悩みながら廊下を歩く才蔵……
「さぁ……どうもってくかなぁ……
(皆で団結しようぜ!!とかっつーガラじゃねぇし……
どうすりゃ、上手いこと勇士をまとめられるか……
明日花に相談できれば、いいんだけど……今の状態じゃあなぁ……
いざとなってみると、自分の無力さに呆れるな……)
ホンット、情けねぇわ……」
「才蔵」
歩いている、才蔵の前に突然六郎が現れた。
「少し、いいですか?」
才蔵を自分の部屋へと呼んだ六郎は、彼に茶を出した。
「どうぞ」
「ど、どうも……
(何か、よく分からねぇけど……)
!!
ゲエホ!!」
一口飲むと、お茶はとても苦く才蔵は、思わず吐き出し咽てしまった。
「苦っ!!不味!!
ちょ、何だこれ!
つーかなんか、すみませんでした!!」
「……それ」
「?」
「昔、若にも飲ませたことがあるのです」
「へ?(笑った!?)」
六郎は、手拭いを才蔵に渡し、才蔵は手拭いを受け取ると、口を拭いた。
「私は幼少の頃より、若にお仕えしておりますが……
最初は困惑したものでした。
あの通り、自由奔放で楽観的なお方ですから、見ていて呆れることもしばしば……
正そうとしても、こちらの言うことなど意にも介さない。そんな時、淹れてやったのです。
こちらを見て、話を聞けと言う意味を込めて」
「……」
「主従の従というのは、ただ黙って主に従えばいいというものではありません。
主のために、腑に落ちぬことがあれば、物申して当然。
ですが紫苑は、幸村様に合わせることなく、平然とした態度を取っていました」
「明日花の母親が?」
「えぇ、あの人は幸村様と同じぐらい自由奔放な忍でしたから。
才蔵は『忍』という立場上、主には忍んで従わねばと、思い込んでいませんでしたか?
それでは、雁字搦めになってしまいますよ。」
「(ああ……)全くだ(間違いじゃないと、言ってくれるのか)
(でも六郎さん、『いらぬこと』って言ってなかったっけ……)」
「この間の『いらぬこと』とは、私のことですよ」
(え!?何!?心読まれた!?
六郎さん、悟り?)
「私のこれは、もう過ぎたこと……でしょう、才蔵」
言いながら、右眼を指で指す六郎……
「ああ……」
「では、美味しいお茶でも飲みますか?」
「ハイ…」
お茶をご馳走になった才蔵は、六郎に礼を言い部屋を出た。
(慰められてんなぁ、俺……)
「才蔵!!見て見て!!」
廊下を走って来る伊佐那海……
「うるさいぞ夜中に……どうした?」
「着物仕立てたの!
丈、短くして、川遊び用に!」
「川遊び?何でまた……」
「明日、皆で川に行こうと思って!!」
「……」
「弁ちゃ……大助様と、六郎さんと幸村様は、お城を開けられないけど、筧さんと佐助は行くって!」
「?明日花は、どうしたんだ?誘わなかったのか?」
「誘おうと思って、少し前に優助さんの部屋に行ったんだけど……」
「けど、何だ?」
「明日花ちゃん、もう寝ちゃってて!
優助さんが、多分行かないだろうって」
「そうか…」
「アタシ、早起きしていっぱいお菓子作るんだ!
楽しみだね!才蔵!」
笑顔を向ける伊佐那海……
(……こいつは、素でこういうことが出来るんだ……
スゲェな)
伊佐那海と別れ、廊下を一人歩き部屋へと向かう才蔵……
角を曲がろうとした時、羽織を肩に掛けた優助と出くわした。
「アンタ……」
「……与頭さん…ですか?」
「え?
あ、あぁ」
「一杯、付き合ってくれませんか?」
「?」
優助に釣られて、才蔵は部屋へと行った。
部屋に着くと、優助は部屋の前の縁側に座り、酒の入った瓶を五本置いた。
(五本も……)
「どうぞ、隣」
「あ、ハイ」
隣へ腰を下ろし、優助から酒の入ったお猪口を貰い、酒を飲んだ。
飲みながら、ふと部屋を見ると、そこには寝息を立てて眠る明日花の姿があった。
「大丈夫ですよ。」
「?」
「明日花は当分、起きませんから」
「……」
「迷いが、無くなりましたね」
「!?」
「顔が、スッキリしてますよ?」
「……」
「あなたを見ていると、昔の自分を思い出します」
「?
そういや、アンタ確か……」
「武田軍隊長です。もと」
「やっぱり、アンタも苦労したのか?」
「えぇ……
丁度、明日花ぐらいの頃でしたよ。
隊長を決めると言い出して、候補に上がったのが僕と紫苑でした。
三日続けて決闘して決着がつかず、主は僕を隊長に、紫苑を副隊長にしました」
(み、三日も!?)
「当時は大変でした。
僕の命令など、誰も聞き入れて貰えずじまい……
それにキレた紫苑が、全部隊を呼びつけ一晩かけての説教……
まぁ、そのおかげで僕の命令を聞き入れてくれるようにはなりましたけど」
「ハハ……(さすが、明日花の母親)」
「しかし、作戦を立てるのは大変でした。
紫苑は何が何でも、一族にいた晃三さんを入れると言う一点張りで」
「晃三?
それって、盲目の奴か?」
「えぇ、そうですが……
なぜ、あなたが?晃三の事を?」
「以前京に行った時、明日花の一族に召集掛かってて、そん時に会ったんだ」
「おや、そうでしたか。
けど、あの方がいてくれて、色々と成功しましたけどね」
「……
訊いてもいいか?」
「ハイ?」
「政宗が明日花をさらったって言ってたが……
何で明日花は、何も覚えてなかったんだ?」
「……どうして、そう思うんです?」
「怖い体験をすれば、普通覚えてるもんじゃねぇのか?
どんなに幼い時でも」
「……
さらわれた時、あの子(明日花)がどれほどの恐怖を感じたかは、分かりません。
見つけた時、あの子は一心不乱に深い森の茂みの中を歩いていました。僕が前に立っても、気付かないほどでした……
歩いている明日花を、抱き上げ紫苑と待ち合わせている合流地点へと向かいました。
移動している最中、あの子はようやく我に戻り、僕の顔を見るなり突然、泣き出しました。」
「……」
「その後、紫苑とも合流して、神社へと戻ったんです。
しかし翌日……
あの子は……何も覚えてなかったんです……
それからですよ……
この子が、悪夢に魘されるようになったのは」
「悪夢?」
「えぇ。
毎晩、魘されてましたよ……
夜が来ると、いつもね」
言いながら、優助は後ろを振り返り眠る明日花を見た。寝返りを打ち、二人の方へと顔を向ける明日花は、どこか安心したような表情で寝ていた。
「けど、今はそんな悪夢見てないようですね……
明日花の寝顔を見て、分かります」
「さすが、親父だな」
「父親と言っても、本当の父親じゃありません。」
「あぁ、そうだったな」
「全部知ってるようですね……
まさか、明日花の力の事も?」
「オッサンから聞いた。
アイツの正体もな」
「そうでしたか……」
「政宗は、その力の事を知ってたのか?」
「さぁ……
知ってたんじゃないんですか」
「……」
「僕からも質問よろしいですか?」
「?
答えられる範囲なら、別に構わねぇが」
「紫苑が死んでからの、明日花の様子はどうでした?」
「……
何つーか……
壁、作ってるって感じでしたよ。
佐助にも筧さんにも、オッサンにも六郎にも……」
「……やはり、そうでしたか」
「?」
「あの子、背伸びしてたんですよ。
紫苑が死んだことで、自分の身は自分で守らなくてはならない……
多分、その頃は背伸びしてたんでしょう」
「じゃああれか?
甚八が来たことで、背伸びしてた足が崩れて、今の状態ってか?」
「そうでしょうね。
甚八さんは、明日花にとって安心できる場所なんでしょ。あなたとあの巫女さんみたいな関係でしょうね」
(んの野郎)
「何て、冗談ですよ。
で?あなたは、まだ聞きたいことがるようですね?」
「?!(何で、分かった?!)」
「『アンタ、本当に侍か』って……違いますか?」
「……あんた、悟りか?」
「さぁ……」
「アンタの言う通りの質問だよ」
「フフ……面白いですね、伊賀の忍さんは」
「ほっとけ」
「おやおや。
普通の侍ですよ。僕は」
「……」
「戦時中は、紫苑が攻撃をして、僕が紫苑を援護しながら攻撃すると言った戦略……
だから、紫苑を守り抜くがために、人の倍以上の修行をしましたから……刀のね」
「だから、あんな人並み外れたことを……」
「人並み外れたって……あなた達、忍もでしょ?」
(言えてる……)
「与頭さん」
「?」
「明日花は、おそらくここ(上田)を離れるでしょう」
「!?」
酒を飲みながら、優助は才蔵にそう言った。才蔵は酒の入ったお猪口を置き、立ち上がり優助を見下ろした。
「何で、アイツが!?
甚八が、出て行ったせいか?!」
「それもありますが……
半蔵が、ここ(上田)にいる限り、あの子は苦しむだけです……自分で自分の体に、刃を食い込ませているようなものです……」
「だったら…」
「金髪の人も……ですか?」
「!?(何だ、こいつ……
まるで全てを見通してる……)」
「しかしね、あの人は抑え込むことはできると思います……
けど、明日花には怒りの感情を持たせてはなりません……あの子の怒りの感情は、闇の力のもと……
目の仇……紫苑を殺した相手を前にして、幸村様に仕えよというのは、少々荷が重すぎます」
「……」
「もうあの子に、辛い思いをさせたくはありません……」
「っ……」
すると優助は立ち上がり、才蔵に顔を向かせ笑みを溢して言った。
「付き合っていただき、どうもありがとうございました」
「……」
「そろそろ、退却しないと……」
小声でそう言いながら、優助は部屋を指差した。部屋を見ると、寝ていた明日花が起きたのか、目を擦りながら起き上っていた。
「……」
「ね?」
「……酒、ご馳走さん」
優助に背を向かせ、才蔵はその場から立ち去った。
「父さん?」
起き上がり、寝ぼけているのか目を擦りながら、部屋を出てきて優助を捜す明日花……
そんな明日花に、優助は笑みを浮かべながら、明日花に近寄った。
「起しちゃいましたか?」
「誰か来てたの?」
「えぇ。ちょっとした、お客さんですよ」
「……」
「さぁ、もう遅いですから、早く寝ましょう」
目を擦る明日花を、布団へ寝かせた優助……
明日花は重い目蓋を閉じ、眠りに入った。そんな明日花の頭を撫でながら、暗くなった庭を眺めた。