モンハン商人の日常   作:四十三

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ご主人とアシュー~沈黙の安寧~

***

 

 

 

「どこに行っていたのだ!! 探していたのだぞダンディ公!!」

 

 

 あの惨劇の沼を後にした俺たちは、ママイト村へとすぐさまとんぼ返りを決めていた。

 アシューは開口一番にそう少々怒気のはらんだ口調で駆け寄ってくる。

 

 

「すみません。少々気になることがありまして村の外まで出ていました」

 

 

 あの沼地で遭遇した男は、アシューの頼みで俺たちを探しに来たママイト村民だった。

 先ほどのアシューの口調の粗も今立たされている現状を鑑みれば無理からぬことかもしれない。

 

 

「無事ならばそれでいいのだ……。だが、今度からは我に一言言付かってくれ。何かあってからでは遅いのだから……」

 

 

「申し訳ありません。それで……」

 

 

 

 俺は本題を口にする。

 

 

 

 

「――その『怪我した子供』というのはどこにいるのですか?」  

 

 

 

 

 俺たちがあの沼からすぐさま帰らなければならなかった理由がまさしくそれだった。

 あのママイト村民の男から聞いた話はあまりにも焦燥を纏った語彙だったため要領を得ることがかなわず、言葉の端々から本筋を読み取るほかなかった。

 

 

 

 そして読み取った内容を要約すると……。

 

 

『村の子供がイーオスに襲われた』

 

 

『怪我を負ったもののそれ自体は大したことはない。だが毒に侵されてしまった』

 

 

『その毒がアッシュさんでも解毒ができない』

 

 

『あんたなら解毒方法を知っているかもしれないから探してきてくれ』

 

 

 というものだった。

 

 

「ひとまず民家の一室に寝かせているのだが……すまないダンディ公よ。我にもなぜ解毒ができないのかわからんのだ……」

 

 

 そんな申し訳なさそうに唇をかみしめるアシュー。

 そして悔しそうに言葉を続けた。

 

 

「被害を受けたのはまだ子供だ、体力がどれだけ持つかもわからない……。このままだと最悪のケースもありうる……」

 

 

「取りあえずその民家まで案内をお願いします、話は向かいながらしましょう」

 

 

 ――う、うむ……そうだな。

 

 

 と言い、急ぎ足で歩を進める。

 

 

 

 俺には今の説明を受けてもまだ解せない点が一つあった。

 

 

 

 

「……にゃ。『解毒薬』は? 解毒薬は投与したのかにゃ?」

 

 

 そんな意見。 

 タマの言う通りそこが解せないでいた。

 

 イーオスをこの村人が相手取っていたことはもう間違いはないだろう。

 ならば当然もしもの事態に備え毒に対する準備は必ずしているはずだ。

 

 

 その理屈をなしにしたって何かと毒にかかわり深い土地柄なのだから備蓄がないなんてことはありえないはずである。

 

 

「うむ、解毒薬は用量ぶんは投与しているらしい、それが我らがこの村に訪れるもう何時間も前の話だそうだ。だが一向に回復の兆しを見せず、そればかりか症状は悪化するばかり……。すまぬ、正直我もそれ以上の対処法は知らぬのだ」 

 

 

 アシューが村長の家から姿を消していたのはこのためだったのかと納得がいった。

 

 

 以前からこの村とも交流を持ていたアシューだ。

 このような些事に対する相談役としてはうってつけ。

 

 だからこそ村についた早々に診てもらうよう頼まれたのだろう。

 

 

「ならば、その襲ってきたモンスターがイーオスではなかったという可能性は?」

 

 

 毒と言っても生物が所有する毒がすべて同じとは限らない。

 種族が異なれば当然その生活環境も違ってくる。

 

 

 そうなれば、毒もまた大きく別のものと化す。

 

 

 解毒薬だからと言ってその毒に対する解毒成分が含まれていなければ意味などなさない。

 つまりイーオスではなく別のモンスターに襲われ毒を受けていた場合、いくらイーオス用の解毒薬を服用したところで効果が表れるはずがない。

 

 

「そこに関しては我にはなんとも言えない……。だが、見間違う可能性も噓をつく必要性も我はないと思っている」

 

 

「なるほど、確かにそうですね」

 

 

 実際には見間違う可能性はなくとも嘘をつく理由はこのママイト村には存在する。

 

 だが、「イーオス以外のモンスターに襲われた」と噓をつくことはあっても「イーオスに襲われた」と嘘をつくメリットが今回の場合、存在しないのは事実。

 

 そう考えれば嘘はついてないと結論づける方が順当だろう。

 

 

 結果、ママイト村の村民から聞いた話とアシューの話をつなぎ合わせると。

 

 

『確かにイーオスに襲われたにも関わらず、なぜかイーオス用の解毒薬をもってしても毒の処置がかなわない。そしてこのままではその子供の命も危ない』

 

 

 

 というもの。

 

 

 

 ここまでの情報が手に入ればもう十分だ。

 一体何が起こり、なぜ解毒ができないのか。その答えはもう見当がついている。

 

 

 

 これは想定していた起こりうるであろう最悪の事態でもあった。

 

 

 

 そしてついにその民家にたどり着く。

 アシューの導いてくれた民家の前にはこの雨にもかかわらず人がごった返している光景についめまいを覚える。

「すまない!! 道をあけてくれと!!」とアシューが人をかき分けながら道を作ってくれた。

 

 

「お……おお!! 商人さん!! すまなんだ、よく来てくれた!!」

 

 

 民家の中に入るや否や、村長の疲弊した顔が真っ先に目についた。

 簡素の家の中には村長と子供の両親らしき男女、そして例の怪我を負った子供が寝ているだけ、必要最低限の人しかいれていないようであった。

 

 

 誰も彼も焦燥と不安で顔色が悪い。

 特に子供の顔色は土気色をしてる。とても一息ついていられる雰囲気ではなかった。

  

 

 子供はうわ言のように「ごめんなさい」と繰り返している。

 何について謝っているのかはわからない。

 

 

「遅くなってすみません。お話はここに来る間にある程度、伺わせていただきました」

 

 

「いや来てくれただけど御の字じゃ。それに話が早くて助かるわい……。解毒薬を飲ませて安静にさせていたのじゃが夜になてもよくなる見込みがなくての……。それどころか状況は悪化するばかりなんじゃ。すまん……、わしらじゃ手の施しようがないのじゃ。おぬしの知恵を貸してはくれぬか?」

 

 

「……その前にまず、その子に摂取させた解毒薬を見せてもらっていいですか?」

 

 

 俺のその言葉に反応して子供の父親は常備薬であろう解毒薬を一つ「どうぞこれです……」と渡してきた。

 

 

 渡されたそれは一般的なギルドストア等で取り扱っている市販の解毒薬であった。

 市販と言ってもハンターも使うような幅広い毒に対応した準万能薬と言っても差し支えない薬品だ。

 

 当然イーオスの毒にも対応している。

 

 

 そして俺が商品としてではなく備品として積んである解毒薬もまたこれと全く同種のもである。

 

 

 思った通り薬自体には問題はない。

 

 

 だとすれば問題があるのはやはり毒の方なのだろう。

 

 

「薬には不備がありません。これで解毒が叶わないのならハンターズギルドに向かい治療を施してもらうほかないかと思います。私はあくまで商人、医療行為も応急処置ぐらいがやっとです。すみませんが、これはギルド駐屯地に向かい専門的検査をしてもらう以外ないかと思います」

 

 

 俺のそんな淡々と述べる言葉にタマ以外の全員が顔をこわばらせた。

 

 

 

 

 そう、『それができれば苦労はしない』という顔だ。 

 

 

 

 

「ダンディ公の言う通りだ、翁よ!! このままここで手をこまねいていても仕方がないのは事実なのだ!! なぜ先ほどから駐屯地へ赴くのを固くなに拒んでいるのだ!! 我にはそれが理解できない!!」

 

 

 

「それは……そうなのじゃがなぁ」

 

 

 

 ギルドの助力を仰ぐということはママイト村周辺のモンスターの異変を伝えるということと同義なのだ。

 

 それはつまり確実にギルドが調査隊をママイト村周辺に派遣するということに他ならない。

 そうなれば、あの沼地もそして件の解体場もギルドに見つかることになる。

 

 

 

 

「翁よ!! よく考えるのだ!!」

 

「アッシュさんお願いやめて頂戴!! 子供の体に差し支えるわ!!」

 

 

 

 

 言い逃れは可能か?

 

 言い逃れたとしてもこれまで通り密猟はできるのか?

 

 そもそもバイヤーに今回の件が知れわたったとすれば今まで通りの取引を続けてくれるのか?

 

 

 

 そんな思いが彼らを縛り付けているのだろう。

 

 一度上がってしまった生活水準をまた下げるのは容易なことではない。

 誰だって貧しいよりは恵まれている方がいいものなのだから。

 

 

 この状況になってもそれが彼らの脳をチラつかせている。

 

 

 こんなことは言いたくはないが本当にこの密猟を斡旋した闇ギルドの手腕には賞賛の言葉を送らねばならないほどの見事な根の張り方だ。

 

 

 

 

「――なあ!! 翁よ!!」

 

「アッシュさん!! 頼む!! もうやめてくれ!!」

 

 

 

 

 ああ……本当に――。

 

 

 

 

 

 

 ――クソッタレだよ。

 

 

 

 

 

「――ママイト村の皆さん」

 

 

 

 

 アシューの怒号が響き渡る喧騒を断ち切るように俺はゆっくりそして冷たく言の葉を発した。

 

 

 

「『生物濃縮(せいぶつのうしゅく)』――という言葉をご存知ですか?」

 

 

 

 タマが「ご主人……」と言いながら俺の元までトテトテと歩み寄ってくる。

 そんなタマに俺は「ニカッ」と笑って見せた。

 

 

 

「……ダンディ公よ。一体何の話なのだ?」

 

 

 

 あの発言に溜飲が下がるとまではいかないもののそれなりに落ち着いたアシューがそう問いかけてきた。

 

 

「『生物濃縮』というのは食物摂取の過程で起こる毒素の濃度変化現象の事を言います。どんな生物であろうと少なからず体内に毒素を含んでいる、当然われわれ人間も例外ではありません。――その毒素は食物を摂取するたび体内に少しずつ蓄積されていきます」

 

 

 突然の俺のそんな一人語りに割り込んでくるものなどおらず皆執拗に押し黙った。

 

 

「ですがその蓄積される際、ただ量が増えるのではなく毒素の濃度が濃く、濃くなっていくという現象が体内で起こるんです。食物摂取するたびに体内の毒素濃度が増していく現象、これを『生物濃縮』といいます」

 

 

 

 そう一通り俺が語り終えるも誰も口火を切るものは現れず静寂がなおもこの場を支配していた。

 

 

 

「わかりませんか? その生物濃縮こそがこの子を蝕んでいる毒を解毒できない理由なんですよ」

 

 

 

「--!?」

 

 

 

 場がどよめき返す。

 

 

 

「ダンディ公……貴殿知っているのか!? この毒の原因を!?」

 

 

 

 俺はこの沼地で起きたのであろう、ことの顛末を語った。

 

 

 

 

 イーオスは集団で狩りを行うモンスターだが一匹一匹では脅威になりにくいことからわかるよう数がものをいうモンスター。

 

 群れの数がそのまま強さへと直結するといっても過言ではない。

 

 

 そしてその群れの数は下降傾向にあり絶対値が少なくなってきているというのがこの沼地における現状だった。

 

 つまり、イーオスはこの沼地において圧倒的弱者と化していたのだ。

 

 

 弱者と化したイーオスが真っ先に直面するであろう問題。

 

 

 

 それこそ『食糧問題』だった。

 

 

 

 群れの弱体化による狩りの成功率低下。

 成功したとしても沼地は腐肉食性のモンスターの宝庫。

 

 他のモンスターに横取りをされたとしても抵抗するだけの力がない場合の方が多くなる。

 

 そうなればますます狩り成功率は低下の一歩をたどることとなる。

 

 

 

 まさに『負のスパイラル』に陥ったのだ。

 

 

 

「そしてその負のスパイラルに見舞われたイーオスたちは『あること』を行ったんです」 

 

 

「……なんですのじゃ? その『あること』というのは?」

 

 

「別に生物界では珍しいことでもなんでもない、よくある現象ですよ」

 

 

 

 

 俺は息を大きく吸い込んだ。

 

 

 

 

「――『共食い』です」

 

 

 

 

 まるで水が打たれたかのように静まり返る民家の一室。

 

 

 

「……にゃ。つまり食糧難に陥ったイーオス達は共食いをすることで飢えをしのぎ始めたということなのかにゃ、ご主人」

 

 

「ああ、その通りだ。通常ならそれだけの話でしかなく、他のモンスターであればここでこの話は終わるんだがな……イーオスのようなモンスターは例外なんだ」

 

 

「そうか……。我にも得心がいったぞダンディ公……解毒が叶わなかったのはイーオスの毒の濃度がその生物濃縮により変化したためだったのだな」

 

 

「――その通りです」

 

 

 アシューの言う通り、共食いにより引き起こされた生物濃縮。ほかのモンスターならば蓄積されるだけで終る話なのだがイーオスの場合は勝手が違う。

 

 その理由は、イーオスが所有している特殊器官であり、毒をため込む器官。

 

 

『毒袋』の存在である。

 

 

 イーオスは生物濃縮により獲得した高濃度の毒を毒袋に『溜め込む』ことができる。

 そしてさらにはその毒を己の武器として振るうことができるモンスター。

 

 その高濃度の毒に免疫を得ることのできた個体はそれ以前とは比べ物にならないほど生命力が強くなる。

 

 

 ギルドはその高濃度の毒を有した個体を『上位モンスター』と位置づけ、狩猟危険度も高く設定する。

 この上位モンスターに位置づけられた個体はとてもじゃないが素人が手を出せる域にはいない。

 

 そしてその上位の個体が有する高濃度の毒袋は『猛毒袋』と名前を変え市場でも危険物として細心の注意を払い取引されるようになる。

 

 

 

 そしてこの現象の原因を辿れば元はママイト村の密猟問題に回帰する。

 

 

 

「村長……これがあなた方がここ数年繰り返し、村を繫栄させてきたことへの代償なのです」

 

 

 

『村一つ無くなってもおかしくない』

 

 

 今回はその被害がママイト村に起こったが、もしかしたら別の村に被害者が出ていたかもしれない。

 解毒不可能な毒はそういう状況を作りうるほど危険な代物なのだ。

 

 

 

「村長」

 

 

 

 俺は威圧的に彼に言い迫る。

 

 

 

「今一度、何が大切かを考え直してください。少なくとも俺は……」

 

 

 

 

 

「――笑い一つ起きないこんな空気が、その子の将来よりも大切だとは決して思いません」

 

 

 

 

 

 静寂。

 

 

 

 

 

 雨音が聞こえるはずのこの空間を耳が痛くなるような静寂が包み込んでいた。 

 

 

 緊張、焦燥、困惑、悲壮、それとわずかな憤怒。

 

 

 それがこの空間を形作っている要素。

 

 

 

「……あい分かった」

 

 

 村長は絞り出すような声でそう答えた。

 

 

「翁よ……」

 

 

 ママイト村民は誰一人として村長の言葉に対し抗議の意思を示すことはなかった。

 彼らもわかっていたのだろう。

 

 

 村長がどう答えるかということが。

 

 

 

「あい、分かった。じゃが……」

 

 

 そう否定的な言葉をつなぐ。

 

 

「少しだけ……もう少しだけ待ってはくれんじゃろう……か!?」

 

 

 その言葉に反応するように大きな影が村長に掴みかかった。

 

 

「アシュー!? やめるのにゃ!!」

 

 

 鬼の形相。

 

 

 タマの制止を無視し村長の胸ぐらをつかみあげるアシュー。

 その表情はまさに鬼気迫るものだった。

 

 

「ケッ……。ケハァッ……!!」

 

 

「もう少しだと? 少しとは何なのだ……。なあ翁よ? もう少しとは一体いつなのだ?」

 

 

 まるで獣のように息を荒げる。

 爆発寸前な理性を無理やり押さえつけているようでもあった。

 

 

「――雨が止むまでか? ――夜が明けるまでか? それとも――この童子が事切れるまでか!? なあ翁ぁ!!」

 

 

「やめるにゃ!! 村長が苦しがってるにゃ!! これじゃあ村長が死んじゃうにゃ!!」

 

 

 タマ以外誰もアシューを止める者はいなかった。

 

 

 村民誰一人として。

 村長の考えは至極単純なこと。

 

 

 要は時間稼ぎ。

 

 

 もうこの沼地周辺にギルドが介入することは避けることのできない事案と化してしまっている。

 

 

 ならば彼らにできることはもう一つだけ。

 

 

 証拠隠滅。

 そのための時間稼ぎ。

 

 

『悪あがき』だけだ。

 

 

「……よいしょっと」

 

 

 俺はわざとらしくこの場に不釣り合いな声を出し床に伏せる子供の横に座り込んだ。

 

 

 

 決して見誤ってはいけない。

 村長を、彼らのことを俺たちは勘違いしてはならない。

 

 

 彼らの行いは間違ってなどいないのだから。

 彼らは『正しくない』だけであり断じて『間違い』ではない。

 

 

 ママイト村民が精一杯生きようとした思いを『正攻法ではないから』と断じ悪とするのは容易であり単純だ。

 

 そこで思考を停止させればすべてが丸く収まる。

 

 

 

 だがそれで本当にいいのだろうか。

 

 

 

 弱者を断罪し、その後ろに蔓延る権化を野放しにすることが本当に『正しい』ことなのだろうか。

 

 

 決して本質を見失うな。

 

 

 助けるべき『対象』を。

 

 

 本当の『悪』の存在を。

 

 

 

 

 ――彼らが『被害者』であるという本質を。

 

 

 

「どんとこぉぉぉぉぉい!!」

 

 

 

 俺はそう雄たけびを上げ、床に伏せる子供を強引に担ぎ上げた。

 

 

 

 そんな奇声で皆の視線が俺に集中する。

 

 

 

 一番目を丸くしていたのはアシューだった。

 

 

「ダンディ公……」

 

 

 子供を担ぎ皆に背を向けた状態で俺は静かに言葉を発した。

 

 

 

「村長、あなたは立派なお方です。今それを確信しました」

 

 

 

『往生際が悪い』

 

 

 それはとても聞こえの悪い言葉。

 だがそれは逆を言えば『諦めらず、考えることを放棄しなかった』という厳粛なる示唆に他ならない。

 

 民をまとめる長に必要な重要な要素。

 

 彼は最後までそれを手放さなかった。

 

 

 これを立派と言わずなんというのか。

 

 

 俺はゆっくりと振り返り、アシューと村長を見据えた。

 そんな視線にハッとしたアシューは村長の袂から手を放した。

 

 

「アシューの姉御。すみませんが、これから『護衛依頼』を申請したいのですが、いいですか?」

 

 

「ご主人!? 何を言い出すのにゃ!? 何でご主人が行く必要があるのにゃ!! それにこんにゃ豪雨で視界も満足にない中いくにゃんて無謀を通り越して……!!」

 

 

 そこまで言葉にしてタマは、バツが悪そうに続きの台詞を飲み込んだ。 

 

 

「ご主人しかいないから……そういうわけかにゃ?」

 

 

「……悪いな、タマ」

 

 

 察しがよくて本当に助かる。

 

 俺しかいない。

 駐屯所に到着してから時間稼ぎができるのはこの村の中では俺とアシューしかいない。

 

 ママイト村の住民がギルドに赴けば被害を受けた村がママイト村だとすぐに分かり、調査隊が即刻派遣される。

 

 だが、完全部外者である俺が助力を仰ぐことで調査範囲をうやむやにすることができ、調査隊が派遣されるまでの時間を稼げる。

 

 

 

 証拠を隠すまでの時間を作るには俺が行くしかない。

 

 

 

「俺が駐屯所までこの子を連れていき、調査隊が派遣されるまでの時間を稼いできます」

 

 

 呆然と立ち尽くす村長の元まで歩み寄る。

 

 

「村長、もうお気づきでしょうが俺はこの村が行ってきたことがどのようなことなのか察しがついています。ギルドが定めているようそれは許されざる行為なのです。それだけは肝に銘じてください」

 

 

 彼の肩は小さく震えていた。

 

 

「商人さん……儂は、この村をなくしたくなかった。ただ……ただそれだけだったのですじゃ」

 

 

 そう弱弱しく呟く村長の手を俺は手に取った。

 

 

 しわしわで「苦労」という文字が染みついた傷だらけの手を。

 

 

 

「後のことは任せてください」

 

 

 

 そう言ってそっとアシューへと視線を流す。

 

 

 

「護衛、お願いできますか?」

 

 

 朗らかに笑みを作りそう問いかけた。

 

 

 

「あ……ああ。無論だ」

 

 

 

 ――ありがとうございます。

 

 

 とお礼を述べた。  

 

 

「さあ。それじゃあ行きましょうか――」

 

 

 

 

 

「――湿原ギルド駐屯地へ」

 

 

 

 

 俺は声高々に檄を飛ばした。

 

 

 

 

 

***

 

 

『いや、我とダンディ公の二人だけで十分だ』

 

 

 俺たちについて来ると言い出した村民の男衆をアシューがそうバッサリと切り捨てたのが印象に残った。

 

 

 実際、アシューの言う通り半端な戦力は今回の場合はいない方がいい。

 

 

 イーオスの毒を解毒する術のない現状、少数人数で臨んだ方がまだ助かる見込みがある。

 もしも大人数で向かいイーオスに襲われ毒に侵されることになれば、その毒に侵されたものはその場で切り捨てなければならなくなる。

 

 

 

 そうしなければ全滅してしまうためだ。

 

 

 

 あとは単純に護衛対象が少ない方が守りやすいからというのも一つの要因だろう。

 

 だからこそのアシューの言葉であり少数精鋭。

 被害を最小限に抑えるための手段でもある。

 

 

 

「だからタマ、お前も皇帝閣下と村に残れ」

 

 

 

 雨具を身にまといながら俺はそう村を発つ準備をしているタマに告げた。

 

 

「……わかってるにゃ。おいらが付いて行っても何の役にも立てないからにゃ……。おいらはおいらができることをやるだけにゃ」

 

 

 その言葉はとても寂しい響きをしていた。

 

 

 発つ前に皇帝閣下にも顔を見せにいこう。

 

 

『もしかして』があるかもしれないからこそ……。

 

 

 

「ダンディ公、準備はできたか」

 

 

 そんな厳かな雰囲気に割って入るようにアシューがやってきた。

 アシューの格好は、すでにアロイ頭装備までつけた完全武装状態だった。

 

 

「ええ、準備は万全です。ですが、ちょっとだけ皇帝閣下に一目顔を拝ませに行ってもいいですか?」

 

 

 俺がそう申し出ると、アシューは驚いたように声を出した。

 

「皇帝閣下殿はダンディ公が連れ出したのではなかったのか? 先ほど竜舎を覗いても皇帝閣下殿の姿が見えなかったからてっきり貴殿が連れ出したものだとばかり思っていたのだが……」

 

 

 その言葉を聞いて俺とタマは顔を見合わせた。

 そして同時にため息をついた。

 

 

「……あの野郎、また逃げやがったな」

「いつものことだけどひどいにゃ、皇帝閣下……」

 

 

 皇帝閣下の野郎なぜあんなにも危機感知能力と逃げ足に優れているのか。

 一体誰に似たんだか……。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 あっ、俺か。

 

 

 

「まあ、どのみち皇帝閣下殿を率いての進行も危険なため予定にはなかったのだ。これで道中ばで倒れるわけにはいかなくなったわけだな、ダンディ公」

 

「そうですね」

 

 あいつが帰ってきたとき、主人がもういないなんて事態にならないようにしないといけない。

 

 

 それがこいつらの主人としての最低限の責務だ。

 

 

 

「……すまなかったな、部外者である貴殿らを巻き込んでしまって。すべては我の力不足ゆえの結果ばかりだ」

 

 頭装備をつけているせいで表情こそ読み取れないもののその声音は己の無力さを憂うような力なきものだった。

 

「先ほどの件もそうだ。我は頭に血が上り翁に対し怒鳴りまくしたてることしかできなかった。貴殿の冷静さには救われた、感謝してもしきれない」

 

 

「いえ、大したことはしてませんよ。それにある人からも頼まれてましたから」

 

 

 

『少し向こう見ずなところがあるから君が調節してあげてよ』

 

 

 

 ここまで全てお前の掌の上だとでも言うつもりか。

 

 

 

 ――ふざけるのも大概にしろよ。

 

 

 

「感謝の言葉は駐屯地についてからです。俺も問いたださなければならない相手がいますので。――頼りにしてますよ、姉御」

 

 

「うむ、任されたダンディ公」

 

 

 雨止まぬ、長い夜の始まりである。

 

 




因みに今回出てきた「生物濃縮」ですが。

日本で一番有名な生物濃縮による公害は皆様一度は聞いたことはあると思いますが『水俣病』がなじみ深いですね。


水俣病は工場から海へ破棄された水銀をプランクトンが食べ、それを小魚が食べ、さらに大きい魚が食べ、最後に人間が食べる。

そしてその最後に行き着く人間の中でも妊婦に蓄えられた高濃度の水銀がお腹の中の胎児に栄養と一緒に与えられたことにより奇形児が生まれる経緯にいたりました。

生物濃縮はその連鎖が多ければ多いほど高濃度の毒を作り出していきます。
こういう経路をたどって引き起った生物濃縮の連鎖により発症したのが水俣病です。

参考までに。


以上!! 「モンハンで学ぶ日本の歴史!!」のコーナーでした!!


※そんなコーナーは存在しません。
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