BRAVE10S   作:花札

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森の中を歩く紫苑と明日花……


「ねぇ、母さん」

「?」

「上田ってどんな所?」

「辺鄙な里よ。

けど、皆生き生きしてるわ」

「ふ~ん……ねぇ、これから上田に住むんだよね?」

「そうよ」

「森に遊びに行っていい?毎日!」

「構わないけど、稽古はしっかりやるから。遊びはその後」

「承知の上!

ねぇ、あのオジサン以外に誰かいるのか?その上田に」

「そうねぇ……

確か、数年前に海野家の子供が付いたわ。それから甲賀の忍でしょ。後は口うるさい頑固爺が一人。


あ、着いたわよ」


丘を登り、そこから見えたのは上田の風景だった。


「わー!綺麗!」

「ここからの景色が、母さん一番好きなの」

「ふ~ん……

ねぇ、今度は父さんも一緒にここからの景色見よう!三人だけで!」

「……そうね。

出来たら、そうしようか」


紫苑はどこか悲しげな様子で、景色を眺め明日花はその顔に疑問を持ちながらも景色を楽しんだ。


信州・上田

しばらく森を歩いていると、紫苑と明日花は足を止めた。

 

 

「……母さん」

 

「私に合わせて、明日花」

 

「……うん」

 

 

腰に掛けていた狐の面を紫苑と明日花は着け、それぞれの武器に手を掛けた。その時、木から突然無数のクナイが飛び出し、二人は素早く避け木の上を見た。

 

 

「何者!?」

 

「元武田軍副隊長、光坂紫苑……この度、信州上田・真田幸村様に仕えることとなった」

 

「武田……?」

 

 

紫苑の後方にいた明日花に、男は目を向け武器を下ろした。その隙を狙い、紫苑は槍の束で男の腹を突き、明日花に合図を送った。明日花は印を結び、地面から木の根を生やし拘束した。

 

 

「捕っかまえたぁ!」

 

「っ!!」

 

「アンタの頭に用があるからって、最後まで気を抜かない。例え子連れでも」

 

「……」

 

 

拘束した佐助を抱え、紫苑は城へ向かった。城の門前に着くと、そこには丁度出てきた幸村と少年がいた。幸村は紫苑が抱えてる佐助を見て少々驚いていた。

 

 

「儂の見張りを拘束するとは……」

 

「気ぃ抜き過ぎだ、アンタの使い忍」

 

「ハハハ……」

 

「あら?その子?

 

もしかして、海野家の」

 

「?……おぉ、そうだ。

 

名は海野六郎。六郎、この女子が先日話した、元武田軍副隊長の」

 

「光坂紫苑。よろしくね」

 

「海野六郎です……?」

 

 

紫苑の後ろに立っていた明日花に、六郎は顔を向けた。明日花は茂みから出てきた小さい鼬と鼬を肩に乗せ遊んでいた。

 

 

「随分デカくなったなぁ、明日花は」

 

「当たり前よ。あの子はもう十歳よ」

 

 

「紫苑ではないか!」

 

 

後ろから声が聞こえ、振り向くとそこには火縄銃を担いだ男が立っていた。

 

 

「あ!頑固爺!」

 

 

男の姿を見ると、明日花は指を指しながらそう言った。その言葉を聞いた途端、紫苑は腹を抱えて大笑いし彼女に続いて、幸村も笑い出した。傍にいた六郎は拘束された佐助の木の根を切りながら、二人を見て呆れていた。

 

明日花の言葉に、男はしばらく沈黙していたがハッと意識を取り戻しすぐに怒鳴った。

 

 

「こ、この小娘!!人に指を指すでない!!それから、誰が爺だ!!某はまだ、二十八だぞ!!」

 

「歳、歳気にしてるよ!この男!」

 

「紫苑!!お主か!!変な事を吹き込んだのは!!」

 

「頑固爺って、吹き込んだのよ!」

 

「誰が頑固爺だ!!」

 

「もういいじゃないか!筧」

 

「ゆ、幸村様!」

 

「子供の発言に、お主はいちいちうるさいわ」

 

「し、しかし!」

 

「ったく、相変わらず口うるさいんだから」

 

「お主のぉ……

 

?そういえば、その小娘は何者だ?」

 

「光坂明日花。

 

私と優助の娘です」

 

 

そう言いながら、明日花の肩に手を置き紫苑は彼女を十蔵に紹介した。十蔵は固まり、しばらく魂が抜けたかのようにして、その場に立ち尽くした。

 

 

「あら?十蔵?」

 

「固まってる…この爺」

 

「もう爺言わない!

 

この人は筧十蔵」

 

「十蔵?」

 

「そう」

 

「十蔵!おーい!」

 

「……!」

 

 

我に戻った十蔵は、首を振り明日花を見下ろした。

 

 

「どうかしたか?十蔵」

 

「何が十蔵だ!!」

 

「!?」

 

「敬語を使わんか!!」

 

「ちょっと!!人の子供に、口うるさく言うの辞めてくれない!!」

 

「お主の子供だと、余計躾がなってない!!

 

某を見た瞬間、爺と言いおって!」

 

「う……そ、それは」

 

 

口喧嘩する十蔵と紫苑……その様子を、明日花はあくびをしながら眺めていると、六郎に腕を引っ張られそのまま城の中へと入って行った。

 

 

しばらくして、紫苑は疲れたように息を吐き、用意されていた自身の部屋に入り腰を下ろした。

 

 

「全く……冗談の通じない男だ」

 

「ねぇ、森行っていい?」

 

「いいわよ。夕方になったら槍の稽古やるから、それまでには帰ってきなさい」

 

「はーい!」

 

 

傍で寝ていた鼬と小さい鼬を連れ、城の塀を飛び越えそのまま森へ行った。紫苑は深く息を吐き、結っていた髪を解いた。

 

 

「お疲れの様だな」

 

「?……幸村」

 

 

部屋へ来た幸村は、紫苑の隣に腰を下ろした。

 

 

「随分と明日花は成長したな。まるで昔の紫苑を思い出す」

 

「何が思い出すよ。武田の部下だった一家が、偉そうなこと言って」

 

「ハッハッハッハ!こりゃ、一本取られたわ」

 

「何が一本よ!」

 

「それはそうと、今はどうなんだ?」

 

「?どうって」

 

「明日花の力だ」

 

 

紫苑が幸村と話している中、明日花は森の中を歩いていた。するとどこからか、水が流れる音が聞こえそこへ行ってみると、そこには滝壺があった。

 

 

「凄ーい……?」

 

 

川辺を見ると、森で会った先程の見張りがいた。

 

 

「?」

 

「あ、見張り!」

 

「それ、我の名じゃない」

 

「じゃあ、名前は?

 

私は光坂明日花!」

 

「……猿飛…佐助」

 

「佐助……

 

ねぇ、佐助はいつから上田に住んでるの?」

 

「数ヶ月前」

 

「最近なんだ……ねぇ、幸村の兄貴が住んでる所知ってる?」

 

「信幸様……沼田にいる」

 

「沼田?本当にそこに住んでるの?」

 

「…う、うん」

 

「それじゃあ今度、母さんに連れてって貰おう!」

 

「何故?」

 

「沼田に行けば、優に会えるんだ!」

 

「優?……!」

 

 

不意に明日花は、ジッと佐助を見つめてそしてあの言葉を放った。

 

 

「お前が、草の勇士」

 

「?勇士」

 

「あれ?明日花、何か言った?」

 

 

明日花の問いに、佐助は左右に首を振った。すると、茂みから音が聞こえその方向に目を向けると、そこから山賊の群れが出てきた。

 

 

「おぉ!山賊ぅ!」

 

「下がれ!」

 

 

山賊達は武器を出し、一斉に飛び掛かった。佐助はすぐに明日花を後ろにやり、武器を構え攻撃に掛かった。一人を相手している時、背後から攻撃が飛んできた。その瞬間、明日花は槍を出しその攻撃を防いだ。

 

 

「コラァ!無視するなぁ!」

 

「明日花!危険!」

 

「光坂流木術!針山地獄!」

 

 

地面から鋭く尖った木の枝が伸び生え、山賊たちを次々に攻撃していった。

 

 

「な、何だ!このガキ!?」

 

「クソ!舐めるな!!」

 

 

生き残っていた山賊の一人は、明日花目掛けて鎖を投げつけた。鎖は明日花の腕に絡み付き、それと同時に山賊は思いっ切り引っ張った。引っ張られそうになった瞬間、佐助は彼女の腕の鎖を切った。

 

 

「この不届き者!」

 

「んだと!」

 

 

その時、風が吹き木々がざわつき茂みから数頭の狼が姿を現した。

 

 

「な、何だ?!」

 

「森は我が庭……生きては返さん」

 

 

森から悲惨な悲鳴が聞こえ、その声に紫苑は森の方に顔を向けた。

 

 

山賊を退治した後、明日花は鎖を解き水に浸け傷を冷やした。

 

 

「冷たーい!」

 

「冷やせば……時期に治る」

 

「ハーイ!」

 

「……」

 

 

鼻歌を歌いながら明日花は、水から手を出した。そして傍で大あくびしている狼に近寄った。

 

 

「ねぇ!こいつ、佐助が飼ってるの?」

 

「仲間」

 

「じゃあ、あの鼬も?」

 

 

明日花は岩の上で、小さい鼬とじゃれている鼬を指差し質問した。佐助は彼女の問いに答える様にして頷いた。明日花は佐助の答えを見ると、横になり狼の喉を撫でた。狼は気持ち良さそうな表情を浮かべて、明日花の頬を舐めた。

 

 

夕暮れ……烏の鳴き声が響く中、明日花は城へ帰ってきた。

 

 

「母さーん!稽古ぉ!」

 

 

部屋の障子を開けるが、中は物家の空になっていた。

 

 

「あれ?

 

母さん!母さーん!」

 

 

「明日花、どうかしましたか?」

 

 

縁側から声が聞こえ振り向くと、六郎が障子に手を掛け立っていた。

 

 

「あ、海野家の子供」

 

「六郎です。人の名前はちゃんと覚えなさい」

 

「ハーイ。

 

ねぇ、母さん知らない?」

 

「紫苑なら、幸村様の用事で少し出かけています」

 

「出掛けてるの?」

 

「時期に帰ってきますよ」

 

「……ねぇ、六郎は槍使える?」

 

「槍…ですか?

 

すいません、槍はちょっと……?」

 

 

六郎をジッと見る明日花……そして佐助と同じ言葉を放った。

 

 

「お前が、水の勇士」

 

「はい?」

 

「!

 

あれ?何か言った?」

 

「勇士…と」

 

「勇士?何それ?

 

ねぇ、母さんが帰ってきたら、明日花森に行って槍の稽古やってるって、伝えといて!」

 

 

そう伝えると、明日花は槍を出しそのまま森へと行った。

 

 

「明日花!

 

部屋で待っていればいいものを……」

 

『お前が、水の勇士』

 

(どういう意味でしょう……

 

水の勇士……)

 

 

 

森の中を走る明日花……その時、茂みの中に仕込まれていた罠に引っ掛かり、足に縄が絡まり吊された。

 

 

「罠か……

 

引っ掛かったところで、逃げられなくもない」

 

 

独り言のように呟きながら、腰に着けていた短剣を抜き縄を切った。地面に着地し前方を見ると、火縄銃を肩に掛けた十蔵が森の中を歩いて行く姿を見ていた。

 

 

「あ!十蔵ぉ!!」

 

 

彼の名を呼びながら、明日花は茂みを走り抜けて行った。十蔵は足を止め駆け寄って来る明日花を待った。

 

 

「こんな日が暮れるまで、森におったのか?」

 

「うん!

 

母さんに槍の稽古つけて貰おうと、一度城に帰ったけどオジサンの用事でどっか行ってるみたいなんだ」

 

「オジサン?」

 

「えっとぉ……幸村のこと!」

 

「コラぁ!!」

 

「!?」

 

「幸村様に向かって、オジサンとは何だ!!幸村様と呼びなさい!!」

 

「様?何で?」

 

「某達の主で御殿様だからだ」

 

「殿様?殿だと、様を付けなきゃいけないの?」

 

「無論だ」

 

「でも、母さんは「様」何て付けてないよ。それに卒中言ってたよ。

 

『武田の奴以外は、私は「様」は付けない』って」

 

「紫苑……あの女子は」

 

「ねぇ、十蔵が持ってるその棒って、火縄銃ってやつだよね?」

 

「そうだが……よく知っておるな、明日花は」

 

「前に一族の人と会って、その人が持ってたんだ。『自分は火の術を使うから、火縄銃を持ち歩いてるんだ』って」

 

「ほぉ、火の術か……?」

 

 

話を聞いていた十蔵の目を、明日花はじっと見つめそしてあの言葉を放った。

 

 

「お前が、金の勇士」

 

「?」

 

「?どうかしたか、十蔵」

 

「い、いや……って、十蔵と呼び捨てにするでない!!さんを付けろ!!」

 

「嫌だ」

 

「嫌ではない!!

 

全く、紫苑は一体どんな躾を」

「私がどんな躾をしてるかって?」

 

 

十蔵の背後から、紫苑は低い声でボソッとそう言った。十蔵は驚き、慌てて身を引いた。

 

 

「紫苑!いつの間に?!」

 

「嫌ではないって、言ったところかな?」

 

「……」

 

「母さん、どこ行ってなの?

 

槍の稽古の時間になったから、ちゃんと帰って来たのに……」

 

「ゴメンゴメン。ちょっと幸村に用事頼まれて、出掛けてたの。ゴメンね」

 

 

謝りながら、紫苑は明日花の頭を撫でた。

 

 

「紫苑、お主少しは口の訊き方を改めたらどうだ」

 

「嫌よ。

 

私、武田のもの以外に敬語は使わないの。そう決めてるの」

 

「しかし、子供の前なら尚更。

 

そうだ!武田軍隊長の優助に頼」

「あんな奴の話、私達の前でしないで!!」

 

 

突然怒鳴る紫苑に、十蔵と明日花は身を縮込ませた。

 

 

「母さん?」

 

「……!

 

ゴメンね。母さん、ちょっと頭冷やしてくる。十蔵、明日花を連れてに先に城に帰ってて」

 

「わ、分かった」

 

 

紫苑は明日花の頭を一撫ですると、そのまま森の奥へと姿を消した。

 

 

「……優ね」

 

「?」

 

「優ね、遠くに行っちゃったんだ……それからの母さん、いつも悲しそうな顔してるんだ」

 

「そうだったのか……?

 

明日花、優助はお主の父ではないのか?」

 

「違う。優は明日花の兄さん。

 

母さんがそう言ってた」

 

「そう…か」

 

「……?」

 

 

何かの気配を感じたのか、明日花は周りを見回した。すると木から、鎌が二人目掛けて飛んできた。二人は素早く避け、十蔵は火縄銃を構え明日花は腰に着けていたケースから槍を取り組み立て構えた。

 

 

「ガキと爺、捕獲!」

 

「誰が爺だ!!」

 

「やっぱり、母さんが言ってたことは正しかったのか……」

 

「余計なことを言うでない!!」

 

「ごちゃごちゃ言ってねぇで、とっとと金目の物を渡せ」

 

「金目?それってどういうの?」

 

「金だ!金!……って、何人の物盗ろうとしてるんだ!!このガキは!!」

 

 

山賊は怒鳴りながら、明日花の襟元を掴み上げた。その瞬間明日花は、手に持っていた槍を振り、彼の頭を思いっ切り叩いた。

 

 

「痛って!!このガキ、よくも!!」

 

「人の物盗ろうとするからだ、べ~!」

 

 

舌を出して明日花は山賊をバカにした。馬鹿にされた山賊は、ブチ切れ刀を抜き取り明日花と十蔵目掛けて襲い掛かってきた。明日花は足を上げ、勢い良く地面に踵落としを入れた。すると地面から先の鋭い木の根が生え伸び、山賊達を攻撃した。山賊等の体に木の根が貫通し、悲痛な叫び声が上がった。

 

その光景を目の当たりにした十蔵は、火縄銃を下ろし呆気に眺めていた。

 

 

「いっちょ上がり!」

 

「……お…お主」

 

「ガキだからって、舐めない方がいいよ?」

 

 

明日花が指を鳴らすと、木の根は引っ込み山賊達は地面に落ちた。山賊達は怖気着いたのか、叫びながら森の中へと逃げて行った。

 

 

「ハッハッハッハッハッハ!!ざまぁ見ろ!」

 

(性格といい、言葉使いといい……紫苑そっくりだ)

 

 

その後明日花と十蔵は共に城へと帰って行った。しばらくして、紫苑も城へ戻り明日花は彼女に夜遅くまで槍の稽古に励んだ。

 

 

月明かりが照らす夜の城……

 

月を見ながら、紫苑は酒を飲んでいた。彼女の足に頭を乗せた明日花は、寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ていた。

 

 

「やはり、いくつになっても明日花は幼いのう」

 

 

声がした方に目を向けると、そこにいたのは酒瓶を持った幸村だった。

 

 

「あら幸村。差し入れ?」

 

「儂も一杯付き合おうと思ってのう」

 

「珍しい。私に付き合えるの?」

 

「付き合えるとも」

 

「どうだか……」

 

「……優助は、元気にやっている様だ」

 

「?」

 

「まだ怒っているのか?優助の事」

 

「当然でしょ。

 

妻子捨てて、徳川側の殿方に仕えたんだから」

 

「そう言うな。お主等は結局離れて暮らすことになっておったではないか」

 

「それは明日花がまだいなかった時の話!

 

今は明日花がいるのよ!!自分の娘がいるのよ!!それを捨てて!」

「紫苑!!

 

シー!!」

 

 

幸村は慌てて紫苑を宥めながら、明日花を指差した。明日花は目を擦りながら寝返りをし再び寝息を立てた。

 

 

「大丈夫よ。この子一度寝たら、相当な事が無い限り起きないもの」

 

「お主そっくりだな……」

 

「それ、どういう意味?」

 

「酒癖悪いぞ!お主!」

 

「十蔵に優のこと話されたから、苛立ってんのよ」

 

「そう言うな。十蔵だって、お主等のこと心配しておるんだから」

 

「知らん。妻子捨てた男の事なんか」

 

「明日花には、優助の事何か話したのか?」

 

「遠くに行って、これからは父さんじゃなくて優って呼べって言っといた」

 

「それで理解したのか?明日花は」

 

「したと思うよ。そう言った翌日には、ちゃんと優って呼んでたし」

 

「なら、よいのだが……」

 

「何?さっきから……遠回しに言わず、直接言ってくれない」

 

「っ……じゃあ言うが、寂しくないのか?明日花は」

 

「え?」

 

「儂等があの時行った時、明日花は優助にベッタリではなかったか。

 

彼の膝に座って、手を弄ったりして……優助も優助で明日花の事を一番可愛がっていたではないか」

 

「……」

 

「紫苑、少しは明日花の事も考えた方が良いのではないのか?」

 

「うるさいわね……いいのよ」

 

「?」

 

「子供に必要なのは、母親の愛情だけ……それだけでいいんですって」

 

 

淋しそうな目で、紫苑は眠る明日花の頭を撫でた。そんな彼女を幸村は酒を飲みながら眺めた。




オマケ話……


ある日の夜。紫苑と明日花は上田にある風呂屋で、温泉に浸かっていた。


紫苑は、肩に湯を掛けながら深く浸かり、明日花は湯に入り周りを見回した。


「母さん」

「ん?」

「今日の温泉、何か貸し切りみたいだね!」

「そりゃそうよ。こんな夜更けに、湯に浸かる奴なんか、そういやしないわ」

「ふ~ん……

ねぇ、泳いでいい?」

「駄目。川じゃないんだから」

「うー……楽しそうなのにぃ」


頬を膨らませながら、明日花は紫苑の隣に座り空へ上がる湯煙を眺めた。


「……ねぇ」

「ん?」

「今度優が上田に来たら、三人でここに来よう!」

「無理に決まってるでしょ、そんなの」

「でも優、昔は一緒に山の中にある穴場だって言ってた温泉に、連れてってくれたよ!」

「それは、アンタがまだ小さかったから。

それよりほら、ちゃんと浸かって体温めなさい。修行で疲れてるんだから」

「……はーい」


前を向き深く湯に浸かる明日花……ふと何かの音に気付き、立ち上がり音の方に目を向けた。


「?明日花、どうかした?」

「……誰か、そこにいる」

「?!」


明日花が見ている方向に、紫苑は目を向けた。

そこにいたのは、酒瓶を手に持ち一杯やっている幸村だった。


「ゆ、幸村!?」
「幸村!?」

「おー!紫苑、明日花!

体の疲れは取れたか?」

「取れたかって……アンタ、いつからそこに?」

「ん?そうだのう……お主等が入ってくる少し前かのう」


その言葉を聞いた紫苑は、怒りのオーラを纏い怒りに満ちた目で、幸村を睨んだ。


「若!こんな所にいらっしゃったのですか!?」


幸村を探していたのか、息を切らして風呂の戸を勢い良く開けながら、六郎は幸村に怒鳴った。


「六郎……少し、出て行ってもらえる?巻き添えを食らいたくなければ」


怒りに満ちた目で、紫苑は六郎に優しくそう言った。ただならぬ殺気を感じた六郎は、すぐに戸を閉めた。


「さぁて、私の裸を見たら、どんな目に合うか教えてあげましょう」

「い、いや待て紫苑!は、早まる」
「問答無用!!」


銭湯から悲鳴が聞こえ、それと共に何かを叩く音が銭湯中に響き渡った。


数時間後、スッキリした顔で紫苑は湯から上がった。彼女に続いて、明日花は後ろを気にしながら上がり服を着た後、外で待っていた六郎の服を明日花は引っ張り、彼をしゃがませた。


「何です?」

「中で幸村倒れてるから、後で回収しといてって母さんが」

「……若」

「明日花ぁ!城に戻るわよぉ!」

「はーい!」


紫苑に呼ばれ、明日花は彼女の元へと駆け寄った。

六郎は彼女達を見送った後、中へ入った。湯には気を失った幸村が浮いていた。


「ハァ……まったく、アナタという人は」

(……もう、紫苑の裸を……覗くのは止そう)
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