モンハン商人の日常   作:四十三

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第三章前の番外編です


番外編part.1 「ご主人vs皇帝閣下」
ご主人vs皇帝閣下~仁義なき戦い~used『怪力の種』


 

 

 晴天晴びやか。

 

 

 さんさんと照り付ける日差しをその一身に受けながらのユクモ村帰還道中のこと。

 

 

 

「暇なわけだが」

 

 

 

 毒テングダケの積まれた荷引き台を引く皇帝閣下とその手綱を操るタマの傍らで俺はそう呟いた。

 

 

 見わたす限り代り映えしない木や山が映るばかりで心躍るものがない。

 まあ、要は見飽きたとも言うのだが。

 

 

 

「暇なら降りて歩いたらどうかにゃ? そうすれば少しはまぎれるんじゃないかにゃ、ご主人」

 

 

 

「そういうのじゃないんだよなぁ。なんかこう……わかんないかなぁ」

 

 

 

 そういう俺の答えにすこぶる面倒くさそうな表情を取るタマ。

 

 

「なんか面白いことないかねぇ……」

 

 

 

 面白いこと。

 

 

 これがなかなか見つからないのは当然のことなのだが、探せば探すほど見つからないものという風に表現すればそれはそれで幾分かの詩興感はえられるのではないだろうか。

 

 

 と考えたところで潰せる暇などたかが知れているわけなのだが。

 

 

 時は金なりなんて言うが、しかしこんな時間でも金儲けに関する試案を巡らせることができれば俺も少しは一流の商人の仲間入りを果たすのも早まるのではないか?

 

 

 

 はいはい。

 これもまた暇つぶしとしてはすこぶるつまらない部類だ。

 

 

 

「なんかないかねぇ……」

 

 

 

 何気なしに俺は道端の木の根元に視線を落とした。

 

 

 

「……!! こ、これは!!」

 

 

 

 そこには俺が一時期欲しくて欲しくてたまらなかったものが落ちていた。

 すかさず荷引き台から飛び降り、それにむかって脇目も振らずに駆け寄った。

 

 

 そして俺はそれを力強く拾い上げる。

 

 

 

「フ、フフフ……」

 

 

 

 腹の底からこみあげてくるその感情にあらがうことは今の俺には不可能に近い所業だった。

 

 

 

 

「あぁぁ!! はっはっはっはっはぁ!!」 

 

 

 

 

 身を包む高揚感、幸福感。

 満たされるとはまさにこのことなのだろう。

 

 

「ついに!! ついに手に入れたぞ!!」

 

 

 それをまるで誇示するように高々と掲げる。

 

 

 

「タマァ!! これを見ろぉ!!」

 

 

 

 そしてタマに向け「これが目に入らんか!!」とでも言いたげに振り返りつつ前に突き出した。

 

 

 しかしそこには信じられない光景が広がっていた。

 俺が振り返った先にはタマの姿も皇帝閣下の姿もなかったのだ。

 

 

 

 かなたですでに風景の一部と化す一匹と一羽。

 

 

 

 そう。

 あいつらは俺を全く気にも介せず先に進んでいた。

 

 

 

「タマさん!? 皇帝閣下!? なんでぇ!?」

 

 

 

 すでに遥か彼方まで進んだ二人の背中を一心不乱に追いかけた。

 

 

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 俺は走った。

 無我夢中で。

 

 

 寂しさは生物を殺す毒なのだから。

 

 

 

「構ってぇな!! 少しくらい構ってくれてもよかやん!! なんなん!? ご主人の一体何が気に食わんかったん!? 存在か!? 存在がいかんかったんか!?」

 

 

 

 追いついた俺はタマにすがりついた。

 

 

 

「……どちら様だったかにゃ? ちょっと道端で突然笑い出すような不審者には見覚えがにゃいんだけど」

 

 

 

「思い出してタマさん!! あなたのご主人はそういう馬鹿なことを平気でするご主人だったはずよ!!」

 

 

 

 ――それで一体にゃにを拾ってきたのにゃ。

 

 

 

 そこでようやくタマは皇帝閣下を止めてくれた。

 

 

 

「ふふふのふ……。よくぞ聞いてくれましたぁ!! さぁ!! これを見ろぉ!!」

 

 

「にゃ!? そ、それは!?」

 

 

 

 

『怪力の種』

 

 

 

 

 植物の種の一種で、食べることで経絡エネルギーが活性化し短時間ではあるが常人離れした力を手にすることができるというハンター御用達のアイテムだ。

 

 

 

 昔の俺が喉から手が出るほど欲しかったものでもある。

 

 

 

「――で、その怪力の種が一体どうしたのかにゃ、ご主人」

 

「タマさんよ……。俺は常々、己に足りないものがあると思って生きてきた。――それが一体なんだかわかるか?」

 

 

 

「品性かにゃ?」

 

 

 

「そう!! 『力』だ!! 俺には力が足りなかったのだ!!」

 

「え……? でも品性も足りて……」

 

 

 

「笑止!! そんなもの圧倒的な力の前には無に等しいわ!!」

 

 

 

 そう叫び、再び手に持っていた怪力の種を天に掲げる。

 

 

「そして俺は今、その『力』を手に入れた。これが何を意味するか分かるか?」

 

 

 タマからの答えが返ってくる前にその答えを口にする。

 

 

 

 

「かかってこい、皇帝閣下。今日こそ貴様との因縁の対決に終止符を打ってくれる」

 

 

 

 俺は今世紀最大の決め顔でそう宣言した。

 皇帝閣下が俺の発言に呼応するように「ピクッ」と反応した。

 

 

「ご主人……」

 

 

 そんなタマの憂いた様な声。

 

 

「……皇帝閣下に勝てないことそんなに気にしてたのかにゃ」

 

 

「…………」

 

 

 返事はしない。

 

 

 

「っていうかそんな借り物の力で勝ってうれしいのかにゃ……?」

 

 

 

 タマのそんな疑問に俺は「フッ」と鼻で笑った。

 

 

「……いいかタマ? いい言葉を教えてやる」

 

 

 俺は優しい声音で語り掛けた。

 

 

 

 ――どんな手段を使おうが、勝ちゃあいいんだよ。

 

 

 

 そして小悪党的に笑った。

 

 

 

「その品性の欠片もないセリフのせいでご主人が勝てるビジョンが全く浮かんでこないにゃ」

 

 

 

 しぶしぶと皇帝閣下を荷引き台から解放するタマ。

 自由の身となりゆっくりと、ゆっくりと俺の前に歩み寄ってくる皇帝閣下。

 

 

 

 プレッシャー。

 

 

 

 この俺の周りを取り囲む緊迫した空気の正体。

 それが皇帝閣下の背中からありありと溢れ出ていた。

 奴が足を一歩踏みこむたび空気が振動しているかのような錯覚すら覚える。

 

 心なしか奴の背景がまるで陽炎のように揺らいで見えるまでである。

 

 

 たまらず生唾を飲み込む。

 

 

 

 恐れるな。

 

 

 

 そうだ、一体何を恐れることがある。

 俺には怪力の種があるのだ。

 常人離れした怪力を手に入れた俺に死角などありはしない。

 

 

 いくら相手が『あの』皇帝閣下であろうと恐れるに足らず。

 

 

 勝機は我にあり。

 

 

 

「勝負だぁ!! 皇帝閣下!! 貴様に絶望的力の差というものを思い知らせてくれるわぁ!!」

 

 

 

 叫んだ。

 己を奮い立てさせるために。

 

 

 そして怪力の種を内服しようと構えた。

 

 

 しかし――。

 

 

 

 違和感。

 

 

 

「なん……だと」

 

 

 

 手の内にあったはずの怪力の種が『忽然と姿を消した』のだ。

 

 

 

 なぜだ……。

 間違いなくついさっきまであったはず。

 

 

 どこだ?

 一体どこに行った?

 

 

 

「グワァ……」

 

 

 

 不意に俺の後方から皇帝閣下のくぐもった鳴き声が聞こえてきた。

 

 

 

 俺はすかさず振り返った。

 

 

 

「貴様……皇帝閣下!! いつの間に俺の後ろに……!!」

 

 

 

 だが俺の目に飛び込んできたのはそれだけではなかった。

 忽然と姿を消したはず怪力の種を皇帝閣下が器用に『嘴でくわえていた』。

 

 

 

「て……てめぇ!! 一体どうやって……!?」

 

 

 

 俺は焦った。

 頼みの綱だった怪力の種を奪われた。

 

 

 皇帝閣下が常人以上の力を手に入れたら俺の勝機は絶望的な数値へと化す。

 

 

「……上等だ。食えよ!! 食えよ皇帝閣下!! 怪力の種を食いやがれ!! それで丁度いいハンデにならぁ!!」

 

 

 だが俺にもプライドがある。

 

 

 ここで引くは漢が廃る。

 

 

「おらぁ!! かかってこいよぉ!!」

 

 

「グワッ……」

 

 

 そんな俺の挑発に対し皇帝閣下は驚くべきことに嘴にくわえていた怪力の種を『放り投げてきた』。

 数度地面を跳ね俺の足元で止まる怪力の種。

 

 

「てめぇ……。お情けのつもりか!! いいだろう!! 貴様のその伸び切った鼻ぽっきりとへし折ってや……!!」

 

 

 そして怪力の種を拾い上げようとその場に屈んだその刹那。

 

 

 

 そう刹那だった。

 

 

 

 断じて言おう。

 俺は油断などしていなかった。

 視線を離したのもほんの数舜。

 

 

 

「グゥワッ」

 

 

 

 背筋が凍りつく感覚に襲われる。

 

 

 その鳴き声が真横から聞こえてくるまで俺は奴を認識できていなかった。

 鳴くことをしなければ恐らく俺はやつが通り過ぎたことにすら気づけなかっただろう。

 

 硬直した俺の横を悠然とした足取りで通り過ぎる皇帝閣下。

 

 

 

 ただ通り過ぎただけ。

 それだけしかしていない。

 

 否。

 

 

 奴はあえて『それだけしかしなかったのだ』

 

 

 

 仮に俺が怪力の種を内服し常人離れした力を手にしていたとして、果たして俺は奴の行動に対応できていただろうか?

 

 手の内から怪力の種を奪われ、己の横を通りすぎたことにすら反応できなかった俺に、勝利の道は存在していたのだろうか?

 そしてこれら全て『力』では対処できぬ事柄ばかり。

 

 

 結果俺の前に突き付けられた現実は……。

 

 

 

『絶望的力の差』だけだった。

 

 

 

 

「チクショウ……」

 

 

 

 手の中から怪力の種が滑り落ちる。

 直視できぬ現実を前に俺の膝は折れその場に頽れる。

 

 

 

「チクショォォォォォ!!」

 

 

 

 心情に反比例するような煌々と照りつける晴天が無情に俺の頬を伝う涙を飲み込んでいた。 

 

 

 こうして俺と皇帝閣下の仁義なき戦いは終戦を迎えたのだった。

 

 

 

***

 

『ご主人vs皇帝閣下』used「怪力の種」

 

 

 勝敗……ご主人戦意喪失により皇帝閣下に軍配が上がる。

 

 

 

『ジャッジメンター・タマ』の戦評

 

 

「ご主人が弱すぎるだけ」

 

 

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