幼竜であるリオレウスの子供は辺りに響き渡る音を聞いて目を覚ました
外で轟音と咆哮が響き、辺りを揺らしている。信じられない事に父が本気を出して敵と相対しているらしい。大丈夫だろうか、と幼竜の胸を不安が過ぎるが父ならばきっと大丈夫だと思い、帰って来るのを母と共に待つ。
先日、病気で無くなった母を見て未だに生きているのではないかという有り得ない淡い希望を抱く。優しくて、強かった母でも病気には勝てなかった。
翼の音が聞えて幼竜は空を見上げる。彼の父が降りてきたのだ。
声を上げようとして、彼は言葉を失った。翼爪は砕けて、片目は潰れて頭もかなり切られている。腹には裂傷があり、脚も無事とは言い難い。それほどに今回の相手は強かったのか。
父は自分に近寄って頬を舐めてくれた。安心しろ、と言いたげに。
鉄と鉄が擦れているような音が巣の入り口近くから聞える。そこには壊れた兜と蒼い鎧を身に纏った狩人がこちらを向いて佇んでいた。
体が回復した彼は巣である⑤へと入ると、その光景を見た。息子である幼竜の頬を舐めて、甘えるように声を出す幼竜を。
「…」
今からあの微笑ましい光景を壊してしまうのだと思うと心が痛いが、やらねばならないと足を進める。こちらの存在に気付いたのか幼竜とリオレウスはこっちを向き、歩いてくる。
力を入れるごとに全身が痛むがそれはあちらも同じはず。純粋な切り傷は飛竜の回復力からすれば治るものだが、最も苦手な龍属性はそうもいかない。傷口を広げて、内部へと浸透する。あれだけ頭と胴体に斬撃を喰らわせたのだから、もう残っている体力は少ないはずだ。
リオレウスと彼は互いに視線を合わせて攻撃の機を探る。
「(もう、殆ど体力も残ってない…。撃てるのはあと一撃が限度。どうするか)」
一撃で終わらせるしか彼に策は無い。頭に何度も付けた切り傷。あれに全てを乗せた斬撃を放ち、相手を沈ませる。
「(チャンスは一度っきり。やるしかないな)」
体を鬼人化させて、更に大剣特有の技、溜め斬りを併用する。腕と体にそれ相応の負担がかかるが、この際そんな事は言っていられない。
「ガァァァァ!!!!」
「…おいおい、マジかよ」
リオレウスも最後の力を振り絞ったのか、全身に最初と同じような赤い闘気を纏った。もしかしたらこれは竜版の鬼人化なのかもしれない。
「(来る…)」
全身を必殺の凶器と化し、空の王者は一度飛び立ち、滑空してくる。ブレスを撃ってこないのはすでに余力が無いからなのか。
「(もう一度、狙うはカウンター!)」
相手の重量を乗せた一撃で頭をかち割る。しかし、今回のカウンターはタイミングを間違えれば確実に死に到る。ギラリと並ぶ歯が心臓を止めている感覚すらする。
呼気を一つ、鬼人化し、腰を入れて大剣特有の溜め切りのモーションへと入る。こうしてしまったらもう後戻りは出来ない。死ぬか生きるか。彼は今その瀬戸際に立たされている。
吠えながら滑空する空の王者。
少しずつ停滞していく時間。
ゆっくりと彼の目の前に死が迫る。
それを跳ね除けるように
「だぁぁぁぁ!!!!」
彼は大剣を振り下ろした。
腕が吹き飛んだのではというほどの衝撃。鱗と甲殻、骨が割れる感触と音がして、空の王者は地面へと倒れた。
「は、は、は、は」
鬼人化を解除し、体の緊張を解いた瞬間、彼の体をリオレウスの尻尾が打った。完全に油断していた彼は踏ん張りも、受身を取ることも出来ずに壁に叩きつけられる。
カハっと肺から空気が出たせいで変な声が出た。
「負けた、か…」
詰みだ。体は動かないし、腕も大剣を振れない。
死ぬ。端的な事実が突き刺さるが不思議と恐くはなかった。体には痛みと充足感がある。
「(あの傷じゃ、もう長くはないだろ…)」
空の王者は頭から血を流している。致命傷だ。その証拠に少しずつだが双眸から生気が抜けていっている。
止めを刺されるかと思っていたが、リオレウスはこちらを一瞥すると背を向けてリオレイア、妻の亡骸へ寄り添うようにして地面へ体を付けた。
リオレウスは戦っていた時とは信じられないくらい優しい声で息子である幼竜を呼んだ。
おいで、と息子へ言っているように彼には聞えた。
寂しそうに泣く幼竜。リオレウスは数度、息子の涙を拭うように舐めると息を引き取り、死んだ。
「――」
彼は壁に背を預けながらその光景を目に焼き付けた。
幼竜は死んだ両親を見て、その後にこちらに向かって飛んで来た。まだ上手く飛べないのか見ていてこっちがはらはらした。
目の前に幼竜は降りた。その目には涙はあっても憎悪のようなものは見て取れなかった。
「俺が憎いか?」
幼竜は首を横に振った。もしかして、この子は人間の言葉を理解しているのだろうか?震える手で幼竜を撫でてやると、両親を思い出したのか切なそうに鳴いた。
狩りは終わった。後は報告するだけだ。全身に痛みがあるが、大剣を杖にして立ち上がる。
幼竜がこちらを見ていた。正直言えばこれ以上ここにいるのも、この竜に関わるのも得策ではない。飛竜の死を嗅ぎつけたランポス達がやって来るからだ。それに、幼竜の前で両親の体から素材を剥ぎ取るのも気が引けた。どちらにせよギルドの方が多少素材を剥ぎ取って自分に渡してくれるのだから問題は無い。
自然の真理は弱肉強食。この子が生き残るのも死ぬのもこの子次第だ。だが、無垢なその目を見ているとこのまま見捨てて戻る事が出来そうになかった。
「ハァ…」
我ながらお人好しだなぁ、なんて愚痴りながら幼竜へと視線を向ける。
「一緒に来るか?」
そう言うと飛竜は頷き、自分の隣を飛んで付いてきた。
「(こんなもん、偽善もいいとこだぞ、全く…)」
あの光景を壊してしまったせめてもの罪滅ぼし。もしかしたら、あの時リオレウスが自分に止めを刺さなかったのはこれを予見していたからなのだろうかと有り得ない事を考える。
「んじゃ、行くか」
彼は幼竜と共に出口に向けて歩き出した。
幼竜である彼の心境は複雑なものであった。父を殺した男とこれからを共にするのだから。それでも不思議と憎しみは無い。
父にあの男を怨むなと言われたからか、それともこれが自然の摂理だからと自分が納得しているかは幼竜である彼には分からない。
隣を歩く男は今にも倒れてしまいそうで、父との戦闘がどれだけのものだったかを想像させるのは難くない。
父は人生最期の敵がこの人できっと満足だったんだろう。そうでなければ死ぬ間際にあんなに晴れ晴れとした顔で逝きはすまい。
「あ、そうだ。忘れてた事があった」
男は立ち止まり、こちらを見てきた。何か忘れてきたのだろうか?
「名前を教えとかなくちゃな」
そういえばそうだった。父はこの男の名前を知らなかったし、自分も知らない。父を殺した相手に名前を知らないとはなんとも間抜けな話だなと幼竜は思いながら男の声を耳を傾けた。
「俺の名前は――」
幼い竜は、これからを共に歩んでいく男の名前を胸に刻み込んだ。
どうも凡人Mk-IIです。
以上で狩人の戦いは終了となります。
いやぁ、気紛れに書いてみたモンハンの小説でしたが、いかがでしたでしょうか。
皆様の暇つぶしになってくれたのならば幸いです。