モンハン商人の日常   作:四十三

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明けましておめでとうございます!!

そしてお久しぶりです(五か月ぶり)('ω')ノ


29話

***

 

 

 オイラは父ちゃんのことが大好きだった。

 

 

『とうちゃん!! とうちゃんははんたーさんのオトモだったのかにゃ!?』

 

 

 小さかった頃のオイラは当時、父ちゃんに憧れていた。

 父ちゃんが話してくれるハンターさんとの狩りの思い出を聞くのが何よりも好きだった。

 

 

 駆け出しだった旦那さんとの初任務での失敗談や誰でも達成できるような簡単なお使いで得られた達成感。

 ろくにモンスターも狩れず空腹で旦那さんと食べ物を取り合った恥ずかしい思い出。

 雪山で暖をとるためお互い寄り添いあって眠ったこそばゆい経験。

 

 自分よりも何倍も大きいモンスターを相手にする恐怖。

 達成できた時の胸の高鳴り。

 

 自信がついてきた頃の油断と傲りによる後悔。

 それを乗り越え更なる高みを目指し旦那さんと共に歩んだ軌跡。

 

 

 そんな心躍る数々の物語がオイラの目にはとてもキラキラと映っていた。

 

 

『おいらも!! おいらもとうちゃんみたいになれるかにゃ!?』

 

 

 あの頃のオイラがオトモを目指すのはある意味必然だったと思う。

 

 

 

 ――なれるさタイラン、お前なら。なんたってお前はオレの息子だからな。

 

 

 

 今思えばあの時の父ちゃんの言葉はなんて無責任な言葉だったのだろうか。

 

 

 

『なるにゃ!! おいらもとうちゃんみたいにゃ立派なオトモになるにゃ!!』

 

 

 

 うら若き少年の心に一つの夢を埋え込んだ無責任な言葉。

 

 

 とても。

 とても残酷な言葉。

 

 

 

『決めた!! あなたの名前はマルクトよ!!』

 

 

 

 その日はオイラにとっての記念すべき輝かしい日になるはずだった。

 ここから待ちに待ち焦がれた夢が叶っていくのだと当時のオイラは信じて疑わなかった。

 

 

『今日からよろしくね!! マルクト!!』

 

 

『よろしくお願いしますにゃ旦那さん!!』

 

 

 信じて疑わなかった。

 自分自身の心躍る冒険譚の始まりを……。

 

 

『マルクトには農場の畝の管理をお願いするわね!!』

 

 

 そう言って旦那さんはオイラ以外のオトモを引き連れて狩猟に向かった。

 

 

『いってらっしゃいにゃ旦那さん!!』

 

 

 オイラだっていきなり連れて行って貰えるにゃんて思ってにゃいにゃ。

 まずはここの生活に慣れることからにゃ。

 慣れればきっと旦那さんもオイラを狩りに同行させてくれるはずにゃ。

 その時に足引っ張らないように今からいろいろと勉強、鍛錬をするのにゃ。

 

 大丈夫。

 時間はいっぱいあるにゃ。

 

 

『今日は料理番をお願いするわ。よろしくねマルクト』

 

 

『かしこまりましたにゃ旦那さん!!』

 

 

 料理を作るのもオイラ達の仕事にゃ。

 旦那さんの狩猟の手助けをする大事な役割。

 疎かにはできないにゃ。

 

 旦那さんはきっとこうしてオイラを同行させる準備をしてくれているのにゃ。

 

 大丈夫。

 まだ時間はいっぱいあるにゃ。

 旦那さんもオイラのことキチンと考えてくれているにゃ。

 

 

 うん、きっと。

 

 

『えーと、じゃあ今日はハチミツ箱の管理よろしく』

 

 

『かしこまりました、旦那さん!!』

 

 

 きっと、オイラの努力が足りないのにゃ。

 オイラの努力が足りないから旦那さんも同行させてくれないのにゃ。

 

 そうにゃ、そうに違いないにゃ。

 実力が伴わないのに連れて行って怪我とかしたら一大事だもんにゃ。

 

 旦那さんは、すごいにゃ。

 オイラのことをよく見てくれてるにゃ。

 

 もっとにゃ。

 もっと旦那さんのために努力しなくちゃダメなのにゃ。

 

 

 大丈夫。

 

 

 まだ時間はいっぱいあるにゃ。

 

 

『今日は漁猟網の手入れを……』

 

 

 次の日も。

 

 

『マルクトには虫の木に蜜を……』

 

 

 次の日も次の日も。

 

 

『菌床にアオキノコの菌を……』

 

 

 次の日も次の日も次の日も。

 

 

 大丈夫。

 まだ大丈夫。

 

 

 

 

 ――まだ時間はいっぱいあるにゃ。

 

 

 

 

 

『あなたには今度からずっと畑の畝の管理をお願いするわ。あなた得意でしょ?』

 

 

 

 ある日旦那さんはオイラに唐突にもそう告げてきた。

 

 

 

 

 

『かしこまりましたにゃ、旦那さん』

 

 

 

 

 オイラは精一杯に笑った。

 自分でもわかる。

 その笑みがとても歪んでいたと。

 

 

 

 ――ねぇ、旦那さん?

 

 

 オイラは心の中で届くはずのない疑問を唱えた。

 口にすれば受け入れなければならなくなる現実への非情さに。

 

 

 

 いつになったら……。

 

 

 

 

 ――いつになったらオイラを狩りに連れて行ってくださるのですか?

 

 

 

 

『じゃあ、よろしくマルクト』

 

 

 

 何のためにあなたはオイラにその『名前』を付けてくださったのですか?

 

 

 

 

『……タイラン』

 

 

 ある日のこと。

 ネコ婆がオイラのもとに訪れた。

 

 

『いんや――マルクト』

 

 

 父ちゃんはなんて無責任な言葉を口にしたのだろう。

 自らの息子になんて夢を見せてしまったのだろう。

 

 そう思わざる負えなかった。

 

 

 

『残念だけどあんたの主人は……』

 

 

 

 

 

 ――もうあんたのこと必要ないそうだよ。

 

 

 

 

 

 それは紛れもない『解雇通告』だった。

 

 

 

 ネコ婆から伝えられた言葉はオイラの心に深々と突き刺さった。

 

 

『試しに雇ってみた』

『試しに農場の世話をさせてみた』

『試しにしばらく続けさせてみた』

 

 

 試しに試して。

 

 

『――試した結果、やっぱり必要ないそうだ』

 

 

『だから、もういらない』とそういう事だとも。

 

 

 

 自分の口から言うのがはばかられる為、ネコ婆に通告を丸投げしてきたという。

 

 

 

『ねえ、マルクト……』

 

 

 やめろ。

 その名でオイラを呼ぶな。

 

 

 呼ばないでくれ。

 

 

『マルクト』なんて知らない。

 オイラはタイランだ。

 

 

 これ以上オイラに惨めな思いをさせないでくれ。

 

 

『正直、あんたの歳で今からハンターのオトモを目指しても他の若手のアイルーの方が経験豊富であんたを紹介したところで相手にして貰えないかもしれない。こんなことになるまで放置してしまって申し訳なかったと思う。これはあんたにこんなところを紹介したあたしのミスだ……』

 

 

 

 謝らないでほしい。

 謝るなよ。

 

 そんな夢を閉ざさせるようなことを言わないでくれよ。

 オイラはまだ父ちゃんのようなオトモになる夢を諦めてないのだから。

 

 

 だから。

 嘘でもいいから。

 

 

 

 そんなこと言わないで……。

 

 

 

『……一人、あんたに紹介できる奴がいるんだけど話を聞く気はあるかい?』

 

 

 

『どんなハンターさんなのにゃ……?』

 

 

 

 ――いや……ハンターではないんじゃが、そのぉ……。

 

 

 

『……?』

 

 

 

 今でもあの時のネコ婆の目が泳いだ奥歯に物が挟まったような姿を思い出すと笑ってしまう。

 

 

 オイラからすれば『名前』なんてものは、個人を区別する記号だったり、所有物としての符号だったり、親しさを示す暗号だったり、時間の流れを表す年号だったり。

 

 

 

『――悪い奴ではないのだが少し変わり者でなぁ……』

 

 

 

『……一体どんな人なのにゃ?』

 

 

 少なくとも今のオイラの認識ではそういうものだし。

 だからこそ不本意ながらも今の『タマ』という呼ばれ方にも……。

 

 

 

 

 

 

『商人じゃよ』

 

 

 

 

 

 ――嫌な気分はしていないのだと思う。

 

 

 

 

***

 

 

「――にゃんか面倒くさくなってきたにゃ。もういいんじゃにゃいか? ご主人探索。どうせアレのことだからしぶとく生きてるにゃろ」

 

 

「す、すごいね。君、とうとう自分の主人のこと『アレ』呼ばわりしちゃうんだ……。それとも主従関係って世間一般的にそんな感じなの?」

 

 

「……? 大体こんな感じじゃにゃいかにゃ? 少なくともオイラ達はこれが普通にゃ」

 

 

 昔はもっと気を使っていたような気がするけど昔のこと過ぎてもう覚えてない。

 

 元はと言えばご主人がオイラと皇帝閣下を身代わりにしてお師匠さんから逃げ出したのが始まりだし、それでオイラ達がご主人の身を案じて探索するのはよくよく考えればお門違いな気がする。

 

 少しくらい碌な目にでもあってくれた方がオイラ的にも有難かったりする。

 むしろ酷い目にでも合えとお灸を据えたいほどである。

 

 

 空に上った黒煙がすでに霧散しその黒色も茜色の夕日に溶け出した時分。

 オイラとギメイは影が伸びだした渓流の森でそんなやり取りを始めていた。

 

 面倒くさい云々もあるけどこれ以上暗くなったら単純に危険だという考えの提案。

 

 

「うん。僕ももうそろそろ言い出そうとは思ってはいたんだよね。正直これ以上の探索はさすがに武器もなしで行うには無謀すぎるから」

 

 

 ギメイからの答えもオイラの意見に賛同する返答。

 

 

「とりあえずこれ以上の探索は危険だから、一度君を安全なところに避難させようと思っていたんだよ」

 

 

 まあつまりその言葉を要約すると……。

 

 

「それじゃ、ユクモ村に戻ろうか。君の主人のことは準備をし直した後にもう一度僕が探しに行くよ」

 

 

 

「何から何までありがとにゃギメイ」

 

 

 

 その言葉を皮切りに帰路に就くオイラ達。

 

 いやしかし、ご主人は一体どこまで逃げてしまったのだろうか、とそんなことを考える。

 なんだかんだ結構な時間と場所を探し歩いたのに全然見当たらない。

 まさかこの渓流よりも外の区域まで逃げたなんてことはないだろうけど、ここまで探して手掛かりなしとなると本当にどうしようもない。

 そこまでしてお師匠さんから逃げ出したかったと言われればなんとなくわからなくもないけど。

 

 

「……」

 

 

 

 そういえばお師匠さんの方はどうなったのだろう?

 ゴア・マガラに襲われてオイラがあの飛行船から落ちた後、お師匠さんと皇帝閣下がどうなってしまったのかの安否も不明なままだ。

 

 飛行船が落ちたなんてことはないとは思う。

 落ちたのならば渓流周辺はもっと慌ただしくなっているはずだし。

 もしかしたらあの時突如起こった黒煙と爆発音がそうだったという可能性もあるけど。

 

 

 オイラがギメイにあの爆発がなんだったのか確認をしに行こうと提案しても「やめておいた方がいい」とだけ言われて結局調べはしていない。

 野次馬根性と言われてしまえばそれだけ。 

 ギメイは今現在武器を持っていないのだから下手なことに首を突っ込んで危機に瀕するような真似だけは避けるべきだということは馬鹿なオイラにもわかる。

 

 

「にゃあ、ギメイ? ギメイがオイラを見つけるまでにここらへんで飛行船が落ちたにゃんてことなかったかにゃ?」

 

 

 オイラは道すがらギメイにそう問いかけた。

 

 

「飛行船? いや、多分そんなことはなかったと思うけど……。少なくとも僕がユクモ村に滞在し始めた向こう三日間くらいはそんな事件があったなんて話も聞いてないかな。本当にそんなことがあったのならとっくにギルドの気球観測班がギルドに報告して人員が派遣されて事件になってるはずだし……断言はできないけどね」

 

 

 そりゃそうか、と納得する。

 だとすればお師匠さん側は大丈夫な可能性が高い。

 

 

「そういえば本当に今更なんだけど。君なんでこんな渓流で一人気絶なんてしてたんだい? なんだかんだで君がどうして君の主人とはぐれたのかの経緯も聞けてなかったし」

 

 

 そんな本当に今更な質問。

 

 

「にゃ!? あれ!? 説明してにゃかったけオイラ!?」

 

 

 

 ――ごめんね、聞けてないんだ。

 

 

 

 と苦笑いを溢しながら頬を掻くギメイ。

 開いた口が塞がらなかった。

 

 確かに言われてみれば全くギメイにはオイラがどうしてこうなっているのかの経緯を説明した記憶がない。

 逆に事情を全く知らずにここまで付き合ってくれていたという紛れもない事実に驚きが隠せない。

 

 

 人が……!! 人が良すぎる!!

 

 

「えーっとにゃ……」

 

 

 しかし改めて聞かれるとなんて説明したものか悩む。

 簡単に説明するなら『女装癖の変態に襲われ、攫われ、飛行船から落ちた』なのだけれどざっくりしすぎて意味が分からない。

 すごい文面だなと口元もひきつる。

 

 意味がわからないがそれが事実なのだから結局、ありのまま起こった出来事をギメイには説明した。

 

 

「何というか……君の主人のお師匠さんって随分と破天荒な人なんだね。少し会ってみたいかも……」

 

 

 なんていう感想はオイラに気を使っての物なのかどうか本意は知れないけど、実際に間近で関わった当事者から言わせてもらえばもうしばらくは会いたくない。

 

 

 ご主人や皇帝閣下が全力で逃げ出そうとした気持ちが今ではよくわかる。

 

 

「しかし、そうなってくるとなかなかにややこしい状態には変わらないわけなんだね。君の主人どころかそのお師匠さんの安否すら不明となると、うーん……何とも。やっぱり、一度ユクモ村で集合しようと思うのが普通の心理だと思うし、そうするのが無難だろうことには変わりないだろうけど」

 

 

 まあ、飛行船が墜落したにしろ、していないにしろ事件性がある状況になっていればユクモ村に戻ればある程度の情報が入ってくるであろうことは確かなのだ。

 なおのことユクモ村への一時帰還という選択に不満などあるはずもない。

 

 

「そういえばユクモ村に戻ったらギメイの依頼の方はどうなるのにゃ? ラングロトラ狩猟依頼はやっぱり失敗ってことになるんだよにゃ?」

 

 

 そんな確認するかのようにオイラはギメイに問いかけた。

 狩猟自体を完遂させたのは紛れもなくギメイではあるのだが、肝心の狩猟対象だったラングロトラはあのギルドナイトに渡してしまった。

 

 そうなってくるとギメイは狩猟を完遂させたという証拠となる物をギルドに提示することができない。

 依頼内容の細かいところまで聞いているわけではないから何とも言えないけど、依頼主の目的がラングロトラの狩猟自体ではなく素材納品依頼の方だったのならばこれは完全に失敗の分類になってしまう。

 

 

 

「うん、まあそうなるだろうね。あのギルドナイトの人がギルドに証言してくれれば違ってくるだろうけど、あんな別れ方しておいて今更僕の顔を立ててくれるなんて到底思えないし。でも先刻も言ったけど僕はあんまりギルド内での地位とかに興味ないから割とどうでもいいんだよね正直」

 

 

 

 ――最近の依頼内容なんて大体そんなもんさ。

 

 

 

 とどこか遠くを望む様に薄く笑うギメイ。

 

 

「最近の依頼なんてそういうくだらいものばかりさ。モンスターの素材が欲しいから狩猟してだとか危険だから排除してくれだとかそんな他力本願な依頼ばかり。もう、ハンターが『英雄』だなんて言われていた時代は終わってしまったんだなとそう思ってしまうんだ」

 

 

「それは……」

 

 

 そんなことはない。

 なんて言えるはずもなかった。

 

 今の狩猟形態はギルドという大規模の組織を基盤にハンターという実行員を派遣しそのバックアシストをとりつつ狩猟を行うプロセスが基本となっている。

 

 

 個の力ではなく集の力。

 数の暴力。

 人海作戦とも言える。

 

 

 誰かが狩猟に失敗したとしてもいくらでも後続を据えることができるし、また失敗しても次がいくらでもある。

 そして、任務達成率の高いハンターには『ハンターランク』なる数値化した階級を与える。

 そのハンターランクが高いものほど待遇は良くなることは当然。

 そうでなければランクをつける意味がない。

 大衆がその高みを待遇を望む様にしなければ意味がないのだからその処置は必然的だ。

 

 

 だがそれは所詮独善的に取り決められた制度でしかなく『英雄視』はされるだろうが『英雄』には程遠い。

 むしろ正反対だと言っても差し支えないほどに誤っている。

 

 

 狩猟に制限時間を設けるのだって、深追いをさせないためというのもあるだろうけど要は狩猟をスムーズに完遂させるためにハンターを入れ替えるための節目として取り決められた制度に他ならない。

 

 

 間違ってはいない。

 組織としては間違ってはいないはず。

 個を補完し集の力へと昇華させるという考えは非常に正しい。

 

 

『個』とは『ハンター』のことであり、『集』とはならば『ハンターズギルド』のこと。

 

 

 だが濃すぎる個は集を食らいかねない。

 強すぎるハンターはハンターズギルドという組織の存在を揺るがしかねない。

 

 

 

 だとすれば……。

 

 

 

 ――だとすればハンターズギルドにとって『英雄』など不必要な邪魔者でしかないのかもしれない。

 

 

 

「……」

 

 

 ギメイはそんなハンターズギルドの地位に興味がないと言っていた。

 ならばなぜ……。

 

 

「だったらにゃんでギメイはハンターズギルドを続けているんだにゃ……。ギメイほどの実力があればギルドに頼らなくてもやっていけるんじゃにゃいか?」

 

 

 

 そんな核心的な問い。

 ギメイの言い方はまるでこの浮世に英雄など存在しないことを憂いているかのような文言。

  

 

 英雄がいないと嘆くのならば……。

 

 

「嘆くくらいなら自分が英雄になればいいじゃにゃいか……」

 

 

 

 

 

 ――僕には無理だよ。

 

 

 

 

 

 そんな消え入りそうな答えが返る。

 その表情は嘲笑そのもの。

 

 

 自分自身を笑う顔。

 

 

「英雄の名を語るには僕の名はあまりにも汚れすぎている。どれだけ頑張ったって僕にはもう英雄を名乗る資格なんてない。だから僕は決めてるんだ。どれだけ頑張っても英雄になれないのならいっそのこと……」

 

 

 

 ――この腐った社会に一太刀入れてやろうとね。

 

 

 

 そんなギメイらしからぬ言葉。

 

 

「く、腐った社会って……一体、何を言ってるんだにゃギメイ」

 

 

 オイラの顔を見下ろしニコリと笑いかけてくるも、問いに関して明確な答えは返ってこない。

 それはまるで「君にはまだ早い」と暗にそういわれているような気がした。 

 

 

 

「あらやだぁ!? タマタマちゃん見ぃつけたわぁ!! 探したのよぉぉぉ!!」

 

 

 

 そんな空気をぶち破る野太い声が突如聞こえてきた。

 

 

 いやな予感がした。

 むしろ、いやな予感しかしなかった。

 

 

 声のする方からドスドスと地を踏む音が近づいてくる。

 振り返るとそこには見たことのない人物。

 

 

 ただし女装をしたオカマでありお師匠さんの関係者であることだけは見ただけでわかる。

 そんな人物がいた。

 

 てっきりお師匠さんかと思ったのだが見当違いだったことに胸を撫で下ろすも、恰幅の良い大の男が厚化粧で近づいてくるという鬼気迫る現状に戦慄し逃げ出したくなった。

 

 

 

「にゃぁぁぁ!?」

 

 

 

 というか逃げ出した。

 

 

 

 

 ―― 逃 が さ な い 。

 

 

 

 

 そんな死の宣告のような声が聞こえた。

 

 

 

「奥義『フライング・ダッチ・にゃんこ』」

 

 

 

 そんな叫び声の後、オカマの巨体は信じられない跳躍を見せ宙を飛んだ。

 

 

 

「うぎゃぁぁぁぁぁ!?」 

 

 

 

 オイラはオカマに捕まった。

 死に物狂いで暴れるも逞しい二つの腕がオイラに逃走を許してくれなかった。

 

 

「もう心配したんだからぁ!! タマタマちゃん全然見つからないんだもん!! 心配で夜も眠れなかったんだからぁぁぁ!!」

 

 

「夜にゃんて来てにゃい!! まだ夜にゃんか来てにゃいから!! にゃぁぁぁ!?」

 

 

 オイラに頬ずりするオカマ。

 オカマに頬ずりされるオイラ。

 

 

 その姿を見ていたギメイは若干笑みがひきつっていた。

 

 

「えっと……この人が君の言っていたお師匠さんでいいのかな?」

 

 

「ちがっ……違うけど!! 違うけどお師匠さんの部下の人にゃ!! いやぁ!! やめてぇぇぇ!!」

 

 そういえば、お師匠さんがご主人の荷物を回収するためにこの森に部下の人たちを下ろしていたのを今ごろ思い出した。

 

 

「あなたたちの荷物回収してニューハーフに戻ってみたら船体はボロボロだし、タマタマちゃんもカーちゃん店長も行方不明だし船員もみんなオカマになってるしで本当に驚いたんだからぁ!!」

 

 

「船員が全員オカマなのは最初からだろうがぁ!!」

 

 

 カーちゃん店長とはお師匠さんの「カカリカ」から取った愛称なのだろう。

 

 

「そんなことよりもお師匠さんも行方不明ってどういう事にゃ!?」

 

「どういう事も何もアタシはその場にいなかったから事情は知らないけどニューハーフから皇帝閣下と一緒に落ちたらしいってくらいしか聞いてないわ。カーちゃん店長なら自力で戻って来れるでしょうから問題ないとは思うのだけど」

 

 

 流石というかなんというか飛行船から落ちたのに死んだという心配を全くされないとはこれも人柄がなせる業なのか。

 まあ、あの人なら多分火山の火口に落ちたって自力で戻ってこれると思ってしまうから心配するだけ無駄なのかもしれない。

 

 

「っていうかいい加減放して欲しいにゃ!! もう逃げないから放してにゃぁぁぁ!!」

 

 

 そう情けない声をあげながら懇願するオイラを名も知らぬオカマさんはようやく解放してくれた。

 

 

「そ、それでこれからどうしようか? どうやら君のお迎えも来てくれたみたいだし、こうなってくるともう君がユクモ村に行く意味はあんまりないと思うんだけど」

 

 

 いきなり現れた変質者に若干引き気味のギメイは自分の頬を掻きながら問いかけてきた。

 

 確かにもうオイラがユクモ村に行く意味はない。

 お師匠さんの所在が不明なのは変わりないけどその代わりに飛行船に案内してくれるオカマさんと合流できたのだからまずはニューハーフに戻った方がいい。

 

 もしかしたらもうお師匠さんもご主人も戻ってきてるかもしれないのだから。

 

 

 

「――じゃあ、僕の仕事もここで終わりってことでいいのかな? 僕は任務を失敗したという報告をしなければならないからどの道ユクモ村には向かわないといけないし。短い間だったけど君とはここでお別れだね。たいして役に立てなくてごめんね」

 

「役に立たなかったにゃんてそんな!! ギメイのおかげですごく心強かったし助かったにゃ!!」

 

 

 

 ――そう言って貰えると僕もうれしいな。

 

 

 

 事実ギメイがいなければオイラは自由に渓流周辺の探索なんてできなかったしこのお師匠さんの部下の人とも合流なんてできなかっただろう。

 ギメイがいてくれたことに関する恩恵はかなりの物だった。

 

 

「ではすみません、彼のことよろしくお願いします」

 

 

 とオカマさんにも最後まで礼儀正しい姿勢を崩すことなく接するギメイ。

 

 

「安心して、オカマは惚れた男を命を懸けて守る生き物だから」

 

 

「え……?」

 

 そんな疑問符を浮かべオカマさんの顔を見上げる。

 

 

「それを聞いて安心しました」

 

 

「え……!?」

 

 そんなオイラの驚愕から出た言葉を気に留めずギメイは「それではこれで」と言い残し立ち去って行ってしまった。

 

 

「…………」

 

 

 それは沈黙からくる静寂。

 

 

 叫びたい衝動とでもいうのだろう。

 この沈黙がとても苦しい。

 

 

 

 ――――…………!!

 

 

 

 不意にオイラは渓流の森を駆け出した。

 己の警鐘が割れんばかりになっているのを感じたから。

 

 

 

「――にゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 オイラはまたしても逃げ出した。

 

 

 

 ――狩技「エスケープランナー(にゃんこ走法版)」

 

 

 

 そしてまたもやよくわからない技名を叫びあげるオカマさん。

 

 

 

「HAHAHA!! 狩りごっこだなぁ!! 負けないんだからぁ!!」

 

 

 

 

「いやにゃぁぁぁ!! たすけてぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 ガチ泣きしたオイラの鳴き声は月が照らし出される渓流を駆け巡っていった。

 

 

 

「ご主人!! 助けてにゃぁぁぁ!!」

 

 

 

「HAHAHAHAHA!!」

 

 

 

 本当に今日は今まで生きてきた中で一番の厄日に違いないとオイラはそう確信したのでした。

 

 

 

 

 

***

 

 男は笑う。

 

 

 ギルドナイト『ギメイ=ラングロトム』は笑う。

 

 

 理由もなく笑う。

 笑っている方が多少都合がいいから笑う。

 

 ただそれだけ。

 

 

 さあ、行こう。

 いざ、行こう。

 

 

 仕事だ仕事だ。

 

 

 獲物はどこだ。

 獲物はいたか?

 

 

 腐った社会に一太刀入れよう。

 腐った人達に一太刀入れよう。

 

 

 さあ、彼の物語を始めよう。

 さあ、彼らの物語を終わらせる彼の物語を始めよう。

 

 

 別れの挨拶は礼儀正しく。

 別れの挨拶も礼儀正しく。

 

 

 最後なのだから。

 最期なのだから。

 

 今は今際でなかったとしても。

 

 徳を積もう。

 悪徳も積もう。

 

 

 このお話は英雄になれない愚者の物語。

 なりたいわけでもない英雄になれない彼の裏話。

 

 

 特に何の恨みも、使命感も、理由もない。

 あるのはただの笑い顔。

 

 その方が多少都合がいい。

 

 

 

 

 ――ただそれだけの笑い顔。

 

 

 

 

 







ギルドナイト始動。



***

お久しぶりです!!
いや本当にお久しぶりです!!

少々8月から転勤やらなんやらで生活が変わったのでなかなか更新できませんでした!!
申し訳ない!!

というのは概ね建て前で、実際は「ガールズ」が「バンド」で「パーティー」する某音アプリゲーにはまって一人で「ぶひっぶひっwww」言ってたりとか、Twitterのフォローワーさんの執筆企画でオリジナル物の作品を書いてたりとか、西部劇を舞台にした某ゲームでマタギ生活をエンジョイしてたりとか、ただサボってました()。


はいすみません、人間のクズです。


いや転勤したのは事実ではあるのですが……。
オリジナル作品も匿名投稿ですが一応全部ハーメルンに投稿してますし『四十三』で検索かければ出てきます。
まあ、興味があれば程度に。

正直多分お気に入りとかだいぶ減るんだろうなと思いながらの投稿です。
まあ、自業自得なのでこればかりは仕方がないことですが。

また月一投稿に戻していくと思います(多分わかんないけど)

優しい目で見守っていただければ幸いです。


ではでは、また会う日まで('◇')ゞ
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