だが、前と比べて明日花はずっと紫苑と優助の傍を離れようとしなくなった。
「紫苑、優助……晃三さんがお見えだよ」
神主に言われ、二人は晃三がいる部屋へ向かった。外で遊んでいた明日花は、二人が移動したのに気付くと、すぐに駆け寄り後ろを歩いていた優助に飛び付いた。飛び付いてきた彼女の手を握り優助は紫苑と共に部屋へ向かった。
「あ!晃三!」
晃三の姿を見た明日花は、優助から手を離しすぐに彼の元へ駆け寄り抱き着いた。抱き着いてきた彼女を晃三は、手で頭を撫でたり頬を触ったりして、明日花の成長を確かめた。
「明日花、随分デカくなったな?ガキの頃の紫苑とそっくりだ」
「晃三、明日花の事見えてるの?」
「俺は手で触れたり、臭いを嗅いだりしてそれがどういう形かが分かるんだ」
「凄ぉい!」
「晃三、変なことこの子に吹き込まないで」
「クックックック!紫苑に言われちゃ、仕方ないか」
抱き着いた明日花を抱え、晃三は腰を下ろし彼女を自分の膝に乗せた。彼に合わせて、優助と紫苑も腰を下ろした。
「晃三、今日は何で?」
「な~に、ちょっとね。
明日花、木の実採って来てくれないか?」
「木の実?」
「そう……お頭のお土産にしようと思ってね。いいかな?」
「うん!」
明日花は立ち上がり、部屋を出て行きそのまま森の中へと駆けて行った。
「あの子、一人で大丈夫かしら……」
「大丈夫だ。あの子の見張り役に、俺が飼ってる狼を一匹森に離してる。あいつの匂いももちろん覚えさせた」
そう言いながら、晃三は明日花がまだ赤ん坊の頃に包まれていた布を取り出し二人に見せた。
「話を聞きたくて、今日は来たんだ」
「話?」
「数日前、明日花が伊達にさらわれたって聞いてね……その時の状況を教えてほしいんだ。見つけた時の事を」
二人は目を合わせながら、晃三の前に座りあの日の事を全て話した。
「……目覚めたね」
「え?」
「おそらく、明日花は力に目覚めたよ」
「目覚めたって……」
「紫苑と同じ木の技を使う……
前までは、自身を無意識に守る技だった。けど今はもう、自分の意志で自由自在に使える……多分、彼女も薄々気付いていると思うよ」
「……」
「これはもう、闇を消すための力が付き始めているんだろう。
紫苑、優助……この先辛いことが待っているかもしれない。明日花を守れるのは親であるお前等二人だけだ。極力俺達光坂一族も手伝うけど……」
「……」
「晃三!」
呼び声と共に、森から狼を連れた明日花が駆け寄り、泥足のまま部屋の中へと入った。
「コラ!泥だらけじゃない!」
「明日花、足を拭きなさい!」
「いいっていいって、俺は気にしない」
「晃三が気にしなくとも、私達が気にするの!
優、お願い」
紫苑に言われた優助は、晃三に駆け寄り腰に着けていた籠の中を見せている明日花を持ち上げた。
「明日花は、外で足を拭こうか」
「え~……晃三と遊びたい!」
「足を拭いてから。遊びはその後」
「う~」
持ち上げた明日花を連れ、優助は外へと出て行った。
「あの日から、変わりはなさそうだね」
「……あるわ」
「?」
「あの日の事、あの子何も覚えてないのに……私達から傍を離れなくなったの。
私達がどこかへ行こうとすると、すぐに遊ぶのを止めてついてきて……晃三が来たって神主様から聞いた時、移動しようと歩いてたら、庭で遊んでたあの子すぐに駆け寄って、優助に飛び付いて……」
「……怖いんだろうね。
記憶が無くなっても、彼女の中にはその時の恐怖がまだこびり付いているんだろう。母親と父親から引き離されて、怖い思いをした時の感覚が」
紫苑は頭の用事で外出しており、優助は明日花と共に森の中へ来ていた。明日花は森の中で流れている川に足を入れ遊び、その傍で優助は自身の刀の手入れをしていた。
しばらく遊んでいた明日花は、ふと優助の行為が気になり始め、川から上がり彼の傍へと行った。
「何やってるの?」
「刀の手入れです。
刀は繊細ですから、毎日手入れをしてあげないと斬れなくなってしまいますからね」
「フ~ン……明日花の刀も手入れした方が良いの?」
「そうですね。
やりますか?」
「でも……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと教えますから」
「……うん!」
明日花は木に立て掛けていた刀を持ち、優助の隣に座り見様見真似で刀の手入れをした。
「……ねぇ、父さん」
「?」
「……
明日花の本当の母さんと父さんは、どこにいるの?」
「!」
手入れしていた刀を下ろし、明日花は優助の方に顔を向けた。優助は動かしていた手を止め、彼女を見詰めた。
「……誰から、聞いたんです?」
「姐さん達……
皆話してた。明日花は拾われっ子で母さんと父さんは、本当の母さんと父さんじゃないって……」
「……」
「ねぇ……明日花の…?」
質問してくる明日花の頭を優助は撫でた。
「紫苑が帰ってきたら、話すよ」
「……うん」
夕方……
神社へ帰ってきた紫苑の元へ、優助は寄り昼間のことを話した。紫苑はしばらく顔を下に向け何かを考えていたが、すぐに顔を上げ明日花が待つ部屋へ行った。
部屋に入った紫苑は、鞠で遊んでいた明日花の前に座り、彼女に続いて優助も座った。明日花は鞠を置き、紫苑と優助の方に体を向けた。
「……四年前、明日花は境内の隅にある神木の前に捨てられていたの」
「じゃあ、明日花の本当の親は……」
「分からないわ。
でも、アナタを拾って私達は救われたの。
昔、母さんのお腹の中にね明日花と同じ名を持った子がいたの。けど、戦争中でね……その子、お腹の中で亡くなったの」
「……」
「明日花が来てくれたお陰で、紫苑も僕も救われた。
だから、僕達は君を自分達の娘として向かい入れた……」
「……?」
顔を下に向けていた明日花を、紫苑は抱き寄せ頭を撫でた。
「それから、もう一つ話があるの」
「もう一つ?」
紫苑は明日花を自身の膝に乗せ、優助と交互に話をした。神主から聞かされた話……それを隠さず、紫苑は明日花に全て話した。
「……明日花が使ってる力、その神様が」
「そう……けど、その力はあなたを守るためにあるの」
「この先、辛いことが待ち受けている……もしかしたら、その力が暴走するかもしれないし」
「暴走?」
「大丈夫。どんな事があっても、あなたが自分の力で自分を守れるまで、母さんと父さんが傍にいるわ」
「……」
「それに、その首から下がってる幸魂を持ってる限り、力は暴走しないわ」
「だから、決して外しちゃだめだよ」
「……うん」
「それから、明日花が使える技は決して他人に見せちゃダメ」
「うん」
夜……
眠っていた明日花は目を覚まし、紫苑と優助を起さぬようそっと部屋を出て行った。
月明かりに照らされた森の中を歩き川辺に着いた。川に足を付け座り、服の下に隠していた幸魂を手に取り眺めた。
「……光の神。
自然の神……」
その時、風が吹き木々がざわついた。するとその音に反応するかのようにして、幸魂が光り出した。
「光った……何で?」
明日花は幸魂を服の下にしまい、急いで神社へと帰って行った。