誰を止めればいいのか、分からなかった……)
「アンタ、与頭向いてないんじゃないすか?」
(この野郎……ニヤニヤしやがって!!
全てはテメェが、引き金だろうが!!)
泣き叫ぶ伊佐那海……
そんな伊佐那海に、アナスタシアは近寄り優しく声を掛けた。
「泣くのはやめなさい。
分かってるでしょ、伊佐那海」
「う……うん……
うん……」
涙を拭きながら、泣き止む伊佐那海……
アナスタシアは、屋根の上にいる才蔵を見た。アナスタシアに続き伊佐那海も、涙目で才蔵を見た。
才蔵は、二人から逃げるようにして、その場を去った。
逃げて行く才蔵の背を見た明日花は、振り返りその場を去ろうとした。
「明日花、待て!!」
行こうとした明日花の手を、起き上がった十蔵は握り引き留めた。すると明日花は、十蔵の手を振り払い、振り返り十蔵を睨んだ。
「これ以上、私に何をしろと言うの」
「……」
「何が勇士だ……何が仲間だ……
こんなの……
こんなの、単なる幸村のわがままに過ぎない!!」
「明日花!!お主」
「私は、アンタ達みたいな、主に忠実な犬じゃない!!」
「お主!!」
十蔵の手が、明日花に触れようとした時だった。
「!!?」
「!?」
十蔵の手に、明日花を守るかのように、鋭い木の根が十蔵の手を斬り付けた。腕から血を流した十蔵は、手を引き明日花を見た。
「明日花……」
「……がう」
「?」
「違う……私は、何も……」
怯えきった顔で、そう訴えると明日花は、その場から立ち去った。
(何で……どうして…
何もやってない!!十蔵を傷付けようなんて、思ってなかったのに!!)
城を出た明日花は、涙を流しながら森の方へと行った。
森へ来た才蔵……
半蔵の言葉を思い返しながら、森を歩いていた。
(……半蔵の奴、最初からこれが狙いで!?
上田にい突くことで、勇士の間に溝を作り……
俺達が互いに、争うように仕向けたんじゃねぇか!?)
その時、才蔵の目に前に突如現れた忍……忍は持っていたクナイを才蔵に振り下ろした。
才蔵は、その攻撃を避け忍を睨んだ。
(忍!?
こんなところまで、侵入を許して!!
何やってるんだ、うちの忍隊は!!)
「真田の霧隠だな?
その首、俺が頂く!!」
「うるせぇ、とっとと失せろ」
攻撃してきた忍を、才蔵は蹴り飛ばした。だが忍は、体勢を崩さず立ち尽くし、才蔵にクナイを振り上げ攻撃した。その攻撃を才蔵は避けたが、その隙を狙われ足を掴み、転ばせ才蔵を、気に叩き付け才蔵の腕から流れ出た血で術式を書いた。
(しまった!!縛術か!!)
「フフ……
フハハハハ!!見事捕らえたぞ、霧隠才蔵!!
この、服部半蔵様がな!!」
「半蔵?お前が?
俺が知ってる服部半蔵は、もっと気色悪い奴だ。騙ってんじゃねぇよ」
「それは任務に失敗した、愚かな忍の事だろう!」
(ちっくしょう、抜けられねぇ!!)
「徳川殿は、失敗を決して許さぬ!!
『服部半蔵』とは、最も優れた忍だけが、名乗りを許される名跡!!
すなわち俺が現、服部半蔵である!!」
才蔵の首目掛けて、クナイを突き付けてくる忍……
その攻撃を、上から降りてきた半蔵が刀で防いだ。
「趣味悪い、武器ですね」
「!……」
「こんなのが、半蔵ですか?
いやいや、ホントに勘弁してくださいよ」
止めたくないを払い、半蔵は忍の体を八つ裂きにした。
目の前の状況に驚いた才蔵は、半蔵を見ながら口を開いた。
「テメェ、何で……」
「ねぇ!ちょっと今の見ました!?
あんなのが俺の代わりだなんて、あんまりじゃないですか!?」
「……」
「ホンット、あの狸爺(徳川家康)……
人を見る目ないっつーか、アホっつーか……救えないっすね!!
これが半蔵とか……何それ、信じられない!
服部半蔵を、ナメんじゃないですよ……」
「……」
「で?あなた、縛られる趣味がおありですか?
そういえば、俺とやった時も赤毛と縛られてましたもんね。仰ってくだされば、俺がいくらでも……」
「阿呆か!!」
「好きなんでしょ!?」
「違うわ!!」
「だって負けそうだったじゃないですか……
何、やけっぱちになってたんです?」
「もとはと言えば、テメェのせいじゃねぇか!!
テメェが引っ掻き回すから!!」
顔色を変え、半蔵は才蔵の後ろの木を叩いた。
「同じこと言わすんじゃねぇよ……
俺を雇ったのは殿様だ。それでアンタらがどうなろうが、知らねぇっつーの。
まとめ役のテメェが、勝手に臍曲げてるだけなのに、何言ってんだ?
テメェの仕事は、殿様疑って仲間ほっぽって……ねぇ頭で自問自答することかよ」
「!?」
「『答え』なんて、出ねぇだろ?テメェ一人じゃ」
(……俺は……
俺は……!)
半蔵に術を解かれた才蔵は、そこから飛びあがり木の枝に上り、半蔵を見下ろした。
「気持ち悪いんだよ!!」
「そこは素直に『ありがとう』でしょうよ」
鼻で笑い、才蔵はその場を立ち去った。
(……悔しいが、奴の言う通りだ……
俺は、何一人で……独りで!!
皆を独りにさせてた……
アナも甚八も明日花も伊佐那海も……)
木々を飛び移りながら、移動していると佐助の姿を見つけ才蔵は足を止め佐助を見た。
「……賊、倒したか。
頭……冷えたか」
「(俺を見てたのか、佐助も……)テメェはいつも、揺るがねぇな」
「真田の地、守る。
生涯、違えることなし」
「……スゲェよ、佐助」
肩を叩き、才蔵はその場から立ち去った。
ふと下を見ると、紫苑が眠る樹の前に明日花の姿を見つけ、才蔵はそこに降り立った。
「悩みが無くなったみたいだね」
才蔵の気配に気づいているのか、明日花は振り返らず口を開いた。
「まぁな」
「そう……なら、いいけど」
顔を伏せたまま振り返り、明日花は才蔵を通り過ぎ城へと戻って行った。
しばらくして、才蔵も城へと戻って行った。
場内の庭を掃く伊佐那海……
「?」
戻ってきた才蔵に気付いた伊佐那海は、手を止め才蔵を見た。
「あ……」
近付いてくる才蔵……
伊佐那海は、無理に笑顔を作った。
「お……お帰り、才蔵……
!?」
手を上げるなり、才蔵は伊佐那海の頭に乗せ雑に撫でた。
「もう大丈夫だ。
色々と」
「えへへへぇ!」
「くっ付くなって!!」
「才蔵、その髪どうしたの!?可愛い!」
「うっせぇ!!」