帰り支度をする才蔵に、剣を差し出す女……
「おお。
世話んなったな、露!」
「なあに」
受け取った剣を、鞘から抜き剣を陽の光に当てて見た。
「いい剣じゃねぇか」
「欠けた摩利包丁の一部も、鍛え直して使ってある。
今度は、大事に使いなよ」
「んー承知」
露の話を聞きながら、才蔵は腰に鞘を身に着け立ち上がり、階段を下りて行った。
「もう行くの?
久しぶりの、里帰りなのに」
「あまり長居は、できねぇんだ」
「信州の真田だっけ?
随分と、居心地よさそうじゃない」
「あ?」
「意外ね。
アンタは、一つの場所に留まらないと、思ってたけど……」
「……」
「クス!
じゃあね!何かあったら、また来なよ!」
露に手を上げ、才蔵はその場を立ち去った。
伊賀の里を歩く才蔵に、里の者は才蔵の名を呼びながら指を指したり、その里に暮らす女は、顔を赤くして惚れているような表情を浮かべながら、才蔵を見送った。
「久しぶりの、穏やかな日々だったな……」
伊賀の里を出ながら、そう思った才蔵……
ふと、空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。
「おー!良い天気!
旅日和!」
心地いい風が吹き、木々がざわめいた。
「(静かだ……)
お前の出番は、しばらくないかもな」
剣の束を触りながら、才蔵は剣に言った。
(一人でいたころは、いつもこうだった……
いつの間にか……多くの声に囲まれるようになっていた)
思い出す、伊佐那海達の姿……
(……何、思い出してんだ……
寂しい訳じゃあるまいし!!
そもそも、うるさすぎんだアイツらは!!
たまの『ひとり』ってのを、ゆっくり満喫して、帰ろう)
「キャァアア!!」
女の叫び声に気付いた才蔵は、その声がした方に目を向けた。
声の主は、鎌之介から逃げてくる伊佐那海だった。
「テメェ!!伊佐那海、このクソ女!!
菓子で路銀、使い果たしやがって!!」
「だってお腹空くんだもん!!
それに、旅って言ったら、おやつは付き物でしょう!?」
「俺は甘ぇモンが、大っっ嫌いなんだよ!!」
「そんなの知らないもん!!」
言いながら、伊佐那海は鎌之介に向かって舌を出した。
その行為にキレた鎌之介は、錘が着いた鎖を伊佐那海目掛けて投げつけた。
「死にさらせぇ!!クソ女ぁ!!」
「伊佐那海ぃ!!」
鎌之介の後を、追い駆けてきた清海と弁丸は伊佐那海を助けようとしたが、鎌之介にぴ着く事が出来ずにいた。その中、鎌之介が投げつけてきた鎖が伊佐那海に当たりかけた。
その時、伊佐那海の後ろからクナイが飛んできて、投げつけてきた鎖の穴に刺さり、その動きを封じた。
「あ?」
「あ……」
「伊佐那海!鎌之介!
何やってんだ、お前ら!」
その声が聞こえ、伊佐那海と鎌之介は声の主である才蔵に目を向けた。才蔵を見た伊佐那海は、喜びからか才蔵に飛びついた。
「才蔵ぉ!!」
「コラ!!抱き着くな!!
つーか、何でここにいんだよ!?」
「才蔵に、会いに来たのぉ!!」
「あ!才蔵!」
「不純異性交遊はいかーん!!」
「んだよ、坊主(清海)にガキ(弁丸)まで、いんのかよ」
伊佐那海に駆け寄って来る、清海と弁丸を呆れた顔をしながら、抱き着いていた伊佐那海を下ろした。
「伊佐那海か離れよ!才蔵!!」
「だぁってぇ!
才蔵ってば、一ヶ月も伊賀に行ったまんまで、寂しかったんだもん!
本当に、寂しかったの……」
子犬のような目を浮かべて、才蔵を見ながら伊佐那海は訴えた。そんな伊佐那海に、才蔵はため息をついた。
「で、鎌之介は?
伊佐那海のお守りなわけねぇだろうし」
「上田の外で殺り合うなら、邪魔入らねぇと思ってよ!!
一発殺ろうぜ!!才蔵!!」
鎖鎌を構え、才蔵を指差して叫ぶ鎌之介……
「鎌之介!!
才蔵は、アンタとなんか殺んないわよ!!
そんなことのために、上田から来たの!?バッカじゃない!?」
「何でテメェらに、馬鹿呼ばわりされなきゃならねぇんだよ!!
オウ、そこどけクソ女!!
俺の快楽の邪魔、すんじゃねーよ!!」
「嫌だ!!離れないもん!!」
鎌之介に対抗するかのように、伊佐那海は才蔵に抱き着いた。
「上等だ!!もう、テメェは殺す!!」
「我が妹に、何という暴言!!
鎌之介、そこに直れ!!」
攻撃しようとした鎌之介に、清海は顔面を殴り攻撃を阻止した。殴られた衝撃で、鎌之介はその場に俯せに倒れてしまった
「説法してやる!!」
「オッチャン、鎌之介が聞くわけないよ!
オイラが、吹っ飛ばしてやろうか?」
「テメェら……揃いも揃って、うっぜぇ……
もうアレだ……
まとめて殺る……殺るに限る。
説法!?吹っ飛ばす?上っっ等だ!!
その前に、俺らがテメェらを切り裂いて」
「いい加減にしろ!」
頭を上げ起き上がろうとした鎌之介に、才蔵は鎌之介の頭を足で踏み立ち上がるのを阻止した。
「天下の往来で、殺るだの何だの連呼してんじゃねぇよ!!
騒々しいんだよ!!お前ら!!(あぁ……短かった。俺の穏やかな日々)」
信州上田……
煙管を銜え、縁側に座る幸村と六郎……
「若、誰があの者達に、伊賀行きを許したのですか?」
「さぁなぁ……
そういえば、暇だ暇だと喚いていた奴らに、散歩して来いとは言ったかのう……」
「随分と、長い散歩になったようで」
「儂のせいではあるまい」
「……前々から申し上げようと思っておりましたが……
若は些か、物事を軽く見過ぎる傾向があります。
明日花の外出許可の時も、何の心配もなく許可を出していましたが……
もし、伊佐那海と明日花に万が一の事があったら、どうなさいます!?
二人共、何も変わりはないですが、いつどうなるか……」
「ふむ……」
「伊佐那海が恐怖を感じることがあってはならないのです!!お分かりか!!」
「分かっておる。そう喚くな」
「わ、喚いてなど……」
「あれ(伊佐那海)は才蔵とおる方がよい。心が落ち着くのだろう。
無論明日花にも、師である甚八がここ(上田)に滞在しておる。その間は、心配ないであろう。
それに、伊佐那海には清海に弁丸、鎌之介までついって行ったのだ。何とかなるであろう」
「鎌之介は、当てにならぬでしょう」
「ハハ!だろうな!」
「若!!」
「だから、喚くなって!」
「誰のせいでだと思いか!!」
呑気な幸村に、遂に切れた六郎は術を掛けながら、大声で幸村を怒鳴った。
場所は変わり、上田の森……
“バーン……バーン”
的に火縄銃の弾を当て、射撃練習をする十蔵……
打ち終わると十蔵は、何やら納得のいかないような表情を浮かべながら、火縄銃を見た。
そんな十蔵に、練習を見ていた甚八が声をかけた。
「どうした?浮かない顔だな、十蔵」
「連射すると、繋ぎ目が緩むのだ……どうしても、照準が狂ってしまう。」
「そのサイズで、連射式は無理あんじゃねぇか?
連続発砲の衝撃に、銃身が耐えられねぇんだろ?」
「携帯には、便利なのだがな……」
「長筒なら、他にも積んであるぜ。明日花に取りに行かせるか?」
「明日花は、数日前から出かけているであろう」
「あ!そうだった。
んじゃあ、取りに行くか?」
「……
いや、今は上田を離れるわけにはいかん!
困った連中が、才蔵を追って出て行きおったからな!」
「ククク!才蔵の奴は、モテるんだなぁ。
女に好かれそうな面してやがるし。
それに……
忍の手練手管は、凄いらしいからな。女なんて、イチコロだろ」
「お主は、真昼間から、何とふしだらな事を!!
ここに明日花が居たら、どうするんだ!?」
「今はいねぇし、知らねぇよ。
それにいいじゃねぇか。やることもなくて、暇なんだし」
「仮にも、勇士であればやることがあるはずであろう!!」
「やることねぇ……!」
何か思いついたのか、甚八は起き上がり立った。
「ンじゃ、ちょっくら花街で、やって来るかぁ!」
「なぜそうなる!?」
「やれっつったのは、十蔵じゃねぇか」
「そういう意味ではない!!」
「悪ぃが、一回火が点いたら止められんたち(性質)なんでな。こりゃ、女に消して貰わねぇと!
おーいヴェロニカ、一緒に行かねぇか!?」
ニヤついた顔をしながら、十蔵に“じゃ”っと手を上げて森の中へと行き、どこかにいるヴェロニカの名を呼びながら去って行った。
「甚八!!
しようのない……(あれに二年間育てられた明日花が、あの様にならなくてよかった……)
もう少し、調整するか」
森の中を駆ける佐助……その後を追うように走る動物達。
「ハハ!
速くなったな!多雨!良い子!
?雨春!?」
後ろを見ながら、威嚇の声を出す雨春に、佐助はすぐに後ろを振り返った。
そこにいたのは、自分に近付いてくるヴェロニカのだった。鳴き声を上げながら、ヴェロニカはゆっくりと佐助に近付き獲物を捕らえたかのように睨み襲い掛かった。
「おーい!ヴェロニカ―!
どこに行きやがったー?おーい!
ん?」
ヴェロニカを捜しに、森を彷徨う甚八……
すると、どこからか笑い声が聞こえ、甚八はその声がした方へ行くと、そこではヴェロニカとじゃれ合う、佐助がいた。
「ハハ!舌、ざらざら!
肉球!大きい!可愛い!」
じゃれ合う佐助に、甚八はじっと見た。その視線に気付いた佐助は、じゃれ合うのをやめ、顔を真っ赤にして彼を見た。
「真田忍隊の隊長って、案外暇なのな」
「否!!」
「あーハイハイ、平和でいいなぁ」