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「――今この世界には英雄が必要なのです」
朱色堅固の甲殻を担ぎ上げる『ギルドナイトセーバー』を腰に携えた女ハンターはそう諭すように口にした。
その言葉は誰に向けての言葉なのだろうと彼女の後ろを付いていく者たちは等しく口を噤む。
ある者は鋭利な爪を抱え、ある者は堅牢な骨を。
またある者は強力な麻痺袋を各々運搬している。
「モンスターは悪でありこの世から排除しなければなりません」
鳥竜や飛竜を。
牙竜や牙獣を。
甲虫種や甲殻種を。
海竜や魚竜を。
獣竜や蛇竜を。
全てを淘汰しなければならないと、そう呪う。
「ハンターズギルドだけでは駄目なのです。彼らは被害が出てからしか動かない。血が流れ、人が死に、村が滅びてからしか彼らは動かない。それでは遅い。それでは人は救えない……」
――世界は救えないのです。
とそう続ける。
今日殺せなかったモンスターが明日人を殺すかもしれない。
昨日殺したモンスターがもしかしたら数年後には村を襲っていたかもしれない。
後手ではいけない。
先手を、被害が出る前の駆逐が必要なのだと。
「だからこそ今この世界には英雄が必要なのですよね!!」と爪を抱える青年ハンターは理を悟ったかのように笑顔になる。
その青年ハンターに女ハンターはまるで聖母のような笑みを向けた。
「そうです。ですが英雄とは伝承で語り継がれるような伝説の存在ではいけない。これからは表舞台に出ることのない裏の存在であるべきなのです。報酬のためではなく、素材のためでもなく、実績のためでもない。人類のため正義のもとにのみ暗に陰に動く。そんな存在を『英雄』と言わず何というのでしょう? そして私たちはその英雄に最も近い位置にいます」
――この赤甲獣が息絶え、また世界は平和に一歩近づいたことでしょう。
そう己らの英雄譚かのように甲殻を誇らしげに撫でる女ハンター。
日中まで血の通っていた生物の一部は紛うことなきあのソロハンターがとどめを刺したモンスター。
ラングロトラ。
その甲殻。
だがその事実と現在の発言の齟齬に対し誰一人口出しする者はいない。
正義とは。英雄とは。悪とは。平和とは。
幾多の聞こえのいい言葉を並び立てる女ハンター。
そんな彼女に口を挟む者が。
「ですが導師……。もしもあの時のハンターがギルドに我々のことを報告でもすれば我々は……」
強力麻痺袋を抱える男。
あの時のハンターとやらに刃を。
『ギルドナイトセイバーを突きつけた張本人』は怯える口調で導師と呼ぶ女ハンターに問いかける。
自身の不安を投げかけるように。
「――……!!」
麻痺袋を抱える男に鈍色の閃が奔った。
その一閃は男の二の腕に赤色の液体と深い痕を残しながら夜の渓流に怒号を響かせる。
「――テメェがしくじるからだろうがぁ!! テメェが!! あの気色悪い野郎に!! いいようにされたからこんなことになってんだろうがぁ!! それを何だぁ!? 『我々』じゃねぇよ!! 全部テメェの責任だろうがっ!! その為にテメェがいるんだろうが!! わかってんのか!! あぁ!?」
先ほどまで聖母のように微笑んでいた導師と呼ばれる女ハンターは己が目を血走らせ、この中で一番危険な
傷がつけばその麻痺毒が所持者を直接襲うというのに、ためらいなくその凶刃を浴びせる。
取り巻きの二人もそのやり取りを黙って見守っていた。
止めることなんてしない。
先刻まで「正義とは」「英雄とは」「悪とは」「平和とは」と口にしていた人物のその蛮行に止めに入るなど彼らはしない。
彼らにとってはこれが『正義』で『英雄の姿』で『悪とは正反対』で『平和な世界』。
だから彼らも止めるような無粋な真似は決してしない。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
肩で息をするほどに荒れ果てる導師と呼ばれる女ハンター。
麻痺袋を丸まるように抱きかかえ、ひたすらに耐える男。
麻痺袋が破れれば自分がどんな目に合うのかわかっている。
だからと言って、麻痺袋を手放して逃げ出せば自分がどうなるかなんてもっとわかっている。
わかっているから耐えるしかない。
「……トトリア。『トトリア=ムーファ』」
女ハンターは男の名を呼ぶ。
「今あなたはとても辛い思いをしていると思います。逃げ出したいほどの辛苦に泣き叫びたいと思っているはずです」
うずくまる男は絞り出すような声で「……そんなことは無いです。俺が、全部俺が愚かだったのが悪いんです」と答える。
赤甲獣の麻痺液で身動きが取れなくなったことが、あのレイトウ本マグロを振るうハンターに関わることになったことが。
その結果、ギルドに目を付けられることになるかもしれないことが。
すべてが己のせいだと。
愚かだったのだと。
「そんな泣き言をいう資格なんて俺にはありません……」とそう溢す。
「そうです、トトリア。あなたは愚かでした。ですがその愚かな中でもあなたは正しいことをしました。最低限のあなたの役目を全うしました。私は今そのことを評価したいと思っています」
自身が『ギルドナイト』であると言って矢面に立ったことを。
何かあった時、罰せられるのがこの「トトリア」という男だけで済む様に。
少なくとも主犯がこの男であるかのように偽装する最低限の隠れ蓑としての役目を全うしたことを女ハンターは評価すると宣う。
きっとこの女ハンターならば恥も衒いもなく言ってのけることだろう。
「『大義の為に小さな犠牲は必要なこと』なのですから」
と。
『広義的義賊』
この四人組の、正確には導師と呼ばれる女ハンターが掲げる思想。
彼らは「義賊」だった。
それもあくまで広義的にみて義賊と判別できるだけの不確かな存在。
密猟を行う紛れもない違法者。
だが彼らの思想の根底には人類の安寧という目的があり彼らの活動によって救われた命が存在してきたことは、これもまた事実に他ならない。
ギルドは大厄には先手を打つ。
古龍が出現すれば被害が広がる前に手を打つ。
だが小事にはそんなことはしない。
狗竜が現れたからと言って戦線を張るだろうか。
赤甲獣がいたからと言って狩人を指名しで派遣するだろうか?
いや、きっとギルドは依頼が来るまで動かないだろう。
被害が出てからしか動くことは無いだろう。
ギルドは、国は、権力者は、小事には興味を示さない。
そういう小事を悪として淘汰しようという動きは市井の民にはありがたいことに違いない。
そのことで救われる命がある以上、それを悪だと断罪することは果たして本当に正義だと言っていいのであろうか?
そんな問いに関する答えなんて言うのはきっといつの世も決まっている。
「――『木を見て森を見ず』とはきっと君たちのようなことを指して言うんだろうね」
――まあ、どうだっていいんだけど。
笑みを常に振りまく男はそう笑う。
ギルドナイト『ギメイ=ラングロトム』は渓流の森にて静かに笑う。
ギルドスーツに身を包み、闇夜に溶け込んでいたその男は彼らの前に姿を現す。
「やあ、こんばんは」
そんな挨拶の言葉に四人は固まる。
日中に出会ったこの男が今ここにいることに。
この男がギルドスーツを着て自分らの前に立っていることに。
自分らが今から『相手どらなければならない』存在の正体に。
一同は固まる。
水を打ったように静まり返る。
そんな静寂が支配しているこの場にお構いなしにギメイは麻痺袋を抱え蹲っていた男を指さし言葉を投げつける。
「君は『トトリア=ムーファ』……」
トトリアを指していた指を今度は堅牢な骨を抱えていた女に向ける。
「君が『シータ=ブランカ』……」
その指をそのまま横の鋭利な爪を抱えた青年に。
「君が『カムゥンパ=ヤォザォ』……で発音合ってる? 北の出身なのかな?」
この場に不釣り合いな疑問符を溢し、その指は朱色堅固の甲殻を担ぐ女ハンターへ。
導師と呼ばれる人物へと向けられる。
「そして、最後の君が……」
「――……ちょっと!! ちょっと待ってください!! 一体何なんですか!? 一体私たちが何をしたって言うんですか!?」
ギメイの言葉を導師と呼ばれる女ハンターは焦燥を纏った言葉で遮った。
その行為に意味などない。
突然現れた存在がもたらしたこの窮地に対してのそれは只の時間稼ぎでしかない。
その言葉に「え? 今更説明いる?」と首をかしげるギメイ。
今更説明など必要なかった。
この四人、全員の名前を知られているということに。
自分たちが密猟を行い、実際にこの男から赤甲獣を横取りしたということに。
この男が何をしに自分たちの目の前に現れたのかと言うことに。
今更説明など誰の目から見ても不必要だった。
「いやいや、この服装を見ても分からないとはどうやらよほど察しが悪いらしい」
その理由は全て彼の身に纏っている服装のみで説明がつくのだから。
「僕は――ギルドナイトだ」
ギメイはそう笑う。
日中にトトリアから言われた言葉をそのまま返す。
それはただの意趣返し。
とても幼稚で子供じみた仕返し。
「どうする? 握手までやっとく?」と導師と呼ばれる女ハンターにおどけるように問いかける。
……ギリッ。
と音が出らんばかりに奥歯をかみしめた。
女ハンターは察していた。
このギルドナイトがこの四人の中で誰が一番の頭なのかを。
日中に見せていた偽りの上下関係ではない本当の関係をこの男が把握しているであろうことを女ハンターは察してしまっていた。
これではギルドナイトだと偽ってトトリアが矢面に立った意味など。
万が一、何かあった時『自分だけでも助かるため』のスケープゴートを用意した意味など全くなかった。
むしろ、トトリアがあの時矢面に立ったからこそ今の状況が生まれたともとれる。
そう考えが至った時、女ハンターの目は怒りで真っ赤に染まる。
「このぉ……役立たずがぁぁぁ!!」
今もなお蹲っていたトトリアの顔面を女ハンターは蹴り上げる。
鈍い音と共に鼻から血を吹き上げながら仰向けに倒れるトトリア。
必死に抱えていた麻痺袋もとうとうその腕から転げ落ちてしまう。
「あぁ……うぁぁ」
痛みに呻く男を気にも留めず女ハンターは必死に思考を巡らせていた。
ギルドに目をつけられた。
法の執行人に存在を知られた。
このまま本拠地に戻っても自分は只では済まない。
組織の中でも所詮末端である自分がこんなへまをしでかしたとバレれば簡単に脚斬りされてしまうことだろう。
実働部隊なんて言うのはいくらでも替えが効く存在。
実際に見捨てられた先人を幾人も見てきた。
自分はそうではないと思ってきた。
自分はそんなへまはしないと、切り捨てられてきた奴らとは違い自分は賢いと、そう思ってきた。
そうだ、自分は賢い。
そうじゃないか、自分は……。
――私はまだ『へまなんてしていない』じゃないか。
導師と呼ばれる女ハンターは己の腰から対の剣を引き抜く。
二閃の鈍色は月明りをその身に映し怪しく輝く。
――双剣「ギルドナイトセーバー」
神を、
「狩猟につかう武器を人に向けるのは大罪なんだけど……もう今更か。そりゃそうだ」
そう肩をすくめるギメイ。
「もうつまらないんだよね、君みたいな人間がとる行動って。みんな一緒、言い逃れができないと察するとそうやってすぐに暴力で物事を解決しようとするところとか。なに? 君みたいな人種ってみんな同じ親に育てられでもしたのかい? 没個性でヤダヤダ。この際だから言っとくけど君、自分で思っているほど黒幕としての才能ないよ? 自覚ないでしょ?」
「黙れぇ!! このマグロ野郎がぁ!!」
そう叫び、女ハンターはあることに気が付く。
『マグロ野郎』
それはこの男が使っていた大剣から取った侮蔑の言葉。
日中、レイトウ本マグロを武器として振るっていたからこそついた呼び名。
そんな男が今現在レイトウ本マグロはおろか『何の武器も所持していない』と言うことに……。
――『丸腰であること』に気が付く。
「シータぁ!! カムゥンパぁ!!」
一喝するかのごとく呼び声。
その声に反応し今まで手を拱いた男女は状況を察し、彼女らにとって最善であろう手を取る。
鞘を滑る金属音が月下を駆け抜け青白くも、黄金とも見える瞬きを大地に落とし六閃の凶刃がギメイの前にゆらりと揺れる。
三対のギルドナイトセーバーが殺意をあらわにする。
三対一。
否。
「トトリアぁ!! いつまでそこで寝てるつもりだぁ!!」
四対一。
トトリアはゆっくりと己の体を起き上がらせる。
「……導師」
計八本の刃がギメイを襲うことになる……。
「……シータさん、カムゥンパさん」
――はずだった。
その台詞を聞くまでは……。
「みんな……『どこに行ったんですか?』」
「――は?」
困惑する女ハンターのその疑問符のみが静寂の夜を虚しく木霊する。
ただ一人。
そう、ただ一人。
常に笑っている「あの男」だけが嬉しそうに笑う。
さあさあ、さあさあ。
それでは、それでは。
この腐った社会に一太刀入れよう。
腐った人たちに一太刀入れよう。
ここから先は大義も正義も聖もありはしない。
あるのはいつもの笑い顔。
長くてもどうぞごゆっくり。
――「悪」のお話を始めましょう。
2年4ヶ月を1ヶ月と定義するというのはどうでしょうか?
***
どうも大噓つきのゴミです。
皆さん、モンハンライズは楽しんでいますか?
私はライズにネタ武器がいっぱい有って非常に満足してます。
あとはグルニャン装備が帰ってくれれば私は何の不満もありません。
私が書いていない間にアイスボーンが出てライズが出てるんですってよ奥さん。
2年4ヶ月の間にタイトルが2つも更新されているのにこの大嘘つきのゴミは一度も更新してないって言うんですから一体どんな言い訳をこの後書きでするのかとても楽しみですよね。
まあ、正直いろいろあってもうこの作品を書くことはないと本気で思っていたのも事実です。
今回こうやって更新したのも言ってしまえばただの気まぐれに近いのかもしれません。
趣味を楽しむ気持ちを忘れてきたのでここに戻ったという意味があるのかもしれませんが、それで待っていてくれた方々の期待を裏切り続けてきたのも事実。
楽しみながら書きたいがために戻った、本当にそれだけの出戻りです。
また、しらーといなくなるかもしれません。
楽しめるうちに楽しんで書いていこうとも思っていますがあまり期待はしないでください。
ご迷惑をおかけして、と言うのもおかしな話かもしれませんが色々とすみませんでした。
また、2年4ヶ月後にお会いしましょう。
ではではまた会う日まで(; ・`д・´)