モンハン商人の日常   作:四十三

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ご主人とタマ~渓流の中心で哀を叫ぶ~

 俺たちは出されたおつまみをすぐさま平らげ(タマとの壮絶な取り合い)酒場を後にしていた。

 もちろんユクモの木卸店の場所を確認するのも忘れずに。

 

 集まるモンスターの候補までたどり着いた。

 ゴア・マガラの件があるせいで確実とは言えないがそれを言い出したらきりがないためもう考えないことにした俺たち。

 まあ、それを抜きにしてもこの予測はある程度の説得力はある。

 

 後は何の商品を集めるか、この一点のみだ。

 

 

「ドボルベルクはブレスも吐かないし毒や麻痺、帯電するような器官もない。さらにずば抜けて性能のいい五感器官があるわけでもない、本当に純粋なパワー押しのモンスターだ」

 

「だからこそ小細工のきかにゃいガチンコバトルモンスターにゃ。需要が増えても罠系と閃光玉位にゃものだにゃ。あ、あとピッケルかにゃ?」

 

「どれも無理だな……。俺たちの資金じゃ買えてもピッケル位。他は素材が集められそうなのは閃光玉だがドボルベルク戦に絶対必要だという物でもないから売れるかどうかグレーな商品になるな。よっぽど安く売らないと買ってくれない可能性もある。そうなるとコストパフォーマンスが合わない……なんて言ってもられないか」

 

「閃光玉を作るのかにゃ?」

 

「ああ。取りあえずはな。暫定候補だ」

 

 

 ええと。

 光虫を捕まえるための虫あみ一本80z。

 素材玉は自分たちで作るとしてもまあ商品として閃光玉を扱うなら100個は欲しい。

 

 閃光玉の調合成功率は75%だから……(以下割愛)

 

 閃光玉一個300zで売るとして粗利益驚異の94%!! のくせして一個売れても利益282z……。100個売り切っても純利益28200z。

 

 なにこれ死にたい……。

 

 全然労働量に見合わない……。

 

「ねえ、タマ~。別のにしない? ぼくちゃん、もうコスパの悪さに涙が出てきちゃった」

 

「いや、オイラはご主人が別のにするっていうにゃらそれに従うだけにゃんだけどにゃ」

 

「いやぁぁぁぁぁ!! お金が欲しいぃぃぃぃぃ!! こんなことならケチケチせずハンターに護衛依頼しとけばよかったにゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「泣くにゃよ、ご主人……。しかもオイラの口調が移ってるにゃよ」

 

「金じゃぁぁぁぁ!! 世の中金なんじゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「びっくりするくらいの屑だにゃ、ご主人」

 

「まあ、足掻くだけ足掻いてみるよ。それでもだめなら諦めてハンターにでも転職するさ。最低でもお前の退職金くらいは稼いでやるから安心しとけ、タマ」

 

「ふん。言っとくけどオイラは、ハンターのオトモににゃんてならにゃいからにゃ」

 

「だな、わかってるよ。お前臆病だし」

 

 

「オイラがなるのは商人のオトモだけにゃ。だからこれ以上言わせるにゃよ、ご主人」

 

 

「なんだ。励ましてくれてるのかタマ?」

 

「それとも、尻を蹴り上げられる方がご主人の好みだったかにゃ」

 

 

「いや――十分だ」

 

 

 本当にお腹がいっぱいだよ。

 

 

「さぁて、じゃあ行きますか!! ご主人様の意地、もといモンハン界のムシキングが誰なのかを教えてやるぜ!!」

 

 

 因みに俺ではない!!

 

 

 

***

 

 

 

 渓流付近の森。

 その蒼白の月光が差す幻想的な夜に一つの慟哭が木霊した。

 

 

 

「もういやだぁぁぁぁぁ!! 光虫なんてもう見たくないおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

「うるさいにゃぁぁぁぁぁ!! 泣き言言ってる暇があったらさっさと手を動かすにゃご主人!! 昼間の威勢のよさは一体どこに行ったのにゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 俺は啼いていた。

 ああ、啼いたさ。

 

 

 あの決意から半日。

 俺らは夜の方が発光する光虫を見つけやすいだろうという考えのもと、昼間は素材玉の素材採取、作成に費やし、今はこうして光虫採集に励んでいる。

 

 意を決しての閃光玉作成だったが思いのほか、と言うか当然ではあるが難航しているこの現状だった。

 

「畜生……。よくよく考えれば素材玉の材料である『ネンチャク草』は『消臭玉』の素材として採集され尽くされているに決まっているじゃないか。『光虫』は絶命時に強烈な光を発する虫だから殺さないように捕まえないといけないし……。この条件で最低百個分ってやっぱり難しいよなぁ」

 

「これは確かに労働量に見合わないにゃ……。もう目がチカチカするにゃ。虫の死骸がばかりいっぱいあるしにゃご主人」

 

「こっちは『雷光虫』でいっぱいだ。こいつらも発光してるから無駄に採集してしまった。本当に紛らわしい」

 

 

 半日経っての成果は閃光玉『十五個分』。

 

「こりゃ確かにギルドストアも閃光玉を製造、販売しないわけだよな」

 

 素材玉はともかく光虫の人工繁殖、管理、採集時のリスク、調合成功率を考えると安定した供給が見込めない。

 

 

「その割にはギルドストア『電撃弾』を扱っているけどにゃ」

 

「あ、あれも確かに光虫使うな。うん? じゃあ何でギルドストアは閃光玉を製造しないんだ? 光虫を供給できるのなら材料費を考慮に入れて単純計算しても閃光玉を販売した方が十倍以上の利益になるのに……」

 

「謎だにゃ……」

 

「謎だな……」

 

 

 そんなやり取りをしながら採集を続けてはいるもののもうそろそろ引き上げ時なのを感じる。

 

 

「よし。一旦ユクモ村に引き上げるぞ、タマ。これ以上の夜の探索は流石に危険だ」

 

「にゃ。何が出てくるか分かったもんじゃないしにゃ。またドスジャギィの群れにでも襲われたら堪ったもんじゃにゃいにゃ」

 

「ああ、命あっての物種だ」

 

 

 そう言って、ユクモ村への帰路につく。

 今日の戦果を確認するようにポーチの中を確認する。

 

 うん。

 光虫がうじゃうじゃ。

 

 まさに蟲だ。

 地獄絵図。

 身の毛がよだつとはこのことだな、うんうん。

 

「気持ちワル……」

 

「そんにゃ自分の事悪く言うにゃよご主人。もっと自分の顔に自信持つにゃ」

 

「あははっ!! 面白い冗談だなタマ!! 面白いついでに泣いてもいいかな!?」

 

 

「にゃはははははぁ!!」

 

 

「笑うなぁ!!」

 

 

 なんてやり取りは置いといて、実際光虫採集は意外にも大漁だった。

 先ほど言った閃光玉十五個分と言うのは素材玉の素材が集まらないが故の数。

 

 むしろ、光虫に限らず昆虫類は森の中に溢れかえっているほどでもあった。

 

 

「うーん。まさか素材玉がネックになるとは思わなかった」

 

 松明に火をつけながらそんなことを呟く。

 松明の光が森の中を仄かにゆらゆらと照らしだした。

 

 

「これにゃらむしろ光虫をそのまま売った方が金ににゃるんじゃにゃいかご主人?」

 

「いや、このままじゃハンターには売れないだろう。さっきも言ったように光虫は死なせたら商品価値も利用価値もなくなるんだ。そんなデリケートな物、あの武骨なハンターたちが買うとは思えない。商人に対しての交易になら使えるかもしれないけど、やっぱり延命処置がきちんとできてないと難しい。そう考えると調合した方が買い手が付きやすいってのが現実だ。むしろ、それらの理由で値を叩かれる可能性の方がでかいっていうのも理由の一つだな」

 

「にゃ。足元を見られるわけだにゃ」

 

 

「そういうわけっ……――!?」

 

 

 タマとの会話の最中突如、森の奥の方からまるで巨木が倒れたような地響きと共に蝙蝠の群れが空に飛んでいく姿が目に飛び込んできた。

 

 

「にゃんにゃ……。今の地響き……」

 

 

「……わからん」

 

 

 森は再び静寂を取り戻した。 

 先ほどまでと同じ静けさなはずなのにただただ不気味に感じる森の沈黙。

 

「……急ぐぞ」

 

 タマは、返事をせずただ頷いた。

 ふと、手元の松明を見つめる。

 

 

 消すべきか、否か。

 

 

 ユクモ村はここからまっすぐに進めば帰り着く。

 幸い月明りの木漏れ日もあるし多少不便ではあるが問題はない。

 

 少しでもリスクを減らすならば消すのが定石だが……。

 

 横目でタマを見る。

 

 

「……にゃ」

 

 

「ふっ……」

 

 口から息が漏れた。

 

 

 俺は松明を左手に持ち、右手には腰につけていた短刀を取り出す。

 そして、タマの目の前で背を向けしゃがみこんだ。

 

 

「へーい!! タマさんカモーン!! ご主人様の大きくてダンディな背中に飛び乗っちゃいなYO!! ユー!!」

 

 

「……何やってるにゃ、ご主人」

 

 

「うるせぇ。照れ隠しでテンション上げてんだ。そんくらい察しろ」

 

 

「……馬鹿だにゃあ、ご主人は」

 

 タマは俺の背中に飛び乗り肩にがちっり爪を食い込ませてきた。

 

「何を今さら言ってるんだ。忘れたのか? なんたって俺は――」

 

 

 ――基本馬鹿なんだからな。

 

 

「さあ!! お客さんどちらまで!?」

 

 

「ユクモ村までレッツゴーにゃ!!」

 

 

「アイアイサァァァァァ!! ヒャッハァァァァァ!!」

 

 

 このまま何事もなければいいが……。

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