「テメェ、まさか……」
その時、頭上に雲が広がり中から素戔嗚尊が姿を現し大剣を振り下ろしてきた。
「お前、邪魔」
素戔嗚尊の攻撃を、才蔵は避けた。
「伊佐那海!!目を覚ませ!!」
「目を覚ませ?
妾は目覚めたのだ。長い…長い眠りだった。
やっとこの世界に出てこられた。やっとだ」
「……」
「可愛い子よ。あの男はこの母に仇を成す。
屠ってしまえ」
伊佐那美の命に、素戔嗚尊は大剣を振り下ろした。才蔵は腰ポーチから閃光を出し瞬時に逃げた。
「……ほんに、いつの世も逃げるのが得意よの」
腹部に怪我を負った才蔵は、森の中を歩き木に手を掛け地面に膝を付いた。
「……クソッ……クソが……
(伊佐那美だった……
本当に、こんなのは嬉しくねぇよ。伊佐那海)」
「あの小娘、御せますか」
廊下を歩いていた小十郎は、前を歩く政宗に向かって話し掛けた。
「ああ?」
「先日の拠城消失の件で、諸国が騒ぎ立てております。
奥州の独眼竜は、人ならざる力を使役している、妖に、成り果てたと」
「おうおう、なかなかいい噂じゃねぇか。
いい牽制になる」
「……あの力、人にどうにか出来るとは思えません」
「そうかあ?」
「……間違えば、我々も危うい。
お分かりか」
「……怖ぇだろ。
あの女見てると、心の底から竦み上がるだろ?胸の下辺りが、せり上がる恐怖を覚えるだろ?
……あれは死だ。戦場で味わうアレだ。誰もが迎える絶対的な恐怖だ。
俺はそれを超える。ねじ伏せる。その全ての先にあるのが天下だ。
俺を信じろ小十郎。おめぇだけは、何があってもブレんじゃねぇぞ。
この国総て、俺のものにする」
「……ほう」
「「ほう」じゃねぇよ!テメェ!!」
「何、信じておりますとも」
「全っ然、そう聞こえねぇ!!」
「殿には、天下を取っていただきたいとはこの小十郎、常々思っております。
ただもう少し、女の扱いが上手いと安心なのですが」
「なーに、女なんて者はなぁ、煽てて好きにさせときゃあいいんだよ。最初はな。
それよりな、真田だよ。あの食わせ者が大人しくしているはずがねぇ」
「そうでしょうか?
かの曲者も九度山に流されてからは、すっかり落ちぶれたとの話ですし。
しかも、十番勝負の折にいた十勇士も幸村の傍を離れたと聞きます。さらに、光坂紫苑と山本優助の子供……光坂明日花も離れたと……
家臣にも見放されたとなると、もう威厳も何もありますまい。
真田幸村……彼はもう、表舞台に上がることは無いでしょう」
(……ああ……血だ)
場所は変わり、ここは崖下……体から血を流し倒れる鎌之介。
(血のにおいがする。いつも嗅いでた臭い……
いつも、自分の体から流れてた臭い……
ああ、俺……落ちたんだっけ。
体が……動かねぇ。息も……出来ねぇ……クソが……
才蔵……才蔵と殺り合えねぇ内に、こんな所でくたばるのかよ俺……)
『自分の力量も、推し量れなかったのかい?』
(うるせぇ!!俺は強えんだ!!
ずっとずっと、それだけで生きてきた。殺して殺して、殺して……
強く…ただ強く、痛みも快楽に……快楽も痛みになるまで……
それが絶頂……絶頂だ!!)
木陰に座り、書物を読む髪を結った男……
「ふわぁ……腹ぁ減ったなぁ。
そろそろ飯取りに行くかなぁ。こんな時、弟子の一人でもいれば、扱き使うんだけどね。あいつ等、元気かなぁ……?
随分、丈夫だねぇ……生きてたのかい」
臭いを嗅ぎ、男は手に持っていた書物を地面に置き、自分に向かって歩み寄って来る鎌之介を見た。
「……んだ……
イ……クんだ……
イクまで!!死ねねぇんだよ!!」
叫び声と共に、鎌之介の体から強風が起こった。
「テメェテメェ!!
まずテメェ!!テメェを殺す!!」
「同じ事を二回も……
猿決定だな」
「そして強く!!もっと強く!!
才蔵に巡り付くまで、殺して殺して殺して!!強く、すっげぇ強くなる!!今決めた!!」
「才蔵?」
「まず一発目ぇ!!
由利鎖鎌奥義」
奥義を使う瞬間、男はジャンプしその場を離れようとした。
「逃げても無駄だぁ!!
大追手!!」
男の上から風の玉が押し寄せてきたが、男は難なく避けそのままその玉を、鎌之介に当てそして彼の背中に着地した。
「テメェ!!」
「懐かしい名前を聞けたついでに一つ、提案してあげよう。
強くして下さいって、可愛くお強請りしてご覧」
木の幹に凭り掛かり、枝に腰掛ける紫苑……
閉じていた瞼を開け、遠くの景色を見た。
(……風の勇士が、本来の力を取り戻したか。
それぞれの勇士が、本来の力を取り戻し、明日花が力に目覚めれば……
あの女は、この世から永久追放)
不敵な笑みを浮かべながら、紫苑は風で靡く自身の髪を弄った。