそこまで大きなわけではないが、さりとてオーブの防衛部隊は海岸を重点的に守るはずだ。
──にも関わらず、彼らは敵の侵入を内陸まで許している……?
それが意味する形勢など、明らかだった。考えていた矢先、案の定というべきか、事態に勘付いたオーブ軍の〝M1〟小隊が足音を立てて駆けつけてきた。朱色いボディに彩られた〝M1アストレイ〟は、量産式ビームライフルを構え、複数体で一機の〝ネメシスダガー〟と相対する。
しかし、大空を制す〝ネメシスダガー〟は三次元に対応した反応をみせ、放たれた火線を次々に回避する。逆撃として放つ〝ネメシスダガー〟の砲撃は、対して〝M1〟を捉え、これらを易々と撃破した。地に立つニコルの目前に、打ち砕かれたモビルスーツの破片が転がる。
(強いっ……! あれが、地球軍の正式採用機なのか!)
パイロットとしての性なのか、彼らしくもないはずだが、このときのニコルは思わず感心していた。あの〝ネメシスダガー〟にはおそらく──いや間違いなくエースパイロットが搭乗しているのだろう。量産型の〝ストライクダガー〟とは決定的に異なる運動性、空戦用のフライトユニットを自在に操る上位機種は、大空の支配者であるかのように地上の〝M1〟を狩ってゆく。
──あれでは、オーブの防衛線は総崩れだ!
そう確信したときだった。彼が眺めるはるか上空より、白銀の〝雷〟が駆け抜けて来たのは。
勿論それは比喩であり、しかし、それを単なる大袈裟だと云わせない程度には、その速度は雷速じみて尋常なものではなかった。そのとき現れた白銀色のモビルスーツは凄まじい機動力を持ち、両腕にビームサーベルを抜き放ちながら〝ネメシスダガー〟を背後から強襲したのだ。
「白銀の──!?」
対する〝ネメシスダガー〟も、流石にこれに気付いたらしい。いや、気付いただけでもやはり上等だ。圧倒的な機動をもって突っ込んでくる〝白銀〟を、その機体は、やはり事前に察知して回避運動をとってみせた。
ニコルは目を見張り、その初めて目にする新型のモビルスーツに驚く。
白銀に輝く装甲。鏡を磨き上げたように美しく、装甲表面のフレームを縁取るようにシアンブルーの装飾がエングレーブのように描かれている。両腕に〝ブリッツ〟の〝トリケロス〟を思わせるような防盾を装備し、背中には一対の砲身と、これを飾る羽毛のように三対の大振りな翅翼が輝いている。その眩さは、さながらオーブという国に降誕せしめた
「どこの所属機だ……っ!?」
鮮やかな青色の灯が燈るツインアイ、神獣の角を思わせる黄金のクアドラブルアンテナ。間違いなく、それは〝ブリッツ〟と同じ〝G〟タイプだった。
そしてそうである以上、その〝銀色〟は見かけ倒しではない──そいつは凄まじいスピードで大空を駆け抜け、滑るように〝ネメシスダガー〟へと突貫する。
迎え撃つ〝ネメシスダガー〟は牽制のバルカンを乱射し、続けざま、ビームライフルをマシンガンのようにバラ撒いた。しかし〝銀色〟は砲火の合間を縫うように超低空飛行を行い、地をすれすれに飛んだ後、双腕に装着された防盾からビームジャベリンを発心させた。
次の瞬間、灼熱が装甲を削ぎ落す高音が鳴り響き、〝銀色〟のビームジャベリンが、過たず〝ネメシスダガー〟の頭部をもぎ取っていった。
しかし、それだけである。ビームジャベリンの直撃を予感した〝ネメシスダガー〟は、ぎりぎりの所で後退し、損害を頭部メインカメラのみに留めたのだ。仮にニコルが〝ブリッツ〟に乗っていたとしても、とれたかどうか判らない反応速度で。
そうして頭部を刎ね飛ばされた〝ネメシスダガー〟は、すぐに背後を振り返って応戦をした。フライトユニット〝ノービリス・トロス〟より無数の追尾ミサイルを、背後方向の〝銀色〟めがけて発射したのである。
だが、やはりその攻撃に大した意味はなかった。疾風のように空中を駆け抜ける〝銀色〟は、抜き打ちに両脇から抱え込んだ散弾砲を応射し、一発につき数基のミサイルをまとめて撃墜する。
──鮮やかな空中戦! これが、エースパイロット同士の戦い……!?
だが結論を云えば、二機のモビルスーツは基礎性能が違い過ぎている。
その事実を見抜いて──やはり見抜けただけでも上等であり──〝ネメシスダガー〟のパイロットは、咄嗟に機体を転進させて戦場から逃げた。相手の方が明かな〝格上〟であることを悟って、撤退、あるいは味方との合流を図ろうとしたのである。
だが〝銀色〟はこれを許さない、獲物を追いかけるようにして〝ネメシスダガー〟の追撃に飛んでゆく。その場に取り残されたニコルは、不意に思った。
(あの〝銀色〟、オーブのモビルスーツなのか? それにしては……)
薄い翅翼の形状は、まるで〝ディン〟の翼を連想させた。機体フレームも全体的に曲面が主体で、やや彎曲的な機体デザインはザフトで開発されたものであるような印象を受けた。
(……何を、馬鹿なことを)
自嘲しながら、ニコルはかぶりを振って、そのような妄想──そう、妄想だ──を払拭していた。
明らかに従来のMSが発揮できる機動性ではなく、であれば〝アレ〟は、間違いなく最新鋭の機種だった。所属がザフトだとすれば、そんなものが、どうしてオーブにあって、オーブに加勢するというのか──静寂が訪れ、それまで恍惚と戦闘に魅入っていた彼は、ハッとして現実に引き戻される。
──こんなところで、僕は何をやっている。
得体の知れない〝銀色〟のモビルスーツが地球軍機と戦っている。それはオーブにとっては心強いことだ。けれど、たった一機の活躍によって戦況が覆るほどに戦場は簡単ではない。
──戦力は、すこしでも多い方が良い!
ニコルはそのとき、妙な義務感に突き動かされたように〝モルゲンレーテ〟の工場区へと足を向けた。
『──他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』
オーブの理念は崇高だ。他所の国家との諍いを起こさず、かといって、鎖国しているわけではない。援助が必要なときは他国への人材を派遣し、自他との協力関係を怠らない。中立と云いながら、たしかに屈強な軍備を整えてはいる──しかし、それらは専ら国土を守るための力、あるいは災害救助等を理由に国外へ派遣する支援要員としての役割に留まっていた。
国際社会において独自の立場を堅持するにも、背景に他国の口出しを許さない武力と経済力を必要とする。つまりオーブの軍備とは、オーブそのものの中立国としての権威を代弁するものである。
幼いながらも、シン・アスカはそうした母国の在り方に誇りを持っていた。
『オーブがこれを理念とし、様々に移り変わる時代の中で、我々がそれを頑なに護り抜いて来たのは、それこそが〝国〟という集団を形成していくにあたって、もっとも基本的で大切なことと考えるからです』
避難命令が出されるよりも前、オーブの代表ウズミ・ナラ・アスハがテレビ中継を介して、国民に訴えかけていたことだ。初老がかった男の声色は、真っ直ぐだった。
『今この状況にあっても、私はそれを正しいと考えます。いま陣営を定めねば、撃つという地球軍──しかし、我々はやはり従うことはできません。今従ってしまえば、やがて来るいつの日か、我々はただ彼らの示すものを〝敵〟として定め、命じられるままに戦うを繰り広げる蛮国と成るでしょう』
地球軍のやり方は、たしかに強引だ。地球圏のいち国家として、連合に協力する姿勢を見せないオーブは〝プラント〟支援国とされ、攻撃を受けることになった。
シンの友人達の中には「こんなことになるくらいなら、いっそのこと連合に同調してしまえばよかったんだ」と叫ぶ者もいた。
果たして、本当にそうだったのだろうか? この国はいったい、どうすれば良かった? まだ幼かったシン・アスカには、その答えなんて分からない──ましてや、正解なんてものは。
「急げ、港はもうすぐだ!」
本島各所で戦乱の黒煙が噴き上がり、戦闘が激化する中で、しかしながらシンとその家族達はいまだに荒れた林道を走っていた。それは政府から下された避難指示が、明確に遅れてから発令されたためでもあった。
「オーブが戦場になるなんて。これでは、話と違うぞ……! 私達が暮らし始めた頃は、そんな説明──」
「あなた、今そんなことを云ったって!」
「わかっているさ! しかし、収まらんよっ!」
「父さん……母さん……」
オーブの理念を第一とし、ウズミ・ナラ・アスハは大西洋連邦の要求を頑なに突っぱねた。このときシンの父は、その選択と決断に誤りがあったのだと、民の目線から次のように不平をこぼした。
「ウズミ代表は、国の理念よりも国民の安全を優先すべきだったんじゃないのか!?」
彼はこのとき、己を家長とするアスカ家が──自分達が置かれた状況を冷徹に、客観的な目線でもって評定する。自分達はもはや、オーブの国民ではない。オーブに見捨てられた、
「──あぶないっ!?」
そのとき叫ぶような声で、母の声が響く。ハッとして上空に目を巡らせたそのとき林道を駆けるシンたち一同を、凄まじい激震と暴風が襲った。
彼らの目の前に、見たこともない巨大モビルスーツの機影がふたつ、迫ってきていた。
「こいつ……!」
オーブ解放戦線に介入した〝クレイドル〟──
その中で、ステラは歯噛みしていた。現在、彼女は尻尾をまいて自分の前から逃げようとしている〝ネメシスダガー〟を追撃していた。
──たかが一機に、どれだけ時間をかける!?
ステラはそのとき、自分自身を叱咤していた。なかなか敵機を鎮圧できない自分に、苛立っていた。それは確かな自嘲であった。
「こんな一方的な戦争、許していいもんか!」
目下にはオノゴロの軍港が見える。その湾岸に隣接する林間部で、ステラは〝ネメシスダガー〟に追いついた。リンクス・ビームライフルを連結させ、下空を飛ぶ〝ネメシスダガー〟を狙撃する──が、やはり回避された。ステラの放った光条は、林道の中に着弾し、地上を抉るような爆発を起こした。
ステラはそれで、すっかりと顔色を変えた 迂闊な射撃は控えるべきであり、地上への被害は最低限に収めなくてはならないのだ。
すると、標的の〝ネメシスダガー〟は山岳の麓に着陸していた。ステラが目を眇めれば、敵機の足許には、人が走れるほどの林道が拡がっていた。
(ここなら……!)
──多少手荒にやっても、民間への被害は少ない。
改めて〝クレイドル〟はビームジャベリンを抜き放ち、一気に〝ネメシスダガー〟へ斬りかかる。着地と同時に光刃を振り下ろし、灼熱の刃が周囲の木々を一瞬で蒸発させる。
〝ネメシスダガー〟は後退しながら空中へ飛びずさり、すかさずビームライフルを放つ。ステラは左腕のシールドでこれを弾き飛ばすと、間髪入れず胸部バルカンを応射した。無数の実弾が〝ネメシスダガー〟のビームライフルを捉え、これを爆散させる。それらは無数の炎の塊となって、炎の糸を引きながら地上に墜落していく。
ステラは、その隕石めいた炎の残骸が墜落して行く先を見届けた。ばらばらに砕け散った鉄塊と炎塊が、山の中に墜落し、木々をへし折り、叩き潰してゆく光景だ。
「……!?」
それは、彼女が瓦礫を見送るために、山中に視線を落とした瞬間のことだった。そこに林道を駆けている、数人の民間人を目撃したのである。
──逃げ遅れ……?
そう率直に思った矢先、彼女は自分の目を疑った。彼女の優れた視力は、視線の先の少年が──そして少女が、誰であるのかをすぐに理解した。切れ長の黒髪に、きかん気そうな赤い目をした少年──そして彼の前を走る、ふわりと重みに欠ける柔らかな黒髪をした少女。
「
その瞬間、
地表へと差し迫る炎弾は、複雑な軌道を取りながら〝クレイドル〟へ──ひいては、その退路を塞ぐべく周辺の林間部へと肉迫した。
ぎょっと目を開き、慄然にステラは呑まれた。
彼女は、解き放たれた敵のミサイルが〝どこ〟に着弾するのかを、彼女は不思議と正確に読み取っていた。それゆえに、ゾワリ、と嫌な感覚が背筋を迸った。
──
ステラはそのとき、無我夢中に、みずからの機体を駆っていた。
ミサイルが上空から降り注ぐ。銀色のモビルスーツをつけ狙ったミサイルが、軌道を外れ、シン達を目掛けて落ちてきたのだ。
──モビルスーツ同士の戦闘に、巻き込まれた!?
シンは悄然として、頭上から迫り来るミサイルの群れに絶望した。
(
人型機動兵器が放つ、無慈悲なる砲火。戦争の火線を前にして、まだ十四歳に過ぎなかったシン・アスカは、あまりに無力だった。
「──マユッ!」
気が付くとシンは、妹を抱きしめていた。みずからの背中を着弾地点側に向け、小さな少女を庇うように抱き留め、みずからを盾にした。それがどれほど無意味な行動であるかを知りながらも、そうせずにはいられなかったのだ。
そうして彼は、怒れる瞳で上空のモビルスーツ〝ネメシスダガー〟を睥睨した。
──連合のモビルスーツ! あいつさえ、出て来なければ……!
木々を透かして、港が見える。あと、もう少しだったのだ。港はもう、目と鼻の先だった──この林道を抜ければ、もうじき避難民と合流できたはずだったのに……!
「くっそぉぉぉッ!」
ミサイルの直撃を受ければ、生身の人身など、ひと溜まりもない。いや、仮に直撃でなくとも同じことだろう。
噴炎弾は、その着弾と同時に周辺に凄まじい爆風と熱波を巻き散らす──それに比べて、自分達の身体はあまりにも軽すぎる、脆すぎる。こんな場所にいれば、爆発の余波に吹き飛ばされ、業火に身を焼き尽くされることになるだろう! それこそ周りの木々と何も変わらず──同じように、あまりにも呆気なく!
逃げられない────!?
そのときシンは、みずからの命の最期を悟った。
──なんで、こんなことになったんだ……!?
理不尽な現実を閉ざすように、シンはそのとき、ぎゅっと瞼を瞑った。
────。
──────。
────────。
「……?」
爆発は、起こらなかった。
そうして訪れたのは、奇妙な静穏。
これを不思議に、そして不審に思ったシンは、マユは、そして彼らの両親はゆっくりと、その震えた瞼を開けた。
──意識がある……自分達は無事、なのか……!?
暗闇に閉ざされていた視界が開け、光を取り入れたシンの深紅の瞳は、咄嗟に、みずから周辺の光景を見渡していた。
「なッ……!?」
シンは唖然としてその場に立ち尽くした。あたりは一瞬にして様相が変わっていた。木々の深緑に覆われていたはずの景色は既にそこになく、焼き尽くされて赤茶けた土がボロボロと見えるだけだ。あるものは炭化して、ぷすぷすと音を立てながら黒煙を吐き出している。
そう考え終えてから、馬鹿なことを、と自嘲する。
実際、ミサイルは着弾しているのだ──自分達の周辺に、見事に。でなければ、背景がすげ替えられた舞台のように、こんなにも一瞬で景色が豹変するはずがないのだから。
──どうして、おれ達は無事なんだ……?
そう思って、シンが背後を振り返ろうとしたとき、彼が庇っていたマユが驚愕の声を挙げた。
「
えっ──?
シンは凝然と、マユが示唆した方向を振り返る。
するとそこには〝白銀の巨神〟ともいうべき──片膝を地に付けた巨大なモビルスーツが目の前に厳存していた。
金色の角。蒼い一対の
「モビルスーツ!?」
シンは、怒鳴った。
その白銀のモビルスーツは、異教の
大きな両掌を空に翳し、片膝をついて屈んでいる。背中から張り出した四対の翼を孔雀のように天に拡げ、八枚の翼の内部から繊細な碧色の粒子が広域に散布させていた。
放出された光波の粒子は膜状に連結し、滑らかなビーム状の球体を形成していた。
────そう、翼状スラスターに内蔵された光波発生器から〝
光波防御帯の内側は、いわば母の腕に包まれたように──ゆりかごのように、絶対安全圏内だった。
「護って、くれたの……!?」
シンの母親が、腰から崩れ落ちる。
しかし、驚くのにも無理はない。彼等はこれまで、実物のモビルスーツなど間近で見たことがないのだ。鋼鉄に覆われた巨神──その巨躯が突然目の前に在って、さらには得体の知れないビームフィールドを展開して、自分達だけを正確に護り抜いていれば、誰だって──。
ようやく事態を把握したシンが、震撼しながら周囲を見渡した。
焼き尽くされた周辺の木々を見ると、ゾッとする。──もしかしたら、自分達はこうなっていたかもしれないのだ。
「た、立つんだ!」
シンの父親は、急いたように母に云った。
その腕を引き、強引に彼女を起立させた。
「なんでもいい! 走るんだ、がんばれ!」
続けて彼は、シンとマユに命じる。
シンは一瞬、さすがにそれは恩知らずだと思った。両親が走り出すのを認めたのか、次の瞬間に
光波防御帯をかき消した後、白銀の巨神がゴウと立ち上がる。
シンは、それに向かって吼えるように叫んでいた。
「……ありがとう!」
〈……港にっ!〉
云えば、スピーカーから大音響の声が返って来た。
柔らかだが、芯の通った声だった。
〈──走って!〉
シンはパッと晴れた笑顔になって、茫然とするマユの腕を取る。
そうして彼らは、移動を再開した両親の後に続いて走り出した。
「………………」
ステラは、彼らの背中を見送った。
──いや。見送ることしか……出来なかった。
今この状況、他にかけられる言葉もなく。ましてや、会えるはずがないのだから。
「急げ、シン!」
父に急かされ、シンは部分的に焼け焦げた焦土を踏み越え、ふたたび林道を駆け出した。
バシュン! 背後で、空気が圧縮された音が聞こえる。シンは走りながら首を後方に向け〝白銀〟のモビルスーツが上空へ飛翔して行くの見た。そうして再び、そのモビルスーツは遥か上空で〝ネメシスダガー〟と対峙し、翻弄されるような目まぐるしい戦闘を再開した。
シンは、そこまでの景色をたしかに見届けた。
(あのモビルスーツ、女の子が乗ってるのか)
スピーカーから聞こえた声は高くて、透き通ったように儚くて。女性というより、むしろ女の子のような声をしていた。それこそ、自分と年齢が変わらないくらいの……?
──女の子が、こんな戦場に出て来るなんて……!
あの〝銀色〟は、オーブのモビルスーツなのだろうか? にしては、
なんにせよ、殊勝なのだな、と潜在的にシンは考える。
短い会話をしただけだったが、どこかで聞いたことがあるような声だったような気もしている。
(……助かった)
名も、顔も分からない少女に救われた事実を、シンは何度も咀嚼した。
自分達は、きっと救われた──。
これ以上ないほどの幸福感を噛みしめながら、シンは妹と、そして両親と共に、ふたたび軍港を目指して走る。
──あの白銀の
包まれたように暖かく。
慈愛に満ちたモビルスーツの風貌と記憶を、そのときシンは、たしかに自分の胸に刻み込んだ。
自由の翼が、空へ飛翔した。
オーブ軍守備隊の中で、大気圏内で単独での浮遊能力を持つモビルスーツは〝フリーダム〟だけだった。
オーブが島国である以上、地球連合軍艦隊は国家の領海線に展開するのが当然の流れだ。そのまま領海内に侵入して来る艦艇も数隻あるが、ならば連合軍の旗艦を制圧することで、この戦闘を中断させることだって、出来るかもしれない。
キラ・ヤマトはそう予測して、オーブの海域に〝フリーダム〟を出撃させた。
だが──。
結果的に、〝フリーダム〟が連合軍旗艦〝バウエル〟のところまでやって来ることはなかった。キラが目指した海域の向こう側から──三機の〝G〟が顕現したのである。
「新型──?」
黒い一機〝レイダー〟は赤い縁取りのある翼を広げ、
いずれも、前期GATシリーズの面影を残してはいたが、それぞれ機能を著しく特化させたものらしく、どこか不吉なまでに過剰な装備を搭載していた。
殊に印象的だったのは、それらはすべて、機体フレームの中に強力な砲門を内蔵しているということだ。〝レイダー〟は頭部に、〝カラミティ〟は腹部に、〝フォビドゥン〟は胸部に、それぞれ強力なビーム砲を内蔵しており、全身に砲門を内蔵させた〝エクソリア〟を彷彿とさせる。
──あんな連中に上陸されたら、オーブは……!
迫り来る〝G〟に向け、キラはビームライフルを放つ。
悪の三兵器と〝フリーダム〟が、交戦状態に入った。
林道を抜け、シン達はオノゴロの工場区へと差し掛かっていた。
軍港までの距離は、おおよそ残り二千メートルと云ったところか? 港には多くの避難民が押し掛け、長蛇の列が出来ている。
──辿り着いたには良いが、あの列に並ばなければならないのか……!?
呪うように思ったシンの父親は、こんな言葉を吐き出していた。
「やはり、政府の避難指示が遅かったんだよ! 港さえ混雑しているなんてッ」
「そんなッ……」
それを聞いて、後続するシン達は絶望する。
──おれ達はいったい、何のために走って来た……!?
港と云っても、絶対に安全な場所ではないのだ。たとえ辿り着いても、乗船できなければ何の意味もない。
「あなた! こんなことなら港じゃなくて、民間のシェルターに走った方が良かったわ……!?」
「今さらだよ!」
(アスハって……)
シンは、手酷い裏切りにあった気分だった。
誰が悪いわけではないのかもしれない。連合の攻撃が、突然すぎたのかもしれない。
──それでも最低限、オーブは国民を逃がす準備くらい、もうすこし整えていてもよかったんじゃないのか……!?
シンは、咄嗟に忸怩たる念を抱いた。
そうして、どうやらぼんやりしていたらしい。
──ドンッ!
茫然と走っていたシンは、工廠の曲がり角に差し掛かったところで、急に物陰から現れた、ひとりの少年と正面から衝突していた。
「いてッ」
「うわッ」
衝突したふたりは、あまりの衝撃に、お互い尻餅をつく。
その場に崩れたシンは、不意に、カッとなった。
「いてて……あんた、どこ見て走ってんだよぉ!?」
それは、自分に云うべき台詞だったということもシンは分かっていた。しかし今の彼は、苛立ちが理性を凌駕していた。
顔を紅くして、シンが怒鳴る。
目線を上げると、そこには緑色の髪をした、少女めいた柔らかな顔立ちをした少年の姿があった。
「──えっ?」
それは、シンにとって見覚えのある顔だった。
「あんたは……?」
「きみは……!?」
シンがぶつかったのは、ニコル・アマルフィだった。
衝突したその黒髪の少年に、ニコルは見憶えがあった。そしてどうやら、それは向こうも同じらしく、一瞬だけ、探り合うような沈黙がふたりの間に流れた。
ニコルは、こぼすように云った。
「たしか……前にオーブで、アスランと」
喧嘩になりかけた少年だ──?
咄嗟のことで、ひどい表現しか出て来なかったニコルであったが、彼が続けようとしたとき、脇からまた、別の声が上がった。
「シン! 何してる、急ぐんだ!」
「お兄ちゃん! 立って!」
シンとニコルの衝突に気付いた、家族達だ。
息子だけが遅れていることに、ようやく父親が気付いたらしい──場に
(この少年の家族? あれが)
ニコルは、三人で固まって立つ彼らを見、心の声で云った。
黒髪の一家だ。彼等は、少年の両親に、妹だろうか──妹の名は、たしか「マユ」と云ったはずだが……?
そのマユに大声で呼びかけられ、シンは我に帰ったように、慌ててその場に立ち上がった。
「わるかったよ。急いでるから、また」
云いながらも、シンは尻餅ついたニコルに向けて、ゆっくりと腕を伸ばして来た。ニコルは一瞬唖然としたが、すぐにその手を取って、ぐいと立ち上がる。
互いに反省の会釈を交わし、
(本質的には……優しい少年なんだな)
ニコルは、不思議とそう感じていた。それぞれに向かうべき場所があって、ふたりが「それじゃあ」と口を開こうとした。
そのときである。
いきなり、彼等のすぐ頭上を一機の〝ネメシスダガー〟が飛び過ぎ、一拍遅れて、凄まじい暴風が突き抜けた。押し寄せる風圧に、シンの被っていたニット帽が天高く飛んでゆく。
シンは慌てて、帽子が飛んだ方向を仰ぎ見た。しかし見上げた先に帽子ではなく、巨大なモビルスーツの機影を認めてしまった。連合の〝ネメシスダガー〟──しかも、そいつは
(
シンは決して忘れていなかった──ヘルメットのような頭部のない〝ネメシスダガー〟は、自分達を救ってくれた〝白銀の守護神〟と交戦中の機体であったことを。
「あいつ、まだ生きてるのかよ!?」
そいつは、シン達の頭上で交戦し始めた。シンの立ち位置からは見えない標的に向かって、あらゆる火器を撃ち返し始めたのである。
ニコルは、傍らで茫洋と立ち尽くすシンを引きずるようにして、バッと物陰に跳び下がった。しかし、シンには状況が掴めていない。民間人に過ぎない彼は、今にも家族の下に駆け付けようと、物陰から飛び出していこうとして、ニコルは慌てて彼を後ろから引き止めた。
「とっ父さん! 母さん、マユッ!?」
「きみ! 何やってるの、死にたいのか!?」
軍人であるニコルは、今という瞬間が、どれだけ危険な状況であるのかを冷静に把握していた。すぐ至近距離で──いや頭上で、モビルスーツが交戦しているのだ。
衝撃の余波ですら、生身の人間の命を奪いかねない以上、物陰から迂闊に出て行くべきではない!
しかし一方で、シンの家族は動揺のあまり、その場に立ち尽くしているだけだ。
──助けないとっ!
義務感に駆られたシンは、吹き曝しにあっている家族の許へ駆け寄ろうと、無鉄砲にも物陰から飛び出そうとする。だが、やはりニコルがそれを許さない。「迂闊だ!」と叫ぶも、「離してくれよッ!」と暴れ回るシンの膂力は、すごい力だった。
──ズギャン!!
次の瞬間、頭上にあった〝ネメシスダガー〟が、遠方より去来した一筋のビーム砲に射抜かれた。装甲が貫かれる音が響いた後、機体は物云わぬスチールグレイの塊となって、地上へと墜落して行く。
シンとニコルは泡喰って、撃墜された〝ネメシスダガー〟の墜落地点を見据えた。
無残にも貫かれ、散った鋼鉄が落ちる先──するとそこに、
──え……?
それは、恐怖に怯えて立ち竦む、シンの家族の人影だった。
その瞬間、シンは、すべてを悟った。
「ああッ────!?」
野獣のように、天に轟く声でニコルに吼える。
それでもニコルは、彼を離さなかった。
「離せッ! 離せよォッ!?」
「いけない!
その言葉の先が、吐き出されることは無かった。
断末魔の声も、助けを求める声が上がる猶予もなかった。被弾したモビルスーツは、それ自体が巨大にして幾重にも重なった火山弾のように、炎を噴き上げながら地表へと墜落してゆく。
それは、本当に一瞬の出来事で──。
「お母さん……?」
マユは、撃墜された〝ネメシスダガー〟が、どんどん頭上で大きくなって来るのを、ただ茫然と見つめていた。
──怖い……。
ふと、母の袖を引っ張って見たが、反応はなかった。
ただ、母の身体もまた、強かに震えていることだけは分かった。きっと母は、恐くて言葉も出ないのだ──。
巨大な影が、空から迫って来る。
陽光は遮られ、少女の身体は黒い影に覆われた。
「
少なくとも、マユの眼には、そう見えた。
──空が。
──黒い空が、降って来る……?
──空にわたし、潰される……?
次の瞬間。
黒く染まった鋼鉄の「空」が────小さな身体を、容赦なく押し潰した。
墜落の衝撃────。
破片と瓦礫、装甲の山が、逃げ惑っていた家族達の姿を、包み隠した。
ガシャン、ガシャンと。コンクリートや鉄塊が絡まり合う轟音と共に、噴煙が大きく巻き上がり、SF映画の実演のような、壮観にしてはあまりに残酷な景色が現実として突き付けられた。立ちあがる噴煙が、一帯の景色を灰色に染めてゆく。
付近を飛ぶモビルスーツが消え去った今、少年達の周りを、穏やかな風だけが過ぎ去っていく。
風が煙を運び、灰色の噴煙が晴れたとき、シンが求める者達の姿は、既にそこから消えてなくなっていた。
「あ……ッ」
ニコルは、くっと堪えた。堪えたまま、少年が現場に駆け寄るのを必死で制した。
少年は────急激に体温が下がっているようだった。
全身から血の気が引いたように、顔を真っ青にして、暴れ出す。ニコルはほとんど殴り飛ばされるような形で、少年の暴力に振り払われた。
何も考えてなどいない──シンはほとんど反射的、無我夢中になってニコルの捕縛を解き、物陰から飛び出していた。
「父さん、母さん……!? ……マユ……?」
眼前に乱雑に積み重ねられた鋼鉄の塊は、少年の視界を遮って、彼が求める者達の姿を包み隠していた。
凝然と立ち尽くし、ややあって、シンはその場に崩れた。
周囲に、動く気配のものはない。
喉元に、何かが込み上げる──悲しみ、恨み、憤り──言葉では名状できない、とてつもなく激しく、深い激情。
喪失の痛みが、彼の心を内側から食い破るように膨れ上がる。とめどない涙が、深紅の瞳から溢れ出した。
──助かったって、思ったのに……!
震撼が、止まらない。
どうして、自分だけ生きているのか。
どうして、こんなことになってしまったのか。
「あ…………ああッ…………!」
自分の声とは思えないほど、枯れた声で。
おかしくなった声で、シンは咽び震えていた。
誰が、やった?
誰が、奪った──?
誰が、俺の家族を──!?
いや、問題はそれ以前だった。
──
バシュン! 空気が圧縮される、聞き覚えのある音が耳に飛び込む。
シンは、わなわなと顔を上げた。
そのとき、己の記憶に刻んだ〝白銀の守護神〟が──遠方で上空へ舞い上がったのを見つけた。そいつは海岸線の方角に地球軍の新手を見つけたのか、まるでこちらのことを気に留める様子もなく──そして、まったく気付いた様子もなく大空へ飛び上がると、疾風のように飛び去って行ってしまった。
シンは、ひとりその場に取り残された。たったひとり、生き残った状態で……。
「うッ、あッ」
そのとき彼の中で結びついた、可能性と確信。飛び去って行った〝白銀〟は、ずっと〝
──きっとそう、
アイツが。
──あの人が、奪った。
アイツが……!
──あの
きっと、アイツが……!
「う……うぅッ……!」
──俺の家族を、殺した……!?
「────う”わ”あ”あ”あああぁぁぁぁぁぁ”ッ!!!!!?」
思いは覆され、自国への誇りは跡形もなく踏み躙られた。他ならぬ──理念を押し立て、国民を贄とした蛮国の手によって。
守っては、くれなかったのだ。
──この国と同じように……!
守ろうとしても、守れなかったのだ。
──白銀の翼を広げた、あのモビルスーツは……!
守りきれは、しなかったのだ。
──ヤツらが、俺の家族を殺した!!
これ以上ないほどの絶望感に襲われながら、シンはひたすら、獣のように叫んだ。理念を押し立て、国民を生贄にしたオーブ。そして、
──あの白銀の〝破壊神〟……絶対に忘れないッ!!
鋼鉄のように冷たく。
無慈悲なる残酷なモビルスーツの風貌と記憶を、そのときシンは、たしかに自分の胸に刻み込んだ。