BRAVE10S   作:花札

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江戸城―――――


「あの小賢しい田舎者がぁ!!」


家康は、広げていた紙をぐしゃぐしゃにしながら怒鳴った。


「チクチクチクチクと……人を小馬鹿にしおって!!

叩き潰すぞ!!」


ぐしゃぐしゃにした紙を床に叩き付けた。この紙が『直江状』……差出人は、名の通り『直江兼続』。


与板城―――――


手紙を受け取った家康の様子を、家来から聞き薄く笑みを溢す兼続……


「やはり、頭に血が上りましたか」

「兼続?あの……家康公がスッゴイ怒ってるみたいなんだけど……何かした?」

「フフ……いいえ。

お手紙をいただいたので、お返事を書いただけです」

「(え?いつ手紙着てたの?)でも…あの……なんかした?」

「殿はご自分の領土を整備したり、武器を増やしたりすることを、どう思われますか?」

「え?


それは……民の事を思えば、橋や道を造ることは当たり前だし……
いざ戦が始まって、参加しなきゃならないなら、槍も鉄砲も必要だし……普通じゃないかなぁ?」

「ですよね……

その普通の事に、尋常ではないイチャモンをつけてきたので、至極丁寧に他意はありませんよと、ご説明し上げただけです。


それで、お怒りになるなど……逆恨みも甚だしい(怒るように書いたのですが……少々やり過ぎましたでしょうか?)」

「うん……そうだね」

「殿は何もご心配なさらぬよう……

この直江兼続……上杉家を窮地に追い込むようなまねは絶対にいたしませぬので」

「うん!分かってるよ!兼続に任せる(頼もしい……)」

(そう……追いつめるのは我々。

三成殿と綿密に練ってきたのだ……


さぁ……藪から出て来い!狩るぞ……狸!!)


動き出す徳川

上田城―――――

 

 

「何だと?

 

鎌之介が上田からいなくなった?」

 

 

幸村は才蔵からそう聞くと、少し慌てた様子で体を起こし彼を見た。

 

 

「すまん……たぶん俺のせいだ」

 

「仔細は後で聞く。とにかく連れ戻せ!

 

甚八と明日花も一緒にだ」

 

「甚八の所にいるのか?明日花の奴」

 

「分からん……だが、可能性として彼の所にいる方が高い……

 

頼んだぞ、才蔵!

 

 

今、家康が上杉に向けて、兵を動かしている。万が一を考えて三人が欠けるのは、ちと困るのだ」

 

 

幸村から言われ、才蔵は早速鎌ノ介を捜しに森へ行った。

 

 

「(チックショウ…あのバカ……足取りが全然つかめねぇ!)

 

どこ行きやがった!!面倒掛けやがって!!」

 

『鎌ノ介?

 

鎖鎌引きずって、二日ほど前見かけた。様子、変』

 

 

佐助から聞いた話を思い出しながら、才蔵は目頭を抑えた。

 

 

(八つ当たりをした後だよな……あん時は、本気で凹っちまったし……

 

 

皆に迷惑かけたのは俺だ!!

 

しっかし、いつもなら痛ぇの喜ぶくせに!!何でいなくなんだよ!分かんねぇなアイツは!

 

 

とりあえず先に、甚八のオッサンと明日花だ!奴らなら戻ることは一つ!)

 

 

 

 

琵琶湖―――――

 

 

「だから帰らねぇって!」

 

 

琵琶湖に浮く、甚八の船を見上げる才蔵に、彼はそう答えた。

 

 

「今の俺様にゃあ、上田にいる理由がねぇ!元々、長居するつもりもねぇからな。明日花がいるっつうだけで、ここにいただけだ。

 

それに俺様は、殿様にもオメェ等にも悪いことしたとは思っちゃいねぇし」

 

「誰も謝れなんて言ってねぇし、それに今回は俺のせいで……」

 

「何言ってんだ…オメェなんか関係ねぇさ。

 

俺様が殿様に、愛想を尽かしただけだ」

 

「……」

 

 

自分を見てくる才蔵に、甚八は鼻で笑い口に銜えていた煙草を吸い煙を出した。

 

 

「そして……自分にもな。

 

偉そうなことを言っても、今の俺様じゃあの頑なな女を変えられねぇ……んなの情けなさ過ぎんだろ。

 

だから、アナを落とせるぐらい……ちょっくら漢(男)を上げてくらぁ」

 

「その目的のために、明日花も一緒に連れて行くっていうのか?!」

 

「明日花ぁ?悪いが、この船には乗っちゃいねぇよ」

 

「?!」

 

「上田を出て行って以降、アイツには一度も会っちゃいねぇ」

 

「どこ行ったか分からねぇか?!」

 

「知らねぇよ。

 

用がねぇなら、俺様はもう行く。じゃあな才蔵」

 

「おい!甚八!!」

 

 

甚八を呼び叫ぶ才蔵……

 

 

「嘘が吐くのが、上手ですこと」

 

 

才蔵から隠れているかのように船の縁に寄りかかり座る明日花……肩までかかる白い髪を耳下で束ね、雪の結晶の簪を着け、肩に自分の頬に擦り寄ってくる白い鼬のコノハの頭を撫でながら、いたずらな笑みを浮かべて、甚八を見た。

 

 

「テメェが吐けって言ったんだろうが」

 

「ま、そうだけど……」

 

「結局、どこ行くんだ」

 

「……ちょっとした場所。

 

私達……光坂一族だけが知る場所……そこに行くだけ」

 

「だからって、何であいつ等に何も伝えずに来たんだ?

 

また、あの時と同じように変な扱いをされたくないからか?」

 

「違う……

 

 

邪魔されたくないから。それだけ……

 

(もう……時間がないから。

 

だから……ケジメをつけたんだ)」

 

 

コノハに目を向けながら、真剣な顔つきで甚八の質問に答えた。明日花の耳には、普段着けていたピアスが無くなっており、それを見た甚八は口に銜えていた煙草を手に取り、彼女を見た。

 

 

「……

 

その場所に行く理由は?」

 

「アンタと同じ理由」

 

「ったく……本当、紫苑に似てるな」

 

「生憎、母さん似なんでね」

 

「それは確かだな……

 

 

オラ、行くぞ!!野郎共!!」

 

 

甚八の呼び掛けに、船は動きだし湖の彼方へと消えて行った。

 

 

 

 

「ああ……もう陽が沈む」

 

 

鎌之介と明日花を捜してから数時間が過ぎ、空は茜色に染まり出していた。

 

 

「成果なし……か。

 

変体は行動が未知過ぎて分かんねぇ……

 

 

明日花の奴……どこに行きやがったんだ……

 

 

クソ!」

 

 

ふと空を見上げると、一匹のミミズクが鳴き声を発しながら空を羽ばたいていた。

 

 

「朱刃?」

 

 

 

 

「若!

 

佐助からの報告です!徳川の兵、およそ四万が中参道を進んでいると!」

 

 

一六〇〇年・夏―――――

 

あの書状を握り潰した後、徳川家康は上杉征伐のへいを会津に向けていた……兼続の狙い通りに……

家康が腰を上げたら、石田三成が後ろから叩く……それは、必勝の策だった。

 

 

「そのはずだが……間者か……

 

ともかく、三成の挙兵を嗅ぎ付けて兵を反転させたか」

 

「徳川本隊は東海道を……中山道を北上するのは、徳川秀忠率いる別働隊……

 

なぜ別働隊に四万もの兵力を割いて」

 

「狙いはここ(上田)。

 

単なる私怨では、動かせない数だ。奪うつもりだろう……伊佐那海と明日花を」

 

「何故、明日花まで!」

 

「二年前、家康は紫苑が身に付けていた、幸魂を奪おうとした……だが、それは失敗に終わり、やがて紫苑は死んだ。

 

その後は、明日花が幸魂を身に付けている……どこかで情報が漏れたんだろう。明日花が……久久能智神だという事が」

 

「……」

 

「とにかく、才蔵を急ぎ帰城させよ」

 

「はっ!」

 

「あの三人が帰ってくれればいいのだが……(特に明日花には……伊佐那海と同じく儂の目の届く場所に置いておきたい……)」

 

『約束して、幸村』

 

 

二年前……まだ紫苑が死ぬ前、彼女は幸村に話した。

 

 

『あの子を……明日花を、徳川の手に触れさせない様にして。

 

お願い……』

 

 

 

(何が起きている?)

 

 

襖越しから二人の話を聞く七隈……

 

 

(四万もの兵……狙いは上田……

 

そして…伊佐那海とはあの女童か。それと明日花は確か、優助の子供……

 

 

徳川の軍の中には、当然信幸様も……ここで養生しろと言うご命令が歯痒い!

 

 

信幸様!)

 

 

同じ頃……自身の部屋で、水球に映る二人を優助は見ていた。

 

 

(明日花……

 

 

一刻も早く、信幸様の元へ帰らねば……)

 

 

ふと思い出す明日花の姿……

 

 

(……明日花……)

 

 

 

 

とある山中―――――

 

 

「ア~~~~~……

 

 

田舎臭ぇ風だなぁ。

 

あの豚め……この俺が何も知らねぇとでも、思ってやがんな?いつか暗殺するぞ、コラ」

 

「殿!!お口を慎んでください!!

 

江戸中納言秀忠様であれど、今のような失言が父上家康公のお耳に入れば、またお叱りを受けまするぞ!」

 

「今、俺……豚としか言ってねぇよな?

 

お前は俺の親父を、豚だと思ったのか?」

 

 

秀忠は腰に着けていた鞘から刀を抜き取り、眼の前にいる部下を切り裂いた。

 

 

「『失言』な……死んで当然だ。

 

おい!信幸を呼び寄せろ!上田の情報を全て白状させる!

 

ア~~~~~早く会いてぇなぁ……

 

 

皆殺しの女神と大地の女神って奴によぉ」

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