「えぇ、もう何年も姿を見てないって。
おかげさまで、アナもまだこの通り」
「使えねぇ!!あのアホ師匠!!使えねぇ!昔っからだけど!!」
「どっかで、野垂れ死にしましたかね」
伊賀へ帰ってきた才蔵は、茶屋で半蔵と話をした。
「アンタは何でまた、百に会いに?」
「ああ……」
「半蔵様!才蔵様!
これ、よろしかったらお茶うけに……」
そう言いながら、少女は御饅頭の盛った皿を手に顔を赤くしていった。
「おう」
「悪いね」
二人に礼を言われた少女は、顔を赤くして悲鳴を上げながら、後ろで見ていた女友達の元へ駆け寄って行った。
「テメェ、変態のくせにモテんだな」
「あの「キャア」の半分は、あなた宛てでしょうよ」
「で?」
「……テメェ、、神は信じるか?」
「アンタの師匠の得意分野で「術」でしょうよ。それが今更なんですか?」
「俺はすっかり、忘れてたんだよ。
そもそも奴に教わった神ってのは、「自然」だったからな。
伊佐那美(イザナミ)とか素戔嗚尊(スサノオ)とか、物語の神様なんて、ピンとこねぇ」
「……あなた、馬鹿ですね。
その理論でいけば、伊佐那美なんてドンピシャじゃないですか」
「あ!?」
「「死」なんて、自然の摂理そのものでしょ?」
「っ……」
「あれ!?違ってました?伊佐那美は、死を司る女神。そして地上に出て来てはいけないシロモノ」
「それが……それが神だとしたら、じゃあ俺等は?
森羅万象に当て嵌められた俺等は何だ?
……最初は、オッサンが十勇士を集めるために、適当に水だ草だと言ってんのかと思ってた……
だが、陰陽太極図を囲むように書かれたあれ……そしてそれを更に囲むあれ……そう、アレはまるで……封じるように」
「伊佐那美とこの世を隔てたのは、出雲でしたねぇ」
「あ!?何それ」
「そんなことも知らなかったんですか?
地下の大岩。アレでしょうよ」
「ああ!?」
「アンタねぇ、神の成り立ちの本くらい読みなさいよ。
仮にも、百の弟子でしょうが」
「じゃあやっぱり、あの大岩の文字には意味があったのか」
「あん時は、バリバリ殺り合ってましたからねぇ……
アンタに一撃入れられて、ついマジんなっちゃって……
今考えるとお恥ずかしい……!
じゃあこうしましょ!も一回、見に行きましょうよ!二人で!」
「行ったって、意味ねぇよ。
あの文字が解読できる古文書は、オッサンが燃やしちまってもうねぇんだよ」
「古文書……」
「そ、出雲文字が書いてある古文書」
「それこそ、そういう類のはアンタの師匠がいっぱい持ってるでしょうよ」
「……あ!」
半蔵に言われ、才蔵は百の家へ行った。
「ねぇ!!」
文句を言いながら、才蔵は部屋に置かれていた書物を投げ捨てた。
「こりゃ、持ち歩いてますかねぇ」
「あんのアホ!!使えねぇにも程がある!!」
「やはりここは、百を捜しながら出雲旅行ですね」
「っっ!!」
「このまま奴を待ってても埒が明きませんよ。二人で捜せば楽勝でしょ?」
「……くそ!仕様がねぇな!」
「いつまでも、アナスタシアがあのままなのも、痛いですしねぇ。あの深傷は百がいないと治らない。
意識のない女を抱くのって、スッゴイつまんないんですよ!ヨガんないし、声出さないし。
俺もある意味、百には早く帰って来てもらいたいんですよ」
半蔵の言葉に、才蔵は殺気に満ちた目で睨んだ。
「冗談ですよ!冗ー談!
さあさ、とっとと行きましょう!」
その頃百は、木陰で横になり書物を読んでいた。
「……まだかねぇ」
遠くで横になっている鎌之介を気にしたようにして目を向けた。
(さっき何か、掴みかけたみたいだけど……)
「……グー!」
鼾をかき、眠っている彼に気付いた百は、起き上がり書物を鎌之介の顔上に落とし起した。
「痛ったぁ~~~」
「寝てどうすんの。何か見つけたんじゃないの?」
「だって、こんなに天気良くて、暖かけりゃ眠たく何だろ!普通!!」
「言い訳禁止!」
ふと百は、鎌之介の左目に刻まれていた刺青を見た。
「んだよ」
「これが、枷になってるのかな?」
「誰に入れられたの?」
「あ?知らねぇ」
「君、出身は?」
「それも知らねぇ。小さい頃から山賊やってて、あっちこっち行ってたからな」
「フーン……山賊なんかが、入れられる類じゃないんだけどねー」
「は!?」
「左目って、とある神様が生まれ出でたところなんだよねー」
「あ!?」
「どれ、少し辿ってみようか」
百の首近くに刻まれていた刺青が青く光り出した。百は指で鎌之介の刺青をなぞった。
すると、鎌之介の脳裏に見覚えのない記憶が蘇ってきた。
たくさんの巫女や巫覡に囲まれ、自分は台の上に拘束されていた。そして自身の目に、針を突き刺し刺青していった。
その記憶を見た鎌之介は、ポカーンとした表情で、その場に座り込みなぜか目から涙が流れていた。
「な、何だ?何だ?」
「なるほどねぇ……
君は小さい頃から、その力を使えちゃってて、憑き者扱いされちゃったのか。この刺青は封印として、入れられたんだね」
「あ?封印?でも」
「まあ、何とかなるかな」
腰から筆を出し、百は鎌之介を倒しそして目元の刺青に沿って筆をならした。
「冷て!」
「動かないでジッとして。こうして封印の流れを変えると、解放される」
書き終えると、空から雷の音が聞こえてきた。百は空を見上げ高く伸びていた岩の頂上に飛び乗った
「嵐が来るね。しかも大型だ。
じゃ、頑張って鎌之介」
「あん?一体何を……」
起き上がった鎌之介目掛けて、大型の嵐が彼を飲み込んだ。
「(何て…強さだ!これが自然!?「神」って奴か?
スゲェ……スゲェ…スゲェスゲェスゲェ!!これを自分のものにできたら!
才蔵!!オメェに近付ける!!きっと!!)
俺は才蔵に近付きてぇし!!追い越してぇ!!
才蔵と同じところまで!!あいつと対等であるために!!
風の神様!!アンタのその力!!俺に貸しやがれ下さいぃぃ!!お願いしまぁす!!」
呑み込まれていた風を、指に集め吸収した。
「何て頼み方だい」
「何か……良い感じ。
由利式風術天照神風!!」
巨大な竜巻を作り出し、技を出した。百は岩から眺める様にして、その技を見た。
「おおー」
「スゲェっスッゲェ!!
スゲェ俺!!
スゲェよ!くはぁ!!見たかぁ!!才蔵!!」
「やっぱり、才能あったじゃないの。
しかもとんでもない「神」を手に入れたね……」