火の勇士よ」
「俺はそういう位置付けっすか」
(何だと!?)
突然言い放った幸村……
その言葉に、才蔵は驚きを隠せないでいた。
半蔵を見ていた伊佐那海は、幸村の言葉にショックを受けていた。
(な…何で……
アイツのせいで、皆酷い目にあったのに!!
お兄ちゃんも弁ちゃんも、佐助も筧さんも皆……
それに、六郎さんの……)
あの時の事を思い出していた伊佐那海……
怒りの感情が襲い、首が徐々に黒い痣に覆われてきていた。それに、気付いたのか一端足を止め、深呼吸をし心を落ち着かせた。
(落ちつけ……落ち着けアタシ……
幸村様がああ言うのには、何か深い訳があるんだ。
悪く……悪く考えちゃだめだ)
「ふっざけんな!!」
声を荒げる才蔵……
「何でこいつが、勇士なんだよ!!」
(主君に、酷い悪態ですね……)
「いつも言っているであろう。
全ての出会いは必然であると」
「必然?
明日花の母親が殺されたのも!?こいつが俺達を襲ったのも!?
六郎さんの右眼だって」
「才蔵!」
「!?」
「それ以上は、いらぬことです」
殺気立ち、苛立つ才蔵……
そんな才蔵に、半蔵は肩に縛られている手を置いた。
「まあまあ、そう殺気立たずに!
君の主が、火の勇士っだっつーんだから信じましょ。
いやぁ、勤め先が早く決まって安心しましたよ。
あ、これ……もう解いてもいいですか?」
縛られた手を上げながら、半蔵は笑い才蔵を見た。
怒りに満ちていた才蔵は、半蔵を無視して城の中へと入って行った。
その様子を、部屋から見ていた優助……
手の平には、水の塊が浮いており、そこに映る半蔵と幸村達……
(……やはり、家康の手下でしたか……)
城に入り、縁側を苛立ちからか、づかづかと歩く才蔵……
角を曲がろうとした時、蕎麦を持った桶を手に、伊佐那海が現れ才蔵に危うくぶつかりそうになった。
「お、お蕎麦あるよ?」
「いらねぇ」
「あ、あの」
「あ?」
鋭い目付きで、才蔵は伊佐那海の方を振り向いた。その視線に、ビクついた伊佐那海は、恐る恐る口を開いた。
「これ、スッゴク美味しいんだよ!
の、残しておくからね!食べたくなったら」
「いらねぇっつってんだろ」
そう言い放つと、才蔵はそのまま自分の部屋へと行ってしまった。
部屋に入った才蔵……
障子を閉めると共に、深く息を吐いた。
「(アイツが、火の勇士だと!?
アイツが……)
あぁ……くそ!」
「アナがなびいてくんねぇ!!」
城へ戻り、十蔵に愚痴を漏らす甚八……
十蔵は、呆れ顔で甚八に言った。
「今に始まったことではないではないか」
「今日なんか、デカイ氷まで出して……
スッゲェ不機嫌みてぇだったし……
どうすりゃいいんだが」
「お主、またアナをからかっておったのだろう」
「からかってねぇよ。
俺様はいつだって本気だ」
「まぁ、蕎麦でも食べて落ち着け。
余りに美味でな、これはお主の分だ」
そう言いながら、十蔵は蕎麦が乗ったお膳を甚八に出した。
「……酒はあるか?」
出された酒を飲みながら、甚八は蕎麦を口へ運んだ。
「!
うめぇな!」
「であろう」
「ここにアナがいて、酌の一つでもしてくれりゃあもっとうめぇのに……
あいつ、変に距離を置きやがって……
見てて、歯痒いったらありゃしねぇ」
「仕方あるまい。あれほどの事をしたのだ。
アナも以前の様には、振る舞えぬだろうな」
「そうさせたのは、誰だろうな」
「それは無論、服部半蔵であろう。
アナに反間(二重スパイ)をさせていた……」
「……
分かってねぇな」
「しかしお主、アナスタシアの事、本当に気に入っておるのだな。」
「おお!気に入ってるぜ!
初めて会った時に、強烈にきた!まるで、紫苑と会った時みてぇにな……
氷の上に悠然と佇んでよ、カッコイイったらありゃしねぇ。
あの眼、あの胸、腰も尻も、申し分ねぇ」
「お主が嫌われる理由が、何となく分かったぞ」
「嫌われてねぇっての!
アイツは怖がってんだよ」
「は?」
「色々慣れてなくて……」
「……」
「可哀想な女だよ」
「甚八……」
「あの体を、利用しねぇなんて、宝の持ち腐れだ!」
「お主、そこに直れぇ!!
ここに、明日花が居たらどうするんだ!!」
「何で、そこで明日花が出てくんだよ!!
俺様は、アイツの保護者じゃねぇ!!」
「全く……
お主、淋しいのではないのか?」
「あ?」
「優助がここに滞在してから、明日花はずっと彼の傍におる。
少しは淋しいのでは?」
「全然……
アイツには俺様なんかより、父親の優助の傍にいた方が良い。
色々我慢し過ぎなんだよ、アイツは……
紫苑が死んでから、ずっとな」
森を歩く明日花と優助……彼女の手には、森で摘んだ花が握られていた。
「父さん、こっち!」
優助を連れて着た場所……そこは、紫苑が眠っている木の所だった。
「この木の下に、母さんが眠ってるんだ……」
「そうですか……(紫苑)」
花を添えながら、明日花は手を合わせた。彼女に続いて優助も手を合わせた。
(紫苑……明日花の元へ連れて着てくれて、ありがとうございます)
ふと目を開けた明日花は、優助の方を見た。彼の目からは一筋の涙が流れ出ていた。
(母さん、私父さんに会えたよ。
限られた時間の中、父さんに母さんと過ごした日々の事、たくさん話すからね)