BRAVE10S   作:花札

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死の行軍

逃げる武士……その背後から黒い煙が迫っていた。武士が振り返ると、黒い煙は目の前まで迫っており、そして武士を飲み込んだ。黒い煙が去った場所には、あの武士の亡骸が転がっていた。その光景を遠くの丘から武将は眺めていた。

 

 

「まさか……」

 

「有り得ん……」

 

「あの闇に、呑み込まれると何もかも朽ち果ててしまう。

 

あんなもの相手に、勝ち目など無い。

 

 

あ……あれが……伊達の死の行軍」

 

 

別の場所から、その様子を政宗は眺めていた。

 

 

「しびれるねぇ」

 

 

江戸……

 

城の中で家康は、政宗の行動にイライラしていた。秀忠はそんな彼の様子を見ていた。

 

 

「あの小童が!!

 

次々と国を潰して、背力を伸ばしておる!!忌々しい!!」

 

「あのような力。

 

人ならざるものでしょう。我々では、どうしようもありません」

 

 

その言葉を放った瞬間、家康は秀忠の頬を持っていた扇子で思いっきり叩いた。

 

 

「戦もろくにできん奴が、口を挟むでないわ!!」

 

「(チッ…)

 

 

……父上がこの愚息に、腹を立てているのはご最も……しかしお聞きください。

 

あれは我らが、出雲で捜していた物やもしれません」

 

「何?」

 

「噂では、真田に匿われていた巫女が伊達に渡ってから、急激にあのような力を振るうようになったとか」

 

「……出雲の巫女か!」

 

「そうとなれば、全ての元凶は巫女を匿っていた真田。

 

奴等にその討伐の任を、負わせるのが上策でございましょう」

 

「ならん!!

 

あの曲者に、手柄を与える機会なぞ、死んでもやらんぞ!!親子二代で真田に、惨敗などと嘲られ、腹立たしいこと、この上ない!!

 

真田は、九度山で野垂れ死にすればよいのだ!!」

 

「何を仰る父上。

 

真田家はもう一つ、あるではありませんか」

 

 

 

沼田……

 

 

「……今、何と仰いましたの?信之様」

 

 

彼の言葉に、小松は動揺を隠せないでいた。

 

 

「私に、伊達討伐の命が下った」

 

「そんな!!

 

今の伊達は、妖の力を手に入れたとてつもない軍勢になっているとは言うではありませんか!!

 

 

なぜ真田に、そのような命が!」

 

「その妖の元凶は、真田が匿った巫女にあり。

 

真田が席を取れとの事だろう」

 

「巫女?

 

あの女童ですか!」

 

「納得いきませぬ!!」

 

 

話を聞いていた六郎は、信之に納得のいかない様にそう言った。

 

 

「それでは責を負うのは、幸村様が筋ではありませんか!!

 

先の戦でも、徳川はこちらに難癖つけて!!

 

 

あまりにも、信之様を愚弄しております!!私は」

「七隈」

 

「?」

 

「命が下った以上、出るぞ。怱々に支度せい」

 

「……かしこまりまして」

 

「信之様!!」

 

「案ずるな小松。愚弟に貸が一つ増えるだけの事よ」

 

 

そう言いながら、信之は別室へと行った。縁側の柱に寄り掛かり立っていた優助は、静かに口を開いた。

 

 

「さすが徳川。

 

余程、真田家に貸を作りたくないのでしょう」

 

「優助……」

 

「あの者は、昔から真田家を嫌っているようでしたし。

 

武田も武田で、あの方は嫌いでしたから。文句はありません」

 

「優助、あなたは戦場に出て信之様を援護してくれます?」

 

「……それは、僕の気分次第です」

 

 

そう言いながら、優助はどこかへ行ってしまった。

 

 

 

奥州……

 

 

城の中を綱元と成実は歩きながら話していた。

 

 

「やり過ぎじゃないかなぁ?」

 

「?

 

何がだ?綱元」

 

「うちの殿の事さ。風雲児と囃し立てられてますが、今となっているのは黒い風。

 

あの何も残んないようなやり方は、辞めた方が良い」

 

「まあな」

 

「その様な事、迂闊に口にするな。己等」

 

 

前を見ると、角から小十郎が姿を現した。

 

 

「小十郎」

 

「我らの上の者が、揺らいでどうする」

 

「下の奴らが、揺らいでるってことか」

 

「……」

 

「いいんですか?このようなやり方……

 

むやみな殺生は控えた方が」

 

「俺も同感だ。何の名分も無く命を奪うのは、好きじゃねぇ」

 

「それは……!」

 

「フフフフ……これはおかしい」

 

 

上から壁を抜けて、伊佐那美が姿を現した。

 

 

「大議名分があろうかなかろうが、死は死であろ?

 

殺される側にしてみれば、お主等の名分など、迷惑この上ないわ。ただ殺されるのだからな」

 

「……」

 

「大義名分のある死と妾が与える死に、何の違いがあるのだ?

 

今まで数々、戦を繰り返して命を奪ってきた者共が何を言う……

 

 

腹が捩れるわ」

 

 

そう言いながら、伊佐那美は綱元の頬をそっと触った。彼は彼女に障られた途端、背筋から冷や汗が噴き出て、鳥肌が立った。

 

 

「覚えておくがよい。妾を呼んだのは主等人間よ。

 

 

フフフ……自ら滅ぼされるためにな」

 

 

伊佐那美は、静かに言うとその場を離れて行った。

 

綱元は未だに震えが止まらず、傍にいた成実は小十郎を睨んだ。

 

 

「いいのか小十郎!!」

 

「騒ぐな!!殿を信じよ!!」

 

 

とある森の中、木に寄り掛かり座りこむ才蔵と彼の傍に立つ半蔵。

 

 

「忍が動けなくなるまで、走るもんじゃねぇですよ」

 

「っるせ……」

 

「一日中休みなしで、早駆けするなんて阿呆じゃないっすか」

 

「あの阿呆師匠の痕跡がまるでねぇんだ。

 

まず速効出雲だろ」

 

「速攻過ぎやしませんかねぇ。

 

俺的には、温泉巡りしつつしっぽり二人で旅行!でもよかったんですけど」

 

「ぶっ殺すぞ!!テメェ!!

 

 

くだらねぇ事言ってねぇで、小休止したら出るぞ。もうすぐ出雲だ」

 

「つまんねぇの」

 

「テメェも休んどけよ」

 

「はいはい」

 

(今頃どうしてる、伊佐那海……)

 

『えぇ!野宿嫌だぁ!暗いの怖いんだもん』

 

(闇を怖がってたお前が、闇だなんてな……本当似合わねぇよ。

 

待ってろよ、俺が絶対何とかしてやる。その為には神やらとも、理解してやる)

 

『出来ないんじゃなくて、才蔵の心構えがなってないだけなんだよ』

 

「……心構え。

 

確かにそうだ(俺は全てを受け止める、心構えがなってねぇだけなんだ。いつも迷ってばかりだって、今になってわかるとはよ)

 

あの阿呆師匠、結構大事なこと教えてくれてたんじゃねぇか」

 

 

数時間後……

 

 

二人は出雲に着き、鳥居を抜けた地面で座り込み息を切らしていた。

 

 

「着……い……た……」

 

「ば……馬鹿じゃないすか……これ何つう早駆け競争?

 

伊賀出雲間、新記録っすよ!絶対!

 

 

ハァ……キツ!」

 

「……なんか、もう懐かしいな、ここ(筧さんと伊佐那海と明日花……随分前の事みたいだな。

 

あの時はまだ何も、分かっちゃいなかった)」

 

「あそこが入口っすね」

 

 

半蔵が見る方に目を向けると、そこの地面から黒いオーラが漂っていた。

 

 

「ああ……だな」

 

「まさかもう一度、来る羽目になるとはねぇ」

 

「開くのか?

 

前に来た時は、伊佐那海じゃなきゃ開けられなかった」

 

「んじゃ……焼いちゃいましょ。

 

火術迦楼羅炎」

 

 

手から火の塊を出した半蔵は、地面目掛けて火を放った。だが地面は無傷のまま、煙から姿を現した。

 

 

「ありゃりゃ、ビクともしませんねぇ」

 

「どっか別に、入り口があったりしねえかな」

 

 

そう言いながら、才蔵は地面を踏んだ。その時地面が開き、才蔵はその穴へと落ちて行った。落ちて行った彼に続いて、半蔵もその中へと入った。

 

 

「んだよ……いきなり開きやがって」

 

「大丈夫っすかぁ?」

 

「応、何とか」

 

「しっかし……前も思ったが気味悪いなここ」

 

 

ふと才蔵は岩の方に目を向けた。岩の隙間から出てくる黒いオーラ……

 

 

(ダメだ……)

 

「あんた、どうしたんです?」

 

「(何だ!?何でそう思う?)あ?(でも……)」

 

「その手っすよ」

 

 

半蔵に言われ、才蔵は自身の手に目を向けた。その手は黒く染まって行っていた。

 

 

「(ダメだ!!)何だ……こりゃ?」

 

『お前は邪魔だ……光の者よ!』

 

 

その声が聞こえた途端、才蔵はその場に倒れた。半蔵は慌てて駆け寄り彼の体を見て絶句した。

 

体の至る所が、黒く染まっていた。

 

 

「(闇が……)深……」

 

「才蔵!!しっかりしなさい!!

 

 

才蔵!!」




九度山……酒に潰れ眠る見張り達の中、幸村は清々しい顔で酒を飲んでいた。


「皆弱いのう。

おーい皆の者!もう仕舞いか?まだ酒は、残っておるというのに。


安酒では、悪酔いしても致し方ない……六郎、大助」

「はい」

「見張りの者は全員、酔い潰れてますけど……」

「もういいだろうよ」


そう言いながら、幸村は首に巻いていたタオルを取り、着ていた着流しを整えた。彼の肩に六郎は用意しておいた羽織を掛けた。


「大人しくするのには、飽きたわ」

「幸村様?何々何!?」

「しー!大助様……これを」


そう言いながら、六郎は大助の服を出した。そして懐から、煙管を出し幸村に渡した。


「どうぞ、若」

「うむ」

「まぁ、若にしてはよく我慢なさった。


誉めて差し上げます」


そう言うと、六郎は来ていた着物を脱ぎ、いつもの服へと着替えた。


「うるさいわ、この小姑が。


さあ……行くとするか」
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