「――――――ああ、そいうことね。理解したよ」
「左様儂・・・いや、もう取り繕うのも疲れるな。我こそがこの戦の主犯格と、言うべきかね。貴様も分かっただろう?この戦いがなぜ起こったのか」
司郎の呪力量が上がっていくのを早苗達含めてこの場にいる全員が否が応でも理解しまるでメルトダウン寸前の原子炉の近くにいるような恐怖を感じているのに首謀者たる虚鉄は特に反応もせずーーー否、この男もまた司郎とは別ベクトルの威圧感を解放していた。
「この反乱を始めた動機は―――俺への復讐って所か?」
「作用、全ては我が友を殺しその聖なる権能を奪った貴様を神殺しを殺す。ああ、安心しろ今となっては人間風情どうでも良い。貴様が死んだ後貴様の手下が我に挑まなければ何もする気がない。ここまで奉仕した者たちには我に使えると言う名誉を与えてやるがな」
「なっ、何を言っているのですか虚鉄殿!?」
その『虚鉄』の言葉にギョッとした表情で平家派の人間達は虚鉄を見る。
「おい、お前の部下が動揺しているぞ。なんとか言ってやらないのか?」
「必要無かろう。人間なぞ我らが力を見せればひれ伏すだけだ。・・・嗚呼、忘れておった。神殺しの獣にはそんな気持ちなど沸かせるぬであったな」
「――――――ッ!シェロ。あの老人の中に潜む魔性に心当たりがあるのでしょう!?」
アリサ始め仲間達は次々と状況を把握し始める。
「なっ、なにをおっしゃっておられるのか理解できませぬぞ虚鉄殿!?我らの切り札は茨木童子!いくら若かりし頃は名の知れた術師であったとは言えあの様な化け物相手どれるとは・・・」
対象的に平家派は混乱している。無理もない、神々の戦いを潜ったアリサ達と比べれば潜った修羅場のスケールが余りにも違いすぎた。
(この神性一体いったいこの御仁に巣食っている神の名は何者なのでしょう?)
一方虚鉄から発せられる謎の気配に焦燥に駆られていた早苗。霊視を得意とする彼女において、あとちょっとでその答えが降りてくると知っているからこそ霊視の信託を下ろすための集中力が削がれていた。
「・・・あっそ、どうやらそろそろお出ましの様だぞオタクらの切り札ってのが」
「うむ、ようやく出てくるな。獲物風情が我を待たせるなんて万死に値するがまぁ、良い。待つ事も最後の人らしい振る舞いとしよう」
一人と『一柱』が奥へと視線を向ける。祭壇に置かれた古びたミイラの腕がある儀式場の中心の空間が歪み。
「◾️◾️◾️◾️◾️!!!」
巨大な人形の化け物――――――鬼の神獣が現れた。
「オイオイ、ありゃ神獣だぞ。一匹程度で俺らカンピオーネとやり合えるとか慢心が過ぎるぞ」
「何をほざく!!これほどの呪力量貴様とて――――――!?」
平家派の一人が司郎に反論を言おうとするがすぐさま罵倒を飲み込んでしまった。・・・何故なら。
『――――――では行くとしよう』
虚鉄と呼ばれた人間の体はまるで糸が切れた人形のようにガクンと崩れ落ち大きく開かれた口から光る玉の様な物が飛び出したのだ!?
「◾️◾️◾️◾️◾️!!?」
鬼は金棒を振り下ろし玉をはたき落とそうとするが――――――
『獲物風情が大人しく食われておれ!!』
光から一本の針の様な物が飛び出し鬼の口の中に入り込み。
「――――――◾️◾️◾️ッッッ・・・」
断末魔のような小さな声をあげながら鬼の神獣は力無く崩れ去りその遺体は砂の様になっていき風に攫われていった。
「――――――どういう事だ?」
最早現実を受け入れる事が出来なくなっている。無理もない、とっておきの切り札が自分たちのリーダーから出てきた謎の光によって倒されたなどこんな事を察する事などいったい誰が出来ようか。
『――――――おおっ、力が漲ってくる。これでッ、これをもって!我は!あるべき姿を取り戻せる!!』
鬼の神獣がいた場所から光の玉へと力が流れていくのを司郎達は感じたり光の玉は今、ナニモノかを産み落とす卵となっていた。
「――――――追いついた!司郎!?これってなに!?」
リベンジを果たし司郎を追いかけて平家派の拠点最奥、儀式場まで駆けてきた来た亜衣は眼前の異常事態に驚きと説明を求めてきた。
「来たか亜衣。見ての通りだ。あの一眼見て分かるほどにヤベェ卵みたいなのが全ての元凶だ!いつこの世界に顕現して俺のことを知ったか知らないが2年前、俺が神殺しになったあの日からアイツと俺は殺し合う因縁が出来ちまった様なんだ」
「いや、いやいやいや、言っている意味が全然分からないよ!?神殺しと神様の因縁みたいなものは書いているけど司郎がここまで言うほどの相手なの!?」
亜衣の言葉に周りも同意する。神殺しと神の因縁は神話から深いものだがそれでも目の前にいる光の玉と司郎の因縁など今日始まったばかりのはずだと。
「――――――これだ。これこそが我が真なる神の姿!!!」
そう言い球体が砕けその中身が明らかになる。
―――――その姿を見た多くの人間はこう思うだろう。
「ちっ、小さい!!」
思わずウィンが呟いてしまう程には目の前に現れた神性は小さかった。掌に収まるのではないほどに小さな姿にアイルランド人のウィンはこの国の妖精なのでは無いかと自身の住んでいる土地で伝承されているハベトロットやムリアンなどの小さな妖精を想起させた。
小柄な少年の神性は端正な顔立ちの下にはまるで蛾を素材にした着物のようなものを着ており植物の皮を魔術で加工しているのか奇妙な形をした船に乗って宙に浮かんでいた。
「あれって、一寸法師?」
小さな浮船に浮かぶ少年の姿に亜衣はありふれた昔話の鬼殺しの英雄の一人の名を思い浮かぶ。
「・・・そうであり。その元ネタ。英雄として零落する前のかの神の姿でしょう」
亜衣の言葉に早苗が答える。気づけたのだ。この神の名を―――そして司郎との因縁の訳も。
「・・・これが我が真の姿。ああ、そうだ。神殺し、我が運命、復讐の神殺しよ―――――我が名を言うが言い。貴様にはそれだけの価値がある」
小さき神がそう司郎に言う。
「・・・そうかい。それじゃあお言葉に甘えて」
そう言い司郎は一呼吸つき目の前の神の神話を語り始める。
「今、アンタがやったのはアンタが零落した英雄の側面を利用した再臨の儀式だ。アンタの英雄の姿一寸法師は室町時代後期になって描かれた物語だがそれよりも古い時代、アンタが大国主の相棒だった頃アンタと大国主はこの国の主神。国つ神の長とそれを支える知恵者として信仰されていた。嘗ての大国主命の名はオホナムチ。漢字に変えると大大地尊。大いなる大地の尊い方という意味だ。古今東西、巨人と小人の伝説は多い。だからこそ力を持ち国を統治する権力者である大国主の対となるアンタは知恵のある小人。力と知恵、この二つを別々の神格にする事で互いを保管し合う盤石の布陣はこの国を統一させた大和朝廷にとって邪魔以外の何物でも無かった。だからこそ、古い土地の創造主だった大国主たちを追い出し自分達に都合の良い新たな創造神が必要だったんだ」
そうして用意されたのは世界両親型の国生み伊邪那岐と伊邪那美の二神。アジアではポピュラーな男女によって作られる子作りを軸にして作られる天地創世記神話だ。
「日本書紀などで示される 天津神による大国主への国譲りの時アンタはすでに常世に旅立っていた。そうする事で国作りの神としての格を下げ力を無くした老いた長が若い者に次第を託す構図に神話を書き換えられた。一寸法師を始めとする鬼退治の英雄は親元を離れるエピソードがある。これは育て切れない子供を切り捨て戦場に使い捨ての数合わせの兵士として徴兵されたいわば間引き。一寸法師とは朝廷にとって不都合な神であるアンタを間引き、零落させ自分たちにとって富を与えるための英雄として改変する都合の良いカバーストーリーなんだ」
面白い事に同じく間引きのエピソードを持つ桃太郎が鬼ヶ島から持ち帰った宝物の中には一寸法師が扱う打ち出の小槌があった。奇しくも二人の鬼退治の英雄が手に入れる者は富の象徴なのだ。
「だけど、アンタは自身に被せられた小さき英雄のエピソードを逆に利用した。一寸法師は鬼を打ち倒し打ち出の小槌を手に入れて人の大きさになって幸せになった。一寸法師は言うなれば間引きされた子供が知恵を出世する成り上がり物語。アンタはそれを利用したんだ。鬼退治とは堕ちた今の自分を英雄ではなく在りし日神に戻る儀式なんだ!そうしてアンタはかつて、大国主と共にいた名を取り戻したんだ!!」
「まつろわぬ―――――少名毘古那神。古き神話時代大国主とこの葦原の中つ国を城築上げた国造りの二柱の片割れ。それがアンタの名だ!!」
ビシ!とガントを放つようなビシッとした人差し指が目の前のまつろわぬ神を―――スクナビコナを指し示す。
「―――すっ、少名毘古那神!?ど、どうして虚鉄殿が!?」
周りの動揺は更に激しくなる。それもそうだ。付き合いのある人間が神に身体を乗っ取られて操られていたなんて。想像できる方がおかしいと言えるだろう。
「おおかた、この地を漂っていた所を偶然見つけて乗っ取った所だろうさ。晩年を傀儡として終わる事に対してはご愁傷様としか言えないな」
虚鉄と呼ばれていた死体は周りの声など聞く耳などなくそこに突っ立っていた。
「―――まぁ、仇のようなものぐらいはしてやるさ」
「出来るかな?愛するものを助けられなかった貴様に」
「何言ってやがるんだ―――もう勝負は付いているってのによい」
―――――瞬間、上空に待機してた翼のある大蛇がスクナビコナを飲み込んだ。
「やっ、やった!?」
スクナビコナを飲み込んだ大蛇を見て亜衣は勝利の喚起を叫ぶが・・・
「―――――温いな、堕とされたとはいえ我は鋼だぞ。蛇如き動作もないわ」
大蛇の腹は無残に引き裂かれ人間サイズのスクナビコナが姿を現した。
「―――さて、いい加減この景色も飽きただろう?貴様には相応しい処刑場を用意してある」
スクナビコナの言葉に司郎達は驚愕した。薄い紫色の蔓性の植物が彼らの周りに敷き詰められていた。
「――――――さぁ、ガガイモ達よ。我らを常世へと案内する船となれ!!」
スクナビコナが幽世送りの禁厭を謡った瞬間。司郎の体はまるで底なし沼のように足が沈み込む。
「司郎!!」
亜衣が叫ぶと同時に4人は司郎の元に集まり構える。
「――――――上等だ。叩き潰してやるよスクナビコナ!大国主の元へと叩き落してやる!!!」
そう叫び司郎達は現世から消え去った。
それでは皆さんおそらく次の更新は来年なので良いお年を〜