目を覚ます優助……
起き上がろうと体に力を入れるが、なかなか入らずやっとの思いで、体を起こし辺りを見回した。
「……?」
自分が寝ていた場所から少し離れたところに、体中に包帯を巻き眠る明日花がいた。
「よう……
目ぇ覚めたか?」
その声の方に目を向けると、そこにいたのは縁側に腰掛けで煙草を吸う甚八だった。
「甚八さん……」
「お変わりねぇご様子で、優助」
「お久しぶりです。
驚きましたよ。まさかあなたが、幸村様に仕えていたとは……」
「仕えてねぇよ。暇潰しにここ(上田)にいるだけだ。」
「そうでしたか……
紫苑が亡くなった後、明日花はあなたが?」
「あぁ、まあな。
紫苑から、頼まれてたことだし、俺はそれをは守ったまでだ」
「縛られるのが嫌いなあなたが、よくもまぁ子供の面倒を見るなどといった約束事を」
「そいつは、一切俺に迷惑をかけなかったぜ?
だから、俺は好きなようにやらせて貰ってたぜ」
「おや、そうですか」
「お前と明日花の闘い見せてもらってたが、お前ら遊び過ぎだ。」
「久しぶりの再会でしたからね。
僕ら少々、燥いでいたのでしょう」
「そうかい。
それより、そいつに感謝しろよ」
「ハイ?」
「三日続けて、禁術とされていた回復術使って、お前を治したんだ」
「三日続けて!?」
「自分の体にできた傷も放置して、治療したんだ。アンタの傷、肺まで切られていたらしくて、相当ヤバかったみてぇだぜ?」
「……」
「禁じ手を使ってまで、お前を助けたかったんだろうな。」
「……
禁術は、例えどんなに体力のある者でも、使えば三日は動けないとされている術……
それを三日続けて使った……だとすると、明日花は」
「二週間近く寝込んでた。まぁ佐助が言うには、血の出し過ぎもあるだろうだとさ。」
「……」
「けど、覚めた後はお前の傍から、ずっと離れなかったぜ?
寝る間も惜しんで、ずっとお前の看病。
全く、父親想いのガキでよかったな」
「父親といっても、本当に父親ではありません……
それに、例え紫苑と結ばれていたとしても、僕等には子供などできませんでしたから」
「何でだ?」
突然言い出した優助に、甚八は煙草を口から取り煙を吐き出し、振り向き質問をした。
優助は眠る明日花の寝顔を見つめながら、話をし出した。
「ある戦乱中、紫苑は敵が放った矢を腹に喰らってしまいました。
命は何とか取り戻しましたが、それと引き換えに子供が産めない体になってしまったのです……
それから間もなくして、ずっと仕えていた武田氏が滅び、僕との約定も破棄……
あの時の紫苑は、おそらく不幸のどん底にいたでしょう……
そんな時でした……
紫苑が明日花を見つけたのは。拾ったこの子はなぜかは知りませんが、とても僕等二人に似ていました。神社にいた神主や姐さん達が、口を揃えて言っていましたから……
紫苑はよく言ってました……
『この子は、神様が私達のためにくれた、私と優の血を引いた子供』だと」
「……」
「……どうりで、紫苑が明日花をあそこまで、可愛がるわけだ」
甚八の言葉に、笑みを溢す優助……
「しかし、その子供は普通の子供ではなかったようですけどね」
「ま、そうみてぇだな」
甚八の声に反応するかのように、寝ていた明日花が目が覚めたのか、目を擦りながらゆっくりと起き上ってきた。
「じゃ、俺はここで。
優助」
「?」
「八年ぶりの再会だ。思いっきり甘えさせろ、明日花に。
それとそいつが背負ってる重荷、外してやれ。紫苑が死んでから、あんまり気ぃ緩めてなかったみてぇだし……」
「……」
「じゃあな」
手を上げながら、甚八は庭を通りその場から去って行った。
「甚?」
目を擦り、開けながら庭を見る明日花……
優助は、目覚めた明日花の頭に控えめに手を伸ばし乗せた。その感触に気付いた明日花は、すぐに振り返り優助を見た。
「……優」
「目が覚めましたか?明日花」
目覚めた優助を見ながら、明日花は体を優助の方へ向けた。優助は彼女の頭を撫でながら笑みを浮かべながら話し出した。
「とても強くなりましたね、明日花。
槍の腕も、刀の腕も、最後に見た時とは比べ物にならないくらい、とても上達していました」
「全然……強くなんか…」
「いいえ……
まるで、紫苑と戦っているようでしたよ」
その言葉を聞いた明日花は、顔を上げ優助を見た。
「……んで」
「?」
「何で、あの時……会ってくれなかったの?」
「……」
「来てたよね……徳川の手下と戦ってた時。
私が敵の攻撃に当たりかけた時、助けてくれたよね?」
「……」
その言葉を聞いた優助は申し訳なさそうな顔つきへと変わった。
「紫苑が亡くなった時……
傍にいてあげられなくて、すみませんでした」
「!?」
「亡くなったと聞いて、本当はあなたのもとへ駆けつけたかったんです……
あの日、信幸様の用で出掛けており、その帰りに君を見かけたんです……紫苑と同じ、狐の面を着けて槍を持った君に。
一目だけ見ようと思い、君に気付かれないように見ていました。
けど、君の事を徳川へ知られてはまずいと思い、君達二人と縁を切って別れたのに……
君の姿を見ただけで、もう満足だと自分に言い聞かせ、帰りました……
帰る際、どれだけ思いを抑えどれだけ我慢をしたか……
言い訳の様な言い分で、すみません……」
「……いいよ」
「……」
「だって……あの時、私も……私も、優の元へ行きたかった……
それに、あの日追い駆けたんだよ……優のこと。優に会いたくて……」
涙声で話す明日花……
優助は顔を上げ、明日花の顔を見た。彼女の目からは次々と滝の様に涙が溢れ出ていた。
「あの時……母さんが死んで……
ずっと……ずっと……!!」
何かを言い掛けた明日花の頭を、優しく撫でる優助……
優助の顔を見た明日花は、堪えていた涙が一気に溢れ出し、座っている優助に飛び付いた。優助は飛び付いてきた明日花を受け止め、頭を撫でてやった。
「ずっと……ずっと……
優に会いたかった……
母さんが死んで、これからどうすればいいのか分からなくなって……
それで、それで」
「もういいですよ、何も言わなくて……
辛い思いをさせましたね……明日花」
「もういいよね……もう、呼んでいいよね?
父さん」
「いいですよ……もう。
ここには、誰もいません……誰も」
そう言いながら、優助は泣く明日花を強く抱き締めた。それと共に彼の目から涙が流れた。