「――――――ガハッ、・・・こっ、この槍は・・・」
メイブの腹に貫かれた一本の槍、動物の骨を元に鋭利に作り上げたのだろうか時代背景を考えなくても良い程の名槍なのは見て取れた。
「―――――わりぃなメイブ。見届けてやっても良かったが余りにも魅力的でな手を出しちまったよ」
背後から男が現れメイブの背中に刺されていた槍を引き抜いた。
「相変わらず酷い男ね・・・いいわよ。今回は戦士として貴方に殺されたんだからそれでお相子にしてあげる」
急所を貫かれ消えゆくメイブは男に手を伸ばす。
「ああ、悪いなじゃあなメイブ」
「ええ、さようならクー・フーリン」
偉大な女王メイブは消え去り彼女の輝きは異界の風と共に飛んで行った。
「―――――まつろわぬメイブは消えたけど」
ウィンは後ずさりする。強大なまつろわぬ神は消えた・・・しかし。
「よう、悪いな神殺してめぇの獲物を横取りしちまってすまねぇな」
「そこは気にしてないさ・・・・・だけどよ」
司郎は男を見る。
男の見た目は青みかかった黒髪のワイルドな伊達男だ。時代錯誤な毛皮を素材にして作られた軽鎧を自然と着こなしているのを見てもその異常性は見て取る程に明らかだ。
「―――――アンタとは万全の状態で戦いたかったよクー・フーリン」
生太刀を構える司郎。
「ハハッ、そいつは悪かったな。実はな、こっちに来てすぐにお前とは違う神殺しと会ってな喧嘩を振ってみたら逃げやがってよ。お預けくらって苛立っているんだよ」
クー・フーリンは槍を消して槍にも並ぶ名剣を呼び出す。
「はっ、下がりのついた犬かよアンタは。・・・いや犬だったなアンタ」
「言ってくれるじゃねぇか坊主甘く見ないでくれよ俺に喉笛を噛みつかれたくなかったらな―――!!」
あっという間に距離を詰め名剣を上段にかざし司郎向けて振りかざすクー・フーリン。
「―――――ッ!」
生太刀で名剣を受け止める。
「ハッ、良い剣を持っているじゃないか。俺のクルージーンを受け止めるなんてな。・・・そんじゃあ、その獲物を操れる程の実力を持ってくれよ神殺し!!」
クー・フーリンはクルージーンを司郎の首元に向けて振り下ろされる。
「上等だァ!切られても知らねぇぞクー・フーリン!!」
生太刀でクルージーンを受け止め返し刀でクー・フーリンの胴体に生太刀で突きを放つ。
それに対しクー・フーリンもまたクルージーンで生太刀を受け止めそのまま司郎の足にローキックをし姿勢を崩された司郎の胴体にクルージーンを振り下ろす。
「―――――ッ!」
司郎も負けていない。生太刀でクルージーンを受け流し生太刀の柄でクー・フーリンの胸をどつきそのままヤクザキックを打ち込みキックの衝撃で距離を取る。
「ハッ、やるじゃねぇか小僧。これぐらいはやってもらえなきゃ楽しめねぇからな」
クー・フーリンは鎧の埃を軽く払い司郎の腕前を誉める。
「アンタもな流石は音に聞くアイルランド最強の英雄の名は伊達じゃないってことか」
司郎もまたクー・フーリンの剣技を誉める。
「―――――早い」
一方離れた距離で二人の戦いをウィンは見ていた。
「割り込めない・・・でもこのままじゃあだめだ。幾らシロウが強くても疲弊した状態であのクー・フーリンを相手どれない」
―――――クー・フーリン、アイルランドを始めとするケルト神話に記される光の御子の異名を持つ太陽神ルーグとコンホヴァル王の妹デヒティネの間に出来た子供。
クー・フーリンの名はクランの猛犬と言う意味であり。まだ幼くセタンタと呼ばれていたころに鍛冶師のクランの番犬を殺してしまいその責をとり番犬の子供を育てることと自分が今後犬の肉を食べない制約ゲッシュを誓った。
そして女神スカアハがいる影の国へと武者修行に行き多くの武芸を磨き魔槍ゲイ・ボルグを手に入れた。
その後フォルガルの娘エメルと結婚した。
―――――しかし、若くして英雄となるが早死にすると予言されていたクー・フーリンはクーリーの牛争いにて修業時代の親友フェルディア、影の国での修業時代スカアハの妹オイフェとの間にもうけた子コンラをその魔槍で殺してしまい数々のゲッシュを破らされ激戦の末に石柱に自分の体を縛り付けて絶命したとされている。
そんなクー・フーリンは『鋼』の英雄神であり『鋼』の軍神は司郎達カンピオーネとは因縁の宿敵として他の神よりも敵意を向けている。
では、そもそも『鋼』とはどういった神々のカテゴリーなのか彼らの神話に置いて『剣の製造』『竜殺し』『征服』などが主な『鋼』の分類にされるものだろう。
『剣の製造』とは文字道理その神の神話に剣の製造工程をモチーフとした逸話が描かれている事だ。有名なものと言えばナルト叙事詩の英雄バトラズだろう。彼は鋼鉄の体を鍛冶神クルダレゴンによって更に鍛えられ降臨する際は灼熱するその体を巨大な氷で冷やして霧を上げながら降り立つとされる。鍛冶を司る神に鍛えられたは剣を鍛えることであり灼熱の体を氷で冷やして地上に降り立つは熱した剣を水で冷ます過程を描いているとされる。
『竜殺し』は言わずもがなジークフリートやペルセウスが有名だろう。彼らは邪竜ファブニールや蛇神ゴルゴンを倒し鋼の体やペガサス、石化の魔眼の首などを手に入れ彼らの戦いを支えていた。古来より竜や蛇は地母神の化身であり古代に置いて地母神とその巫女は祝福を与える存在であった。竜殺しの神話は地母神を打ち倒す神話であり子が成長し母離れの神話もあるのだ。
そして『征服』これは力の象徴である武器のメタファーである。大地に突き立てる剣それは騎馬の民スキタイが崇める原始的な軍神アーレスの祭壇。流れ者の流浪の民の文化は世界に広がるアーサー王のエクスカリバー、シグルドのグラム・・・そして高橋司郎が神殺しとして最初に倒した神、武御雷もまた国つ神との会合にて剣を突き立てその上に座っていた。数多の敵を倒す英雄や軍神はスキタイの流れを組むものも多いのだ。
―――――そしてクー・フーリンは初戦にて勝利に浮かれ熱を冷まさないままアルスターに戻ったがその熱を冷ますために多くの女性の裸を見せて動揺したところで水をかけて正気に戻すと言うやり方で『鋼』の条件の一つ『剣の製造』を達成しクーリーの牛争いの間に彼に言い寄った三位一体の女神モリガンを返り討ちにしたことで『竜殺し』を成したのだ。
ウィン達アイルランド人にとってクー・フーリンの名はシャレにならないクー・フーリンはアイルランドに置いて象徴として慕われフィン・マックールと共に彼らの物語はアイルランドの小学校で学ぶほどに知られているのだ。
アイルランドに根付く魔術結社白枝騎士団のウィン・マクガヴァンにとってクー・フーリンは偉大な英雄なのだ。そんな英雄に命の恩人である高橋司郎は戦っているのだ。
―――――助けたい。・・・だが、その圧倒的な神話の如き戦いにただの魔術師であるウィンは祈るしかないのである。
「―――――クルージーンよ光を放て!!」
クー・フーリンはクルージーンに呪力を込め光の斬撃を司郎に放っていく。
「―――――ッ!お返しだ。水よ集え全てを飲み込む濁流になれ!!」
飛んでくる光の斬撃を躱しながら司郎は大気中の水分を集めて一点に集中した鉄砲水を放つ。
「ハッ遅いぞ神殺し!!」
当たればビルも貫く権能を利用した一撃をクー・フーリンは軽々と躱して見せる。
「そんな生温いものじゃないぞ!!」
鉄砲水を撃ち続けてクー・フーリンの足元を抉り足場を崩す。
「うぉっと!?」
「雷よ!!」
態勢を崩したクー・フーリンに司郎は大国主の禁厭で渾身の雷をぶつけた。莫大な呪力が籠った雷はクー・フーリンにぶつかり巨大な土煙を上げていた。
「―――――倒した?」
砂毛煙に思わずウィンは呟いた司郎が放った雷はウィン達魔術師が数十人で放つような威力を放っていた。
「―――――悪くはねぇな」
「―――――!!」
砂毛煙が晴れクー・フーリンはゆっくりとこちらに歩いて来た。
「流石にこの程度じゃあ死なないよな」
強力な雷の禁厭を放ってもまつろわぬ神を倒せないと司郎は分かっていた。
「おう、魔術はそれなりに出来るんでなお前もそうだろ?」
虚空に古代文字を浮かばせてクー・フーリンは笑う。
「だよなぁ、アンタキャスターにもなれるらしいからな」
生太刀を禁厭で作り上げた雨雲に向ける司郎。
「じゃあ、権能を使うしかないよな。数多の命を繋ぐ水を捧げ、此処に来たれ、翼を持つ蛇よ!」
空を覆う雨雲が消えていき空に翼を持つ巨大な大蛇が現れた。
「―――――」
唖然とするウィン。それもそうだ。巨大な空を飛ぶ蛇神獣を呼び出す魔術師などあり得ない。だが司郎はやってのけた。巨大な神獣を従えて司郎はクー・フーリンに迫る。
「ハッ、面白くなってきたじゃないか!!来いロイグ!!怪物退治だ!!」
クー・フーリンはチャリオットの御者を呼び出し高速戦闘を仕掛けて来た。
「行くぞやれ羽ミサイルだ!!」
大蛇に飛び乗り司郎もまたクー・フーリンが仕掛けた高速戦闘にノリノリだ。大蛇の翼から百はゆうに超える一般的な剣の大きさはある羽がクー・フーリンに迫る。
「ハッ、上等だ」
クー・フーリンは盾を取り出し羽のファングを防ぐ。
「突っ走ろマハ、サングレン!!真っ向勝負だぶち抜くぞ!!」
ヒヒィィィィンン!!獰猛な二頭の愛馬は雄たけびを上げ神速の突撃をしていく。
「薙ぎ払えハイドロポンプだ!!」
莫大な呪力を注ぎ込み大蛇は津波の勢いを一点に集中したような水砲を突撃してくるクー・フーリンのチャリオットに放つ。
異界の空で異形の大蛇と空を飛ぶチャリオットが激突する。大蛇の水泡は街に放てば壊滅するほどの殲滅力を持つのに対してチャリオットの突撃もまた街に落ちればクレーターを作る程の破壊力を持っているのだ。
「今だ喰らいな!!」
クー・フーリンは戦車から飛び降り大蛇の頭にクルージーンを投擲する。
「ッ――――!」
頭に宝剣を突き立てられては神獣であっても耐え切れない。戦車の突撃を食い止める健闘をして大蛇は消えていく。
―――――だが、これで終わらない。宝剣を手放す事はクー・フーリンの最大の宝具で倒す気なのだと司郎は理解していた。
「―――――我が槍を見るがいい。恐るべき海獣より作られし魔の槍を!!」
クー・フーリンの手にメイブを貫いた槍が現れる。
「我が父の愛を見るがいい。如何なる矢も如何なる剣も我が命に届くことあらず!!」
司郎もまたカルナの鎧を呼び出し魔槍に挑む。
―――――落ちていく。落ちていく。異界の空で太陽の子の権能による矛盾が始まる。
「―――――その命、もらい受ける。ゲイ・ボルグ!!!」
高橋司郎に向けてクー・フーリンは防具殺しの魔槍で突き刺した。
「~~~~~ッ!!」
太陽の鎧は魔槍を受け止める恐るべき防御力を持つ鎧と同じく恐ろしい程の貫通能力を持った槍のぶつかり合いはその材質に似合わない程の不協和音を異界に響かせる。
「まだだ!!ナウ マク サ マンダ ボダナン・アニ チャ ヤ ソワカ!!」
日天の真言を唱え防御力を高め高温の光をクー・フーリンに放つ司郎。
「―――――いいや、勝つのは俺だ神殺し!我が父百芸に通じた長腕のルーよ!!我に太陽の輝きを与えたまえ!!」
クー・フーリンが聖句を唱えるとカルナの鎧はゆっくりと消えていった。
「なッ!?」
驚愕する司郎だが対処する時間はもう無い。
「光はより強い光によって掻き消える守りに入ったのが間違いなったな神殺し!!」
カルナの守りを突破しその恐るべき魔槍が司郎の体に突き刺さる。
クー・フーリンの槍ゲイ・ボルグにはこんな記述がある投げれば30の鏃となり稲妻のような速さで敵を纏めて貫き。突けば30の棘となり枝分かれして刺さり傷が治らない毒を持つと言う。
「―――――」
そうなればハッキリ言ってどうしようもない回復殺しの魔槍を受けて司郎は落ちていく。
「あ、・・・あぁ、あああァァァッッ!!シロウ―――――ッ!!」
高橋司郎を思うウィン・マクガヴァンの叫びが異界に消えていった。
「―――――巻いたか」
現世とアストラル界の狭間の地である異界に一人歩く若き青年。イギリスのカンピオーネ、アレクサンドル・ガスコインその人である。
「厄介な奴だ。いきなり殺しに来て全く英雄神と言うのは面倒なのが多い」
その言葉がそっくりそのまま帰って来るブーメラン芸を見せるがそれを指摘してくる人は今アレクの前にはいなかった。
「だが、おちおちしてはいれないさっさと・・・ん?」
自分が巻いたまつろわぬクー・フーリンが来ない間に準備をしようとしていたアレクは野生の勘で気づく。
「―――――あれは」
アレクの視線の先には大量の亡者がアレク、より正確には人間界の入口である遺跡付近へと歩みを進めていた。
「―――――なるほど正にワイルドハントと言うわけか」
そして、亡者たちの後ろ彼らの王は40メートルはある巨体に巨大な二本の雄鹿を生やしたまつろわぬ神が今まさにサヴィン祭に向けて亡霊たちを率いていたのだ。
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