モンハン商人の日常   作:四十三

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新章スタートです。


這いよる毒沼は毒牙を穿つ
ご主人とタマ~さらなる一羽と新たな一人~


「とりあず、ユクモの木を仕入れてきた」

 

 

「にゃ?」

 

 

 ユクモの村に滞在してから数日が経過し、ジンオウガ討伐もだいぶ佳境に差し掛かり始めた時分。

 俺らはもうすでに今回の討伐依頼からは手を引き、次の目的地に向け商人宿屋にて準備を進めていた。

 

 そして酒場の看板娘から教えてもらったユクモの木卸店からユクモの木を仕入れるだけ仕入れ次の村に向かうことにしたわけなのだ。

 

 

 閃光玉と光虫の利益で多少は資金を獲得できはしたもののそれでもまだまだ十分の資金源とは言えず、一般的な商人のような多種多様な品物を仕入れることのできない為、この元手を確実に増やすためにユクモの木一点買いをし資金増を試みることにしたのだ。

 

 

「いにゃ、ご主人。オイラたち、荷車をドスジャギィの群れに襲われて壊されたんにゃからそんなユクモの木にゃんてどうやって運ぶつもりなのにゃ? もしかして担いでいく気かにゃ?」

 

 

「いや、荷車は修理してもらったよ。ボロボロにされたって言っても土台の大部分は無事だったからな。補強してもらうって形で直してもらった。買い替えるよりは安くすんだよ」

 

 

「フーン……。それでご主人? にゃんでそんにゃボロボロにゃのにゃ?」

 

 

「…………」

 

 

 タマの言う通り俺は今、みすぼらしいほどにボロボロだった。

 一言で言うのならば追剥にでもあったような有様とでもいうのだろう。

 そんな恰好をしていた。

 

 

「……『皇帝閣下』が帰ってきた。今宿屋の前までなんとか連れてきた……それでこの有様だ」

 

「にゃ!? 皇帝閣下が!? ご主人!? 本当かにゃ!?」

 

 

 タマは嬉しそうに「皇帝閣下ぁぁぁぁぁ!!」と叫びながら部屋を勢いよく飛び出して行った。

 

 俺もゆっくりと部屋を出て宿屋の外までタマを追いかける。

 

 

 

 宿屋の前には俺が卸店から仕入れたユクモの木を積んでいる荷車とその荷引き台に繋がれている一匹のモンスター。

 

 

「皇帝閣下ぁ-!! 無事でよかったにゃぁ!!」

 皇帝閣下はそんなタマの呼びかけに「ググアッ!!」と答えた。

 

 

『丸鳥 ガーグァ』

 

 

 名前は「皇帝閣下」である。

 俺が下積み時代のときに卵から孵らせて育てたガーグァだ。

 

 元々はこの皇帝閣下に荷引きをしてもらいながら行商をしていたのだが、あのドスジャギィに襲われたときに俺たちはその群れから逃げるため、皇帝閣下を荷引き台から解放し背中に乗って逃げるつもりだった。

 

 それをこいつは解放した瞬間、俺たちを置き去りにして一羽だけサッサと逃げ出したのである。

 

 

 そして、俺が荷車を回収するために三度(みたび)あの襲撃場所に戻ってみると皇帝閣下も戻ってきていた。

 元々まん丸いフォルムを更にまん丸く太らせた状態でである。

 

「この野郎、大量発生した雷光虫を鱈腹食ったせいでもう完全に肥満体系になってるじゃねえか。俺たちが必死こいて商いしてるときに良いご身分だな!!」

 

 俺がそう罵声を浴びせた瞬間、皇帝閣下は長い首をしならせながら嘴を使い俺の鳩尾目がけ鋭い刺突を繰り出してきた。

 

 

「グッフゥ……!!」

 

 

 俺は死んだ。

 

「こ、この野郎……皇帝閣下。て、てめぇ……」

 

「それにしても、よくジンオウガに襲われずに生き延びられたもんだにゃ!! 流石だにゃ皇帝閣下!!」

 

「グワッッ!!」

 

 

 なぜだ。

 なぜ、俺だけいつもこんな扱いなのだ……。

 

 

「取りあえず、皇帝閣下が戻ってきてくれたおかげで行商の準備は整った。後は、護衛してくれるハンターが現れてくれるのを待つだけだ」

 

「にゃ。流石に今度はちゃんと依頼したんだにゃ、ご主人」

 

「ああ。もうあんな命がけの行商をするのは勘弁だ」

 

 

 ギルドから護衛依頼が受理されたという連絡は受けた。あとは、それを受注してくれるハンターが現れるのを根気強く待つしかない。

 

 こればかりは本当に運だ。

 

 運がなくずっと受注されず放置されるなんてこともざらにある。

 

 

「クエストボードに張った依頼書にはこの宿屋で待機していると書いておいたからしばらくはここに泊まり続けることになるな。宿屋代もかさむし早く来てほしいもんだよ」

 

「そう言えばご主人?」

 

 皇帝閣下の背中に乗り戯れながらタマは質問してきた。

 

「うん? どうした?」

 

 

「次の目的地ってどこなのにゃ? オイラそう言えばどこに向かうのかを聞いていなかったのにゃ」

 

 

「よくぞ聞いてくれました!! と言うことで『第n回 チキチキ!! ご主人式商業クイーズ!!』の始まりだぁ!!」

 

 

「もう別にそういうの良いにゃ」

 

 

「そういうなって。これも商人としての大事な勉強だぞ、タマ?」

 

「うーん……。そう言われると弱いにゃ」

 

「俺たちが向かう場所のヒント一、『ユクモの木』だ。当然俺たちはこのユクモの木を売りに行くわけで、さらにはできるだけ高く売りたいわけ。つまり、このユクモの木が需要のある場所こそが俺たちの目的地となるわけだ」

 

「ユクモの木が需要の出る場所かにゃ……。わかったにゃ!! 『雪山』にゃ!!」

 

「ほう? その理由は?」

 

「ユクモの木は頑丈にゃのが特徴にゃ。その用途は主に民家や荷車にゃどの製造、修繕を行うための木製建築材にゃ。そして雪山は寒冷地にゃため、木々が育ちにくい。にゃから、雪山の村は常に木材不足なのにゃ」

 

「うんうん。で? 理由はそれだけか?」

 

 

「いやまだあるにゃ。木を加工した際に出る所謂『端材』は暖を取るための薪代わりとして再利用ができるにゃ。雪山において木材は手に入りにくくなおかつ余すことなく利用ができる商品にゃ。これらを踏まえたユクモの木が需要が出る場所こそが『雪山』なのにゃ!!」

 

「おお!! すごいなタマ!! 正解だ!!」

 

「どうにゃ!!」

 

 

 

「だが間違っている」

 

 

 

「にゃ!?」

 

 

「『ツンドラ気候』と暖を取る薪としての再利用に目を付けたのは流石だ。確かに理に適ってはいる。だけど、それでは商人としては残念ながら二流だ」

 

「……じゃあ一体、どこに向かうのにゃ」

 

 

「そんな不貞腐れるなよ、タマ。お前の考え方はさっきも言ったように正解だ。だけどその答えは大抵少し考えれば皆がその結論に達する、簡単に言えば模範的回答と言うやつだ。だからそんなに悲観する必要はないよ。俺が間違いだと言ったのは金儲けをしたいのならばその考え方では赤点だって話だ」

 

 

「慰めは不要にゃ。だからさっさと答えを教えるにゃ」

 

 

 やれやれと肩をすくめる。

 

 

「俺たちがユクモの木を高く売るために向かう場所、それはな……」

 

 

 

 

 

「『沼地』だ」

 

 

 

 

 後でご機嫌取りにマタタビでも買ってやろう。

 

 

 

 

「すまない、そこの御仁。少々伺いたいのだが」

 

 

 タマに目的地の説明をしようとしたその時、背後から声をかけられた。

 声の主を確認しようと後ろを振り返った俺はそのあまりの光景に目を丸くした。

 

「宿屋の主人に伺ったところ貴殿のことだと言われたのだが、『ママイト村』までの護衛依頼をしたのは貴殿らのことで間違いなかっただろうか?」

 

 全身をアロイ装備で武装したハンター。

 武器は片手剣「ハンターカリンガ」

 

 どちらも鉱石素材から生成される駆け出しハンター御用達の装備。

 装備だけを見ればいたって普通のハンターだ。

 

 

 ある一要素を除けば……。

 

 

「で、でけぇぇぇぇぇ!?」

 

 その人物の体躯は一言で言えば巨大であり一目で二メートル近くあることが伺えた。

 

 

 え!? 嘘!? しかも声の質からしてこの人女なの!?

 鎧の中に「アオアシラ」が入ってますって言われた方がまだ納得できるくらいの大きさだぞ!?

 

 

「あ……すまない。我としたことが頭装備をつけたままだったな。これは失礼した」

 

 

 そう言って頭装備を脱ぐアオアシラさん(仮)。

 そこから露わになったのは長い白髪と対照的にこんがりと日焼けした肌。

 

 人相はというと、よく言えば中性的。悪く言えば「悪く言う必要性が全くないのでノーコメントで」と言う顔。

 

 

「我はアッシュ。同僚たちからはアシュ―と呼ばれている。よろしく頼む」

 

 

 そう言って手を差し出し握手を求めきた。

 

 

 うん。

 俺まだ依頼主かどうかの返答してないはずなんだけどね。

 

 あれだな、この人先ほどの頭装備の脱ぎ忘れと言い、見た目にそぐわぬそっそかしい人物かもしくは天然なのか、はたまたこの人なりのジョークなのか。

 

 もしも後者だとするなら拾って差し上げるのが正しい対応というものだろう。

 

 

 差し出された手を握り返し、俺は外面営業スマイルで答えた。

 

 

 

「どうも初めまして、アシュ―さん。私は依頼主である『スーパー・ダンディズム公爵』というものです。同業者からは『スーパー・ダンディ』と呼ばれています。短い間ですがよろしくお願いしますね」

 

 

 後ろからタマの「ダンディズム……」という若干引いているような冷たいつぶやきが聞こえてきた。

 

 

「うむ、よろしく頼む。ダンディ公」

 

 

 あ、駄目だ……。

 この人、冗談が通じない……。

 

 どうやら先ほどのやり取りはこの人の天然によるものだったらしい。

 

 

 

 

 

***

 

 

『ママイト村』

 

 

 

 ユクモ村に最も近い湿原地域の沼地にある少し小さい村だ。

 特産品はキノコ類。

 

 現在キノコの人工栽培技術が発達しているせいで貿易という観点においては負い目にある村でもある。

 それでもこのママイト村が存続できているのは、この村人たちの地力が強いことが理由だろう。

 

 自然のキノコには人工栽培の物とは違いその環境に適応し効果の強いものが出来上がることが多い。

 人工では決して作り上げることのできない自然の力というものだ。

 

 そのわずかな資源を糧に生活している村それがママイト村である。

 

 

「実際の話な、そういうママイト村みたいな村はもっと国が援助するべだと思うんだよ。自然の資源を守ってくれている人たちっていうのはそれほどに貴重だし敬うべきなんだ」

 

 

「どうしたのにゃご主人。いきなりそんな真面目な話をし始めるにゃんて」

 

 

 ママイト村に向かう道中、皇帝閣下が引く荷車の上でタマとそんな話をしていた。

 因みに手綱を握っているのは俺ではなくタマだ。

 

 俺が手綱を握っても皇帝閣下は全くいうことを聞いてくれない。

 また文句を言おうと俺が荷車から降りた瞬間、皇帝閣下が急発進し俺を置いて行きやがった。

 

 それでようやく走って追いついた時からずっとタマに手綱は預けっぱなしである。

 タマの言うことはね、うん。聞くんだよね皇帝閣下。

 

 

 おかしいなぁ。

 俺、ご主人で育ての親なのになぁ……。

 

 

「俺はいつも真面目だろ? いつも真面目にふざけてるだけじゃないか」

 

「いつもふざけているから真面目に見えにゃいんだにゃ」

 

 

「ママイト村みたいな村の村民たちの生活はそんなに楽ではないはずなんだよ。沼地っていうのは資源と言う観点から見ても魅力がない。鉱山資源は火山地帯以下。湿地帯な為作物資源も不十分。漁業も淡水魚しかつれない上に大体が泥臭かったり食用には適さないものばかり。そこで生活するデメリットを考えると違う場所に移住した方がよっぽど楽なんだ。それでも自然のキノコ類を守ってくれているっていうのは保護されるには十分すぎる理由だと思うんだよ」

 

 

 キノコ類は医療薬として重宝される。

 特に自然に自生したキノコのほうが効能が大きい場合が多い。

 

 

「だけどやっぱり、キノコ以外の特産品がない上、人工栽培技術が確立してからは蔑ろにされることが多くなってしまった。嘆かわしい話だよ」

 

 

「それがユクモの木を沼地に売りに行く理由にゃのかにゃ?」

 

 

「まあな。湿原地帯っていうのは頑丈な木や特に建築材に適したような真っ直ぐな木が生えないんだよ。だから雪山同様に木材が常に不足しているし、湿度が高いせいで火をくべるための薪木が湿ってすぐに使い物にならなくなるんだ。薪木を乾燥させるためにも火がいる。だから端材も薪の代わりとして再利用が可能」

 

「にゃ……。雪山の条件と全く同じにゃんだにゃ」

 

 

「極めつけは沼地では飲み水の確保が難しい。沼の水は泥が浮いてるし微生物もたくさん住んでいて飲み水に適さない。でそれを飲み水にするのならば蒸留して安全な水にする必要がある。そしてその蒸留には沸騰させるために当然火が、つまり薪が必要になるわけだ。下手すると雪山よりも火が大事なんだよ沼地っていうのは。そして中々ここまで、考えが出てこない」

 

 

「だから沼地だったのにゃ……」

 

 

「ダンディ公はいろいろと詳しいのだな。少々驚いた」

 

 

 荷車と並行して歩いていたアシューがゆっくりと運転席に近づいてくる。

 

「我も何人もの商人の護衛依頼をしてきたがそこまで地方や村についての知識が豊富な商人はなかなかお目にかかったことがない」

 

「俺の知識なんて大抵が師匠からの受け入りですよ。俺の師匠は元ハンターでしてね、ハンター時代に訪れた地方の知識を活用して商人を始めた変わり者なんですよ」

 

 

「にゃるほどにゃ。ご主人が知識にばっかり偏ってて、どことなく詰めが甘いのはそれが理由だったんだにゃ」

 

「うぐ……。返す言葉もございません……」

 

 

「おっと失礼。我の仕事だ」

 

 そんなやり取りをしていた時分。

 アシューが皇帝閣下の前に躍り出た。

 

 タマが「にゃっと」と言いながら手綱をひいて皇帝閣下を止める。

 

 

 俺も皇帝閣下の後ろから覗き込むように前を確認する。

 

 

 アシューの前にいたのはいつぞやのドスジャギィの群れだった。

 どうやらドスジャギィ達もジンオウガの脅威からは逃げおおせていたようだ。

 

 ドスジャギィの群れはあの時のように独特な鳴き声で俺たちを牽制し始めた。

 

 

「狗竜よ。悪いが道を開けてもらうぞ。それが依頼なのでな」

 

 

 いるのかなぁ?

 その断りいるのかなぁ?

 

 うーん。やっぱり天然なんですかねぇ、この人。

 

 

 だけどまあ、お手並み拝見と行きましょうか。

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