カンピオーネ! 縁結びの魔王   作:黑米田んぼ

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34話

「 ――――――いた」

 墜落し、地面に横倒れる竜体の司郎。

 白鳥の翼を解きアリサはゆっくりと近づく。

 

「っ、何で匂いなの」

 竜体は並の術師なら間違いなく死亡しているレベルの毒が体を蝕み腐食している。

 それでもその目は死んでおらず何かを探している。

 

「――――――っ、・・・」

 眼前にいる異形への恐怖がアリサの心を覆う。

「――――――私が、やらなくちゃ」

 異形に成り果てた者を元に戻せる者は禍払いのようなごく一部の巫女ぐらいしかいない。

 

 アリサにはそのような特異な才能は無い。・・・だが。

「正気にさえ戻せれば」

 

 今回のケースはまつろわぬ神召喚の儀にて参加していた巫女や魔女にかかったであろう影響を肩代わりして発狂した本人が持つ権能が暴走して起きたのが今の司郎だ。

 

 正気に戻せば権能を制御して元に戻るのでは無いか?

 

 成功率は五分五分失敗すれば命は無い無謀な賭け。

 

「っ、やってみせるのよ」

 おそろおそろと近づくアリサ。

 毒でボロボロ、敵意も見せてないとは言え正気を失った異形の姿の神殺し。

 これに恐怖を持たない人間はまず居ない。

 

「――――――狂気に堕ちた聖騎士よ」

 恐怖を握りしめて勇気を奮い立たせて狂気払いの呪文を唱え始める。

 

「友が月より見つけし汝の正気を入れし小瓶を飲み干し」

 曰く北欧の北風が勇敢で恐れ知らずのバイキングを生み出したと言う。

 

「目を覚ましたまえ―――」

 異形の唇に自身の唇を重ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――重い―――――重い。

 

 体が重油に浸かっているかのように重く体が動かない。

 脳も血管が塞がっているんじゃないかと思うかのように思考が回らない。

 常人ならそのまま目を閉じて楽になろうとするだろうこの状況。

 それでも彼は這いあがろうと体に指令を飛ばしていた。

 

 ――――――何でそんなに這いあがろうとするの?

 

 ――――――分からない。

 

 意識を手放せばきっと楽になれば良いのだろう。そうすることで何もかもが不要になる。

 

 ――――――けれど彼にはその選択肢が無かった。

 

 哀れだと誰かは言うのかもしれない。もう良いだろうと言うものもいるかもしれない。

 

 でも、彼は諦めなかった。

 

 それは何故か?・・・答えにすれば単純な事だ。

 

 

 

 

 

 ―――――負けたく無い。

 

 子供の様な負けず嫌い。呆れるものも多いだろう。

 だが、事神々と神殺しの戦いにおいてそれは必須不可欠。

 神々と神殺しの戦いに置いてもっとも重要なのは武器や権能では無い。

 己の目的を貫く意志に他ない。

 例え天地、運命さえも敵に回しても己の目的を達成する。

 それが神々と神殺しの強さ。

 

――――――ッ!

 

 だからこそ。何も見えない暗闇の中を照らす光を待つことが出来た。

 

「―――――――――」

 その光の中から一羽の白鳥が飛んできた。

「―――」

 わずかに回らなかった頭が回る様になって来た。そう感じた司郎は脳内に浮かんできた脱皮する蛇の絵を書いた石版のような物を頭に浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、熱い!?」

 熱を感じ思わず離れるアリサ。

 

 竜体は見る見るうちに燃え広がり金色の灰が竜体を包む。

 

「っ、・・・このビジョンは」

 アリサの脳内に浮かぶビジョン。魔女としての霊感が目の前の現象を教えてくれる。

 

 曰くケツァルコアトルがテスカトリポカによって追放された時ケツァルコアトルは自らを宮殿と財宝ごと焼きその灰は美しい鳥となって金星に飛んでいったとされている。

 

 そして一の葦の年に復活するとされている。

 

 ――――――そして、ケツァルコアトルは16世紀ごろのメキシコで使われた古典ナワトル語にて羽毛ある蛇を意味する。

 古来より蛇は再生と死の象徴。

 蛇であるケツァルコアトルが持つ再生の権能。

 それが、高橋司郎がまつろわぬケツァルコアトルから簒奪した権能の三つ目。

 自信と大量の呪力を捧げて体を再構築する能力なのだ。

 

「――――――ッ、まだ頭がクラクラする」

 燃え盛る炎の中。体を再構築したせいなのか、それとも異形の化け物に変身したからなのか着ていた服が無かったので炎で周りが見えない内に術を使い動きやすい格好に着替える。

 

「・・・ようアリサ。悪いな。カッコ悪い姿晒した上唇まで貰って」

「――――――ッ、気づいていたって言うの!?」

「いや、術をかけられた感じがして目が覚めたら近くにお前しか居なかったから」

「・・・ぅぅ」

 顔を赤くして明後日にそっぽ巻く。

「クク、可愛い奴」

 そう言いながら司郎は生太刀を召喚する。

 

「―――――行くの?」

「―――――ああ、放ってはおけないからな」

 視線の先には三柱のまつろわぬ神と二人の神殺しが繰り広げる戦場遠くからも分かった。

 

「やらなきゃ更に被害が増える。昔の消化作業と同じだ燃える前にあらかた壊して被害を減らす。まつろわぬ神々は早急に現世に立ち去ってもら―――」

 突然司郎は苦しみ始め地面に膝をつけてしまう。

 

「ッ、そんな体なのに!?」

 アリサの言葉通り司郎は五体こそ万全だが、呪力は三分の一にも満たなく。疲労もかなり溜まっている。

 

「まぁな、俺たち神殺しは納得するまで何処までも進み続ける。腹はもう括っているんだ。なぁなぁで終わらないのが分かっているんだ。大惨事に気づけず自分のケツを拭こうとしない奴じゃないんだよ俺は」

 

 どこまでも突き進もうとする理由を聞いたアリサは頷いた。

「分かった。・・・・・目を閉じて」

 それに頷いた司郎は目を閉じる。アリサは司郎が目を閉じたのを確認し司郎の顔を手で掴んで自分の顔も近づける。

 

「んっ」

 自分と司郎の唇を重ねキスをする。先程とは打って変わり躊躇なく行う。

 離してはまた重ねる。まるで母鳥が子供に餌を与えるかのように何度も繰り返していく。

 

 キスを重ねる度にアリサから呪力が流れていく。

 同時に司郎は気づいた。ただ呪力を補給するためだけじゃないと。

 自分の体の中に流れていくアリサの呪力の中にはおそらくバフ系列の術が混じっている。

 

「んっ!?」

 ではお返しにと言わんばかりに今度は司郎がキスをする。

「んんんっ〜〜〜!?」

 唇を重ねるだけでは終わらない。アリサの口に舌を入れ舌と舌を重ねるディープキスをし、アリサから呪力とその力をも取り込む。

 更に大国主の権能による加護を流し込む。

 この一件が終わった後問題があったとしても後で止めておけば良い。

 

「っ、・・・この変態!」

「ぶへらっ!?」

 流石にやりすぎたのか息を吸うために唇を離したら呪力の籠った平手打ちをくらった。

 頑丈で普通の人間が殴れば逆に怪我をする神殺しの体でも呪力が篭った平手打ちは多少堪える。

 

「・・・悪い。ちょっと調子に乗りすぎた」

「分かったなら良いわよ」

 今なお降り頻る嵐の夜。今出来る事は殆どやり終えた。

 そろそろ早苗と亜衣が到着するだろう。

 

 

 

 歌劇はいよいよクライマックス。この狂ったニーベルンゲンの歌もいよいよ終局へと移っていく。

 




最近、自分が設定したキャラがちゃんと想像通りに動いてくれてるか不安になりますが皆さんはどうでしょうか?
是非ともコメント当で言ってもらえると幸いです。
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