モンハン商人の日常   作:四十三

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ご主人とタマ~毒牙築きし陰謀の底~

 村が一つ無くなる。

 大袈裟ではなくこのままではその可能性もありえる。

 これはそれほどまでの事案だ。

 

  

 俺は窓から外を眺めた。

 アシューの言う通り雨がこの闇夜に染まった広い沼地をしとしとと濡らし始めている景色が目に入る。

 

 ここからさらに雨の勢いは増していくのかもしれない。

 

 

 

『雨とは不幸の象徴であり、夜とは悪意の棲み処である』 

 

 

 

 不意に師匠の言葉が頭をよぎった。

 

 

 

 さあ、どうする?

 俺はどうするべきだ?

 

 

 体よく村長の家に転がり込むことには成功している。

 俺の予想が正しいのなら、この村が栄えだした秘密を探ることは可能だ。

 

 だが、よそ者の俺が踏み込んでいい案件なのかそこが俺を悩ませている。

 

 

 これはママイト村の問題だ。

 部外者が、ましてや一介のただの商人が横やりを入れていい事ではないのかもしれない。

 

 

 生活苦だったこの村が村存続のために村人総出でその手を染めた。

 

 そうだとすれば俺がこの村で行なわれているだろうことを摘発することは彼らを苦しめること以外の何物でもないのだ。

 

 何も知らない風を装い明日からまた行商を続けるという選択肢も俺にはある。

 俺の予想が外れているという可能性もあるのだから。

 

 

 触らぬ神に祟りなし。

 

 

 厄介ごとには関わらないのが賢い選択だ。

 

 

「なあ……タマ」

 

 

 俺はそうタマに問いかける。

 

 

「にゃ?」

 

 

「俺って賢く見えるか……?」

 

 

「にゃぁ? 何言ってるにゃ? どう見ても馬鹿にしか見えないにゃよ」

 

 

 俺は「ふっ……」と笑った。

 

 

 

 ――だよな。

 

 

 

 俺は「よっこらせっ」と立ち上がった。

 

 

「よし。じゃあ、ちょっくら悪者になってきますかね」

 

 

 

 いつだって俺には……。

 

 

 

「馬鹿いっきまーす」

 

 

 

 ――そんなピエロ役がお似合いだ。

 

 

 

 

***

 

 

 村長に貸してもらった部屋から出るとある異変に気付いた。

 

 

「あれ? アシューさんがいないな……」

 

 

 そして村長の姿も見えなかった。

 

 

「二人ともこんにゃ雨夜にお出かけかにゃ?」

 

「ふむ……」

 

 それならそれで好都合、散策しやすいというものだ。

 

 

 俺は考える。

 もしも俺が村長たちの立場なら『あれ』をどこに隠すかを。

 

 

 

『あれ』

 

 

 ママイト村を栄えさせただろう、権化。

 

 

「――俺なら『イーオスの死体』は沼に捨てるだろうな」

 

 

 それが一番手っ取り早く証拠を消せる方法だ。

 

 

 

「イーオスの死体って……。じゃあ、ご主人。ママイト村の人たちがやってることって……」

 

 

 

「ああ。恐らく『密猟』だ」

 

 

 

 そしてイーオスの素材の『密売』。

 それがママイト村を栄えさせた方法なのだろう。

 

 

 見る人が見ればママイト村の栄え方はわかる。

 

 

 それがどれだけ『不自然』なのかも。

 

 

「あれだけ栄えているのに全く商人がいないのは不自然だ。収益を得るためには当然買い手が必要だが、ここには俺ら以外商人がいる気配もないし商人を宿泊させる施設もない。真っ先に必要になる旅行者を引き入れる施設が全くない」

 

 

「……でもそれにゃら商人が来てないだけでこっちから売りに行っているだけかもしれないじゃにゃいか。そう考えれば施設等は必要にゃいにゃよ?」

 

 

「護衛もなしにか?」

 

 

「にゃ?」

 

 

「ギルド駐屯地にいるギメイは全然仕事がないと言っていたんだぞ。ギルドに護衛依頼を出さずに村の財産ともいうべき商品を運搬するのか? 俺たち商人個人財産とは違い村単位の財産だ、護衛代をけちる理由が全くない」

 

 

「にゃあ確かにそうだけどもにゃ……。でもそれって全部根拠のない推測の域を出ていない考えばかりじゃにゃいのかにゃご主人」

 

 

「ああ、そうだ。だからこそ今からその証拠を探しに行くんだよ。……手遅れになる前にな」

 

 

 いや、実際本当に密猟が数年間にわたり行われていた場合、もう手遅れなのかもしれないが。

 手遅れなら手遅れでそれなりの手を打つことは可能ではある。

 

 

 証拠さえ見つけかれば、あとはギルドに報告をし調査員でもなんでも派遣してもらえばそれで事足りる。

 ただ単純にするのならそれだけでこの問題は解決される。

 

 

 だが、実は今の説明であえてタマに言わなかったことが一つある。

 

 

 もしも俺の密売説が正しいのならこの問題の裏には確実に『バイヤー』が存在している。

 裏ルートから商品を仕入れ、武器の密造などを行うアンダーグラウンドな存在。

 

 

 裏の商人。

 通称「闇ギルド」と呼ばれる連中だ。

 

 

 ママイト村の取引相手がその闇ギルドのようなアングラ関係者だった場合、この村の村資源を最後の一滴まで絞り取られ挙句の果ては村民まで商品もとい奴隷として連れていかれるようになる。

 

 

 そうなれば後は村の解体という結末しか残ってない。

 

 

 今はその筋書きの所謂、甘い蜜を吸わせている段階。

 もしもママイト村が密猟に執着し、闇ギルドとの関係に依存した場合その未来に光はないだろう。

 

 

 そしてこれは、ギルドが介入し調査した場合も闇ギルドとのつながりを立証された時点でママイト村は犯罪者たちの集まりというレッテルを張られ交易の道は完全に断たれる。

 

 そうなればやはり彼らに明るい明日は来ない。

 

 

 八方ふさがり。

 

 

 これは、この二つを比較したとき後者の方が傷が浅いというだけの話でしかないのだ。

 

 

 

「――でもご主人……」

 

 

 

 だからこそ俺はこの後のタマの質問にどう答えるかを考えた。

 

 

 

「『密猟』の一体にゃにがいけないことなのにゃ……?」

 

 

「……ああ」

 

 

 

 先ほどのことをタマに伝えるのは簡単だ。

 至極簡単である。

 

 いずれは、タマにも世の中にはそういう社会が存在しているのだということを教えていかないといけないだろう。

 

 商人のオトモとしていつかは学ぶことだ。

 

 

 ―――でもそれは。

 

 

 

 

「――ギルドがそう定めているからだよ」

 

 

 

 

 今のタマにはまだ早い。

 

 

 

 

「にゃんか釈然としにゃいことばかりだにゃ……」

 

 

 俺たちはおしゃべりをそれくらいに済ませ探索を始めた。

 

 

 探しているのは所謂、解体場である。

 効率を考えるのなら狩ってきたイーオスを一か所に集めて剥ぎ取りをした方が断然早い。

 

 そして役割分担をした方がなお早い。

 男が狩猟。女が剥ぎ取り。

 

 

 ずっと昔からの男女の仕事分担形態と言える。

 

 

 俺たちが村に着いた頃に男がほとんどいなかったのはそういう理由なのだとすれば辻褄は合う。

 

 そしてその女が剥ぎ取りを行う場所。

 解体所が確実に存在するはずだ。

 

 

「と言っても村長の家付近にはないだろうがな」

 

 

 俺が「宿を貸してくれ」と言ったとき真っ先にここを指定したのは監視しやすいというのとその証拠現場から引き離すという意味があったのだろう。

 

 よそ者に万が一にも見られぬよう『一番遠い場所』を貸してくれた。

 ママイト村はそんなに広くはない、そして後処理がしやすい場所。

 

 そう考えれば……。

 

 

「……村の外かな」

 

 

 この村に来る道中そんな建物は見つけられなかった。

 なら、村の入口とは反対の方面に建てられている可能性が高いな。

 

 

「外……結構雨強くにゃってきてるにゃ」

 

 雨の勢いはさらに増し、漆黒の空を白い線が塗りつぶしている。

 そう表現してもさし使えないほどの豪雨だ。

 

 

 

 

 え? 嘘……。 

 この雨降りの中、外に出るの?

 

 マジで?

 

 

「ねえ、タマさん? やっぱやめない? ボク、実は雨に濡れると死んじゃう病があって……」

 

 

 俺がそんな発言をするとタマは無言で自分の胸を二度たたき、首を掻っ切るようなジェスチャーを取り、最後に土砂降りの雨夜を指さした。

 

 

 死ねってか……。

 

 

「ふっ、なるほど。水も滴るいい男を演じるのも悪くはないな」

 

 

 俺が今度そう息巻いたらタマが「ふっ……濡れネズミにゃ」と小さく呟いた。

 

 

「きぃぃぃ!! うっせぇなぁ!! ちったぁ黙ってろぉ!!」

 

 

「ふざけないと真面目にできないのかにゃ!! ご主人は真剣って言葉知を知らにゃいのかにゃ!!」

 

 

「『マジ・ブレード(真剣)』くらい知っとるわ!! 昨日の夜にも夜食として食いましたぁ!」

 

 

「おいらの作ったご飯はマジ・ブレードじゃにゃいにゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

「「うがぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

 

 すみません。

 俺、基本馬鹿です。

 

 

 

***

 

 

『イーオス』

 

 

 警戒色ともいうべき赤い体皮を有した鳥竜目の代表格ランポスの亜種。

 集団で獲物を襲う点はランポス近縁種にみられる特徴からはみ出ることのない狩猟形態であり、その中でもイーオスは毒を使い獲物を弱らせるなど、狡猾で執念深いモンスターである。

 

 そのイーオスが扱う毒は武器職人の間では汎用性の高い素材として重宝され、その鱗や外皮は毒を抜けばとても優れた抗毒性のある素材となり防具等の材料として取引される。

 

 

 イーオスの有する毒牙もボウガン等の銃弾素材としてガンナーからの需要も高い。

 

 

 集団で活動をするものの一匹一匹ではあまり脅威にはなりにくく、ハンターでなくても毒にさえ注意すれば多人数で臨めば素人にも狩れないことはない。

 

 

 

 そしてここは沼地。

 まさにイーオスの生息地ともいうべき環境である。

 

 

 しかも、沼地周辺の住んでいる民にとってイーオスは害獣だ。

 密猟に臨む際も罪悪感が薄れやすくなる。

 

 

『我々に害をなすのだから狩っても問題はない』

 

 

 そういう風に言いくるめれば納得するものが出てきてもおかしくはない。

 

 もしも、闇ギルドがママイト村に密猟の斡旋をしたのだとしたらイーオスを標的として指定したのはさすがと形容せざるえない。

 

 

 

 雨の降るママイト村内を歩きながらそんなことを考えていた。

 

 

 村長の家を家探ししたら番傘が数本出てきた。

 年間降水量の多い地域だ、雨への備えがあるだろうことは少し考えればわかりそうなものだったわけだが。

 

 そういうわけで使い古された番傘を拝借させてもらった。

 

 番傘はタマが持つには少々重いため一本だけ持ち出し、タマは雨に濡れないよう俺の背中に張り付いている。

 

 

 家探しした際に確信したのだが、やはり家の中にはアシューも村長も不在であった。

 村長だけならまだしもアシューまでいないというのは少々気になるところではあるのだが、まあ今は気にしている場合ではないだろう。

 

 

「ご主人……」

 

 

 タマのそんな何かに憂いているような声。

 

 

「なんだ?」

 

 

「もしもママイト村の人たちが本当に密猟をしていたらやっぱりこのことはギルドに報告するのかにゃ……」

 

「ああ、そうだな」

 

 言いたいことはわかる。

 

 ママイト村は交易という観点において負い目にある村の一つだ。

 国からの援助等が見込めない以上自分たちでやりくりをしなければならない立場、それが危うくなった末の密猟という裏道。

 

 

 彼らも必死だったろうことは理解できる。

 

 

 タマには密猟がもたらす自然環境への影響に関しての説明はしていない。

 だからタマには俺がママイト村に行おうとしている行動があまりにも慈悲がなく、情けのない行為に映っているのだろう。

 

 

「自業自得、因果応報……そんな言葉で終わるような話だったら俺も目をつぶっていたかもしれないだけな……」

 

 

 

『村が一つなくなってもおかしくはない』

 

 

 

 俺が断言した言葉だ。

 重要な部分は『ママイト村が』ではなく『村が』という部分。

 

 

 この言葉の真意は

 

 

 

『ママイト村以外の村がなくなる可能性がある』

 

 

 

 という意味に他ならない。

 

 ママイト村が行なった行為に何の罪のない村が巻き込まれる。

 それだけは避けなければならない。

 

 

 それがどれだけ無慈悲と思われても。

 

 

 

 そうこうしているうちに俺とタマは村の外に出ていた。

 幸いなことに雨が降っていたせいか村人に遭遇することなくここまで来ることができた。

 

 

 解体場の具体的な場所はわからないが探る方法がないわけではない。

 

 

 解体した後の死体を沼に捨てる、そう考えればできるだけ沼の近くに解体場を作るだろう。

 ならばその処理池とでもいうべき沼を目印にすればいい。

 

 そして俺はその目印まで導いてくれるあるモンスターを探していた。

 

 

「いたな……」

 

 

 視界の悪いこの雨の中、そのモンスターをとらえた。

 

 

『盾虫 クンチュウ』

 

 

 俺たちが見つけたクンチュウは四匹の群れで活動しているようで、ある方角を目指して進行を繰り返していた。

 

 どうやら俺たちの存在には気が付いてはいないようではある。

 あとはこのクンチュウの後をついていけばいい。 

 

 

「にゃるほど。クンチュウは腐肉食性のモンスターだもんにゃ。もしも、イーオスの死体を継続的に沼へと処分してたらクンチュウたちからすればそこは格好の餌場になるわけだにゃ」

 

「ブナハブラでもよかったんだが、この雨の中じゃ活動はしてないだろうしクンチュウよりも活動範囲が広いため場所を絞りにくくなるからな。鈍行になってしまうがまあ、致し方ないさ」

 

 

 ここで俺は少しアシューについてきてもらわなかったことにある種の不安を覚えた。

 探す手間が必要だが、村の外まで出るわけだから安全性を確保しておくべきではなかっただろうかと己の考えのなさに淡い焦燥に駆られる。

 

 

 いや、アシューを探せば必ず村人にその行動を目撃される。

 そうなれば今のように自由に行動はできなかったはずだ。

 

 むしろ、アシューが村に残っていれば俺たちが短時間姿を消しても勘付かれにくくなる。

 

 

 

 そうだ、今の行動こそを最善だと思え。

 

 

 

 クンチュウ一行の追跡とそんな思案に気を取られたせいか俺はあることを失念していた。

 

 

「ゲッ!! しまった!! 足元が泥だらけになっちまった!!」

 

 

 雨による地面のぬかるみがひどくなり歩くたびの泥跳ねのせいで俺の足が見事に前衛的な芸術作品へと変貌を遂げていた。

 

 

「……まさかまた『俺のダンディなおみ足がぁぁぁぁぁ!!』とか言う気じゃにゃいだろうにゃ……」

 

 

「あ……いえ、これじゃ外に出歩いたの即バレするなぁって、そう思っただけで別にそんなまさか……ねぇ?」

 

 

 ただ、タマの顔は直視できなかったとだけ言っておく。

 

 

 

 

 そんないつも通りのやり取りを経て、クンチュウが向かう先に大きな沼が見えてきた。

 

 近づくにつれ次第に心臓の鼓動が高鳴っていることに気づく。

 緊張しているのだということをいやでも理解させられる。

 

 

 鼻腔を抉る腐敗臭、節足が蠢き伝わる振動、甲殻がぶつかり合い立てる不協和音、深緑と黒い影が生み出す不気味なコントラスト。

 

 

 五感のうち四つに深刻な嫌悪感を塗り込むような生物の食物連鎖の一望がそこにはあった。

 

 

 

 

 クンチュウの沼。

 

 

 

 

 そう表現するのがこの場合はこの景色を如実に伝える言葉なのかもしれない。

 沼と陸を隔てる境界線の如きクンチュウの夥しい群れが俺たちの目に飛び込んできた。

 

 

 沼自体は泥が浮いているせいで沼底に何が沈んでいるのかを確認するすべはない。

 ただ、この吐き気を覚えるほどの盾虫の山は沼に浮いた生物の肉片目当てで集まってきたであろうことは明白。

 

 

 湧き出る感情は不思議と恐怖や怒り、哀れみではなく「悲しみ」だった。

 

 

 

「これはもう……解体場を探す必要はなくなったな」

 

 

 

 これだけの証拠があればギルドを動かすには十分だ。

 

 

 

 タマはこの景色を見ても俺のつぶやきを聞いても何も言葉を発することはなかった。

 おそらくタマの中でいろんな感情が渦巻いているのだろう。

 

 

 アイルーはあくまでも生態系の中ではあちら側の生き物だ。

 それをタマの一族、ご先祖が人間側にたまたま友好的でありこちら側で生活しだしただけでしかない。

 

 そうして彼らは食物連鎖の外へと外れた。

 

 

 聞こえのいい表現するのなら『共生』、意地悪な言い方をすれば『どっちつかずの半端者』。

 それがタマたちアイルーの立場だ。

 

 

「戻ろう、タマ。あまり見ていて楽しいものじゃない」

 

 

「……そうだにゃ」

 

 

 ここで軽快なジョークの一つでも飛ばせば少しはこの空気も違ったのかもしれない。

 そうしなかったのは今タマの考えるという行為を邪魔したくなかったからだ。

 

 

 考える力はとても重要だ。

 

 

 今のうちに培えばいつかそれが何にも勝る武器になるということを俺は知っている。

 タマにも体で実際に身に着けてほしいというのが俺の本音だ。

 

 

 

 だから俺はここで『うはっwww  タマタマがいっぱいwww  なあタマwww タマタマがいっぱ……!!』と言いたい気持ちをぐっと堪えた。

 

 

 

 --バシャッ。

 

 

 刹那。

 そんな、水が跳ねる音が俺たち後方から聞こえた。

 

 

「--っ!?」

 

 

 俺は予想外な音にすかさず後ろを振り返る。

 

 

 人がいた。

 

 

 そこには雨具を身に纏った男が立っていた。

 

 俺は生唾を飲み込む。

 

 

 あまりにも突然の事態に俺の緊張は一気にピークに達する。

 口の中がやたらと乾いていた。

 

 

「あんた……」

 

 

 そう口にすると、男は勢いよく俺たちのほうに向け駆け出してきた。

 

 

 あまりの急展開に俺の体は情けなく固まった。

 だが、頭は最善の行動を導き出す。

 

 

 俺は持っていた番傘をただ『手放した』。

 

 

 支えを失った番傘は重力に従い開いたままの状態でゆっくり落ちてゆく。

 重心が先端に偏っている番傘は必然的に俺と雨具の男の間を遮りそして、俺の姿を隠した。

 

 

 時間稼ぎとしては、ほんの数瞬。

 

 

 だが急に攻撃されてもこれで急所は狙えない。

 致命傷は避けられる。

 

 致命傷さえ避けられればまだ逃げることは可能だ。

 

 

 応酬の間、飛び道具による攻撃がないことを確認。

 不意を突いた俺は脱兎のごとく駆け出す。

 

 

 

「ま、まってくれ!! あんたアッシュさんが連れてきた行商人だろ!? 頼む!! 逃げないでくれ!!」

 

 

 

 俺は足を止めた。

 

 アシューの名が出てきたこと。

 それと俺を商人だと知っていたためだ。

 

 つまりあの男はママイト村の村民だということだろう。

 

 

 ゆっくりと振り返る。 

 

 

「……ご主人」

 

 

 そんな不安そうなタマの声。

 俺はそんな不安を取り除くためこう言った。

 

 

「超絶イケメンだ……」

 

 

 ただこの発言について一言いうとすれば……そう。

 

 

「『超絶イケメンな行商人』だ。間違えるんじゃない、ニーニョ」

 

 

 タマの顔は直視できなかったとだけ言っておこう。

 

 多分あれ。

 また、ものすごい馬鹿を見る目で見てきてるだろうからね……。

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