鋭い棘が身に食い込むようになった。
その棘はこの男(幸村)の『優しさ』だ。
彼の暗殺にしくじった私を城に置き、何事もなかったかのように笑い掛ける……
仕事をするたびにその棘(優しさ)が深く突き刺さる。
もう辛い……
彼の一言、断罪してくれたなら……私は救われる。
『今まで通り、真田の勇士として生きよ』
痛い……痛い!!
『酷い男!!』
また棘(優しさ)が突き刺さる。これを終わらせてくれない……
『あんまりだわ……』
『他の連中とは、これまで通りとはいかぬかもしれぬ……
だが……ここ(上田)におれ。
おれよ、アナ』
『それが私への、罰だというの』
『そうだ……生きて儂に仕えると、約束しろ』
『……違えたら?』
『お前は、そんな女じゃないさ』
笑いながら、幸村はそう答えた。
―――――ああ……
私はしくじった……
もう、逃れることも自ら命を絶つこともできない……
深く刺さったとげによって、ずっとここに縫い付けられた。
『『自由』だっつったのによぉ……
可哀想な女だ』
思い出すアナスタシア……
「どうした?」
「……
幸村様はね……
異形衆との戦いの後こう言ったの。
『今まで通り、真田の勇士として生きよ』って……」
「それ……だけ?」
「そうよ、それだけ」
「全っ然分かんねぇ……
あのオッサン、何考えてんのか……分っかんねぇ」
「そ、じゃあね」
笑みを浮かべ、アナスタシアはその場から立ち去った。
一人になった才蔵は、その場に座り込み仰向けに倒れた。
(何か……疲れた……
もう……どうにでも……)
目を閉じ、才蔵はそのまま眠ってしまった。
木の枝の上で座り見張りをする佐助……
すると、佐助の膝の上で寝ていた鼬が何かに気付いたのか起き上がった。その様子に、佐助は鼬が向いている方に目を向けると、鎖を引きずりながらトボトボと歩く鎌之介が姿があった。
「鎌之介?」
様子がおかしい事に気付いた佐助は、枝から飛び降り鎌之介の顔を覗き込んだ。
「何してる?」
鎌之介の顔には、涙が浮かんでおりまるで魂が抜けたかのような表情になっていた。
「鎌……」
呼びかけた佐助だが、鎌之介は何も答えず、歩みも止めずどこかへと行ってしまった。
目を覚ます才蔵……
「寝てた……のか」
起き上がりしばらくすると、風が吹き森の木々がざわついた。
「何だ?」
上田城……
「キャア!!
誰か!!誰か!!」
叫ぶ侍女たち……
「ふ―――――う……」
深く息を吐く甚八……
目の前には、殴られたのか口から血を流し、殴られた箇所を擦る幸村がいた。
「痛いのう」
「ムカつくなぁ……
その飄々とした面」
「突然やってきて、何ということを!!
下がりなさい、甚八!!」
「アンタにゃ、用はねぇよ!」
「これ以上の狼藉を、働くなら容赦しませんよ!!」
「六郎!」
「若は黙っててください!!」
後ろを向き、幸村に怒鳴る六郎の頭を、甚八は鷲掴みにし、技を出そうとした瞬間口に自分の親指を入れ防いだ。
「アンタが、黙ってな!」
右手でつかんでいた六郎の頭に、甚八は雷を放った。
(あ、頭が……痺れ……)
六郎は力なく、そのまま倒れてしまった。六郎を倒した甚八は、幸村の胸元を掴み殴りかかった。
「若……」
「一発ぐらいじゃ、アイツらの痛みにゃほど遠いんだよ!!」
「幸村様!!」
騒ぎに気付いて飛んで帰ってきた佐助は、甚八の右手に踵落としを喰らわせた。その痛みで甚八は幸村から離れ、それを見た佐助は甚八に蹴りを入れようとした。
だが、甚八はその蹴ってきた足を受け止め、佐助を投げ飛ばした。
「テメェも、すっこんでろ!!」
投げ飛ばされた佐助は、障子を壊し部屋の中へと飛ばされてしまった。
「じ、甚八!!
どういうことだ、これは!!」
「どうしたの?」
その騒ぎに、十蔵は慌てて甚八のもとへと駆けつけてきた。十蔵と同時に、伊佐那海もその場にやって来た。
森から帰ってきた才蔵は、屋根の上から騒ぎを見て驚いていた。
(何してやがるんだ……)
殴られ、頬を擦る幸村の様子を見た十蔵は、甚八を睨み怒鳴った。
「甚八、お主!!」
「うるっせぇ!!
俺様はコイツ(幸村)と、男同士の話をしてんだよ!!」
「何が気に入らぬ?」
「ああ!?
何がじゃねぇよ!!どういうつもりだ!!
あの半蔵を、ここ(上田)に迎えるだと!?
アナスタシアと明日花はどうすんだ!!」
「っ……」
「知ってんだろうが!!
半蔵がここにいたら、アナスタシアは今までよりもっと苦しむんだ!!
明日花にとっちゃあ、アイツ(半蔵)は母親の紫苑を殺った目の敵だ!!
何もかも飲み込んで、それでもここに仕えろって言うのか!!二人に!!」
「……そうだ」
「テメェ……ふざけんなよ!!」
右手から雷を放ち、幸村に殴りかかろうとした時、後ろから十蔵がその手を止めた。
「下がれ甚八!!それ以上はならん!!
幸村様がいかに、寛容なお方だろうと、踏み越えてはならん一線がある!!」
「……一線だと?
んなも、知るか!!」
十蔵の手を振り払った甚八は、雷をさらに強く放ちだした。
「甚八!!」
「殿様だろうが何だろうが、許せねぇもんは許せねぇんだよ!!」
その言葉にキレた十蔵は、甚八の顔を容赦なく殴った。
「頭を冷やせ馬鹿者が!!
たかが女子の事で、幸村様に手を上げるなど、言語道断!!」
「たかが女子だと!?」
甚八は、隙が出来た十蔵の顔面を殴った。殴られた箇所を押さえながら十蔵は、甚八を睨んだ。
「そ、それでも武士か……兄弟!!」
「じ、甚八さんも筧さんも、止めようよ」
怯えながら、伊佐那海は二人の喧嘩を止めようとした。
「ガキは口挟むな!!」
「で、でも……喧嘩はよくないよ……」
「伊佐那海は下がっておれ!!
子供が口を出すことではない!!」
「……ヤダぁ」
二人に怒鳴られた伊佐那海は、涙を出しながら訴えた。
「皆のこんな姿……見たくないよぅ……
笑っていようよ、いつも通り。こんなの違うでしょ……」
「テメェ等が笑ってる時に、ただ一人笑えねぇ女と、いつまでも我慢してる女のために、俺様は今ここに立ってんだ。」
「お主、伊佐那海の訴えも聞かず……そこに直れ!!」
甚八に殴りかかろうとする清海……
その時、甚八の前に明日花が降り立ち、清海の足を蹴り体制を崩した隙を狙い、清海の手を掴み背負い投げた。清海は地面へと、投げつけられ伸びてしまった。
「あ、明日花……」
「……」
「明日花、下がれ」
「……けど」
「下がれと言ってんだ」
「!?」
甚八の怒りに満ちた顔を見た明日花は、何も言い返すことができず、その場から下がった。
「甚八!!いい加減にせんか!!」
「甚!!」
後ろから甚八を押さえる十蔵だが、甚八は十蔵の腕を掴み地面へと叩き付けた。
気を失った二人……
幸村の方へ振り返った甚八は、再び殴りかかろうとした時、部屋に飛ばされていた佐助が爪を構えて、甚八に攻撃してきた。佐助の攻撃を、甚八は難なく避け佐助は幸村の前に立ち、爪を構えた。
「退け、甚八!!」
「しつけぇな!!」
迫ってくる甚八……
近くで止まり、右手に雷を起こし攻撃を構える甚八……
地面を蹴り、甚八に突進する佐助……
振り払った刃は、甚八の頬を斬り付けた。
「佐助、止めて!!」
「明日花は黙ってろ!!」
「!!」
二人の争いを見る才蔵……
(止めねぇと……
どっちを!?)
「大人しく、退いてやがれ!!」
佐助を攻撃し、雷を起し幸村に攻撃をしようとした。
悩む才蔵の横を、誰かが横ぎり、その争いを止めに入った。
「絶海!!」
「!!」
幸村の前に降り立ったアナスタシアは、甚八に向かって氷を放った。アナスタシアが放った氷は、雷を起していた甚八の右手に当たり粉々に砕かれた。
幸村の前に立つアナスタシア……
「何してんのよ、アンタ……
私のことは、アンタがとやかく言う筋合いじゃないわ。余計なお世話って言葉、知らないの?」
「余計なお世話……ね。
本当は奴(半蔵)が怖くて、震えてるくせによ。
素直に言えばいいじゃねぇか。『アイツが怖い』『アイツが嫌いだ』って……」
「生憎、そんな弱い女じゃないの」
「弱い女だろ。
今でも逃げてるじゃねぇか。殿様からも俺様達からも……
変に距離置いて、何だありゃ。
自分を気にしてくれって、誘い受けか?あん?」
「……」
何も答えないアナスタシア……
「……船へ帰る」
「!?」
「いつまでも、そうしてりゃあいいさ」
振り返り、歩み出す甚八……
すると甚八は、明日花を見ながら口を動かし何かを伝え、その場を立ち去った。何かを聞いた明日花は、去っていく甚八を追い駆けようとはせず、その後ろ姿を見つめた。
「若……」
「ハハハハ……」
「……」
「甚八……」
「う……うう…
うわぁああん」
泣き出す伊佐那海……
「あーらら、何ですかこれ?」
才蔵のもとへとやってきた半蔵……
「あっと言う間に、バラバラじゃないですか」
「誰のせいだと、思ってやがる!!」
「俺のせいじゃないですよ。
俺はここに雇われただけで、雇ったのは殿様ですし……
それでアンタらが、どう揉めようが知らねぇですよ」
(この野郎……)
「しかしまぁ、アンタ与頭でしたっけ?
まとめ役が、不甲斐無いとこうなりますよねぇ……
こんな連中に、俺の異形衆が負けたのは、納得がいかねぇですね……
あの時はアンタら、まとまり合ってやり辛かったっすよ。
アンタ、与頭向いてないんじゃないすか?」
甚八の背を見る明日花……
(どうして……どうしてこうなるの……)
顔を下に向かせ、明日花は声を堪えて涙を流した。
(何で……何で……
もう、分からない……
どうすればいいか、もう分からない……もう)