面白くねぇよ……鎌之介』
ちくしょう……
ち……くしょ……
鳥の鳴き声の共に、足音が止まった。眠る鎌之介を眺めていた男は、彼の頭を思いっ切り蹴った。
蹴られたことにキレた鎌之介は、鎖鎌を振り回し蹴った者に攻撃した。その攻撃を男は素早く避けた。
「何だ?藪から棒に」
「テメェ、今俺の顔を蹴っただろ!!死ね!!」
鎖鎌を振り回し、風を起こして攻撃した。男はすぐに風を避けた。
「『風』ね」
「かわしたと思うなよコラ!!」
鎌を振り翳した途端、男は飛び上がり鎌之介の顔面に蹴りを入れた。鎌之介は蹴られた勢いで、崖付近まで飛ばされた。
「ちょっとは腕に覚えがある、山賊崩れってとこかね。
ほら、退いた退いた。ここは私の寝床なんだ」
「……こんなもんじゃねぇ」
「ん?」
「俺はこんなもんじゃねぇんだ!!
もっともっとやれんだよ!!(会った時は同等だったじゃねぇか。
お互い殺り合って最高によくなれるはずだろ!?
俺とじゃイケねぇってのか?才蔵……
テメェが遠い……)」
「君は桶の中で、グルグル回る鮒か?」
「!」
「自分超凄ぇ……最高って思い込んでる阿呆って事だよ。
今ので自分の力量、推し量れなかったかい?」
「今のは偶々だ!!俺は強ぇ!!」
「アイタタタタタ。
まるでガキだね。俺は強ぇとか……うわぁ、サムイ」
「テメェ、ぶっ殺す!!」
飛び掛かってきた鎌之介を、男は担いでいた刀の束で腹を突いた。
「ぶっ殺す何て、出来もしないこと言うのも、凄く格好悪い」
崖から落ちる寸前、鎌之介の服を刀に掛け宙吊りにした。
「君さ、一回死んで来なよ」
そう言うと、男は刀から鎌之介を落とした。
「馬鹿は死ななきゃ治らないってね」
「本当に行方が掴めぬ」
竹水筒に入っている水を飲みながら、十蔵は木に凭り掛かり座り休んでいた。
(なぜ姿を消したのだ、鎌之介……明日花。
いいや……そもそも鎌之介は、才蔵に固執していただけだからな。その執着が崩れれば、いなくなるのも分かる。
……しかし、いつの間にか鎌之介がおるのが当たり前になっておったな)
才蔵にじゃれつく鎌之介の姿を思い出す十蔵……彼等の姿を見て、鼻で笑う明日花の姿を思い出した。
(……明日花。
甚八の元へ戻っていたかと思っていたが……
今度はどこに行ってしまったのだ)
“バーン”
明日花が母親の紫苑と上田に着たばかりの頃。射撃をする十蔵の姿を紫苑と明日花は見ていた。
『さすが、射撃の名人』
『これくらいしなければ、いつ何時幸村様をお守りすることは出来ぬからな』
『幸村を守るねぇ』
『お主……少しは言葉遣いを改めよ!!
子供の前だぞ!!優助を見習え!!』
『敬語を使うのは、武田一族の者だけ。
それ以外の者に、使いたくないわ。それに優は小さい頃からあの口調よ?今頃見習えっつったって』
『お主ぃ!!母親という自覚を持て!!』
『うるさいわね……この頑固爺』
『紫苑!!』
『ねぇ、十蔵!』
『ほら見よ!!
明日花が口真似をしてるではないか!!』
(本当にうるさいわねぇ……このオッサン)
『十蔵!』
『……(紫苑ではなく、優助の口調を真似て欲しかった……)何用だ?明日花』
『火縄銃、使わせて!明日花も撃ちたい!』
『お主ではまだ小さ過ぎる。もう少し大きくなってからの方が』
『明日花ぁ、撃ちなさーい』
『はーい!』
いつの間にか持っていた火縄銃を構えた明日花は、紫苑の許可を得て、的目掛けて銃弾を撃ち放った。
“バーン”
『……?!』
『フフ……さすが我が娘』
明日花が放った銃弾は、的のど真ん中を貫通していた。
『やりぃ!!見たか、十蔵!』
『……し、信じられん。
あんな子供が……某を見てただけなのに』
『今の世の中、子供を余り甘く見ない方がいいわよ?
特に、私達の娘はね』
笑顔で言いながら、紫苑は明日花の元へと行き褒めた。褒められた明日花は満面な笑みを浮かべて喜んだ。
だが二年後、紫苑の死を境に明日花は変わってしまった。感情を表に出すことも無くなり、あの笑顔も自分達の前で見せなくなった。
(……某が甚八と会い、船の中にあった槍を見た時は驚いた……
幼き頃、明日花が使っていた槍が、まさか甚八の船にあり行方を眩ませた日から二年もの間、ずっと彼の元にいたとは……)
甚八の船に乗った時、倉庫の壁に立て掛けていた明日花の槍を見て、呆気にとられていた十蔵に甚八は話した。
『それは、俺様の右腕が使ってた槍だ』
『右腕?
一つ聞くが、これ光坂明日花という子供の槍なのでは?』
『あぁ?そうだが……
何でアンタが、明日花を知ってんだ?』
『知るも何も、明日花は某と同様幸村様に仕えている、光坂一族のくノ一だ』
『何だ?じゃあ、紫苑のことも知ってんのか?お前』
『紫苑は明日花の母親だ』
不思議に思った甚八は、紫苑と義兄弟の契りを交わしたこと、そして明日花を二年間見ていたことを話した。
『……あの不良娘!!』
『怒るな怒るな。
明日花は好きで俺様の所に来たんだ。それでいいだろ?』
『よくない!!某達は、明日花がいなくなって一週間も捜索したのだぞ!!』
『それはお前等の勝手だろ?
明日花はそんなこと、望んじゃあいねぇよ。紫苑が死んでお前等とこの先どう関わればいいか、分からなくなったんだ。だから俺様の元に来て力を付けた……そんで、お前等の元に帰った。
それでいいじゃねぇか』
「十蔵」
その声に気付いた十蔵は、木の上を見上げた。いつの間にか枝に座り彼を見下ろす佐助がいた。
「調子はどうだ?」
「まずまず」
「こちらはまだ、何の成果も無い。
すまんな……他の者は?」
「九度山変わりなし。
才蔵は伊佐那海追ってる。
半蔵、未だに伊賀」
「……アナスタシアか」
「あの時、我等庇った。熱傷深い」
「……正直、どうだ?」
「……
不明」
伊賀……
とある建物の地下へ降りてきたくノ一は、階段に腰掛ける半蔵に話し掛けた。
「どうよ?」
「んー……何とも」
地下の部屋に置かれた氷風呂に浸かるアナスタシアを見て、半蔵は答えた。
「この人のお師匠、どこ行ってんの?
アイツなら、何とか出来るでしょうに」
「あの人はいつ帰ってくるか分かんないわよ。
今、里に弟子がいるわけじゃないし」
「あー、そうですか」
「……
アンタ達、何に関わってんのよ。
いつもなら、手負いの同僚なんて捨て置くでしょうに」
「……何でしょうね。
この世の運命とでも、言うんでしょうかねぇ。
どうやら、欠けるわけにいかねぇんで。目覚めて貰わなきゃ困る訳よ……
それに、こんな冷えてたんじゃ突っ込む気にもなれんでしょう」
「……アンタ、相変わらず下衆いわね」
「自分に正直なだけですよぉ(あ~でも、冷たいのも一回くらいいいかも!)」
森を駆ける才蔵……
『伊達とやり合ってた上杉残党の拠城が、一瞬でやられたらしい』
『何でもいきなり、デケェ雲が湧いて中から女が現れたっつうじゃねぇか!』
『その女が笑いながら、ズドンだとよ!
周りの村も全滅だと』
(伊佐那海!!)
奥州、政宗の城を見る伊佐那美……
「何とも、面白味の無い城だのう……しかも何だ?作り途中か?
妾に相応しくない。
少し……弄らせて貰おう」
壁に手をかけると、そこから黒い霧が浮き出て、それは形を変え階段を作り禍々しい社を作った。
「これで……少しは良くなった。
?」
何かの気配に気付いた伊佐那美は、後ろを振り返った。そこにいたのは才蔵だった。
「伊佐那海……」
「……才蔵」
「捜した……
帰るぞ、伊佐那海!
俺はもう……お前を離さねぇ!」
「才蔵!」
手を差し伸ばしてきた才蔵に伊佐那海は、涙を流して飛び付いた。
「……才蔵、来てくれたの!
才蔵……」
「伊佐那海」
「ありがとう……本当にありがとう!
わざわざ、殺しに行かなくて済んだ」
「!!」
伊佐那美の攻撃を食らい、腹に傷を負った才蔵は、すぐに彼女から離れた。
「貴様は邪魔だ、光の者よ!
これからこの世を面白可笑しく、滅ぼそうという時に……
お前は絶対に邪魔になる!!お前がいなければ、何の枷も無い!!
妾は命あるもの、全てを殺して闇へ還す!!至福の時が訪れるのだ!!
伊佐那海……そんな女はもういない。
この世を絶望の淵に落とすのだ」
(……テメェ!)
“ピチャン”
天井から落ちる一滴の雫が、洞窟内に堪った水溜まりに落ちた。
その水溜まりにの中に横になっていた明日花は、雫が落ちた音で目をゆっくりと開けた。
「……」
「どうかしたか?」
「……何でも無い」
「そうか……ならまだ寝とけ。
もう少し、時間が掛かる。お前と奴が融合するのには」
「……うん」