BRAVE10S   作:花札

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継がれた技と目覚めた魂

神社で拾われた赤ん坊……明日花は、優助と紫苑、そして神主と巫女達の愛情を受けながら育っていった。

 

そんなある日の夜……明日花が眠る部屋へ、一人の巫女が入り彼女に危害を加えた。危害を加えた巫女は、明日花が泣き出す前にその場から逃げだし、その直後明日花は泣き出した。泣き声を聞いた紫苑は起き彼女をあやしに行った。紫苑に続いて優助も起きともに明日花をあやした。明日花をあやしている最中、優助と紫苑の耳にあの音が聞こえてきた。

 

風が吹いていないのに、木の葉がざわめく音……

 

 

「この子が泣くと、木々がざわめくのかしら」

 

「……紫苑。

 

明日花はもしかしたら、普通の子じゃないんじゃ」

 

「……そんなはずないわ。

 

明日花は普通の子よ」

 

 

泣き止み、紫苑の垂れ下がっている髪を掴む明日花を優助は、頭を撫で頬を撫でた。

 

 

翌朝……境内で、巫女が一人行方知れずになった。紫苑と優助を含めた全員が境内を捜し回った。境内の外、森の中も捜した……だが、その巫女の姿は見つからなかった。

 

 

「どこにもいない……」

 

「どこ行っちゃったのかしら?」

 

「……」

 

 

「紫苑!!ちょっと来てくれ!!」

 

 

優助の声に、紫苑はすぐに彼の元へ駆け寄った。優助の所へ行くと、そこは明日花を拾った神木の前だった。

 

 

「どうしたの?」

 

「これを見てくれ」

 

「……!?」

 

 

木に目を向けると、そこには信じられないものがあった。木の幹に埋まり込んでいる片方の下駄……取ろうと手に掛けるが、下駄は完全に埋まっておりビクともしなかった。

 

 

「埋まってる……」

 

「まさか……あの子、この中に」

 

「……」

 

 

その事実を、二人は神主に話した。そして昨夜あった明日花の夜泣きの事も話した。

 

 

「……話の内容からして、明日花はおそらく普通の子ではない」

 

「そんな……」

 

「実は随分前に、出雲の神主から奇妙な子を拾ったと話しを聞いたんだ。

 

子が泣く度に、闇がざわりと蠢くという……その子に呼応するようにね」

 

「それじゃあ、明日花も?」

 

「この神社……公智神社に司っている神は、この地に木々を生やした神……久久能智神。

 

久久能智神は、大地に木々を生やしそして闇を消すと云われている光だ」

 

「光……」

 

「明日花は、おそらくその闇を消すために生まれたのでしょう」

 

「……」

 

 

部屋で笑う明日花に手を貸す紫苑……

 

 

「この子が、久久能智神だなんて……やっぱり、信じられないわ」

 

「そうは言っても、まだ可能性があるってだけだよ。

 

大きくなって、もしこの子が泣いた時木の葉がざわつかなければ、明日花は普通の子だよ」

 

「……そうね」

 

 

優助に励まされた紫苑は明日花を持ち上げ、彼の方に見せた。優助は手を伸ばしてきた明日花の頭を撫で微笑んだ。

 

 

 

月日は流れて行き、明日花はようやく立ち歩き出した頃……神社に晃三と一族の頭がやって来た。

 

 

「二人に子供がなぁ……めでたい!実にめでたい!」

 

「頭、この子は私達の子じゃ」

 

「いいじゃないか!お主等二人に、しっかりと懐いておるんだから」

 

「これが赤ん坊って奴か……紫苑の赤ん坊の時とそっくりだ」

 

「晃三、アンタ見えてないでしょ?」

 

「見えてなくとも、感覚と嗅覚で分かるんだよ」

 

 

そう言いながら、晃三は座り込み草を弄っていた明日花を抱き上げた。彼女は晃三の顔を手で触りながら、面白いのか笑った。

 

 

「へ~、晃三が好かれるなんて」

 

「意外ですね」

 

「お前等、一発殴ろうか?」

 

「ハッハッハッハ!いいじゃないか、晃三!

 

儂もお前も、孫が出来たようなものではないか!

 

優助、紫苑。二人ともしっかりこの子を育てていくのだぞ」

 

「もちろん。

 

任せてください。明日花を立派な忍に育て上げます」

 

「それじゃ、この子がもう少し大きくなったら、刀の指導に入らないとな」

 

「刀だけじゃないわ。槍と鉄扇に、弓も短剣も。

 

私が使える武器は全部教えないと!」

 

「この子の未来が楽しみだねぇ……

 

どんな子になるか、俺も楽しみだよ。優助、紫苑と明日花を頼むよ」

 

「分かりました」

 

「紫苑、あんまり優助に苦労かけちゃだめだよ?」

 

「かけてないわよ!」

 

 

頭と晃三と会ってから二年後……それはついに現実を見ることになった。

 

 

「母さーん!!見て見て!」

 

 

三歳になった明日花は、元気いっぱいの少女となりいつも森や境内を走り回り遊んでいた。

 

 

「どうしたの、そんなに慌てて」

 

「見てて見てて!

 

ほら!」

 

 

そう言うと明日花は、手の広げ気合を溜めるかのように唸った。すると手から樹の枝が伸び一本の棒になった。

 

 

「!!」

 

「ね?凄いでしょ!

 

さっき出来る様になったんだ!」

 

「出来る様にって……いつから出来てたの?」

 

「う~ん、一ヶ月くらい前かな?

 

こないだ何て、転んで少し泣いてた時、周りに木の苗が生えて足のけが治してくれたんだよ」

 

「……」

 

 

紫苑は隣にいた優助と顔を見合わせ、すぐに神主の元へ行った。事情を聴いた神主は、紫苑の首に掛かっている勾玉の首飾りを指差し取るように言った。紫苑は言う通りに首飾りを外し、神主に渡した。

 

 

「これはあなたがまだ赤ん坊の頃、渡した物です。

 

あなたは幼い頃、自身の技の力をコントロールすることができず、それを見たお頭はあなたにこの幸魂(サキミタマ)を渡したのです」

 

「じゃあ、明日花は私と同じ技を」

 

「そう……あなたが技を使えなくなった時期と、明日花がここで拾われた時期はほぼ一緒。

 

あなたの技を、明日花は受け継いだのでしょう」

 

「……明日花は、普通の子…ですよね」

 

「……残念ながら、明日花はおそらく……」

 

「……」

 

 

神主の部屋から出てきた紫苑と優助……境内に置かれていた岩に腰を下ろした明日花は、枝を振って遊んでいた。

 

 

「……?

 

あ!母さん!父さん!」

 

 

二人に気付いた明日花は、岩から降り駆け寄り下駄を脱ぎ紫苑に飛び付いた。紫苑は無理に笑顔を見せ飛び付いた明日花の頭を撫でた。

 

 

「ねぇねぇ、神主さんと何話してたの?」

 

「ちょっとね……」

 

「?」

 

「明日花、部屋に一緒に来なさい」

 

「部屋?何で?」

 

「君に渡したい物があるから。ね」

 

「……うん」

 

 

部屋へ来た明日花に、紫苑は自身が下げていた首飾りを取り見せた。

 

 

「何?これ」

 

「幸魂」

 

「サキミタマ?」

 

「えぇ。これはあなたのお守りよ」

 

「お守り?」

 

「絶対に、何があっても外しちゃだめよ」

 

「はーい!」

 

 

紫苑は明日花の首に勾玉を下げた。紐が長く勾玉は明日花の腹部まで達していた。

 

 

「あらあら、少し長いわね。

 

でも大丈夫よ。大きくなれば、長さも丁度良くなるわよ」

 

 

そう言いながら、紫苑は紐を短くするようにして結んだ。

 

 

「明日花、その勾玉は絶対に外さない様にね」

 

「何で?」

 

「お守りだからよ。約束してくれる?」

 

「うん!」

 

 

明日花は立ち上がり、優助の膝に乗り嬉しそうに勾玉を見せた。優助は明日花の頭を撫でながら、笑みを浮かべ勾玉を一緒に見た。そんな光景を、紫苑は面白おかしく笑いながら眺めた。

 

 

幸魂を受け取ってから一年後……優助は用事で出掛け、紫苑は明日花と共に森へ行っていた。

 

 

「明日花ぁ!あんまり、遠くに行かないようにねぇ!」

 

「ハーイ!」

 

 

返事をした明日花は、拾った枝の棒を振りながら草むらをかき分けて行き奥へと進んでいった。

奥へ進むと、地面に栗が落ちており、明日花は腰に着けていた籠に拾った栗を入れて行った。その時、茂みから物音が聞こえ、明日花は栗を拾うのを止め茂みの方に顔を向けた。

 

 

「……!!」

 

 

茂みから出てきたのは、右眼に眼帯をした政宗だった。政宗は明日花をなぎ倒し、彼女の口を手で塞ぎ刀の先端を首に翳した。

 

 

「声を出せば殺す……いいな?大人しくしてろよ」

 

 

政宗の言葉に、明日花は頷いた。それを見た政宗は、口から手を離し明日花の腕を掴み、奥で待たせている馬の所へと戻った。

 

 

座敷牢に入れられた明日花は、足に着けられていた足枷を外そうと弄っていた。ふと窓の外を見ると、既に日が暮れ外は真っ暗になっていた。牢の中も蝋燭の光だけが頼りになっていた。

 

 

『俺ぁ、伊達政宗ってんだ。

 

お前、名前は?』

 

『……』

 

『おい、人の質問に答えろ』

 

『……』

 

『殿、無理だと思いますよ。

 

見た目からして、おそらく彼女はまだ三歳か四歳……言葉を覚えたてのうえ、この頃の子供は人見知りし知らぬ者には決して口を開くことはありません』

 

『……ちっ、まあいいか。

 

長い付き合いになるんだからな』

 

『つきあい?』

 

『お!喋りやがった。

 

そうだ。お前は今日からこの俺に仕えるんだ』

 

『何で?

 

母さんや父さんも一緒?』

 

『んや、お前一人だけだ。

 

お前の親父とお袋は、真田の兄弟に引き取られる。だからお前にはもう、行き場が無くなるんだ。そんでこの俺が引き取ることにした。どうだ?嬉しいだろ』

 

 

政宗の問いに、明日花は首を左右に振った。政宗は笑みを浮かべながら立ち上がり、牢を後にした。

 

 

その事を思い出した明日花は、足枷から手を離し立ち上がり外を見た。月明かりに照らされた森がよく見えた。

 

 

『明日花』

『明日花』

 

(……母さん、父さん)

 

 

ふと牢に置かれていた花に手を触れた。花の茎から芽が生え蕾を作った。

 

 

「……何で」

 

 

その時、どこからか風が吹き抜け牢の中を照らしていた蝋燭の火が消え、当たりは暗闇に包まれた。

 

 

「嫌だ……嫌だ……

 

母さん!!父さん!!」

 

 

暗闇に恐怖を覚えた明日花は、紫苑と優助を呼び叫びながら牢の中を歩き回り、床に敷かれていた羽織を頭から被り隅の方に蹲った。震えながら目を頑なに瞑り手で耳を塞いだ。

 

 

(怖い……怖い。

 

母さん……父さん……)

 

 

『出たい?』

 

「?」

 

 

突然どこからか声が聞こえた。明日花はゆっくりと目を開け顔を上げた。目の前には、白い光りに包まれた者がそこに立っていた。

 

 

「……誰?」

 

『誰でもいいじゃない。

 

それより、ここから出たい?』

 

「出たい……

 

母さんと父さんに、会いたい」

 

『……じゃあ、首に下がってる幸魂にアナタの怖い思いを念じて。そうすれば、欲しいものが手に入るよ』

 

 

そう言うと、白い光りは消えた。明日花は幸魂を握り思いを念じた。

 

 

“ドーン”

 

 

破壊音が聞こえ、明日花はすぐに目を開きその光景を見た。牢の壁が壊され、外が見えていた。外にはまるで自分の逃げ道とでもいうようにして、道に沿って木々が生え並んでいた。

 

目の前の光景に、驚いた明日花は無意識に立ち上がった。すると足枷が自然に取れ、取れたのを知った明日花は、歩き出しそして走り出し、その道を駆けていった。

 

 

その数分後、政宗は音に気付きすぐに牢へといった。牢には巨大な穴が開いており、外の風景が丸見えだった。

 

 

「……クックック!

 

面白れぇ……力が目覚めたってか?」




数日後……

木々を飛び移りながら、明日花を捜す優助と紫苑……


「どうしよう……もう、十日になる」

「大丈夫だ。

明日花なら、きっと見つかるよ。紫苑はそっちを。僕はこっちを捜すよ。
伊達にさらわれたのなら、おそらくこっちに何か手掛かりがあると思うから」

「お願い」


紫苑と別れた優助は東の方へといった。川を越えしばらく歩いていると、茂みの中を何かが動く気配を感じた。優助は茂みの中へ降り立ち、動いていた方に目を向けた。茂みをかき分け出てきたのは、ボロボロの着物に虚ろな目をして歩く明日花だった。


「明日花……」


虚ろな目で歩く明日花を、優助は抱き上げ木に登り移動した。しばらく移動していると、意識が戻ったのか明日花は優助の服を力強く掴みながら、辺りを見回した。それに気付いた優助は、その場に留まり明日花を抱き直した。


「明日花、もう大丈夫ですよ」

「……父さん」


優助の顔を見ていた明日花の目から、大粒の涙が流れそして大泣きしながら彼にしがみ付いた。優助はそんな明日花の頭を撫でながら、紫苑と待ち合わせをしている場所へ向かった。


「優助、見つ……!!

明日花!!」


優助に抱かれている明日花を目にした紫苑は、彼の元へ駆け寄り優助にしがみついている明日花を、覗くようにして見た。明日花は泣きながら顔を上げ、紫苑の顔を見た。


「母……さん」

「明日花」

「母さん!」


降りようとした明日花を、優助は慌てて抑え紫苑に手渡した。紫苑は明日花を受け取ると、頬擦りしながら涙を流した。しばらくして、明日花は安心したのか紫苑の腕の中で眠ってしまった。二人は明日花を撫で、神社へと帰った。
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