BRAVE10S   作:花札

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城へと戻ってきた明日花……


優助の部屋の前の、縁側で柱に背凭れながら座った。


積る思い

部屋にいた優助は立ち上がり、明日花の傍へと寄り声を掛けた。

 

 

「どうしたのですか?

 

その様な顔をして」

 

「……」

 

「……?

 

 

明日花、手を見せなさい」

 

「え?」

 

 

明日花の異変に気付いた優助は、明日花の腕を見るなりそう言った。明日花は理解が出来ず、仕方なく優助に手を差し出した。差し出した手を優助は、明日花の手袋を取り素手を見た。

 

 

「!!(これは……)」

 

(何……これ)

 

 

手袋を脱いだ手には、黒い痣が指先から手首まで広がっていた。まさかと思い、優助はもう片方の手にはめている手袋を取り、症状を見た。もう片方も同じ症状が出ており、指先から手首まで黒くなっていた。

 

 

「私……何も……何も」

「黙ってなさい、明日花」

 

「!?

 

けど……」

 

「目を閉じなさい」

 

「え?」

 

「何も考えずに、目を閉じて意識を集中させなさい」

 

「……」

 

 

優助に言われるがままに、明日花は目を閉じ深呼吸をし意識を集中させた。その隙に、優助は手から水の塊を浮き出し、その水に明日花の両手を入れた。

 

水は青く光り、黒い痣を消していった。

 

 

 

 

「……終わりましたよ」

 

 

その声に、明日花は恐る恐る目を開け、自分の手を見た。手には先程まで広がっていた痣が無くなっており、元の白い手になっていた。

 

 

「痣が……消えた」

 

「闇の力が出た、証拠です」

 

「え?」

 

「先程の騒ぎ、見ていましたが……」

 

「……」

 

「全ては、あの者(半蔵)が入ったせい……でしょうか?」

 

「……

 

 

傷付けたく……なかった」

 

「……」

 

「十蔵を、傷付ける気なんて……全然、思ってなかった……

 

なのに……それなのに……」

 

「それが……

 

あなたの力です」

 

「?!」

 

「昔言いましたよね。

 

あなたの闇は、怒りの感情……それから来ると」

 

「……」

 

「あの状況からして、明日花……

 

知らず知らずの内に、あなたの中に怒りが噴き出し、十蔵を」

「分かってる!」

 

 

耳を塞ぎ、声を荒げる明日花……

 

 

「分かってる……そんなこと……

 

怒りの感情を持つな……いつも、母さんに言われてた……

 

 

死んだ後、ずっと半蔵や狸に対する怒りを抑えてきた……

 

ずっと、抑えてきた……

 

それが……

 

 

それが……」

 

 

手を握り震えながら、明日花はそう訴えた。そんな明日花を優助は、抱き寄せ頭を撫でた。

 

 

「大丈夫ですよ……

 

あなたのせいだとは、誰も攻めてませんから」

 

「!?

 

だけど……」

 

「我慢していたのでしょう。

 

その怒りを……誰にもぶつけず……

 

ずっと…二年もの間」

 

 

溢れ出てくる涙……

 

抑え込めていた涙が、次々に溢れ出し明日花はその場に伏せ込み泣き出した。泣き出す明日花を、優助は明日花の頭を撫でながら、その涙が止まるのを只静かに待った。

 

 

 

 

森を歩く甚八……

 

 

『そういえばさ、何で甚は海賊になったの?』

 

 

酒を飲みながら、甚八に質問する紫苑……

 

甚八は、紫苑に目を向けながら、飲んでいた酒瓶を口から離し、答えた。

 

 

『自由だからよ』

 

『自由?』

 

『陸に上がりゃ、見えねぇ線で区切り分けされてんだろ?』

 

『まぁ、そうね』

 

『そこにいる限り、自分も誰かのものって訳だろ。

 

俺様は、誰のもんでもねぇ……俺の主は俺自身』

 

『……

 

縛られるの、嫌いでしょ?』

 

『真っ平、ごめんだ』

 

『アンタらしい。

 

私も、縛られるのは嫌い』

 

『言いながら、殿様に仕えてんじゃねぇか』

 

『殿方だって言ったって、私は好き放題させてもらってるよ。

 

だから、縛られてなんていない』

 

『お前のガキが、お前に似なきゃいいけど』

 

『ちょっと、その言い方どういう意味よ』

 

『そのまんまの意味だ』

 

『ちゃんと、説明しなさい!』

 

『お前みたいに、自由奔放な性格にならなきゃいいけどなって意味だ』

 

『アンタだって、同じじゃない!』

 

『あぁ、そうだったな』

 

 

頬を膨らませる紫苑……

 

甚八が笑みを溢しながら、酒を飲み始めた。そんな甚八を見た紫苑は、笑みを溢し酒を一口飲み話し出した。

 

 

『子供かぁ……

 

生まれてくる子供には、辛い思いさせたくないなぁ』

 

『無理だろ。陸に上がりゃ、そこら中で戦だ』

 

『……まぁ、そうだけど……

 

せめて……何も我慢せずに、伸び伸びと生きてほしいな……なんて』

 

『……』

 

『あ!

 

焼きもちやいてるでしょ?甚』

 

『ば、馬鹿なこと言うな!!』

 

『顔赤くなってるよ!』

 

『!!』

 

『アンタに似合う女なんて、探せばいくらでもいるわよ!

 

私は、優とくっ付くけどね!』

 

『喧嘩売ってるか?お前』

 

『全然!』

 

 

満面な笑みを浮かべる紫苑……

 

 

数年後、紫苑は子供を連れて船へと乗ってきた……

 

 

『まさか、本当にガキが出来たとは……』

 

『何よ!その反応。

 

私が、子供作っちゃいけないわけ?』

 

『んな事、誰も言ってねぇだろう』

 

 

隣にいる幼い明日花を抱き寄せる紫苑……

 

 

『母さん、この人誰?』

 

『この人は、私と義兄弟の契りを交わした男よ』

 

『義兄弟?契り?』

 

『母さんが、一番頼りにしてる男よ』

 

『じゃあ父さんと同じ人ってこと?』

 

『そういうこと』

 

『おいガキ、こんな女みてぇになるなよ』

 

『失礼ね!』

 

『ガキじゃないよ。明日花だよ!』

 

『明日花?』

 

『この子の名前。

 

光坂明日花。いい名前でしょ?』

 

『お前らしいな』

 

『どういう意味よ、それ』

 

『そのまんまの意味だ』

 

『……!

 

わぁ、猫だぁ!』

 

 

床で寝ているヴェロニカを見つけた明日花は、喜びながらヴェロニカのもとへ駆け寄った。明日花に釣られるかのように、紫苑の肩に乗っていたコノハは飛び降り、明日花のもとへと行った。

 

 

『お前と一緒で自由奔放だな。明日花は』

 

『言ったでしょ?伸び伸びと育ってほしいって』

 

『その通りに育ったな。

 

それより、お前今日どこに行くんだ?明日花連れて』

 

『信州の上田』

 

『上田?

 

何でまた』

 

『そこにいる殿様に、仕えることになったのよ。

 

明日花も一緒に、来ても良いって言うし』

 

『何だ、その殿様』

 

『自由気ままな殿様。

 

徳川にも就いてないしね』

 

『なるほどなぁ……

 

じゃああれか?優助はもう先に行ってんのか?』

 

『……

 

いないわ』

 

『?』

 

『あの人……私達と家族の縁切って、徳川に就いてる殿様のもとに仕えてるわ』

 

『……』

 

『今頃、どうしてるか……

 

全然、情報掴めず』

 

『良いのか?それで……』

 

『良いわよ。

 

あの人が決めたことだし、それに……』

 

 

言い掛けながら、紫苑はヴェロニカとじゃれている明日花を見た。

 

 

『……何かあったのか?』

 

『うんうん、何も』

 

 

どこか悲しげな顔で、紫苑は明日花を見つめていた。それに釣られて、甚八も明日花の方を見た。

 

 

『……ねぇ、甚』

 

『あ?』

 

『……

 

私が逝ったら、あの子の事お願いできる?』

 

『!?

 

何、言ってんだ?』

 

『ちょっと、質問に答えてよ!』

 

『答えろじゃねぇだろ!!

 

いきなりなんだよ!!縁起でもねぇこと言いやがって』

 

『人はいつかは死ぬ……』

 

『?』

 

『それがいつかは分からない。

 

 

もし、私が死んだらあの子、その先どうするのかなぁって……』

 

『……だったら、優助に頼めば』

 

『無理よ……

 

言ったでしょ?優助は私達と縁を切って、徳川に就いてる殿様に仕えてるって』

 

『……』

 

『徳川に、光坂一族の力は使わせたくないし、利用させたくもない……

 

だから』

『だから、俺様ってか?』

 

『そう。

 

誰にも仕えてない自由奔放の海賊さんに、か弱い女が頼んでるんですけど?』

 

『どこをどう見りゃ、か弱いんだよ。

 

くノ一のくせして』

 

『何よ、優助と一緒に酒の入った樽八本飲み干したでしょ?それで義兄弟の契り交わしたでしょ?』

 

『お前等は異常何だよ。

 

なら、今夜明日花がお前と同じ酒を飲み干したら、義兄弟の契り交わして、お前の頼み呑み込んでもいいぜ?』

 

『本当だね?それ』

 

『約束は守る』

 

『乗った。

 

明日花ぁ!酒飲むわよぉ!』

 

 

 

 

夜……

 

転がる空になった三本の樽……

 

 

『マジかよ……』

 

 

まだ飲む紫苑の足に頭を乗せ、眠る明日花……

 

 

『さすが、私の子』

 

『樽三本、飲み干しやがった……』

 

『約束通り、明日花と義兄弟の契り交わすんでしょうね?』

 

『無論だ。問題ねぇ』

 

『じゃあ』

 

『お前の頼み、引き受けてやるよ』

 

『ありがとう』

 

 

 

 

目的地へ上陸した船……

 

 

『やっと着いた』

 

『ご到着だぜ、目的地に』

 

『どうも。

 

また、飲み明かそうね、甚』

 

『おう』

 

『明日花!行くよ!』

 

 

ヴェロニカを撫でていた明日花は、紫苑のもとへと駆け寄り二人は船から降りた。

 

森へと入って行く二人を、甚八はボーっと見送っていると、明日花が振り返り、笑顔で手を振ってきた。それにつられて、紫苑も微笑み手を振った。

 

そんな二人に、甚八は手を上げ見送った。

 

 

 

 

二年後……

 

 

再び、その地へと上陸した甚八……

 

岸辺に目を向けると、そこに立つ明日花の姿……だがいつも傍にいたはずの、紫苑の姿どこにも無かった。

 

 

甚八は、船を止め明日花を船に乗せた。

 

 

船に乗った明日花が、言い放った一言……

 

 

『母さんが、死んだ……』

 

『!?』

 

『三日前、徳川の忍に殺された。

 

私を庇って……』

 

『……そうか』

 

『……なぁ。

 

 

槍の稽古、つけてくれないか?』

 

『稽古?』

 

『甚、槍の名人なんでしょ!母さんから聞いた。

 

だから……だから……』

 

『……』

 

『それに……

 

強くなりたい……』

 

『?』

 

『自分の身を守られるぐらい強くなりたい!

 

それだけじゃない!自分の大事な物、守れるようにも…だから……?』

 

 

訴えてくる明日花の頭を、甚八は雑に撫でた。

 

 

『行くぞ、野郎共!!』

 

『オォ―!!』

 

『……』

 

『手は抜かねぇからな』

 

 

その言葉を聞いた明日花は、力強く頷いた。




そして、二年後……


『上田に帰る?』


羽織に腕を通しながら、明日花は甚八に言った。


『何も伝えずに、上田を飛び出したから……

そろそろ、顔出した方が良いかなぁって』

『……紫苑とそっくりだな、お前』

『しょうがないじゃん。

あん時、変な扱いされたくて飛び出したんだもん……」

『まぁ、いいけどよ。どうせ通る所だし』

『恩に着る』


船を降り、明日花は上田へと帰った……




その事を思い出す甚八……


口に銜えていた煙草を離し煙を噴き出しまた銜え、森を歩く足を止めることなく進んだ。
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