膝を付いていた明日花が、刀を握り締めふら付く足で立ち上がった。
明日花を見つめる優助……
『紫苑が!?』
信幸の口から聞いた悲しい報せ……
紫苑が亡くなった……
(あの日、どれだけ気持ちを抑えたか……
報せを聞いた時、君にどれだけ会いたかったか……
泣き叫ぶ君が、どれだけ目に映ったか)
立ち上がった明日花に、優助は刀を振り下ろした。その攻撃を明日花は、転がり避け優助の見た。
(あの日……
会いたかった……
母さんが死んで、ここ(上田)にいればいつまた、アイツ等が襲いに来るか分からない……
だから、上田を出た。
誰にも気づかれないうちに……
でも離れる前に、一瞬でいい……ほんの数秒でいい……
会いたかった……
会えば胸に突っかかる、これを取り除けると思った……
でも、やっぱり……道が分からなくて、行けなかった)
優助の後ろへ回り、刀を振りかざした明日花……
その瞬間、優助は振り返り刀を突いた。突いた刀の先は、明日花の頬を傷つけ、明日花の振りかざした刀は、優助の肩に浅く傷を付け、二人は背を向かせて互いから距離を置いた。
その攻撃を見ていた才蔵は、驚きの顔を隠せないでいた。
(あの二人……一瞬力を抜きやがった)
背を向け、動こうとしない二人……
(ずっと会いたかった……
母さんが死んで、どうすればいいか分からなくて……
上田を出た後も、ずっと……ずっと)
その時、明日花の頬から流れ落ちた一滴の血……
流れた血と共に、明日花は優助の方を振り返った。振り向いてきた明日花の姿を、優助は顔だけ振り向いた。
(明日花……
やはり君は、何も変わっていなかったようですね……
あの頃の君と、何も変わっていない……)
優助の目に映る、明日花の幼き姿……
振り返り、一瞬で明日花に近付き刀を振り下ろした。その刀を明日花は刀で払い避け、優助の背後へと回り刀を振り下ろした。
「!!」
振り下ろした刀は、優助の背中を切り裂いた。背中を斬られた優助は刀の軸を変え、明日花の腕に出来ていた傷をさらに切り裂き攻撃した。
腕から血を出した明日花は、腕を押さえて優助から離れた。
腕から出た血は、ポタポタと舞台の地面へと落ちた。
(……!?)
優助は、明日花の腕から流れ出ていた血に目を流しながら、地面を見るとそこから不気味な色をした木の根の先が、生えているのが見えた。
その木の根を見た優助は、腰に着けていたポーチから煙玉を二個取り出し明日花目掛けて投げつけた。煙玉は煙を放ち、舞台にいる明日花と優助の姿を消した。
「何だ!?」
(煙玉?!)
煙玉を投げつけられた明日花は、腕で口と鼻を覆い隠しながら、舞台を歩こうとした時、目の前に優助が現れた。明日花が何かを言い掛けた時、優助は明日花の口を塞ぎ小声で話した。
「この勝負は引き分けです。
明日花、知らず知らずのうちにあなたの技が発動しています」
「……」
黙り込む明日花……
優助は口から手を離し、下を向く明日花をしばらく見た後、二人は同時にその場から離れた。
煙の中から飛び出てきた二つの影……
幸村側に転がって出てきた明日花と、信幸側に出てきた優助……
「明日花!!」
「優助!!」
煙が晴れ、二人が居なくなったに気付いた審判は、慌てて両手を上げた。
「両者共に舞台から落ち失格。よってこの勝負、引き分け!!」
審判をの結果を聞いた観客は、盛り上がり一斉に歓声を上げた。声が鳴り響く中、明日花は刀を鞘にしまい幸村と才蔵の方を見た。
「……言った通りでしょ?
負けはしないって」
「……みてぇだな」
「明日花ちゃん、傷大丈夫!?」
「こんなもん、掠り傷」
伊佐那海にそう言いながら、明日花は槍が突き刺さっている場所へ向かった。
その時、目に入ってきた煙草を吸いながら、いつまでも舞台を見る甚八の姿……
「死合中に、涙流す奴がいるか?」
「……」
小声で言う甚八……明日花は、足を止め甚八に振り向いた。煙草を口から離し、煙を吐き出す甚八はさらに続けた。
「お前等、遊び過ぎだ。半分遊んでただろ?特に前半」
「……やっぱり、バレてた?」
「バレバレだ……」
その答えを聞いた明日花は、若干微笑み槍のもとへ行った。
信幸のもとへ出てきた優助は、刀をしまい信幸の方に目を向けた。
「いったい、どういうつもりだ?」
「……」
「答えよ!!優助!!」
「負けてはいません。
それでいいのでは?」
「っ……」
「鉄棍棒を取りに行くので、僕はこれで……」
信幸に一礼すると、優助は信幸の前を通り、鉄棍棒が突き刺さっているもとへ行った。
槍のもとへ着いた明日花は丁度その時、信幸側から来る優助の姿が目に映った。
歩んでくる優助の姿を見る明日花……
明日花の槍の隣に突き刺さった鉄棍棒を引き抜いた優助は、ふと彼女を見た。
「……
良い目付きになりましたね」
それだけを言うと、優助は鉄棍棒を握りその場を去って行った。
『いつか、明日花と勝負してみたいものですね』
『本当!?』
『えぇ』
『じゃあ、もっと腕あげていつか、父さんと同じぐらい強くなったら、勝負して!!』
『良いですよ』
『やったぁ!!約束だよ!』
『はい、約束です』
まだ幼い明日花と交わした約束……
(まさか、こんな形で勝負になるなんて……)
去りながら、優助は自分の手を見てその時の事を思い出した。
「それでは十番勝負を開催します!
第五死合い、両者前へ!」
「ほいほーい!
今度はオイラが、勝っちゃうから!!」
「弁ちゃん、頑張って!!」
「まっかせといて!!」
張り切りながら、舞台へ降り立った弁丸……
だがそこに、対戦相手が来なかった。
「あれー?
オイラの対戦相手は?」
「信幸様方の武芸者!早く舞台へ!」
籠を持ち上げようとしているのか、籠を揺らす弁丸の対戦相手……
すると、ようやく籠が上がったかと思った瞬間、その籠は爆発した。
「な!?」
「ええ?ば、爆発!?」
「やったな、ガキ」
「へっへー!
ここに来る前に、籠見つけたからさ。ちょちょいと細工しといたんだー!
ま、戦は先手必勝だよね!」
「うわぁ……」
「さすが、弁丸としか言いようがない」
槍を引き抜きながら、弁丸を見た明日花……
「これは、勝敗どうなりますか……」
「うーむ」
「誰だ!!こいつは!?」
籠を見ながら叫ぶ信幸……
籠の中にいた者の襟を掴み上げながら、信幸は言い放った。
「これは、俺が選んだ武芸者ではない!!
もしや!!」
他の籠を見る信幸……
「幸村様!」
そこへ、町の偵察に行っていたアナスタシアが、姿を現した。
「やっと、出番かよ」
その時、『陸』と書かれた紙が貼られた籠が、中から真っ二つに斬られ、その中にいた者が出てきた。
「よ!真田の!」
中から現れたのは、長剣を担いだ政宗だった。その姿を見た伊佐那海は、才蔵に掴みを身を縮込ませた。
「伊達……政宗!!」