「・・・よう、タケミカヅチで、合っているかな?」
暫く歩いていると雷鳴鳴り響く雨雲の下に一人の男がいた。
――年は30ちょいといった所か。オオグニヌシと同じく古代っぽい服装をしており少し鎧っぽい物を着込んでいる。
腰には一振りの剣、・・・あれが国譲り際に使った十握の剣なのか布都御霊の剣なのか、それは俺には分からない。
「ああ、確かに合っているぞ」
年相応の声で男は言う。
「改めて名を名乗ろう!我が名は建御雷神なり!始まりの女から聞いているぞ!オオグニヌシを殺し、神殺しとなった貴様はもはや私の敵だ!故に――分かるな!?」
「・・・ああ、分かるよ。ここで雌雄を決すか?」
「然り、然り、然り!!!何より貴様の存在は私が許さん!ここで我が雷によって死ぬがよい神殺し!!」
言うが早いかタケミカヅチは雷撃を放った。
「あぶねぇ!『雷よ逸れろ』」
そう言うと雷は逸れ近くの木に当った。
「やるな!今のは呪い(まじない)か!?」
「答える必要は無い」
とっさに言った言葉は何だったのかはもう分かった。
これがオオグニヌシから簒奪した権能。――すなわち呪いの権能だ。
雨、風これらは農業神の側面を持つ奴にとって当たり前の事だ。
今のは雷避けとでも言えば良いのか?だが、それだけしか出来ないのではないとハッキリと理解できる。
「・・・不意打ち上等ってかぁ?」
軍神何だから正々堂々やれよ。
「ふん!隙を作る貴様が悪い!まさか、我が雷撃を防いだだけでいい気になったのではないな?」
「ああ!当たり前だ!『我は国生みの王、我が禁厭は森羅万象に轟くと知れ!』」
聖句を唱え生太刀を構える。
『風よ集まれ!己が身を集めあい我が敵を穿つ槍となり貫き、削り倒せ!』
唱えると次第に風が集まり一つの竜巻となる。
「雷神の我に風で挑もうとするか、笑止!」
言うが早いか即座に雷撃を竜巻にぶつける。
二つは拮抗しているが段々こっちが押している。
「・・・本当にそれだけとは思うな!」
竜巻に使っていた呪力を体の強化の方へ移し。
「セイ!」
すぐさま接近し上段の構えからそのまま下へ抜刀。
「甘いわ!」
相手も流石に馬鹿ではない、すぐさま腰に添えてあった剣を抜きこっちに合わせる。
「チッ、流石にそこまで甘くは無いか」
「然り然り然り!この程度温くて欠伸が出るわ!」
「ああ、そうかい、でもなここからが本番だ、これでも幼小中と剣を嗜んでいるんだこのまま終わらないんだよ!」
斬! 斬! 斬!
さまざまな方向に生太刀を振るう、対するタケミカヅチも合わせ同じように剣を振るう。
「セイ!」
左斜め上へと切り込む。これも受け止める。
「なるほど、やれるだけはあると言う事か、だが!この程度では我が首は届かんぞ!」
・・・確かに奴に反撃の隙を与えていないだけに俺は上達しているのだろう、・・・だが其処までだ。まさにここが限界、上限なのかも知れない。しかし、これがスポーツとしての試合ではなく、命を奪い合う決闘何だと。
『風よ、我を空へ運べ!』
すぐさま呪いの聖句を唱え俺は空を翔けた。
「おお!これは」
空なんて飛行機でしか行けない領域、でも俺は生身で空を飛んだ。
「はは、コリャ良い、まだ慣れていないけど気持ちがいい」
転生して、今まで色々な事をしてきた。前世はあまり勉強出来ていなかったから頑張ったし、転生したから物語の主人公気分もあったから、小さい頃から仲の良い子の家が剣道道場だったから、其処で剣術を磨いたし、今の親父の家が落ちぶれているが神具のある術氏の家だから魔術も頑張った、落ちこぼれても良いこんな今が正直楽しかった。
実際はオオグニヌシに挑む事なんて止めろと本能の鐘は鳴り捲くっていたし、実際は命のやり取り何て冗談ごめんだった。
・・・こっちは平穏が一番何だよ、てめぇらみたいな化け物何て知るか失せろ、こっちにくんな、誘うおうとするな!
―――ああ、まったく、どうしてこうなった?
「ハハハッ、アハハハハ」
――まったくこんな時なのに何故か乾いた笑いが出てくる。
――こんな未知望んだのは俺なんだろう?なのに、いざ直面すると嫌がるわ、逃げようとすると止めてくるし、――ああ、そうか。
「――俺は迷っていたんだな」
濃い中二病は常人には重すぎたんだな、こんな未知はお断り何だと。
―――だが今はその思考は放棄しよう、今は奴(タケミカヅチ)を打倒しよう。悩むなど終わってからでも遅くは無い!
「悪いな、律儀に待ってもらって」
「構わん」
「そうか」
なら。
「「死(い)ね」」
『摩擦を持って熱風となれ鋼を溶かす熱を持て!』
風が大地を擦る―
擦る大地に熱が灯る―
熱と共に混ざり合いここに灼熱の竜巻が光臨する。
「オオオッ、その様な真似をするか神殺し!「鋼」である我に!」
「鋼の弱点は火ってなぁ!」
この竜巻でこんがりウェルダンになっちまえぇえええええ!!
「甘いわぁ!『我が剣よ、輝ける光で我らが敵をまつろわせろ!』」
タケミカヅチの持っている剣には膨大な呪力が蓄えたれる。やはり布都御霊の剣か。こっちの呪力を抑えようとしている。
「オオオオオオ!!」
突っ込んでくる。ならば
『――――――――――を結べ』
そう、呟き
「ハァアアアアア!!」
こっちもだ歯をくしばれ俺ェェ!
カキン!カキン!
再び剣の打ち合いを俺たちは始めた。
面!面!面!
・・・やっぱりダメだ、相手は神格幾らこっちの身体能力がほぼ互角でも剣の実力は相手が一上だ。流石に剣神、剣で相手は無理だ。
―――ならどうする?呪術は今使えない、手も使うか?――いや余計悪手だ。相手はすもうの開祖神、原初のすもうで叩きのめされるだけだ。
―――――何時まで技だけで戦うのだ?
―――何故?
――――技は確かに大事なのかも知れない。だがそれだけで剣神に挑めると?
―――――それじゃあダメだ。こっちは小手先だけが取り柄では無理だろう?
―――いい例が居るではないか。――無理なわけではない明鏡止水と言う物があるじゃないか?
―――ああ、そうだ―――意識を集中しろ――心に雑念を無くせ。
その時タケミカヅチは司郎の剣を持つ腕がダラリとぶら下がった。
(愚か者が、取った!)
「あ―見えた」
「――――水の一滴」
この時どちらが愚かだったのかどちらだったのだろうか。
ズバッ!
「ぐっアアアアアア。神殺し貴様ぁあああ!」
タケミカヅチの右手が切り落とされ。その手に持っていた神剣は落ちていった。
「人間を舐めたのがいけなかったな神様」
ああ、ようやく打ち込めたこの一打ち。
―――これであれが効く。
剣を掲げる。
『我が領土は冥界、汝が主の名によって門を開けよ』
聖句を唱えると大地はひび割れ冥府の門が開く。
「なっ!まさか貴様!・・・くっ!体が引っ張られる!」
「ああ、アンタに打ち込んだ時に結んでおいたのさこいつ(冥界の門)にな」
『冥府の門とこの剣に触れた者を結べ』
これは縁結びの呪いを使うための聖句だ。
オオクニヌシは縁結びの神としてここ島根では有名だ。
その理由は多くの女神と子を作った神様だ。
そんな神格はこの世にはたくさんいる。ギリシャ神話のゼウスなどが有名だ。
これは良くあることであるとして、今使っているのはそれらから昇華された縁結びの呪術だ。これは相手を物と物、人と人を結び付ける呪いだ。
そして今タケミカヅチを引きずり込もうとする冥府の門は国譲りの逸話から出来た権能だ。
オオクニヌシは自らが作り上げた国を明け渡す時、天に届くほどの宮殿を作れと言った。
これで死した自分の威厳を留めて置く事ができたという訳だ。
・・・そしてそれらの発端はタケミカヅチの大本、天津神だ。
オオクニヌシの権能、大凡は把握した。これはオオクニヌシの呪術神の特性を模した権能だ。
奴の一番有名な逸話は因幡の白兎、そこから医療神の神格を持っており。
奴は兄弟である八十神に二度殺されそして逃げた迫害からの蘇生、死後の霊界の主催神などからによる権能だと。
「因果応報だな、そのままあの世にいけ」
もはやタケミカヅチに勝ち目は無い俺の冥府の門は吸引力は無くても縁結びの呪いはそれを補う。そしてそれを突破できる神剣は奴から離れている。
「良いだろう神殺し、我が力をくれてやる、今よりも強くなれ!そして我が復活した暁には今度こそその首を切り落としてやる!」
「ああ、やってやるさ」
そう約束するとタケミカヅチは冥府の門に落ちその命を絶った。