「来たれアシェラトの眷属達よ愚かな者たちに静寂なる死を」
無数の蛇が亜衣達に殺到し初手を取ったのはアーシェラだ。
「お爺ちゃん下がって!!」
迫りくる蛇に亜衣が剣を振るい対応する。アーシェラが呼び出した蛇は通常の蛇を越える速度で襲い掛かり数もさるところながらその牙は強力な呪いと猛毒が仕込まれている恐ろしいものでありその格の高い使い魔はまともな術師であれば2~3匹出せればすごいと呼ばれる程に高い召喚術であった。
遠い祖先からホモサピエンスの天敵として存在してきた原始の恐怖と脱皮をして新しく生まれ変わるかのようなその様によって古来より蛇は死と再生の象徴であった。故に多くの神話に置いて地母神の象徴であり水と大地の化身として扱われた蛇にまつわる呪文は沢山ある。
だからこそ神祖であるアーシェラの蛇使いとしてのレベルはまつろわぬ神を除けば世界トップクラス。人が立ち入る隙が無かった。
「ッ~~~~~!!」
だが、怯まない死の恐怖を握りしめ果敢に亜衣は捌き切る。
「やるわねアイ!」
「アリサさん援護します攻めて!!」
賞賛するアリサに頷きながら早苗も反撃に移る。弓を弦楽器のように弾きながら呪力を高め祝詞を唱える。毒蛇から身を守る術を唱えたのだ。古今東西呪いの原初は豊穣と無病息災を願うものなのだから。
「掛けまくも畏き大神の大前に恐み恐みも白さく―――」
早苗の口から奏であられる大国主命の祝詞大国主命もまた蛇に縁深い神性なのだ。
「聖者ゲオルギウスよ民衆を苦しめる悪竜を打ち倒す力を我らに与えたえ」
蛇、竜に対して強い特攻を持つ呪文を唱え竜殺しの呪詛が纏われていた槍を構えてアリサは飛び込む。
「女神フレイヤよ戦少女に白鳥の羽衣を与えたたまえ!」
白い翼を羽ばたかせ迫る蛇を切り抜きながらアリサはアーシェラに向けて魔槍で刺突する。
「アシェラトの夫たるイルよ妻の巫女に守護の力を!!」
呪文を唱えたアーシェラの前にセム語派でエロヒムと書かれた魔法陣がアリサの魔槍を阻む。
「ニンリルの熱風よ」
「ッ!」
攻めの魔術と護りの魔術、相対するその術式に拮抗するかに思えていたがそこは人と神祖。相性の悪い術式で相手でもアーシェラは守りながらも攻めの術式を発動しようとしていた。
即座に距離を取るアリサ。その直後に高温の竜巻が現れる。
「何て呪力」
通常の魔術師数人レベルの高等魔術に戦慄するアリサ。目の前にいるのは司郎達神殺しを除けば最高峰の化け物なのだと改めて理解したのだ。
「―――――古い魔術。中東、地中海をベースとした古き神をベースとした魔女ですね」
霊視でアーシェラの魔術を見通す早苗。
―――――神祖アーシェラ。原作カンピオーネ!において蠅の王のトップにしてジョン・プルートー・スミスの宿敵として長年戦ってきたが死闘の末スミスのアルテミスの弾丸を打ち抜かれ死に体となり斉天大聖の解放のためにレヴィアタンとなりその身を文字道理食い物にされた邪術師のトップとしては中々に壮絶な最後であった。
さて、そんな蛇神レヴィアタンはアーシェラが神であった頃の名女神アシェラトがキリスト教によって化け物として貶められた姿。バアル、アテナ、ミトラ、アフラ・マズダー―――そして、大国主。古今東西巨大な神が他の神話によってそのあり方を変質されるのは良くある話である。
ではレヴィアタンに堕とされたアシェラトとは如何なる神か。ウガリット神話に置いて最高神の妻であり神々の母とされる神々の生みの親にして海を行く貴婦人と呼ばれまた、他にもアラビアの月を意味するアッラートを起源を同じくするイラトとも呼ばれる。
そんなアシェラトは紐解くと哀れな事にキリスト教において大きな因縁があったりする。―――――そう、アシェラトの夫イルにあったりする。
イルはエールとも呼ばれその複数形である神々をエヒロムと呼ぶ。
―――――そう、キリストの父にして旧約聖書においてただ一人の神とされるヤハウェの尊称として扱われる名。
強くあるのヘブライ語であるエールは後々ミカエル達熾天使の名前に使われるほどの存在であった。
だがそんな彼らも時代には勝てず後の一神教を始めとするあり方を定めたユダヤ教、そしてキリスト教によって追いやられ神々の母であったアシェラトはそのあり方を否定されて母という立場を消され醜悪な蛇の化け物レヴィアタンへと堕とされたのだ。
「アシェラの祭儀達よ乱れ狂え豊穣のために華の蜜を溢れさせるのだ!!」
「「「「―――――!!」」」」
紡がれる神祖の魔術。恐ろしく早く辺り一帯にまき散らされ一同は一体何の効果があるのかと警戒する一同・・・だが。
「・・・何も起こらない?」
亜衣が思わず呟く。超越者による戯れか?そう考えたが。
「再び行けアシェラトの眷属達よ!!」
再び迫る毒蛇に一同は対応を急がせる
「はぁッ!・・・せいッ!・・・」
迫る蛇を次々に捌いていく一同防御に徹していれば決して部の悪い賭けでは無かった。
「はぁっ・・・ッ・・・セェェッ!!・・・ぁ・・・熱い・・・お腹が・・・熱い」
少女達の体に熱が帯びる。その場所人体の下半身女性において生命を産むための揺籠子宮。
「―――――こんな気色の悪い術を!!」
イラつくアリサ。まさか相手の集中力を奪うために発情を促す魔術など表と裏社会の秩序を保とうとする真っ当な魔術師であれば到底戦闘で使おうとは思えない魔術だ。
「そういうではない妾と戦い死ぬのだせめて気持ちよく殺してやろうという妾の慈悲だ」
体の熱に苦しむ亜衣達を見て笑うアーシェラ。バビロニアでのアシェラトは官能的快楽の女主人とも呼ばれ旧約聖書にてアシェラの名で呼ばれた。アシェラはカナンという地で豊穣の女神として崇められた。が、その豊穣祈願にかこつけ売春が盛んになってしまいそこに住まうヘブライ人には受け入れられるまでそれなりの敵対関係だったらしい。
「・・・いけない熱くて頭が」
熱が頭にまで回ってきたのか剣を持つ亜衣の手には力が抜けていっていた。
「しっかりしてください亜衣さん!落ち着いて穢れを吐き出すイメージをしながら呼吸してください!!」
体の熱に苦しむ亜衣に早苗は丹田呼吸法の一つ息吹長世の法を進める。
「そろそろ苦しいだろう?楽にしてやろう」
苦しむ亜衣達を笑いながらアーシェラは特大の水魔法の魔法陣を展開する。
「幸いの運を以て、我に祝福を授けた給え!!それはさせないぞアーシェラ!」
ジョーもまた妖精の幸運の加護を発動させその魔法陣の発動を潰す。
「この老耄が良いだろう因縁のついでに先に殺してやろう!!」
「―――――主の名において悪魔の誘惑を退かん!!消えなさい!!」
ジョーに迫る毒蛇に早苗とは別の手段を使って魔術を取り除いたアリサが槍で串刺しにする。
「私を忘れないでくれませんか。忘れないようにこれを差し上げますわ!!」
煽りを含んだお嬢様口調でアリサは強力な戦闘魔術が刻まれた手斧をアーシェラに投擲する。
「くっ、人間風情が!!」
再び防壁で手斧を塞いだアーシェラだが、神祖である自分がここまで人間風情を倒すことに時間をかけている事にプライドのが高いアーシェラはもう我慢が出来ないのだ。
「皆殺しだ!!一切合切薙ぎ払ってくれるわ!!」
再び特大の水の魔法陣を展開する。しかもその規模は先よりも断然に大きい。
「お爺ちゃんもう一度あの魔法を使って!!」
ジョーに向かって叫ぶ亜衣。・・・だがジョーは。
「・・・・・すまない。もう手持ちのものは無いんだ」
「そ、そんなぁ」
項垂れる亜衣、それに対してアリサと早苗は落ち着いて二人の前に立つ。
「日本の魔術はあまり見たことはないけどこういうのを対象出来るの?」
「あのレベルは自信がありません。・・・ですが日本は水災害が多いんですよそれ相応の術式はあります」
「そう、私達北欧のバイキング達も荒れ狂う海を生きるために編み出した秘術が沢山あるの」
「それは頼もしいですね」
呪力を高める二人その目には覚悟があった。
「これに生き残ったらシェロにご褒美を強請っても良いんじゃ無いかしら?」
「へぇッ!?え、えっと。・・・そうですね」
「遺言は済んだか人間ども」
アーシェラが魔法陣を展開し終え今か今かと魔法陣からは水が溢れていた。
「では殺すとしよう蝿の王のトップにして神祖である妾にここまで耐え抜いた事を光栄に思いながら死ぬが良い!!」
魔術を発動させようと指を鳴らそうとするアーシェラ。
「―――――おっと、それは無しだアーシェラ。主役が出ないでヒロイン達が退場するのは観客にダメ出しされるからね」
バァン!!乾いた銃声が何処かから響きアーシェラの腕を吹き飛ばす。
感想、評価、コメント等お待ちしております。