「―――――こうしてここに来るとはな」
アストラル界のとある場所。砂ばかりの砂漠地帯に転移した司郎は呟きながら周囲を見渡す。
「・・・亜衣」
司郎が開いたアストラル界の扉はあくまでもただの今世界と幽世を繋ぐ扉でしかない。亜衣は司郎の周囲には居ないのだろう。
「・・・結べ縁結び」
そう言い再び亜衣と自分の中にある繋がりを明確にし如何にかして移動しようと呪力を漲らせようとした。
「―――――お待ちください。羅刹の君」
そんな司郎の背中に声をかけてくる者が居た。
「・・・・・早速か。案の定見ていたな」
振り向く司郎の眼に映る人とは思えないほどの美しい美女。十二単を着こなし瑠璃の瞳と亜麻色の髪・・・間違いない。この日本の魔術界を裏で管理している人外連中古老の一人、瑠璃の姫君。早苗達媛巫女の祖であり神祖―――――かつての名をインドの大地の女神シーター。最後の王ラーマの妻だった女神。その成れの果て。原作カンピオーネ!において何かと主人公に助言を行ったりと話の分かる手合いとして何かと動いていたが・・・
「・・・怒るのも無理は無いですね。我々は知っていても最低限被害が行われないように根回ししただけ一番の被害を受けている貴方からすれば私達の努力など興味はないでしょうね」
目に光が無い司郎に一切怯えることなくこうなる事は元から分かっていたと落ち着き払っていた。
「・・・御託は言い去るか手伝うか例えアンタでも
そう言い神剣を手に持ち睨みつける司郎に対して、瑠璃の姫君は。
「存じております。羅刹の君貴方の探し人は安全です。・・・そして、その場所に私が導きましょう」
「・・・亜衣は無事なのか?」
「ええ、幸いにも良き人に助けられたようです。御身の権能の影響でしょうか。それともご自身の日頃が良かったのか」
「・・・なら良い早く亜衣の元に俺を導いてくれ」
「・・・分かっています。ですので落ち着いて私についてください。不用意に飛ぶと危ない事になります。ここには現世に飽き隠居しているだけのまつろわぬ神の領地もありますので不用意に神殺しである御身が来たら危険な事になりますので」
「・・・アンタの年長者でもあるどこぞのマザコンでシスコンの情けない英雄神とかな」
ゆっくりと歩み司郎の真横に突風が吹き荒れた。
「・・・・・あまり悪口を言わないでください。我々もまた安易に現世に干渉する事はいけないのです」
「・・・ああ、そうかい」
そうして二人はアストラル界を渡り歩く。砂漠の世界、森林の世界、剣山の世界、アストラル界らしく転移していく。
「・・・此処です。あそこの寺に御身の探し人はいます」
そうして二人は目的の場所へと渡り終えた。
「・・・此処か」
司郎の目の前に鎮座する山道にポツンと立っている古い寺。瑠璃の姫君曰くここに亜衣がいるとの事だ。
「…昔なら良くあるようなものなのかな」
古い時代悟りを目指して人里を離れただ一人で仏を掘り瞑想に耽っていたのだろうか。今の欲望だらけの今のご時世ではとても思いつかない生活様式だろう。
「!?・・・亜衣!!」
そして、司郎は亜衣を発見した。彼女の体には薬草と包帯がされて寝かされており先の戦いで負った怪我のために治療をされていた。
「亜衣・・・俺だ司郎だ・・・目を・・・覚ましてくれ・・・」
傷が開かないように必死で心を押し殺しながらも眠っている彼女の体に触れようとするが。
「――――――触っても無駄だ。その娘は目を覚まさない」
声をかけられた。年老いた老人の声だろうその厳格な男の声のする方向に司郎は振り向く。
「・・・アンタが亜衣を救ってくれた人か・・・人なのか?」
「・・・否定せん、我が名は鬼一法眼、あるいはこちらのほうが有名かな鞍馬天狗とも呼ばれている」
天狗の老人はそう答えた。
「・・・鞍馬天狗。あの義経の師匠の」
鬼一法眼。義経記に記載され、鞍馬天狗と同一視される伝説的な陰陽師だ。
京の一条堀川に居を構え平安後期の中国では基本的な兵法書。『六韜』の大家とされ剣術、京八流の祖であり剣術の神として信仰されていおり牛若丸だった頃の義経に剣を教えそして娘と共謀されて義経に『六韜』を奪われていたりと義経の師匠として後の英雄を鍛えた男だ。
「・・・・・取り合えず言わせてくれ」
ゆっくりと頭を下げる。
「―――――亜衣を助けてくれて本当にありがとうございます」
深く頭を下げて感謝の意を示す司郎。その瞳には僅かに涙が漂っていた。
「・・・気にするな。当たり前の事をしただけだ」
「・・・そうなんですか。・・・で、何で亜衣は起きないんですか?」
大切な人を救ってくれた恩人を前に普段と違い丁寧に話す司郎に鬼一法眼は答える。
「あの娘は儂に強くなりたいと言ってな――――――」
「ぅっ・・・あ、ありがとう。天狗のお爺ちゃん」
襲撃者に敗れ瀕死の大怪我を負ってアストラル界に落ちてしまった亜衣は鬼一法眼に治療されて布団に寝かされていた。
「気にするな。あのような有様を見て見ぬふりをするほど落ちてはおらぬ」
「・・・ねぇ、お爺ちゃん鞍馬天狗なんだよね牛若丸を育てた」
「・・・まぁ、剣術も陰陽術、兵法を教える事は得意だが」
「・・・・・怪我の治療してもらっているだけでも十分だけど・・・・・私を・・・鍛えて・・・欲しいの・・・」
「・・・ほう、まぁ。瞑想や思索をしているのも飽きてきた以上良いが・・・」
「・・・司郎と・・・隣に立てるぐらいの・・・強さを・・・身に着けたいの・・・出来れば早く・・・」
「・・・強欲な娘よ。儂の時代ではそのような女など殆どおらんものだが・・・」
「・・・今の・・・女の子は・・・これくらい積極的なんだよ・・・命短し恋せよ乙女・・・ってね」
「・・・そうか・・・では・・・」
そう言い鬼一法眼は幾つかの薬をかき分けながら一つの薬を取り出した。
「・・・この薬は深い眠りとそれによって精神世界を構築出来る術をかけやすくなるものだ」
「そうすれば・・・今のままでも夢の世界でお爺ちゃんに鍛えてもらえるってこと?」
「そうだ。神殺し相手に隣に立てるほどの大魔術師など一朝一夕で手に入るものじゃない。精神世界は現実世界の時間とはかなり離れている。お主が全快するのが大体1時間ぐらい。それまで儂がお主の精神世界に入って鍛えるが・・・ざっと10年お主は儂以外の人間と関りを持たなくなる」
そう薬と術の効果を説明した。
「・・・逆浦島かぁ・・・うん・・・大丈夫・・・何も・・・しないでただ寝ているのは・・・つまらないから・・・修行・・・したい・・・司郎の隣に立つためなら私何でもするつもりだよ・・・」
そう言って亜衣は体を起こそうとするが・・・
「・・・準備をせねばならぬ今は大人しく床につけ薬は恐ろしく苦い。それに何か言伝があったら考えておきなさい儂が伝えておこう」
そう言って鬼一法眼は亜衣を優しく諭して準備に取り掛かっていた。
「・・・それ・・・じゃあ・・・」
「強くなって帰って来るとの事だ」
「・・・そうかい」
鬼一法眼の話を聞きながら司郎は優しくスゥスゥと眠っている亜衣の顔を優しく撫でる。
「なら、ちゃんと舞台は用意してやるからちゃんと来いよ亜衣」
そう言って、亜衣の頬に唇を落として小さな紙に禁厭を込めて立ち去ろうとする。
アストラル界から離れた司郎はこの街で司郎とそんなに年の変わらない裏の人間がたむろする遊び場に赴いた。
「―――――よう。お姫様は見つかったようだな」
親しい人間が襲われた事もあり険しい顔をしていた四季は司郎の顔が明るい顔をしているのを見て安心したようだ。
「ああ、親切な天狗が助けてくれたようだよ」
「ハハッ、天狗とか攫われないかよ」
「その時は奪い返すだけだよ」
柔らかい表情で軽口を交わす司郎の表情は先ほどまでの修羅の表情では無い。
「・・・・・亜衣さん大丈夫でしたか。良かったですね司郎さんも憑きものが落ちているようですし」
そう言って早苗もまた亜衣が無事な事にそして司郎の顔が修羅の顔で亡くなった事に安堵して見ていた。
「ああ、早苗も心配かけて済まなかった」
司郎もバツの悪そうな表情で頭をかきながら早苗に感謝を伝える。
「―――――それで王様呼び出して何の用かな?」
そう司郎に言うのは司郎達とそう年の変わらない者達。早苗やアリサ達のような名家なわけでもない。術師として高い才能を持つ者もおれば素人に毛が生えたレベルの者など色々と居る。
「・・・ああ、実はどうやら委員会の内ゲバに巻き込まれちまってな俺を含めて関係者が狙われたんだよ」
「それってもしかして亜衣ちゃんも・・・」
「ああ、でだ・・・このままじゃあ終われない。やってくれた反逆者を俺達が仕留めるそして―――――俺はこの国に新たな魔術結社を作り上げる!!」
『!?』
一同が思わず驚く。日本においてそんな事をする事の驚きと言葉の意味のすごさを。
「皆には一員として活動してもらいたい!俺、高橋司郎が神殺しとして活動するための魔術結社。別に強制はしない入るならそれ相応の振る舞いをしてもらうがそれでも甘い汁を吸わせてやるぞ!!」
司郎がそう言うと一同は騒ぎ始める。
「どうやら皆入りたいようだぜどうするお嬢さん方そっちは既に組織人だろう?」
同じように遊び場にやってきたアリサやウィン、早苗に四季は司郎が作る魔術結社入るのか否か聞いて来た。
「・・・そんな事決まっているはずじゃない?」
「僕たちだってはなからそのつもりでシロウの元に来たんだよ」
魔術結社幹部候補として政治の何たるかを理解していた二人は既に覚悟と考え方を決めていたのだ。
「そして何より司郎さんが私達の事情もちゃんと考えていますから心配しておりません」
そう言って早苗が三人の覚悟を締めくくった。
「へへ、全く俺の人生随分と変わっちまったが―――――関係無い行くぞ野郎ども!!!」
司郎は生太刀を天に掲げて禁厭を行使する。平成の壇ノ浦の戦いの幕開けである。
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