煙の中から姿を現す、大剣を担いだ男……
刀の束を取り鞘から抜こうとしたとき、灰桜がその手を止めた。
「駄目ですわ!半蔵様!!
あれは無理です!!一緒に引きましょう!!
私達なら、どの大名からも引く手数多ですわ!!真田など捨て置いて!!ねぇ!」
震える灰桜……そんな彼女に半蔵は笑みを見せそして言った。
「お仕事ご苦労様でしたね!
徳川先遣隊約三千を殲滅!君等の仕事は完了です!
お給料は後日、指定の場所にて!
ここからは、勇士の仕事ですから」
「でも、半蔵様!!」
「では、これにて」
「朽葉!!」
「ハイハーイ」
朽葉は、幻術を使い白群と灰桜を連れてその場から立ち去った。残った半蔵は自分を見上げていた男に向かって刀を振り下ろした。
ところが、男はまるで何も無かったかのように、平然として立っていた。ふと刀を見ると、刀には何やらヌルッとしたものが着いていた。
(体を覆っているあの雲に、阻まれましたか……
ならばその雲、俺の炎で……蒸発させる!!)
火を放ち、出来た隙間に大量のクナイを投げつけた。
(忍法……土砂降り!!)
たが、男は持っていた大剣で投げてきたそのクナイを全て防いだ。そして、男は大剣の束を握り締め、背後にいる半蔵目掛けて大剣を振り下ろした。振り下ろした衝撃か、地面に亀裂が入りそれと共に森が破壊された。
「どこ狙ってるんですかね?」
その隙を狙ってか、突然後ろが爆発した。半蔵は咄嗟に刀で防いだが、左半身に攻撃を食らい地面に着地した。
何かの気配に気付いたのか、ハッと顔を上げると真上に大剣を振りかざした男が目の前にいた。
振り下ろしてきた大剣を、半蔵は日本の刀で受け止めた。受け止めた衝撃のせいか、強風が舞い上がり木々を倒していった。
「!?」
その様子を双眼鏡で遠くの櫓から大助は見ていた。
「何か動きが……佐助!!
状況を視認して、幸村様に報告!!」
「諾!!」
(何だろう?想定外の何かが起きている……)
『闇が生まれれば、新たな闇が生まれる』
「?!」
声のする方に振り向くと、そこには櫓の縁に降り立つ銀髪を腰下まで伸ばした女が立っていた。
「……あ、明日花の姉ちゃん?」
『明日花……
フフ……私の愛娘……明日花』
「え?(違う……明日花の姉ちゃんじゃない)」
『フフフ……いずれあの子が、闇を消し去る者になる』
そう言うと、女は木の葉となりそこから姿を消した。
大助の名を受けた佐助は、一本の木の上に立つと術と指を使いその方向を見た。
そこに見えたのは、大剣を持つ後ろ姿の男……
その頃、伊佐那海は幸村に言われた通りに蔵に隠れていた。
(怖い……
幸村様は蔵に隠れてろって言ったけど、蔵は暗くて闇がある……でも大丈夫……大丈夫……大じょ)
「伊佐那海、ここは怖いか?」
蔵の外で見張りをしていた清海が、彼女の気持ちを悟ったのか優しく声を掛けてきた。
「(何で分かったの?)へ、平気。な、何ともないよ!」
「ハッハッハ!お前はかくれんぼ、弱かったからなぁ!」
「いきなり何の話?!」
「小さい頃、皆でよくかくれんぼしたろ?出雲は広く隠れる所がたくさんあったからなぁ。
本殿に奥殿……外には森も広がっておったしなぁ。
でも、お前はいつも一番最初に捕まった」
『伊佐那海、めっけー!』
『何よ、全然隠れてないじゃない!』
『クスクス……それじゃ、かくれんぼにならないわね』
(だって……だって。
ここもあそこも、あっちだって……暗くて怖いんだもん)
『次は伊佐那海が鬼ねぇ!』
(隠れられないんだもん)
『十数えるのよぉ!』
『……いーち……にーい……さーん……?』
泣きなが数えていた幼い伊佐那海の頭に、軽く手が乗ってきた。それに気付いた幼い伊佐那海は顔を上げると、そこには笑みを浮かべた清海がいた。
『兄ちゃんが一緒に鬼をやってやる!
二人で皆、取っ捕まえよう!』
『……うん!』
「そう……アタシいつも一番最初に捕まって……
お兄ちゃんと鬼ばっかり!懐かしいなぁ」
「そうそう!暗いところが苦手でなぁ!よく厠にも着いてったっけ」
「ちょっと、止めてよもう!!小さい時でしょう!!」
「そうだな!小さかった……
小さくて可愛くて……俺はずーっと守ってあげなくちゃと思ってたよ」
清海の目に映るのは、初めて伊佐那海と出会った日……鳥居の下、籠に入った赤ん坊の伊佐那海……自分が持ち上げると赤ん坊の彼女は、嬉しいのかいつも笑っていた。
「……何よぉ!
出て行っちゃったくせに!」
「ああ、若かったな。諸国を巡って強くなりたかった……
強くなって、出雲に戻るつもりだった……大切なものを守るために」
「……」
「……お前がここ(上田)に辿り着いて、本当に良かった……ここは良い所だ。
ここを失うわけにはいかん!負けられんな、伊佐那海!」
「うん!」
馬小屋では、騒ぐ馬を宥める七隈と、檻から出した馬に手綱を着け鞍を着ける優助がいた。
「ブルルン」
「しー!」
「七隈、急ぎなさい」
「は、はい!」
「……?」
「!」
何かの気配に気付いた二人は、後ろを振り返った。その直後に、七隈に向かって風呂敷が投げつけられた。
「……兄上」
「六郎」
「何をクズクズしているのです。小姓であるならば、大事の時は主の元へ馳せ参じない!」
「貴方に言われなくても分かっています!!」
「六郎……」
「?」
「……娘を頼みました」
「……御意。
七隈……次会うときは戦場で」
それだけを言うと、六郎は馬小屋を去った。
「やはり、家族ですね」
「?」
「敵同士になっても……家族に対する思いは変わらない」
耳に着けた桜の花びらのピアスに触れながら、優助は明日花の姿を思い浮かべた。
「行ったか」
馬小屋から出て来た六郎に、幸村はそう言った。
「はい……若」
「?」
「『娘(明日花)を頼みました』と、優助から言付けを」
「……そうだな。
今は傍にいないが……彼奴は必ず儂の元へ帰ってくる」
「……」
その時、森から佐助が血相をかいて帰ってきた。
「どうした?佐助」
その頃、謎の男と闘う半蔵は……
「何ですかこれ!?一撃の破壊力が、半端ないですね!
こんなのがいるなんて……聞いてないですよ!」
櫓から半蔵がいる方を見る大助……屋根の上には、消えたはずの女が座っていた。
その時、櫓の下に男が姿を現し、大剣を櫓目掛けて振り下ろした。
櫓が破壊される寸前、半蔵が間一髪大助を抱えてその場を非難した。同時に屋根の上にいた女は手から出した木の根で、自身の体を覆い攻撃から身を守った。
(この強さ……まさか)
「半蔵!!
退いちゃ駄目だ!!町が!!城が!!」
「貴方に死なれちゃ困るんですよ!!」
「でも……でも!!
あれは……あれは何なんだよ!!あんなの計算外だよ!!」
「素戔嗚尊(スサノオ)」
『素戔嗚尊(スサノオ)』
場所は変わり、傍にいた信幸に秀忠はそう話した。
「焼け落ちた出雲で、俺は偶然それを見つけた。
あの時の興奮は忘れられねぇ……荒ぶる神とやらを手に入れ、この俺が使いっ走りに出来るんだからなぁ……
素戔嗚尊が欲しいものが、上田にあるってぇのは本当に好都合だ。
高天原を追われるほどの、荒神だ。さぞ手荒だろうぜ。
おらは上田を落としたい……奴は伊佐那海が欲しい……全て薙ぎ払い……全てを破壊して……欲しいものを掴めば良いのさ……
そして嵐が過ぎれば……全てが俺のものになる。伊佐那海の次には、明日花を手に入れる……
一族の誰かを人質に取れば、すぐに動くだろ?
噂じゃ、光坂一族は仲間思いで決して見捨てはしないって聞いたことがあるからねぇ……」
地面に降り立つ半蔵と大助。
「認めたくないんですけどね……」
「半蔵?」
「あれは手強すぎる……このままだと……来る!!」
大剣を振り翳し二人目掛けて、素戔嗚尊は振り下ろした。その時、突如目の前に大助の前に現れたあの女が降り立った。
「?!」
(……明日花?!)
『捜し求めてる者は、こいつ等か?違うだろ?』
「……」
『お主等親子……いずれ私が黄泉へ還らせる』
「……!」
すると素戔嗚尊は、何かに導かれるようにして煙を放ちその場から姿を消した。
「消えた?」
「いったいどこへ?」
『母の元……』
「?!」
『素戔嗚尊は、母を求めてこの地に来た……』
「一つ質問します……
貴方は明日花ですか?それとも紫苑ですか?」
『……
半分は紫苑……半分は明日花……
愛しい娘が、力を発揮すれば……闇を消し去る事が出来る……フフフ』
木の葉を舞い上がらせ、女は姿を消した。
不穏な雲と空気が、上田の城を包み込んだ。
只ならぬ気配に、清海は空を見上げた。
「何だ突然!?この雲は!?」
「イザ……ナミ……
お……お……お…あ……ん」
雲から出て来た素戔嗚尊……
(駄目!!駄目駄目!!)
「うぉおおお!!」
「お兄ちゃん、逃げてぇ!!」
蔵の扉が壊され、外にいた清海が素戔嗚尊に大剣を貫かれ飛んできた。
馬を走らせていた優助……何かの気配を感じ取ったのか、馬を止め後ろを振り返った。それと共に風が吹き木の葉が舞った。
(……紫苑?)
手綱を強く握り、優助はしばらくの間風が吹いていった方向を眺めた。
同じ頃……船の上で縄を縛る明日花。
『明日花』
「?!」
海風に乗って、聞き覚えのある声が聞こえた。明日花は手を止め、立ち上がり後ろを振り返った。
(母さん?)
海風が明日花の髪を靡かせ、それと共に首から提げていた勾玉も靡かせた。勾玉は何かに反応するかのように、また青白く光っていた。