武田軍隊長山本優助、副隊長光坂紫苑、そして光坂一族は武田が滅んだ直後、彼等は大名達の前から姿を消した……
優助と紫苑は、一族が世話になっていた神社……公智神社で巫女と巫覡となり、静かに暮らしていた。
そんなある日……優助が境内で何かの音を耳にした。それは紫苑も同じだった。
風は吹いていないのに、木の葉がざわめく音……
その音は何日も続いた……
そして運命の出会いがあの日に訪れた……二人の元へ。
ざわめく音の中から、泣き声が聞こえた。
赤ん坊が泣く声……二人はその声を頼りに、境内を探し回った。そして見つけた……
境内の片隅に生えた神木……その木の前に、小さな声で泣く赤ん坊が木の籠の中にいた。
「……!
紫苑!来てくれ!」
優助の呼ぶ声に、紫苑は彼の元へと駆け寄った。優助は慣れない手付きで、木の籠から赤ん坊を抱き上げ、駆け寄ってくる紫苑に見せた。
「この子……」
「この木の籠の中に……
恐らく、捨て子です」
「……」
優助に抱かれた赤ん坊は、涙は出ているものの泣き止み紫苑の方をずっと見詰めていた。見詰めていた赤ん坊を、紫苑は彼から取り抱いた。
赤ん坊は彼女に抱かれると、笑みを見せた。
「笑った……」
「どうやら、君のこと母親だと思ってるみたいだね」
「そんじゃあ、父親は優ってことかしら?」
「え…」
「何てね。それより早くこの子を、神主様の所に連れて行きましょう」
赤ん坊を神主の所へ連れて来た紫苑と優助……紫苑に抱かれた赤ん坊はご機嫌なのか、笑い声を上げながら紫苑の手を握ったり、優助の方に手を伸ばしたりしていた。
「その子が、あの隅の神木に捨てられていたのか……」
「神主様、この子はこれから……」
「……仕方あるまい。これも何かの縁かもしれない。
ここに置き皆で育てよう」
神主の言葉に、紫苑は優助と顔を見合わせ微笑んだ。
「けど、皆で育てようにも……
その子は既に、自身を育ててくれる親を決めているみたいですね」
「え?」
「紫苑、優助。
二人は、これからこの子の親となりなさい。その子もそれを望んでいる。見てみなさい……その子の笑顔を。
その笑顔は、二人を親として見ている証拠です」
「けど、我々は一度も子育てを」
「助け合い育てるのが子育て……
困った事があれば、周りに相談しなさい」
話を終え縁側に座る紫苑達……するとそこへ、赤ん坊の話を聞きつけた巫女達が彼女達の元へやって来た。
「わー!可愛い!」
「この子でしょ?紫苑達が見つけた赤ちゃん」
「うん」
「何か、二人の子供みたい」
「え?」
「何で?」
「だってこの子、紫苑と同じ様な髪の色してるし、顔立ちなんて優助にそっくりじゃん!」
巫女達の言う通りだった……赤ん坊は、紫苑と似た白髪に優助と同じ透き通った青い目をしていた。
「不思議よねぇ。捨て子がここまで二人に似るなんて」
「もしかして、本当に二人の」
「違います……断じて違います」
「そうよ。
前にも言ったけど私、子供作れない体なんだから」
「あ……」
「人が言ったことくらい、覚えといてよ」
「アハハ……」
「ねぇ、抱かせて!
赤ちゃん、抱いてみたい!」
「あ!ズルイ!私も」
「私も」
「ハイハイ、順番ね」
そう言いながら、紫苑は傍にいた巫女に赤ん坊を手渡した。巫女は嬉しそうに笑い赤ん坊の頬を撫でた。すると赤ん坊は、泣きそうな表情になりそして泣き出してしまった。
「わわわ!
ど、どうしよう!」
「貸して」
紫苑は慌てて赤ん坊を抱きあやした。すると赤ん坊は、紫苑の顔を見ると泣き止み笑った。
「やっぱり、神主様が言った通り」
「この子は紫苑と優助が育てないといけないみたいね」
「そうよねぇ」
「そういえば紫苑」
「ん?」
「この子の名前、どうするの?」
「名前?」
「育てるなら、やっぱり名前がなきゃ」
「そうねぇ……」
考える紫苑……ふと赤ん坊に目を向けると、赤ん坊は優助の方に手を伸ばしており、彼は伸ばしてきた手に自身の小指を持っていき掴ませた。赤ん坊は嬉しそうにその小指を握った。
「紫苑の次は優助に懐いてる!」
「あらあら……優、今度はアンタが抱いてあげなさい」
そう言うと、紫苑は優助に赤ん坊を渡した。彼は慣れない手付きで赤ん坊を抱き、赤ん坊は笑った顔のまま優助の服を掴みんだ。
「この子、笑い顔が可愛いですね!」
「何か、こっちまで癒される」
「僕が抱いた時も紫苑が抱いた時も、この子は泣き顔からすぐに笑い顔になります」
「へ~」
「二人の事本当の親だと思ってるんだね」
「で、紫苑。
名前は?この子の」
「……明日花(アスカ)」
「明日花?」
「そう……
今日が辛くとも、この子の笑顔を見れば明日はいい日になる……」
「おぉ」
「何てね。
子供が出来たら、この名前を付けようって優と約束してたの。ね」
紫苑の問いに優助は頷いた。
優助は抱いていた明日花を、紫苑に渡し紫苑は受け取った明日花の頭を撫で愛おしそうに、頬擦りした。
神木の傍に木の籠の中に捨てられていた赤ん坊……
その赤ん坊の名は……明日花