井戸で顔を洗う大助……
「あ!
手拭い忘れた……」
「はい、どうぞ」
「!ありが……
え……わぁああ!!」
叫び声に気付いた佐助達は、すぐにその場に駆け付けてきた。
「大助様!!」
「どうなされましたか?」
「何事だ!」
「凄い声だったぞ!」
「あら皆さん、おはようございます」
「!!」
腰を抜かし尻餅を突いた大助の前に、手拭いを手に持って立つ半蔵……
するとそこへ、槍を持った明日花が大助の前に降り立ち、半蔵を槍で攻撃した。
「何で……
何で、アンタがここに!!?」
「痛いなぁ……」
「貴様!!服部半蔵!!」
「あ~……
ですよねぇ……
そういう反応しなりますねぇ」
「何故、此奴が上田に!?」
「即、殺す!!」
槍をしまい、明日花は刀を抜こうと束に手を翳した。
「明日花、止めなさい!」
「?!」
「十蔵、清海、落ち着いてください。
詳しい話は若が、なさいますので……
明日花、今すぐ刀から手を離しなさい」
「……」
黙り込んだ明日花は、束を握っていた手を震えながら離した。その後ろで、立ち上がった大助は、心配そうな顔で明日花を見た。
「明日花の姉ちゃん……」
「……!
大助、大丈夫か?」
「う、うん」
「なら、いい」
大助に目を向けた明日花は、薄く笑みを溢すと幸村の部屋へと向かった。
幸村の部屋へ来た佐助達……
「挨拶が遅れてすみません!
昨夜から、火の勇士になりました、服部半蔵です!よろしく!」
笑みを浮かべ、手を差し伸べながら挨拶をする半蔵……
「火の勇士!?」
「何で、こんな奴が!!」
(アラ無視……)
「此奴は徳川の忍!!
その上二度も上田に、攻め入った輩ではありませんか!!」
「昨日の敵は今日の味方……と言うわけだ」
「伊佐那海を狙った男を、仲間にするなど、拙僧は認めん!!
見ろ!現に伊佐那海が怯えておる!」
「母さんを殺した男を、何で仲間にすんの!?」
「皆の気持ちもわかる……
が……
弁丸は勇士の器ではなく、類稀なる『将棋』を備えておる。
その弁丸が抜けた今、『業火』の半蔵が上田に舞い戻った……これは宿命」
「宿命って……」
「それに半蔵は昨日、曲者にさらわれかけた大助を救ってくれておる。
悪意があって、上田に来たわけではあるまい」
「それも此奴の、手かもしれんのではないか!!」
すると、半蔵の後ろの壁に寄りかかり立っていた明日花が、半蔵に近付き蹴りを入れた。その反動で半蔵は庭へと飛ばされ、城壁に当たり止まった。
「明日花!!」
「……んで」
「?」
「何で、アンタが生きてんだよ!!
それにどうして、コイツをここ(上田)に!!」
「聞いたでしょ?
俺は『業火』。火の勇士。だから迎え入れられた。
あなたの得意の技である、木の技なんかあっと言う間に俺の火の中……」
「っ……
クソォ!!」
その場から駆け出し、刀を抜き半蔵に斬りかかった。半蔵は笑みを溢し、その刀を右腕で受け止め攻撃を防いだ。
(!!義手?!
しかも、硬い!!)
「驚きましたよ。
あなた、刀も使えるんですね?」
「黙れ!!」
「止さぬか、明日花!」
「?!」
幸村の止める声に、振り返り明日花は幸村を睨んだ。
「何で……だって!!」
「俺から補足申し上げますが……
現在は完全に、自由契約で徳川とは何の繋がりもありませんから、その辺お気になさらず」
「狸と繋がりが無くたって、アンタが母さんを殺したのには間違いない!!」
「もう、それくらいにしとけ明日花」
「けど!!」
「忘れよとは言わぬ。
が、服部半蔵は火の勇士として、迎え入れる!」
(だと思った)
「どうしてよ……
どうして……」
「しかし、我等もだが……
伊佐那海は……」
「……アタシは」
心配した清海は、後ろに座っている伊佐那海に振り向いた。伊佐那海は、口を籠らせながら、才蔵の方を見た。
「そうだ!才蔵はどう思う?
この男にはお主は、一番悩まされたであろう」
「……勝手にしやがれ」
投げ捨てる様に、才蔵は幸村の部屋から出て行った。
「才蔵……」
去っていく才蔵の背を見つめていた明日花は、刀を鞘へとしまいその場から立ち去ろうとした時だった。
「あれ?
もう終わりですか?」
「……」
「じゃあ朝ご飯にしましょうかね!
こんな大人数で、食べるなんて伊賀の里にいた頃以来ですよ!
どうです?あなたも」
「……さい」
「はい?」
「うるさいっつってんのよ!!
私は、アンタなんか認めてないから!!」
そう叫ぶと、明日花はその場から駆け出しどこかへ行ってしまった。
手の平に水の塊を浮かべ、その様子を見ていた優助……
「(僕等の主だけでなく……紫苑までもが、この者の手に)
?
明日花……」
優助の部屋へとやってきた明日花……
手の平に浮かべていた水の塊を消し、優助は部屋へと入ってきた明日花に声を掛けた。
「どうかなさいましたか?」
「……
父さん」
「?」
「主が決めたことって、絶対なの?」
「……
そうですね。
絶対、ですね」
「っ……」
握っていた拳を震えさせながら、明日花は優助の傍で座り込み下を向きながら、涙を抑え込むようにして、体を震えさせていた。
そんな明日花を、優助は手を伸ばし抱き寄せ優しく話した。
「落ち着きなさい、明日花……
怒りと憎しみの感情を、持ってはいけませんよ」
「分かってる……分かってる……
けど」
「あなたの気持ちは、痛いほど分かります。
あの者なのでしょ?紫苑を殺ったのは」
「だから……だから」
「落ち着きなさい……
今は……辛抱なさい」
声を出さず、涙を流した明日花は、優助の胸に顔を押し込め悔しそうに泣いた。
森へ来た才蔵……
(いつも、勝手に決めやがる!!
弁丸の事も半蔵の事も!!
それにいつもあの態度!!殿様だろうが何だろうが!!
ムカつく)
「由利鎖鎌奥義一目連!!」
突然目の前、大風が吹いたかと思いきや、その中から鎖を才蔵の腕へと巻きつけ、満面な笑みを溢しながら鎌之介が出てきた。
「飯時で邪魔がいねぇ!!
今が好機!!殺ろうぜ才蔵!!」
手に絡まった鎖を、才蔵は引っ張り鎌之介を引き付けた。
「やっとその気になったか!!
由利鎖鎌奥義巨旋風!!」
才蔵目掛けて風を起こす鎌之介……
「テメェと殺るには、最初っから上げてかねぇとな!!
行くぜ!!行くぜ!!行くぜ!!」
風の中を潜り、鎌之介は鎌を才蔵に振りかざした。
「殺ったぁ!!」
やったと思い込む鎌之介……
すると才蔵は、鎌之介の鼻に掌手を喰らわせた。鼻から血を出した鎌之介は、一瞬よろけその足に才蔵は足払いをした。
(速ぇ!!)
倒れた鎌之介に、才蔵はクナイを投げつけた。鎌之介はすぐにその攻撃を避け立ち上がり、風を起こした。
「ヒャッハァ!!
奥義、破裏剣」
風を起こす鎌之介……
だが、目の前にいたはずの才蔵は、そこにいなかった。
すると、鎌之介は後ろから只ならぬ殺気を感じた。
後ろへ回った才蔵……
才蔵は、鎌之介の首に蹴りを入れた。
(全っ然……
見え……
ねぇ!!)
倒れ込んだ鎌之介に、才蔵はクナイを取り出し投げた。
クナイは倒れた鎌之介の体に、突き刺さった。
「フヒッ!!
たっまんねぇ!!」
声を上げて喜ぶ鎌之介の口を、才蔵は手で塞ぎ見下ろした。
「こんな力量で、俺と殺り合うだと?
ギリギリの瀬戸際だと?
殺ろうぜ殺ろうぜ、うるさく言うわりには、まるで相手にならねぇじゃねぇか!!
テメェなんかとじゃ、滾りもしねぇ!
一人で勝手に善がってんじゃねぇよ!!
気分転換にもならねぇ!面白くねぇよ鎌之介!!(クソ……)」
鎌之介の口から手を離し、才蔵は去って行った。