~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『6機の〝G〟』B

 アスラン・ザラは見事──GAT-X303〝イージス〟の奪取に成功した。

 眼の前で射殺された親友ラスティ・マッケンジーが奪取するはずだった〝ストライク〟と、今なお連絡の取れない兄貴分のようなハイネ・ヴェステンフルスが奪取に当たっていた〝ディフェンド〟から離れた場所で〝イージス〟は目撃され、これを強奪したのだ。

 

〈よくやった、アスラン!〉

 

 ミゲル・アイマンからの通信が入る。アスランの駆る〝イージス〟の所へ一機のジンが寄って来たが、そのパイロットがミゲルなのだろう。

 アスランはひとまず、自分の任務は完遂できたことに安堵するように胸を撫で下ろし、モニターに映るミゲルに目を遣り、

 

「──ハイネ? 何やってんだ、そんなところで」

 

 凍りついた。

 状況が理解できていない、アスランである。

 ミゲルの〝ジン〟のコックピットの中に、ハイネの姿が映っているのだ。

 あの狭い空間に、色々と似ている男同士が、ぎゅうぎゅうになって詰め込まれている。

 もちろん〝ジン〟を操作しているのは、機体の持ち主であるミゲルであったが──赤服の兵士が、緑服の兵士の膝の上でお姫様抱っこされたように詰め込まれているその光景は、アスランから見て、とても滑稽に見えた。

 

〈オレとしたことが、しくじったぜ。出し抜かれた〉

 

 よもや、民間人らしい女の子に出し抜かれたとは告白できず、ハイネはそれ以上を言わなかった。

 ──ラスティに続いて、ハイネまでも失敗か……。

 報告に、アスランは悔いるように下唇を噛み締めたが、ハイネの結果の場合、ラスティより、何倍も「マシ」だろう。

 ──アイツのように死んでしまってはもう、どうしようもない……。

 だが、悔やんだ所でアイツは返ってこない。

 鮮やかにチャンネルを切り替えるようにして、アスランは戦死したラスティのことは考えないようにした。

 そこで、なにか違和感を感じたアスランは、モニターに映るハイネへと訊ねた。

 

「ハイネ、鼻血が出ているじゃないか! ────どこか、撃たれたのか!?」

「…………」

 

 ハイネからの返答はなかった。

 しばしの沈黙。

 一秒一刻が勿体ない、と言われる軍事作戦の時間の中で、この沈黙ははっきり言って、かなり無駄なものである。

 だからこそ、

 

 

「──答えろよ!?」

 

 

 普段は沈着冷静なアスランが、柄にもなく突っ込んだ瞬間であった。

 ──でも、心配になるじゃないか!

 このツッコミは仲間を思う優しさゆえのものであったが、ハイネにとっては出来るだけ触れてほしくない問題でもあった。

 ──顔を蹴られて、鼻血が出たわけじゃない……ただ、不覚にも見て(、、)しまったから……。

 特別、命に別状はないようで、アスランはそれ以上は追及しなかったが、それが何による鼻血なのか、疑ったのは確かだ。

 

 その時、焼け跡となったモルゲンレーテの工場から、一機の〝G〟が飛び出して来た。

 

 取り逃したラスティの機体──〝ストライク〟

 これを確認して、アスランがミゲル達に言った。

 

「……ラスティは失敗だ! あの機体には、地球軍の士官が乗っている!」

〈なに!?〉

「ラスティは死んだ。撃たれてな……」

〈なんだと!?〉

 

 ミゲルとハイネが、似たような声で叫んだ。

 それを理解したミゲルが、ばあっと激昂するような表情を浮かべた。

 

〈なら、あの機体はオレが捕獲する! ハイネ、アスランの機体に移れ! おまえ達は先に離脱しろ!〉

 

 言うと、ミゲルの〝ジン〟はすぐさま〝イージス〟に機体を寄せ、ハイネは軽快な跳躍で〝イージス〟へと飛び移った。

 ミゲルの〝ジン〟は──そのまま、かなりぎこちない動きをしている〝ストライク〟へと躍りかかっていく。

 

(キラ……? いや、まさか────だってあいつが、こんな所にいるはずがない……)

 

 アスランは──〝ジン〟が〝ストライク〟に迫っていくのを見て、後ろ髪を引かれる思いに駆られた。

 思いかえるのは、数分前の記憶──邂逅?

 

 ──何だったんだ、さっき(・・・)のは────ッ!!?

 

 目の前には、幼馴染のキラ……キラ・ヤマトがいて────離れた場所には、金髪の女の子──?

 あれは……?

 あれはいったい、誰だった────!?

 妹か──?

 ──違う。

 

 妹は死んだ。

 

 一年前の、血のバレンタインで──。

 愚かなナチュラルの、核攻撃に巻き込まれて。

 それがまさか────生きていたとでもいうのか?

 

「…………そんなはずがないッ」

「どうした、アスラン」

 

 ひとりでにこぼした呟きに、ハイネが問いかける。

 アスランは、何でもない、と短く答えると──その場所からの離脱を図った。

 

 

 

 

 

 

 ラウ・ル・クルーゼ──ザフトの艦船〝ヴェサリウス〟に搭乗するクルーゼ隊の隊長──の元にいくつかの連絡があったのは、それから数分後のことであった。

 敵にも味方にも容赦がないと言われている仮面の男ラウ・ル・クルーゼは、この時────既に指揮官用の機体〝シグー〟に乗り込み、〝ヴェサリウス〟をあとにしていた。

 

「そうか、ラスティとハイネが失敗したか。おまけに、ミゲルが機体を失ったというのかね」

 

 奇襲を仕掛けられたナチュラル達は、抵抗という抵抗もままならぬまま、この作戦は────ザフト軍による圧勝に終わる。

 そう考えていたことは、クルーゼにとって事実であり、よもやここまで杜撰な結果報告を受けたことに、彼は動揺していた。いや、その表情は仮面によって包み隠されているため、本当にそうなのかは図れ知れないが、すくなくとも、悪い意味で「予想を裏切られた」というのは事実であった。

 ラスティ・マッケンジーは────地球軍士官に射殺され戦死。

 ハイネ・ヴェステンフルスは────後に報告書に記載させる必要があるが、何らかの邪魔者に出し抜かれ機体の奪取に失敗。

 赤服達のしんがり役を務めていたミゲル・アイマンは──突如、高機動を発揮した〝ストライク〟によって〝ジン〟を撃破され、脱出を図ったとのことだ。

 

「なかなか面白くない結末だな、これは」

 

 〝シグー〟を駆りながら、クルーゼは後方から追撃してくる〝ゼロ〟による、執拗なまでの射撃を回避していた。

 やがて二機は追撃戦の末──ヘリオポリス内部へと侵入。

 ところどころに黒煙が立ち上がり、これが平和の国が抱える中立のヘリオポリスの景色であることに、一抹の嘲笑さえ覚えた。 

 ──中立のコロニーを、ここまで破壊することを「悪行」というのだろうか? 

 いや、違うな……。

 それは大いなる見当違いだ。

 

 

「地球軍の兵器を造っているこのコロニーの────どこか中立だというのだ」

 

 口元に不敵な笑みを浮かべ、クルーゼは遠方に、一気に〝ガンダム〟を発見した──〝ストライク〟だ。

 どうやら、ミゲルの〝ジン〟を撃退したことですっかり安堵しているのか、機体の中には誰も搭乗していず、機体の足元に数人の学生と、負傷した女性士官の姿がある。

 ──いい機会だ。私なら〝アレ〟を奪取できよう。

 量産できる〝シグー〟と、このまま逃がせば地球軍に技術が渡る〝ストライク〟────その価値は、天秤に掛けるまでもない。

 クルーゼはすぐさま〝ストライク〟の元へと駆けようとした。

 

 

「だが、そうなると──貴様の存在はいよいよ邪魔だな! ムウ・ラ・フラガ!」

 

 〝その瞬間、〝シグー〟は華麗に身を翻し、これを追撃していた〝ゼロ〟へとライフルを撃ち放った。

 〝ゼロ〟の有線式ガンバレルが、次々と撃墜されていく。

 

「ちィッ! ラウ・ル・クルーゼ!」

「そんなオモチャのようなモビルアーマーで、私に勝てる気かね!?」

 

 ムウ・ラ・フラガ──地球軍第七機動艦隊に所属する大尉にして、『エンデュミオンの鷹』の異名を持つ地球軍のエースパイロット──は、特別な能力がなければ扱いこなすこと自体が至難とされているモビルアーマー〝メビウス・ゼロ〟に搭乗していた。

 コーディネーターは、開発力や生産力においてもナチュラルの能力を凌駕しており、ナチュラルは現段階で、二足歩行ができるような高度な「モビルスーツ」を開発する術を持っていなかった。

 いや、仮に持っていたとしても、それを操縦できる人間はナチュラルの中にはいなかった。

 地球軍は「モビルアーマー」を量産し、これらを戦力のメインとしたが、やはり二足歩行ができ、人間に近い動きができるザフトの「モビルスーツ」には操縦技量、あるいは、敏捷性などから叶うはずもなかった。

 

「これで終わりかな? ムウ!」

 

 〝シグー〟が一発のライフルを放つ。

 ムウが駆る〝ゼロ〟はこれを間一髪で回避するが、最後の武装であるメインバレルを光線に持っていかれ、一切の戦闘能力を失った。

 ──武装を失うと何もできない。

 これもまた、モビルアーマーの欠点のひとつだ。

 

「──さあ、その一機も頂くとしよう」

 

 〝ゼロ〟を撒いた〝シグー〟が────〝ストライク〟へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「戻って!」

 

 上空に〝シグー〟の機影を捉えたマリューは、血相を変えてキラに叫んだ。

 

「モルゲンレーテへ戻って! 今の〝ストライク〟の武装では、〝シグー〟の相手なんて──!」

 

 マリューは懸命に訴えたが、行動するのがいささか遅すぎた。

 モビルアーマーを撒いた〝シグー〟が、既に直上へと迫って来ていたのだ。

 

 ──全員を殺し、この〝G〟を奪うつもりか…………!!?

 

 マリューがそう予見したのは、この時だった。

 唯一〝ストライク〟を動かせる少年、キラ・ヤマトは────まだ〝ストライク〟に乗っていない!

 無防備なのだ!

 全員を殺した後でなら──〝シグー〟のパイロットはその機体を放棄して、この〝ストライク〟を奪取することができる!

 

 そして、そのマリューの予見は的中し──〝シグー〟が、地上のキラやマリュー、同伴していたトールやミリアリア、工業カレッジの学生たちにライフルを突きつけた。

 一同が悄然とし、息をのんだ。

 

 

「──善戦したようだが、これで!!」 

 

 

 クルーゼが言うと──その瞬間。

 〝シグー〟の機体は、突然にして襲った衝撃に、大きく吹っ飛ばされていた。

 

「ぐッ!?」

 

 体当たり──!?

 それは、何かを投げつけられたような衝撃ではなく、〝シグー〟の機体すべてに衝撃が行き渡るほどの質量を持ったもの。

 生きた心地がしなかったマリューはハッとして、〝シグー〟を押しのけた「モノ」に視線を移した。

 

「あれは──!?」

 

 地上のマリューと、〝シグー〟のコックピット内のクルーゼの声が重なる。

 膝をついて待機する〝ストライク〟の傍らに────巨大な「盾」のような装甲を持った────黄金の〝ガンダム〟が立っていた。

 クルーゼが訝しみ、マリューは確信した。

 

「最後の一機だと? やはり地球軍の手に渡ったか」

 

 だが、クルーゼの中に、この時、わずかに慢心があった。

 それは、

 ──操縦しているのはナチュラルだろう。

 という、クルーゼにしては浅慮な慢心だ。

 最後の〝G〟──黄色のカラーリングをしたその機体は、突如〝シグー〟に対して「体当たり」を仕掛けて来た。

 

「操縦の仕方もわからぬナチュラルが、無我夢中で特攻を仕掛けた、といったところか」

 

 そもそも〝シグー〟の行動を牽制したいなら、バルカン砲でもなんでも、遠距離から撃てば良い。

 わざわざ接近して、体当たりを仕掛ける必要など、どこにもない。

 この判断が、クルーゼを錯覚に陥れた。

 

 「真鍮色の〝G〟に乗っているのが、コーディネーターである」────

 

 そんな可能性を考えもせず、闇雲に放棄したのだから。

 クルーゼは迷わず、真鍮色の機体にライフルを向けた。

 ──奪取できぬなら、破壊する。

 それで少なくとも、地球軍に、無駄なデータは渡らない!

 

 〝シグー〟が、敵機にライフルを撃ち放った。

 真鍮色の〝G〟はこれを────その体躯よりも大きな「盾」で、完全に防いだ。

 

「ちィッ、フェイズシフトより厄介な代物を」

 

 新型の〝G〟の装備・性能等、詳細なデータまでは、クルーゼには渡っていなかった。

 というより、それはザフトが地球軍から奪取した後に、じっくりと明らかにするものであるはずだった。

 数発として、クルーゼはライフルを連射するも、真鍮色の〝G〟が誇る漆黒の「盾」は──聳え立つ鉄塊のように、ビクともしない。

 やがて弾切れを起こし、クルーゼが、弾を装填しようとした一瞬の隙を衝いて──〝G〟はいつの間にか〝シグー〟の側面へと回り込んでいた。

 

「!?」

 

 クルーゼが目を見張る速度。

 〝G〟の性能だけじゃない──?

 

「これは!?」

 

 そして再び、体当たり──。

 重厚な衝撃──!

 軽量な〝シグー〟の装甲では、あと一発でも喰らえばでバラバラに砕かれてしまいそうなほどの衝撃が、クルーゼを襲う。

 通常の機体は、パイロットの肉体保護のため、機体に衝撃を受けても、コックピットへは直接的な衝撃は行き渡らず、衝撃が緩和されて伝わるようになっている。

 だが、それがどうした。

 そう言わんばかりの敵の突進は、その保護機能をまるで無視するように、コックピットを強かに揺るがした。

 

「ぬぅッ……馬鹿か、こいつは!」

 

 揺らされたクルーゼから、口をついで出た言葉だった。

 二度も体当たり? いったい何を考えている?

 だが、クルーゼとて判断が鈍いわけではなく…………。

 

 その瞬間──〝シグー〟後方の〝ストライク〟が、アーマーシュナイダーを空中の〝シグー〟へと投擲した。

 

 〝シグー〟はこれに反応して見せ、回避する。

 機体を翻すと、さすがにこれ以上は部が悪いと判断したのか、バーニアを全推進させ、その場から飛び去った。

 

 

 

「逃げた…………?」

 

 

 

 トールやミリアリア、サイにカズイ、学生たち全員が、安堵したように膝を折り、その場に崩れ落ちた。

 いまだに自分が生きていることへの実感がわいていないマリュー・ラミアスであったが、彼女はいち軍人としての対応を取るのが早かった。

 

「黄色の〝G〟のパイロット! 地球軍の者か? 姿を見せろ!」

 

 銃撃を受けた肩を庇いながら、マリューが声高に叫ぶ。

 真鍮色の〝G〟パイロットは、そこで何の抵抗もなく、言葉に従うようにしてコックピットを開いた。

 そこから出て来た幼さを残した少女の姿に────それを覗いていた、全員が絶句した。

 

 

「ステラ────!?」

 

 

 現れたその姿に、もっとも驚いたのは言うまでもなく、急いで〝ストライク〟に乗り込んだキラであり、キラはすぐに機体のハッチを開くと、〝ストライク〟と向かい合うようにして立つ〝ガンダム〟から現れた、ステラへと叫んだ。

 

「どうしてキミが!? い、今の……もしかしてキミが?」

 

 ステラが──あの〝シグー〟を撃退した、というのか?

 にわかには信じられないキラはそのまま、続ける言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数十分して、ヘリオポリス内部の山岳から、突如巨大な戦艦〝アークエンジェル〟が姿を現した。

 ザフトによる襲撃は終わった。

 この時点で、ザフトが何を目的にヘリオポリスを襲ったのかは──頭を捩じらなくても、地球軍所属の誰もが、明瞭に判断が付いた。

 

 新型機動兵器〝ガンダム〟6機の────強奪。

 

 その内の2機である〝ストライク〟〝ディフェンド〟の強奪にはザフトは失敗。

 この2機は既に、地球軍指揮下にあることも、ヘリオポリス外にある地球軍艦隊にもあまねく報告されていた。

 

「軍の最高機密事項に触れてしまった────あなた達を、ここで解散させるわけには行かないわ」

 

 それが、無情にも地球軍士官であるマリュー・ラミアスから、民間の少年たちに突き付けられた現実だった。

 トールやミリアリア、サイたちは〝ストライク〟と〝ディフェンド〟の部品を乗せたトレーラーを、肩を負傷したマリューの代わりに運転させられた

 キラは〝ストライク〟を、ステラは〝ディフェンド〟をそれぞれ操縦し────地球軍が開発した強襲機動特装艦〝アークエンジェル〟への、2機の〝ガンダム〟の移送を任された。

 

 ザフトの襲撃によって、甚大な被害を被ったのは、ヘリオポリスそれだけではなかった。

 〝アークエンジェル〟の艦長を始め──この戦艦を動かすはずであった主だった士官はほとんどの死亡が確認されたのだ。

 

「今は、ラミアス大尉が────この艦の責任者となる立場にあると思いますが」

 

 言葉を発したのは、先程まで、臨時で〝アークエンジェル〟を起動させた地球軍士官、ナタル・バジルールである。

 彼女の迎えには損傷した〝ゼロ〟をこの戦艦に帰投させたムウ・ラ・フラガの姿があり、〝アークエンジェル〟に到着したマリューが、ふたりの間に入るような形になっている。

 責任者──それはつまり、戦艦で最大の責任をもつことになる、艦長を務めるべき立場にある、とうことだ。

 驚いたことに、マリュー・ラミアスはその作業服を着ている姿こそ、ナタルやフラガより格下に見受けられるが、実はこの中で一番階級が高い、という立場にある。

 そんな時、フラガがマリューに訊ねた。

 

「ザフトが奪取に失敗したっていう、二機は?」

「ああ、今はまだ地上です。この船をどこかに停泊させなければ、今の二機の残量エネルギーでは、空を飛ぶことは困難ですから」

 

 そもそも、新型のガンダムは今日が試験運用の予定日であり、残量バッテリーなどそこまで備えられていないのだ。

 ムウ・ラ・フラガは、本来あのガンダムに乗るはずであった新米パイロット達の護衛のためにヘリオポリス近隣に待機していたくらいであり──先の実戦で〝ストライク〟も〝ディフェンド〟も、フェイズシフト装甲まで展開し、それぞれ一機ずつ、〝ジン〟と〝シグー〟を撃破している。

 残量エネルギーなど、既に空に等しいのだから。

 

 そんな時、緊急を要する放送が、船内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キラやトール達は、マリューに命じられたように、焼け跡となったモルゲンレーテの工場へ向かい、電力パックや追加武装など……〝ストライク〟と〝ディフェンド〟に必要な部品を回収しに向かった。

 パーツの積み込みは、キラの動かす〝ストライク〟が行い、移送はトール達が、トレーラーにて行う役割である。

 〝シグー〟との戦闘の後、念のために安息の場所を移動させた〝ディフェンド〟であったが、その安息の場所には、ステラとミリアリア、そしてカズイの三人が残されていた。

 ステラも、マリューに言われた当初は〝ディフェンド〟を動かし、モルゲンレーテの工場に赴いて部品回収作業の手伝いをすると主張したのだが、キラから「あぶないから、ね?」と子どもをあやすように説得されると、それ以上は何も言えなくなり、この場所に残されることになってしまった。キラはむろん、ステラは一般の女の子であり、モビルスーツの操縦など、できるわけがないと思っており、それゆえのその指示であったのだろうが。

 トールはトレーラーの運転。サイは、そんなトールとキラのサポートとして工場へ向かった。

 その場に残されたステラの保護者としてのミリアリア。そして、特に役割が見つけられなかったカズイの三人が、その場に残っている。

 

「ひゃあ……このでっかいの、ほんとにステラが動かしてたの?」

 

 当然の反応ながら、ミリアリアは片膝を立てて屈む〝ディフェンド〟を見上げ、その事実を信じられずにいた。

 真鍮色のボディに、漆黒の「大盾」──体躯よりも大きな盾がその身を覆えば、まるで黒い鉄塊のような図面になる。どうみても防御力に重きを置いた、極地防衛型のMSである。

 

「はじめて動かした」

「それは、そうでしょうね……あはは……」

 

 ミリアリアにとって、ステラは本当に何者? と疑うような少女であることに、疑いようはないだろう。

 突然、前触れもなく現れた金髪の美少女は、キラの幼馴染の妹だということで、しかし彼女には帰る家がなくキラの家でお世話になっているとのこと。

 ふたつ年下の割に、キラが取り組むような高度な情報処理を理解し、あげくの果てには、この巨大な人型兵器を操縦し、〝ジン〟とは違うザフトの指揮官機を撃退した?

 

 ──なによ、それ……。

 

 その時、体育座りで顔を膝の間に埋めていたカズイが言った。

 

「ろくなもんじゃないよ……」

「え? なにカズイ?」

「ろくなもんじゃない、って言ったんだ。何なんだよ、いきなり現れて、優秀なとこばっかり見せつけてさ」

 

 カズイは睨むようにステラを流し目で見たが、見られた本人は首を傾げ、頭に疑問符を浮かべているようだ。

 その様を見て、カズイはステラから目をそらしてしまった。

 

 互いに険悪になってしまった(というより、カズイの一方的な嫌悪による)雰囲気を正そうとミリアリアが言葉を探したが、その時、コロニー内に大きな爆撃音が響いた。

 

「──敵? ザフト!」

「そんな! またなの!?」

「あああもう、最悪だよぉ!」

 

 三人はそれぞれに顔を上げ、コロニー内に侵入して来たザフトの機体を見つけた。

 

「キラ達はまだ戻って来てないのに!」

 

 ミリアリアが恨めしそうに叫び、ステラへ、どうしようか、と訊ねようとした。

 だが、ミリアリアがそこへ視線を向けると、ステラの姿は既にそこにはなく────どうやって乗り込んだのか、既に遥か頭上の〝ディフェンド〟のハッチへと移動していた。

 通信が入っていたのだ。

 

「────敵襲?」

 

 その知らせを、機体通信から流れたマリューの音声によって受け取る。

 

「〝アークエンジェル〟はすぐに迎撃に向かいます! あなた達は後で、自力でこの艦に合流して! くれぐれも、ザフトの機体には気を付けるように!」

 

 ザフト軍は、再び攻撃を仕掛けて来た。

 目的は不明だが──いや、よほど、この〝新型〟が欲しいのだろうか?

 ステラが思慮していると、ミリアリアが声を上げた。

 

「ステラ! キラ達が戻って来た!」

 

 その言葉を受けて外を見ると──さまざまな部品を乗せたトレーラーと、それを護衛するように〝ストライク〟がこちらへと向かってきていた。

 キラ達と合流したミリアリアは、再びヘリオポリスがザフトの襲撃を受けていることを伝える。

 

「このコロニーにはまだ、逃げ遅れた人もいるかもしれないのに!」

 

 どの道、この場所に〝二機〟のガンダムを放置しておくのは得策ではなかった。

 

「僕が〝ジン〟を止めて来る! 君たちは急いで、離れた場所に避難して!」

 

 キラが〝ストライク〟で出撃────〝ストライク〟はモルゲンレーテから回収した電力パックから、エネルギーを補給し、ソードストライカーを装備すると、そのまま戦場へと向かって行ってしまった。

 ミリアリアとカズイが、トールとサイの乗るトレーラーに乗り込んだ。

 

「ステラ! 行くよ!」

 

 ミリアリアが呼びかける。

 〝ディフェンド〟を、この場所に放置しておくことはできない──。

 トール達にはにわかに信じられた話ではなかったが、ステラがその〝ガンダム〟を操縦できると信じて、ステラをトレーラーではなく〝ディフェンド〟にて移動させようとした。

 再び〝ディフェンド〟に乗り込んだステラであったが──

 

「あの機体……………」

 

 上空を仰ぎ見、ザフトの機体を発見する。

 大型ミサイルや長砲身ライフルを担ぐようにして展開している〝ジン〟が数機────そしてそれに後続するように、きらりと赤く輝く機影を見つける。

 奪われた〝G〟の一機──GAT-X303〝イージス〟!

 

「アスラン……?」

 

 咄嗟に〝ディフェンド〟は後退し、トレーラーに積み込まれた電力パックに手を伸ばした。

 その巨大な掌で電力パックが抜き取られた衝撃で、トレーラーが大きく揺れる。

 

「うわわ!? ステラ、何してるんだ!? 早く逃げないと!」

 

 トールが抗議にも似た声をあげる。

 運転席から身を乗り出し、トールがステラへと呼びかけると、その瞬間、上半身を乗り出したトールの顔面を、暴風が薙いだ。

 エネルギーを供給した〝ディフェンド〟が────スラスターを展開し、トレーラーから飛び去ったのだ。

 

「え! 何やってんだよあの子!!?」

 

 サイが叫ぶ。

 

 まさか、キラを助けに──?

 だからって、自分から戦場に向かうなんて!!

 

 

 

 ────死ぬぞ!!?

 

 

 

 

 〝ディフェンド〟は真っ直ぐに────〝イージス〟へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、機体を奪えなかったハイネが出撃! いや、奪うために出撃!?

原作でも戦闘経験あり、因縁あり、な、ステラとハイネが激突……するのかな。
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