化物と怪物   作:ヒトノミライ

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久振りの更新。


歯車は回り出す

 

「わぁ〜〜! 見て見てゆきちゃん! おはなでいっぱいだーー!」

 

「……引っ張ンな」

 

月曜日を明日に控えた今日、美桜の両親と花の丘の公園へとピクニックに来ていた。

俺の住んでいる東福山市から車でおよそ20分の場所にある花の丘公園と言う名の公園は、その名に相応しいくらいの花畑が広がっている。

 

そのコスモス畑を見て、美桜は手をブンブン振り回し喜んでいた。

 

「あらあら〜」

 

「今日は来れて良かったですね」

 

「そうだなぁ」

 

その様子を母さんたちが微笑ましそうに眺めている。

さっきから助けてくれ、という視線を向けているがニコニコとしているだけで何もしてこない。

思わず舌打ちが零れるが仕方のないことだ。

 

「ねぇねぇゆきちゃん! このなんておはな?」

 

「………ベルサイユだ」

 

「べるさいゆ! じゃあこれは?」

 

「…ラジアンスだ」

 

「ほぇ〜、ゆきちゃんはやっぱりすごいな〜!」

 

「……別に、凄くねェよ」

 

コスモスの花畑に近づき、色々と聞いてくる美桜に答えてやると、キラキラした尊敬の眼差しで見てくる。

思わず、顔を背けてしまったが美桜はあまり気にしてないようだった。

 

その後も色々と聞いてくる美桜に律儀に答えていると、後ろから母さんの呼びかける声が聞こえた。

 

「雪兎〜、美桜ちゃ〜ん。そろそろお昼だからこっちにおいで〜」

 

「はーーい!!」

 

「……だから引っ張ンな」

 

俺の腕を掴んで母さんの元まで走る美桜に、ため息をが漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜! おいし〜〜!!」

 

「あら、昨日のうちから準備した甲斐があるわね〜」

 

おかずの唐揚げを美味しそうに食べる美桜を母さんは嬉しそうに見ている。

 

俺たちは公園内の原っぱにビニールシートを広げ、その上に重箱を広げて昼食を楽しんでいた。

 

「本当ですね。この卵焼きも美味しいです」

 

「あぁ、出汁が利いてるな」

 

佳苗さんと春人さんも美味しそうに食べている。

 

「雪兎はどう? 美味しい?」

 

「…………嫌いじゃ、ない」

 

「うふふっ、良かった」

 

素直になれていない俺だが、母さんに全て分かっているようだ。

 

前世の時から口数が多い方では無く、あまり素直になれていなかったがこの世界に生まれてからはそれがさらに増したのように思える。

それに、愛想も悪いし。

 

よく美桜はこんな愛想の悪い子供と一緒にいられる。

こんな愛想の悪い子供と居ても普通は楽しくないだろうに。

 

「おいしいね、ゆきちゃん!」

 

「…………あァ」

 

それでも、楽しそうにニコニコと笑っている美桜を見ると少しは素直になれるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったね、ゆきちゃん」

 

「あァ」

 

地平線に日が沈み始め、そろそろ夜が来ることを知らせていた。

俺たちは花畑で王冠を作っていた。最後に作りたいと美桜が言ったからだ。

 

「ゆきちゃん! はい、これあげる」

 

美桜が出来上がった花の王冠を見せてくる。それはお世辞にも上手いとは言えない。でも、俺には自分の作った王冠よりも綺麗に見えた。

 

「…ありがと」

 

「うん!」

 

「……なら、これやる」

 

「ありがとう!」

 

ニコニコと笑っている美桜を見ていると、此方まで心が洗われるようだった。

だが、そこで俺の目に嫌な物が入り込んだ。

 

「ッ!」

 

俺が背後に目を向けると、遠くから勢いよく野球ボールが飛んできていた。このままだと、美桜の頭を直撃する。

 

「クソッ!」

 

まだ美桜は子供だ。あんな勢いのあるボールが当たったら、最悪障害が残る怪我をするかもしれない。それほど、人体で頭は重要な器官だ。

 

手を伸ばす。それだけで防げるだなんて思ってなんかいない。でも、少しでも変わる筈だ。

 

(クソッ。届か、ねェ!)

 

これだと指先が触れる程度。

それだけじゃ意味がない。

掌で受け止めるくらいでないと。

だが、もう間に合わない。ボールはすぐそこだ。

そして、ボールが俺の指先に触れる瞬間。

 

 

 

 

 

「ーーッッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の頭に痛みが走った。

 

 

 

無意識だった。

俺は指先に触れたボールの向き(ベクトル)を操り、斜め上へと逸らした(・・・・)

ボールはそのまま後ろへと飛んでいった。

 

 

 

(っ! 今、俺は……なにを……)

 

 

 

咄嗟だった。脊髄反射と言っても良かった。が、あの頭痛がした時、理解した。

これはーーーー、

 

 

(ベクトル、変換……)

 

一方通行(アクセラレータ)の能力。

この力が目覚めたということ。

俺は能力開発なんてした覚えはない。

だとしたら、この世界に転生させたカミサマとやらが保険のためにくれたものかもしれない。

 

“この世界に争いがあるから”

 

少なくとこの力が必要になるくらいの争いがある世界なのかもしれない。

なら、俺はーーーーー、

 

 

「あれ、ゆきちゃんどうしたの?」

 

「ーーーッ」

 

いつの間にか、俺の目前に美桜がいた。おそらくいきなり飛びたしたと同時に何か考え出した俺を心配しているのだろう。

 

「も〜、いきなりとびたすからどろがついてるよー」

 

「触れンなッ!!」

 

俺の身体に触れようとした美桜に思わず大声を出してしまった。

美桜はビクッ! と身を震わせて怯えた様子で此方を見た。

 

「ど、どうしたのゆきちゃん……?」

 

「……いいから、俺に触るな」

 

能力が目覚めたばかりでまだ制御出来るかは分からない。

美桜が俺に触れば、その小さな腕が砕けてしまうかもしれない。

それほどに、この力は強大であった。

 

「……でも、」

 

「…いいから、今はやめろ」

 

「……わたしは、ずっとゆきちゃんのみかただからね」

 

「…なに、言ってンだ…」

 

「だって、ゆきちゃん。それなにおびえたかおしてから」

 

ビクリと俺は身体を震わせた。

傷つけるという恐怖が、俺にそんな顔をさせていた。それこそ、美桜にすら分かるくらいに。

 

「ずっと、ずっとずっと。わたしはゆきちゃんといっしょだから」

 

ゆっくりと、美桜の手が俺に触れる(・・・)

俺の心を包み込むように。

 

 

 

 

ーー絶対に美桜を傷つけたくない。

 

 

 

 

制御は自然と行えた。

いや、死に物狂いではあったが、それも意識しないくらい自然に。

 

いや、出来ないと思い込んでいた。

出来る筈だった。なにせ、これは俺の力だ。手足を動かすように、呼吸をするように使える。

 

俺はその手に、自分の手を重ねた。

この手は、彼女を傷つけることはない。

大事なことに気付かせてくれたことに感謝を込めて。

 

「……ありがとう」

 

「えへへっ、どういたしまして」

 

そして、そう言ってくれたことに感謝を込めて。

 

 

春の風が二人を包み込む。

祝福するように。この世界に生まれた怪物の誕生を。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーこの瞬間、瑞原雪兎の物語は、始まった。

 




ちょい無理矢理感が否めないが、しょうがない。
次話は一気に原作開始直前まで飛びます。
なんでかって? とくになにか事件があったからではないからです。
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