~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『ウェルカムバック』A

《ハロ、ハロ!》

 

 聞き慣れない機械音声。

 それによってステラは、まどろみから頭を起こした。

 つい先ほどまでの彼女は、狭苦しいモビルスーツのコクピッドの中にいた。……そのはずだったのだが、このときは全く異なる、全く新しい光景の中にいた。

 

「……?」

 

 緑に覆われた芝、澄んだ空気に、栄えた風な人の街並み。

 思わず顔を上げ、空を仰ぎ見る。それらの景色は天にまで広がっており、大地は広い目で見て丸みを帯びていた。

 ──オーブが所有するコロニー〝ヘリオポリス〟

 円筒状に拡がった構造物と、豊かに繁る新緑の木々。

 ふさふさと揺れる芝生の上で眠っていたステラは、ゆっくり上体を起こす──と、ぴょんぴょんと跳ねながら忙しなく話しくる〝ソレ〟に目を向けた。

 

「……ハロ?」

 

 球体のボディに、子どもが描いたようなシンプルな顔。

 静穏さと結びついたような〝海色〟──マリンブルーに彩られたそのハロは、うつらうつらと朧げなステラの周りをぐるぐると回っていた。

 

《認メタクナイ!》

 

 ハロが跳躍する度に、間の抜けた効果音が鳴り響く。

 ステラは、きょろきょろとして辺りを見渡した。通常の感覚であればパニックに陥って然るべき状況だが、ステラの方はいまだ寝惚けているのか、その顔は茫洋としている。

 

《オマエ、元気カ? ──ハロ、元気!》

 

 いったい、何が起きたというのか。

 ステラには分からない。

 

「?」

 

 このときのステラは、それまでに失っていた記憶のすべてを取り戻していた。

 ──エクステンデットだった頃の記憶ではない。

 ──それは、人為的に違えられていた方の記憶。

 実は彼女はザラの家の一人であり、自分には血の繋がった家族がいたのだという、真実の方の記憶だった。

 

「このハロは……アスランがつくってくれた、んだっけ」

 

 改めて考えれば、このハロと呼ばれるロボットは、アスランの専売特許のようなものだ。

 ──妹の、ステラのために作ってくれたもの。

 ステラは海が好きだった。青色だったり、緑色だったり、夕日が沈むときには茜色になったり──鮮やかでキラキラしているから。

 だからアスランは、そんな彼女に海色のハロをくれたのだ。そのハロは片言で、言葉を続けた。

 

《オマエ、願ッタ! 祈リ、応エタ! ダカラヤリ直ス──ヤリ直セル!》

 

 その言葉に、ステラはようやくハッとしていた。

 灼熱の刃に貫かれ、今際に立ったステラが思ったことを思い出す──

 

『もう一度だけ、やり直したい』

 

 あれは純粋な願いだった。

 今さらだとは思うし、そのときになって漸く全てを思い出すほどに、不本意なこともなかった。

 そして、今までの全てに謝りたかった。

 ――記憶を失ったまま、生きてしまっていたから。

 ――アスランが、もうこの世にいないから。

 ――シンともう一度、ちゃんとお話がしたかったから。

 だから、そう思った。

 ハロは、その想いや願い〝応えられた〟と云う。

 

《ステラ、死ンデナイ、生イキテル! ダカラ、ヤリ直ス!》

「……ステラが……?」

《オマエガ、アスランヲ、守レバイイ!》

 

 その言葉を聞き止めるが、ステラには分からない。

 ──たしか、アスランは前の戦争で……第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で、戦死したと云われてる。

 だとしたら、その戦いは、今からどのくらい後のことになるのだろう?

 

 ステラには記憶がなかったため、ヤキン・ドゥーエ戦役の話はまったく情報がない。そのため、兄が生前にどんなことをして来たのかも全く知らないのだ。

 もっとも、かつての彼女は、目の前の敵を倒すだけの機械人形にも似ていたので、携わったユニウス戦役についても、情勢などについて詳しくは何も知らないのだが。

 

 ――アスランを助けることができれば、未来は変わる?

 ──ステラも死なない……? みんな、護れる?

 

 兄がいれば、ステラを守ってくれるのだろうか?

 シンともう一度、今度はきっと、平和な時に会いたい。

 そう思えば、ステラの覚悟は決まる。

 

「まも、る……」

 

 その言葉を聞くと、ステラの中からゾクゾクと実感が沸いてきた。

 自分は今、何かを「まもる」ために、ここにいるのだと。

 

「うん、まもる……!」

 

 ステラがそう言うと、コトバが通じたからか、ハロは嬉しそうにピョンピョン跳ね回り始めた。

 ステラは動き回るハロを両手で捕まえると、今について訪ねた。

 

「ハロ、ここ、どこ? ステラ、何をすればいい……?」

 

 記憶は戻っても、ステラは長い間、誰かに何かを与えて貰わなければ何も出来なかった。

 例えば、ネオに命令を貰わなければ戦えなかったように…。

 いきなり自立しろと言われても、それは今の彼女にとっては無理な話である。

 

《ココ、ヘリオポリス! 二年前ダ!》

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役が始まったのはC.E.70年2月11日。

 血のバレンタインは、その3日後の出来事だ。

 それから時を経て、新星攻防戦がC.E.71年7月に起きた。

 これは資源衛星〝ボアズ〟を巡る、ザフトと連合軍の戦いだ。

 

「なんもわかんない…」

《テヤンデイ!》

 

 怒られた。

 何もわかんないのは、本当なのに。

 

 こんな事になるのなら、予めヤキン・ドゥーエ戦役で、兄がどんなことをしたのかを知っておくべきだったと今更ながらステラは思った。

 イージスを強奪、ストライクを討ち、ジャスティスのパイロットになる。

 そんな情報を知っているだけで、この先随分楽になっただろう。

 しかし、過去に来てからではもう遅い。

 

「……ステラ、着替えてる」

 

 服装は、パイロットスーツではなく私服になっている。

 アーモリーワンに潜入した時に着用していた、ヒラヒラ舞うスカートが印象的なその服なので、どこへでも動き回る事は出来るだろう。

 

「……アスランを探す」

 

 言うと、ちょこんと座り込んでいた体を立ち上がらせる。

 

 何の因果でヘリオポリスなるコロニーにいるのかは知らない。

 

 しかし――きっとこの場所は、なにかしら兄と関係があるはずだと信じて、ステラは人のいる街の方へと駆けていった。

 

 

 

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