才蔵の後ろに姿を現したアナスタシア……
「お疲れ。どーよ?」
「会津と奥州が睨み合って、佐和山も駿河も騒がしいわ」
「だろうな……
ここんとこ、領内に入り込む間者の数が半端ねぇ」
「えぇ、ここに来るまでもいたわ。
佐助は?」
「見回り警戒中」
答えると、才蔵は深く息を吐いた。そんな才蔵に、アナスタシアは不思議そうに質問した。
「何よ、どうしたの?」
「……
十番勝負って、何だったんだろうな?」
「……疲れてんじゃない?
三日くらい、寝てないでしょ」
「あぁ……」
「何か納得いかない事でもあるの?」
「別にねぇよ」
「あらそう……なら、いいけど。
十番勝負の後から、一気に動き出したわ。
さすがの幸村様も、腰を上げるでしょうね……
来るわよ?朱い世界が」
そう言いながら、アナスタシアは空を見上げた。
一方、上田では……
国の戦支度の手伝いをする清海……
「重い物は拙僧に任せよ!」
「おお!凄い怪力!」
「頼りになるねぇ、あの御坊さん」
「ホントホント」
「清海!」
国の様子を見に来た幸村は、木材を運ぶ清海を呼んだ。
「お主のお陰で、力仕事が捗るわ」
「おお!幸村様!
十番勝負では、不覚を取った故もっともっと、修行せねばと!
ウォォォオオ!!
心頭滅却すれば、火もまた涼し」
叫びながら、清海は木材を運んで走って行った。
「修行って……
戦支度だってこと、分かってんのかな……清海のオッチャン」
弁丸の声に気付いた幸村は、振り返り丘の上にいた弁丸を見た。
「大手門の補強……
物見櫓の新造……
堀も深くしてる。
城が囲まれた時の、備えでしょ」
「聡いのう、弁丸分かるのか」
「この城の事は、頭に入ってるからね」
「ではもし……
徳川が、軍動かすならどう来る?」
その質問に答えるかのように、弁丸は幸村の傍へと行き座り込み、地面に落ちていた枝で図面を書き出した。
「中山道を西へ……
その道中、ここ(上田)を攻めるだろうね。目障りな真田を無視して通るとは、思えないもん」
「おお、正解だ。
敵はここで迎え撃つ!
上田とその民を守らねばならんからな」
「……
でも、城を守り切っても……稲は全部刈られちゃうんだ……」
「……」
「籠る兵を誘い出す、常套手段さ。
そしたら、戦が終わっても百姓は飢え死にだよ。
オイラみたいな、親のない子供がまたいっぱい増えるんだ。
オイラだったら……
オイラだったら、城だけじゃなく田も守って見せる。
敵なんて、国境で全滅させればいい」
「それが出来たらのう」
「出来るさ!!
敵の足元を、すくえばいいんだ!!
やり片なら、いくらでもオイラの頭の中にある!!」
真剣な目で、幸村を見ながら弁丸は言い切った。そんな弁丸を呆気に見る幸村の目に、言い過ぎたと思った弁丸……
すると、幸村は弁丸の頭に手を乗せた。
「……お主には、畏れ入ったのう。
お主の言う通り、城だけでなく田も守らねば!食いっぱぐれるのは、ごめんだからのう。」
「幸村様……」
「そなたの知恵、上田のために貸してくれんか!
儂は大事な事を忘れておった」
「うん!」
「急な呼び出し……
何か大きな動きが?」
幸村の部屋に呼ばれた才蔵達……
「……とうとう……か」
「……」
「よーし、集まっておるな!」
襖を開け、入ってきた幸村は、部屋に集まっている皆を見ながら言った。入ってきた幸村は、座りながら話し出した。
「今日は、皆に大事な報せがある!」
「報せ?」
「何れ国中に、触れることになるが……
お主達には、先に伝えておこうと思ってな。
皆、知っての通り儂には子がおらん!ゆえにこの度、養子を取ることにした」
「……」
「で、いつ、デートする?
俺様はいつでもいいぜ」
「懲りない男ね……
明日花、何とかして頂戴」
「知らない」
「ハァ!?」
「ハァ!?」
一瞬言葉を失った才蔵達は、声を上げて驚いた。そんな才蔵達にお構いなしに、幸村は持っていた扇でその人物を指した。
「では、紹介しよう。
弁丸。
お主は今日から、望月弁丸を改め、真田大助だ!」
「え!?」
「お主は、勇士ではなく、儂の跡継ぎとなる!」
「えぇええ!!」
物見櫓で、作戦を練る弁丸……
そこへ、才蔵が姿を現した。
「よ!ガキ!精が出るな!
良かったじゃねぇか!侍になりたかったんだろ?
いきなり、跡継ぎが出来たって、国中大騒ぎだぜ。
全く、いつも突然すぎんだよな、あのオッサン。
……オイ」
「幸村様!」
「いっちょ前に、もう跡継ぎ気取りか、ガキ」
「真田大助!」
「こんのガキ……
もともと、可愛げのねぇのが、ますます憎たらしくなりやがって……」
その時、持っていた筆を床に叩き付けながら、大助は才蔵を睨んだ。
「オイラ、仕事してるんだ!
才蔵には、才蔵の仕事があるだろ!
油売ってないで、ちゃんとしろよ!」
「……
あーハイハイ!
ちゃんとしますよ!若様!」
そう言い放ちながら、才蔵はその場を去って行った。
縁側で柱に背凭れながら座る明日花……
「あの弁丸が……まさか幸村の、跡継ぎになるなんて」
「弁丸?
その名は確か、幸村様の御幼少時代の」
「幸村が付けたんだ。
六郎と同じ名前だったから、それで」
「そうだったんですか……
?
どうしたんです?浮かない顔をして」
「……
今まで、同じ勇士だったのに……
いきなり、跡継ぎになって……この先、どう接すればいいのかなって」
「……
今まで通りで、いいんじゃないんですか?」
「?」
「幸村様に仕えていた時の紫苑はどうでしたか?
神社にいた時と何か変わっていましたか?」
優助の質問に、明日花は首を左右に振った。その答えを見た彼は、笑みを溢し話を続けた。
「なら、明日花もそうしてみては?」
「今まで通りに、接すればいいってこと?」
「えぇ。
名前が変わったところで、人は変わりません。ただ地位が変わるだけのこと。
その方が大助様も、安心なさると思いますよ」
「……」
「明日花」
「?」
「あなたは、いずれその大助様に仕えるでしょう。」
「私が?」
「紫苑と僕が、幸村様と信幸様に仕えているように……
あなたもいつかは、真田家の者に仕えます。」
「じゃあ、新しい主が」
「大助様になると思いますよ」
「……」
優助の話を聞いた明日花は、顔を上げ朱く染まった空を見上げた。
森へ来た才蔵……
「才蔵!」
そこへ、見張りをしていた佐助が、才蔵の前に姿を現した。
「おう、佐助か。
いや、弁丸のガキがさ」
「間者多い!
警戒、怠るな!」
「会ってすぐ、テメェもそれか!!」
「シッ!」
「?」
突然、静かにするよう才蔵に命じる佐助……
「才蔵!」
大輔が自分を呼ぶ声が聞こえ、二人はすぐに声がした方へ向かった。
向っていると、その先に袋を抱えた忍が一人は知っていた。
(あのガキ!!さらわれてやがる!!)
前を走る忍を追い駆けるも、相手に追いつけずその差はどんどん広がって行った。
(チ!!速ぇ!!)
すると、木の葉の中からもう一人の忍が姿を現し、才蔵達にクナイを投げ放った。投げてきたクナイを、才蔵はクナイを投げ放ち弾き返した。すると、弾いたクナイから煙が上がってきた。
(仕込み毒!!)
「あばよ!!」
(しまった!!逃がしちま……!!)
逃したと思った瞬間、大助を抱えた忍の体が上下真っ二つに斬れた。その光景に驚いていた仲間の背後から、後頭部を切り裂き顔を真っ二つに斬った。
それに驚いた佐助と才蔵は、すぐにその場に駆け付けた。同時に忍を斬った者もそこへ、刀を持って降り立った。
「何ですか?あなた達」
「!!」
「腕落ちたんじゃないんですか?」